介護と相続:寄与分はどこまで認められるのか?

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はじめに

相続では、単に親族間で遺産を公平に分配するだけでなく、特定の相続人が被相続人(亡くなった方)の財産維持や増加に特別な貢献をした場合、「寄与分」として加算が考慮されることがあります。しかし、日常的な介護がそのまま相続分の増加に直結するわけではありません。法律上の寄与分は、想定以上の特別な貢献が認められるか否かにかかっており、その判断には法的な知識や証拠の整備、他の相続人との協議が必要です。

本稿では、介護と相続に関する問題をQ&A形式で概観し、寄与分について解説した上で、専門家への相談のメリットや実務上のポイントをご紹介します。

ご質問

当社の従業員から『親の介護を長年行っていたから相続分が増えるはずだ』という声を聞くことがあります。特に、遠方にいる兄弟姉妹が介護に参加せず、ある子どもだけが大変な負担を背負っていたケースでは、何らかの優遇があっても良さそうな気がします。

経営者として社内での相談対応にも役立てたいのですが、こうした介護の貢献は、具体的に法的な相続分の優遇、いわゆる『寄与分』として認められるのでしょうか?

回答

ご質問ありがとうございます。実際に、親の介護を長年担った相続人が『自分は大変だったから、その分多くの遺産を受け取れるはずだ』と期待するケースは珍しくありません。しかし、民法上の寄与分(民法第904条の2)を認めるには、『被相続人の財産維持・増加に特別の貢献をした』という客観的な要件が求められます。単に介護をしたことだけではなく、通常期待される家族の助け合い(民法第730条)や扶養義務(民法第877条)を超えた特別な貢献が必要とされます。

本稿では、介護と寄与分の考え方、寄与分が認められるためのポイント、そして生前対策や話し合いの進め方など、多角的な視点から解説します。

また、こうした問題に直面した際に専門家である弁護士に相談するメリットや、実際の手続・交渉の進め方に関するヒントもご紹介します。最終的には、相続問題で悩む皆様にとって参考となれば幸いです。

よくあるご質問

介護を長年担ってきた子が、他の相続人より多く遺産をもらうことは可能ですか。

一般的には、単純に「介護をしていた」ことのみで相続分が増えることはありません。民法第904条の2が定める「寄与分」は、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与があったときに考慮されます。

通常、親族であれば互いに助け合うことが期待されています(民法第730条、民法第877条)。そのため、日常的な介護は、法的には「当たり前」の範囲とみなされがちです。

「特別の寄与」と評価されるためには、他の相続人が通常期待される以上の労力や経済的負担、または資産価値維持・増加につながる特別な行為が必要となります。

どのような場合が「特別の寄与」として認められるのですか。

「特別の寄与」を判断する際には、被相続人の介護度、実際に提供した看護・介助の内容、期間、費用負担、経済的効果などが総合的に考慮されます。

たとえば、要介護度が非常に高く、在宅介護のために仕事を大きくセーブしていたり、介護者が自己負担で介護用品や改築費用を拠出して財産維持に直接貢献していた場合など、家族間の通常の扶助義務を超える明確な「特別さ」を立証できれば、寄与分が認められる可能性があります。

日常生活を快適にしていたので、寄与分にはな李ませんか。

残念ながら、被相続人が安心して日常を過ごせたことや、介護者の苦労が大きかったことだけで、寄与分が自動的に認められるわけではありません。民法第904条の2は、「被相続人の財産維持または増加」への特別な関与が必要としています。単に心地よい環境を整えることでは不十分で、財産評価に影響を与えるほどの労力・貢献を示すことが求められます。

もし生前に知っていたら、どのような対策ができたのでしょうか。

生前に寄与分が明確に認められないと想定された場合、被相続人が遺言書を作成し、特別の与え方を明記しておく方法が考えられます。また、他の相続人も納得できるような財産分配を生前協議で決めておけば、死後の紛争を避けやすくなります。亡くなってからでは手続が限られるため、予防的な対策が非常に重要となります。

今からでも何か方法はあるのでしょうか。

被相続人がすでに亡くなった後では、遺言による指定はできません。ただし、他の相続人との話し合い(遺産分割協議)や、寄与分を主張するための証拠整理、協議の場での説得が考えられます。もし話し合いが整わなければ、家庭裁判所に遺産分割の申立を行い、寄与分を主張して判断を求めることもできます。

ただし、これは容易ではなく、専門家のサポートが必要になることも少なくありません。

解説

「寄与分」の考え方は、相続において単純な法定相続分の配分だけでなく、個別の事情に応じて公平性を担保する仕組みとして位置づけられています。

法律的根拠

  • 民法第730条
    「直系血族及び同居の親族は、相互に扶助しなければならない。」
    → 親族間には当然、相互扶助が期待されています。
  • 民法第877条
    一定範囲の親族には互いに扶養義務があります。これにより、親子・兄弟姉妹間で日常的な助け合いが前提とされるため、それを超える「特別性」が求められます。
  • 民法第904条の2
    「共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。」
    → 寄与分は、法定相続分に修正を加える仕組みであり、その判断には特別な貢献の立証が不可欠です。

判断要素

被相続人の要介護度や、介護に費やした時間・労力、金銭的支出、被相続人の財産価値への影響、他の相続人との比較など、総合的な事情を踏まえて寄与分が検討されます。また、無償性(見返りを受けずに行った介護や出費)が重要視されることもあります。

弁護士に相談するメリット

法的アドバイス

弁護士は、寄与分が認められる要件や法的手続を熟知しています。単純な家族感情論ではなく、法的な観点から「何が特別性とみなされるか」を判断し、見通しを立てることが可能です。

証拠整理と戦略立案

「特別の寄与」を立証するには、医療記録、介護サービス利用実績、費用負担の記録、介護日誌、目撃者の証言など、多面的な証拠が必要となります。弁護士は、どのような資料を集め、どのように主張すべきかをサポートします。

他の相続人との交渉支援

寄与分を認めてもらうには、他の相続人との話し合いが避けられません。弁護士が間に入ることで感情的な対立を和らげ、理性的かつ円滑な交渉を進められる可能性が高まります。

紛争解決・手続面でのサポート

話し合いで解決できない場合、家庭裁判所での遺産分割審判手続など、法的な手続に踏み切ることもあります。その際、弁護士が代理人として行動し、申立書作成や書証の提出、審判手続への対応を行うことで、依頼者は安心して紛争解決に臨めます。

将来対策への助言

「今からでもできること」や「将来、同様の事態に備えるための予防策」について、弁護士は法的視点からアドバイスします。遺言書の作成支援や生前贈与のアレンジ、家族信託の活用など、紛争を未然に防ぐ戦略立案にも寄与できます。

まとめ

本稿では、親を長年介護した相続人が、相続において「寄与分」として優遇されるかどうかを、法的観点から解説しました。

  • 家族間には相互扶助が当然期待されるため、通常の介護行為だけでは「特別の寄与」とはみなされない。
  • 寄与分は、民法第904条の2に基づき、財産維持・増加への特別な貢献が認められた場合に限って考慮される。
  • 要介護度や経済的負担の程度など、ケースバイケースの判断が必要であり、証拠収集や他の相続人への説得が鍵となる。
  • 生前に対策することで紛争を回避する可能性が高まり、事後的な交渉や手続は専門家のサポートが欠かせない。
  • 弁護士に相談することで、的確な法的判断、交渉、手続対応、将来対策に関する助言を受けることができる。

以上を踏まえ、相続をめぐる悩みや将来の予防策を考える際には、ぜひ専門家である弁護士に相談してみてください。


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