相続人調査の進め方と戸籍の読み解き方:どこまで遡るべきか?出生から死亡までのガイド

はじめに

相続が発生した際、最初に取り組まなければならない最も重要な手続きの一つが「相続人調査」です。

「家族構成は分かっているから調査など必要ない」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、法的な手続き、特に銀行での預金解約や不動産の名義変更(相続登記)、そして遺産分割協議書を有効に成立させるためには、客観的な証拠に基づき「誰が相続人であるか」を確定させる必要があります。

もし、たった一人でも相続人が漏れていた場合、遺産分割協議は無効となり、すべての手続きを最初からやり直すことになります。このようなリスクを避けるため、実務上は「被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの連続した戸籍」を取得し、厳密に調査を行います。

本記事では、相続人調査の具体的な進め方、複雑な戸籍謄本の読み解き方、そしてどこまで遡って調査すべきかについて解説します。

相続人調査に関するQ&A

Q1. なぜ「現在の戸籍」だけでは相続手続きができないのでしょうか?

現在の戸籍には、現在の配偶者や未婚の子など「現在の情報」しか記載されていないことが多いためです。

相続人を確定するためには、過去に離婚歴があり前妻(前夫)との間に子がいないか、認知した子がいないか、あるいは養子縁組をしていないかといった情報をすべて確認する必要があります。これらは現在の戸籍だけでは判明しないことが多く、過去の戸籍(除籍謄本や改製原戸籍)をすべて遡って確認しなければ、法的に正しい相続人を特定したことにはなりません。

Q2. 戸籍はどこで取得できますか?本籍地が遠方の場合はどうすればよいですか?

戸籍は原則として「本籍地」のある市区町村役場で取得します。

本籍地が遠方の場合、かつては郵送請求が必要でしたが、令和6年3月1日からの戸籍法改正により、最寄りの市区町村役場の窓口で、他の自治体の戸籍も含めてまとめて請求できる「広域交付制度」が開始されました。ただし、兄弟姉妹の戸籍など一部請求できないものや、コンピュータ化されていない古い戸籍など、広域交付の対象外となるケースもありますので注意が必要です。

Q3. 古い戸籍の文字が達筆すぎて読めません。どうすればいいですか?

明治や大正時代の古い戸籍は、手書きの毛筆(くずし字)で書かれており、専門家でないと判読が困難なケースが多々あります。

読み間違いは相続人の見落としに直結するため危険です。役所の窓口担当者に尋ねて教えてもらえる場合もありますが、複雑な内容や判読困難な文字については、相続調査のプロである弁護士や司法書士等の専門家に解読と調査を依頼することをお勧めします。

解説:相続人調査の具体的なステップと戸籍の読み方

相続人調査とは、単に家族の名前をリストアップすることではなく、「戸籍謄本等の公的書類を収集し、対外的に相続関係を証明できる状態にすること」を指します。ここではその手順を詳述します。

1. 相続人調査の鉄則:「出生から死亡まで」とは

金融機関や法務局における相続手続きでは、「被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等」の提出が求められます。これは、被相続人が生まれてから亡くなるまでの間に、誰と結婚し、誰を子として設け、あるいは養子縁組をしたかという身分関係の変遷を、空白期間なく証明するためです。

多くの方がここで躓きます。「死亡時の戸籍」を取得するのは簡単ですが、そこから「一つ前の戸籍」「さらにその前の戸籍」と遡っていく作業は、転籍(本籍地を移すこと)や法改正による戸籍の作り変え(改製)が多い方ほど、膨大な作業となります。

2. 収集すべき戸籍の種類

調査において収集する戸籍には、主に以下の3種類があります。これらを組み合わせて「連続した記録」を作ります。

  • 戸籍謄本(全部事項証明書)
    現在、その戸籍に入っている全員の事項が記載されたものです。被相続人の死亡の事実(死亡日や死亡地)が記載されています。
  • 除籍謄本(除籍全部事項証明書)
    結婚、死亡、転籍などで、その戸籍に記載されていた全員がいなくなった(除籍された)戸籍です。
  • 改製原戸籍(かいせいげんこせき・はらこせき)
    法律の改正によって戸籍の様式が書き換えられた際の、書き換えられる前(元)の戸籍です。

特に重要なのが「昭和改製原戸籍」と「平成改製原戸籍」です。新しい戸籍には、離婚や離縁、死亡した子の情報などが移記されない(省略される)ことがあるため、この「原戸籍」を確認する必要があります。

3. 戸籍を遡る具体的な手順(「遡り」の実務)

調査は、現在(死亡時)から過去へと時間を遡る形で行います。

手順①:死亡の記載がある戸籍(現在の戸籍)を取得する

まず、被相続人の最後の本籍地で戸籍謄本を取得します。ここには死亡日や配偶者の有無が記載されています。

手順②:戸籍の「従前戸籍」欄を確認する

取得した戸籍には、必ず「どこから来たか」が記載されています。

  • 「改製につき編製」とある場合: 法改正で新しく作られた戸籍です。一つ前の「改製原戸籍」を同じ役所で請求します。
  • 「〇〇県〇〇市〜から転籍」とある場合: 本籍地を移動しています。以前の本籍地(従前戸籍)の役所に対して、除籍謄本を請求します。
  • 「婚姻につき編製」とある場合: 結婚する前の親の戸籍(旧姓の戸籍)を請求します。

手順③:出生に辿り着くまで繰り返す

上記の手順を繰り返し、最終的に「出生」の記載がある戸籍(通常は親の戸籍に入った状態)に到達するまで収集を続けます。転籍を繰り返している場合、全国各地の役所へ請求が必要になることもあります。

4. 戸籍の読み解き方と注意点

収集した戸籍を読み解く際、特に注意すべきポイントがあります。

「身分事項」欄の確認

戸籍の「身分事項」欄には、出生、婚姻、離婚、養子縁組などの重要事項が記載されています。特に注意すべきは以下のようなケースです。

  • 認知: 婚姻外で生まれた子を認知している場合、その記載を見落とさないようにします。認知された子は、実子と同等の相続権を持ちます。
  • 養子縁組: 普通養子縁組の場合、養子は実親と養親の両方の相続人になります。特別養子縁組の場合は実親との相続関係は切れますが、戸籍の記載形式が複雑なため、専門的な読み取りが必要です。

日付の確認:「編製日」と「除籍日」

戸籍がつながっているか確認するためには、日付を見ます。

「新しい戸籍の編製日(または入籍日)」と「古い戸籍の除籍日」が連続している必要があります。もしここに空白期間があると、その間に認知や養子縁組が行われていた可能性を否定できないため、金融機関等で手続きを拒否される可能性があります。

5. 相続人の順位による調査範囲の違い

誰が相続人になるかによって、集めるべき戸籍の範囲が劇的に変わります。

パターンA:配偶者と子が相続人の場合

被相続人の「出生から死亡まで」の戸籍と、相続人全員の「現在の戸籍」があれば足ります。比較的シンプルなケースです。

パターンB:子がいないため、親(直系尊属)が相続する場合

被相続人の出生から死亡までの戸籍に加え、親の死亡の記載がある戸籍(既に死亡している場合)が必要です。

パターンC:子も親もいないため、兄弟姉妹が相続する場合(最難関)

最も調査が難航するのがこのケースです。以下の膨大な資料が必要です。

  1. 被相続人の出生から死亡までの戸籍
  2. 被相続人の両親それぞれの出生から死亡までの戸籍(他にも兄弟姉妹がいないか確認するため)
  3. 兄弟姉妹の中に既に死亡している人がいる場合、その兄弟姉妹の出生から死亡までの戸籍(代襲相続人である甥・姪を特定するため)

兄弟姉妹が相続人の場合、親の代まで遡って「他に認知した子はいないか」「前妻との間に子はいないか」を確認しなければならないため、明治・大正時代の古い戸籍を読み解く必要が出てきます。

弁護士に相続人調査を依頼するメリット

相続人調査は、ご自身で行うことも不可能ではありませんが、多くの時間と労力、そして専門知識を要します。弁護士に依頼することで、以下のような大きなメリットが得られます。

1. 複雑な戸籍の収集と解読を任せられる

古い戸籍(改製原戸籍など)は、特有の用語や旧字・変体仮名が使われており、一般の方が正確に読み解くのは困難です。また、転籍が多い場合、全国の役所とのやり取りは非常に煩雑です。弁護士は職権による戸籍請求が可能であり、迅速かつ正確に調査を完遂できます。

2. 「想定外の相続人」への対応が可能

調査の結果、家族も知らなかった「前妻の子」や「認知した子」が判明することがあります。この場合、その相続人とも遺産分割協議を行わなければなりません。

面識のない相続人に対し、いきなり連絡を取って遺産分割の話をするのは精神的な負担が大きく、トラブルに発展しやすいものです。弁護士であれば、法的代理人として適切な距離感を保ちながら、円滑に交渉を進めることができます。

3. 相続関係説明図の作成と法務局対応

調査結果に基づき、銀行や法務局の手続きで使用する「相続関係説明図(家系図のようなもの)」を正確に作成します。また、法定相続情報証明制度の利用申出も代行できるため、その後の不動産登記や預貯金解約の手続きが劇的にスムーズになります。

4. 調査漏れによるリスクの回避

万が一、相続人の調査漏れがあった場合、遺産分割協議は無効となります。数年後に新たな相続人が現れて「遺産分割のやり直し」を求められるリスクを、専門家の調査によって未然に防ぐことができます。これは、将来の安心を買うことと同義です。

まとめ

相続人調査は、遺産分割等のあらゆる相続手続きの「土台」となる重要なプロセスです。「出生から死亡まで」戸籍を遡る作業は、一見単純な事務作業に見えますが、実際には明治・大正期の戸籍解読や、複雑な法改正の知識が求められる専門的な領域です。

特に、以下のケースに当てはまる場合は、調査が複雑化する傾向にあります。

  • 被相続人に離婚・再婚歴がある
  • 被相続人が何度も本籍地を変更している
  • 兄弟姉妹が相続人になっている
  • 疎遠な親族がいる

正確な調査を行わずに手続きを進めることは、将来的な紛争の火種を残すことになります。

「戸籍の文字が読めない」「どこまで遡ればいいかわからない」「忙しくて役所に行く時間がない」といったお悩みをお持ちの方は、無理にご自身で進めようとせず、相続実務の経験豊富な弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。

正確な調査と迅速な手続きで、安心できる相続の実現をサポートいたします。

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