はじめに
遺産相続では「寄与分」という仕組みが存在し、特定の相続人が被相続人の財産形成や維持に特別の貢献をした場合、通常の法定相続分よりも多くの取り分を得られる可能性があります。しかし、実際に寄与分をどのように定めるのか、その「手続」をどのように進めればよいのかは、多くの方にとって分かりにくい部分かもしれません。
以下では、よくある質問をQ&A形式で導入し、その後、寄与分決定までの手続や実務上のポイント、さらに弁護士に相談するメリットまで解説します。
ご質問
うちは中小企業を営んでいて、家族経営で長年やってきました。
最近、先代が亡くなったのですが、事業承継や遺産の分配で『寄与分』という言葉を聞きました。うちの会社は先代の長男が会社経営に貢献し、財産形成にも大いに力を貸してくれました。
こうした場合、寄与分を踏まえて相続分を調整できると聞いたのですが、実際の手続はどうなっているのでしょうか?自分たちで話し合い、合意できないときは家庭裁判所に申立てをするのですか?また、申立てを忘れてしまうと寄与分は考慮されないって本当でしょうか?
回答
ご質問ありがとうございます。
ご家族が事業に貢献された場合、法定相続分だけでなく『寄与分』を主張することで、貢献度に応じた相続分を調整することが可能です。
基本的には相続人間の話し合い(協議)で寄与分を決めますが、話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所の調停・審判手続を通じて寄与分が定められます。
特に審判段階では、『寄与分を定める処分の申立て』を行わないと、家庭裁判所は寄与分を考慮できないとされています(民法第904条の2参照)。
また、家庭裁判所は一定期間内に申立てを促す場合もあり、申立ての遅れは不利になることがあります。以下では、寄与分の基礎知識から手続の流れ、遺産分割との関係、そして弁護士に相談するメリットなどを解説していきます。
よくあるご質問
ここでは、より具体的な場面を想定した質疑応答を通じて、寄与分に関する理解を深めていきましょう。以下の問答は、実務上よくあるケースをもとにしたものです。
寄与分はどうやって決めるんですか?
寄与分は、まず相続人全員による話し合い(協議)で定めます(民法第904条の2)。協議が整えば、その合意に基づいて寄与分を反映した遺産分割を進めることができます。しかし、話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の調停手続や審判手続を利用することとなります。
寄与分は遺産分割協議の中で一緒に決めるんですか?
はい。通常、遺産分割協議の中で、誰がどの財産をどれくらい取得するかを決める際に、寄与分を考慮します。相続人間で円満に合意できれば、その中で寄与分の調整も行われます。話し合いが難しい場合には、遺産分割調停を申し立て、その中で寄与分を主張していくことが一般的です。
もし調停でも合意ができない場合、審判ではどうなりますか?
調停が不成立となれば、最終的に家庭裁判所が審判を行います(民法第907条第2項)。この審判手続へ移行した際には、寄与分を主張する相続人が『寄与分を定める処分の申立て』を行わなければなりません。これをしないと家庭裁判所は寄与分を考慮できず、通常の法定相続分ベースで遺産分割を行います。
『寄与分を定める処分の申立て』を忘れてしまったら?
申立てを行わなければ、家庭裁判所は寄与分を審判で考慮することができません。また、家庭裁判所は、遺産分割審判手続中に、一定の期間を定めて『寄与分を定める処分の申立て』を促すことがあります。その期間内に申立てがなければ、寄与分の主張は考慮されずに審判が行われる可能性があります。遅すぎる申立ては「時機に遅れた」として却下されることもありますので、注意が必要です。
寄与分だけ先に決めることはできますか?
寄与分のみを先に定める協議や、寄与分のための調停を行うことは理論上可能です(民法第904条の2参照)。しかし、実務上は遺産全体をどう分割するかを考える際に、初めて寄与分が具体的な意味を持つため、遺産分割と同時に話し合うことが多いです。
解説
ここからは、Q&Aで挙がった論点を解説します。ポイントは以下の通りです。
1. 寄与分とは何か
「寄与分」とは、被相続人(亡くなった方)の財産が増加したり維持されたりするうえで特別な貢献をした相続人に対して、その貢献度に応じて法定相続分を修正する制度です。たとえば、ある相続人が被相続人の事業を大きく発展させたり、長期間にわたり介護を行って財産の減少を防いだ場合などに、他の相続人より多くの取り分を得られる可能性があります。
2. 寄与分を考慮する意義
相続分は基本的に法定相続分に基づきますが、全ての相続人が同程度に貢献したとは限りません。寄与分を定めることにより、現実における貢献度を評価し、公平な分配を図ることができます。これにより、事業貢献や介護など、具体的な行為が正当に報われます。
3. 寄与分定めの基本的な流れ(手続)
- 相続人間の協議
まずは話し合いで決めます。 - 家庭裁判所の調停
協議がまとまらない場合、家庭裁判所で調停手続を行います。 - 審判手続での申立ての必要性
調停が不成立で審判に進む場合、『寄与分を定める処分の申立て』が必要です。これをしないと審判で寄与分は考慮されません。
4. 寄与分を主張する際の注意点
- 審判段階に入ると、家庭裁判所から申立て期間が定められる場合があります。
- その期間内に申立てを行わないと、申立て却下や寄与分不考慮のリスクがあるため、迅速な対応が求められます。
- 裁判所からの指示を注意深く確認しましょう。
5. 寄与分と遺産分割の実務上の位置づけ
寄与分は、最終的な遺産分割の中で考慮される要素の一つです。したがって、寄与分を単独で決めるより、遺産全体の分割方針が固まった段階で考慮したほうが合理的な場合が多いです。
弁護士に相談するメリット
寄与分をめぐる問題は、単純な話し合いでは解決が難しいケースも多く、感情的な対立が生じやすい分野です。また、法律構成や証拠の示し方、申立て期限の厳守など、専門的な対応が求められます。弁護士に相談することで以下のメリットがあります。
- 法的根拠と戦略の明確化
弁護士は民法や家事事件手続法の規定を踏まえ、寄与分を主張するための最適な方策をアドバイスします。たとえば、民法第904条の2を踏まえた主張立てや、期限管理、必要な資料収集など、法律的視点を提供できます。 - スムーズな手続進行
遺産分割調停や審判の手続は複雑で、書類不備や手続遅延は不利益につながります。弁護士に依頼すれば、適切な書類の作成、期日管理、家庭裁判所への対応まで円滑に行えます。 - 当事者間の負担軽減
相続人同士の話し合いが感情的対立に発展すると、関係悪化や長期化が避けられません。弁護士が第三者的な立場で交渉や調停手続に臨むことで、当事者間の精神的負担を軽減し、公平な合意形成を目指すことができます。 - 証拠整理・立証サポート
寄与分を認めてもらうには、実際の貢献行為や財産形成への影響を立証する必要があります。弁護士は客観的証拠収集や適切な立証計画の立案を支援し、裁判所が納得する形で主張を展開します。 - 長期的視野に立ったアドバイス
相続問題は単発で終わるものではなく、事業承継や後継者育成など、長期的影響を伴うこともあります。弁護士は中長期的視点でアドバイスを行い、将来の紛争予防にも役立つ戦略を提案できます。
まとめ
本稿では、寄与分の意義や、定めるための手続、家庭裁判所での調停や審判において必要となる『寄与分を定める処分の申立て』、そして申立てを怠った場合のリスク、さらに弁護士に相談するメリットまで、幅広く解説してきました。遺産分割において寄与分を正当に評価することは、単なる法定相続分以上の「公平・公正な相続」を実現するための重要な手段です。
寄与分は、被相続人の財産形成・維持への特別な貢献に報いる制度であり、その主張や手続は必ずしも簡単ではありません。法的根拠や家事事件手続法の規定を踏まえた上で、適切な時期に正確な対応をとることが求められます。
また、専門的知見を有する弁護士に相談することで、複雑な手続を円滑に進め、法的なリスクを回避し、感情的な対立を最小限に抑えることが可能となります。最終的に、寄与分の正当な評価は、相続人間の公平な関係構築と、将来の紛争予防に大きく寄与します。
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