はじめに
ご質問
先日、私の取引先の知人が相続問題で悩んでいるようで、亡くなった親御さんが生前に特定の子へ定期的な生活費援助を行っていたらしいのです。こうした援助は相続分を決める際に“特別受益”として扱われることがあると聞いたことがあります。
けれど、小さな金額を長年にわたって渡していただけでも特別受益とみなされるのでしょうか? なにが特別受益になるのか、正直よくわかりません。
企業経営で従業員家族の紛争にも関わることがあるので、相続の観点からも理解しておきたいと思っています。どういったポイントに注意すべきか、わかりやすく説明していただけませんか?
回答
相続において、被相続人(亡くなった方)が生前に特定の相続人へ金銭や不動産を無償で提供していた場合、それが『特別受益』として評価され、相続分算定の際に考慮されることがあります。ただし、すべての援助が特別受益に当たるわけではありません。
特別受益とされるのは、民法第903条等で定める“生計の資本としての贈与”に該当する場合です。この判断には、贈与金額の規模や性質、贈与の趣旨、生活の基盤形成への影響が考慮されます。小額の生活費援助が長年続いたとしても、必ずしも特別受益になるわけではありません。
本稿では、こうした特別受益の考え方や判断ポイント、関連する法的根拠や解釈、さらに弁護士に相談するメリットについて解説いたします。
Q&A
特別受益とは何ですか?
特別受益とは、被相続人が特定の相続人に対して生前に行った贈与のうち、相続分算定時に考慮すべきとされる「生計の資本としての贈与」を指します(民法第903条)。これに該当する場合、他の相続人との公平を図るため、その贈与額が相続財産に戻し入れられ、最終的な取り分に影響します。
小額な資金援助でも特別受益になりますか?
一般的な扶養的援助、例えば月2万円程度といった比較的小規模な金額は、しばしば特別受益とみなされないことがあります。継続年数が長くても、金額が小規模で単なる生活補助と評価できる場合には、生計の基盤形成とはいえず、特別受益から除外される可能性が高いのです。
どんな場合に特別受益と判断されやすいですか?
「生計の資本」を形成すると認められる大きな金額や、不動産取得支援、事業資金援助などは特別受益と判断されやすいです。たとえば毎月10万円を超える高額な援助が長期にわたる場合、相続財産の「前渡し」と評価され、特別受益に該当する可能性もあります。
解説
相続における特別受益制度は、相続人間の公平性を保つための仕組みです。被相続人が特定の相続人に対し、他の相続人よりも有利となるような大規模な贈与を行っていた場合、何も調整がなければ、その相続人は不当に多くの財産を得ることになる可能性があります。そこで、民法第903条は、そのような贈与(特別受益)を相続分決定時に考慮し、各相続人がより公正な割合で遺産を分配できるよう定めています。
特別受益の法的根拠(民法第903条)
民法第903条は、共同相続人の中に被相続人から特別な生前贈与(特別受益)を受けた者がいる場合、その贈与を遺産前渡しとして扱い、相続分を計算し直すと定めています。条文上、「生計の資本として供された贈与」が特別受益に該当する旨が示唆されており、贈与の目的・金額・継続性などから総合的に判断されます。
判断基準:生計の資本か、単なる扶養的援助か
「生計の資本としての贈与」とは、受贈者の生活基盤を大きく形成・強化する程度の贈与を指します。具体例として、高額な学費援助による大学進学支援、不動産購入資金の援助、事業開業資金の援助などが挙げられます。一方、日常的な生活のやりくりを補う程度の小額な定期援助は、親族間の扶養的金銭援助とみなされ、特別受益には該当しにくいとされています。
実務的なポイント
- 「生計の資本」となるかどうかは金額と趣旨の総合判断
- 継続期間や援助額の相対的高さも判断要素
- 受贈者がそれによって生活水準や経済的自立度合いを大きく高めたか
- 同居や介護等、他の要素も間接的に影響する可能性
弁護士に相談するメリット
相続問題は法的専門知識が求められるうえ、当事者間の感情的対立も生じやすい分野です。特別受益の該当性を判断するには、法的知見や過去の判例・審判例の分析が欠かせません。弁護士に相談することで得られるメリットとして、以下が挙げられます。
- 専門知識による判断サポート
弁護士は民法や関連判例を踏まえ、特別受益に該当するか否かについて客観的な判断材料を提示します。単に金額面だけではなく、相続人間の関係性や援助の目的を多角的に検討し、公正な結論へ導く手助けをします。 - 紛争回避・迅速な解決
特別受益の有無をめぐる争いが長引けば、相続財産分配全体が停滞する可能性があります。弁護士に相談し、早期に法的整理を行うことで、紛争の激化を防ぎ、円滑な相続手続への移行が可能となります。 - 交渉・調停・訴訟対応のサポート
万が一、他の相続人との間で見解の相違が生じた場合、弁護士は交渉・調停・訴訟といった各種手続で依頼者をサポートします。法的戦略立案や証拠収集、裁判所における主張立証など、専門家ならではの対応が可能です。 - 安心と心理的負担の軽減
法律問題は精神的な負担にもなりやすいものです。弁護士に相談することで、法的根拠や見通しを得られ、不安が軽減します。客観的視点で問題解決に当たる弁護士の存在は、依頼者にとって大きな安心材料となります。
まとめ
相続において、被相続人から特定の相続人へ行われた生活費援助が特別受益に該当するかどうかは、単純な金額基準で決まるわけではありません。生計の資本形成にあたるほど大きな金額・財産的援助であれば特別受益と判断される可能性がありますが、少額の月々の生活補助的な支援は特別受益から除外されるケースもあります(民法第903条参照)。
本稿では、特別受益の基本概念、判断基準等を示しました。また、相続問題に直面した際、弁護士に相談することで正確な見解を得て、公正な遺産分割につなげることが可能となります。
弁護士法人長瀬総合法律事務所は、こうした相続問題について幅広い経験と専門的知見を有し、依頼者の皆様が円満で公正な相続解決を図るためのお手伝いをいたします。
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