数次相続・代襲相続が重なる複雑なケースの相続人特定と手続き|権利関係の整理と実務上の注意点を弁護士が解説

はじめに

「亡くなった父の遺産分割が終わらないうちに、相続人の一人だった母も亡くなってしまった」
「祖父の代から名義変更されていない土地があり、関係者が数十人に膨れ上がって収拾がつかない」

相続手続きにおいて最も困難で、専門家でも頭を悩ませるのが、複数の相続が重なり合う複雑なケースです。特に、本来相続人となるはずだった人が先に亡くなっている「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」と、相続手続き中に相続人が亡くなってしまう「数次相続(すうじそうぞく)」が併発している場合、権利関係は複雑になります。

誰が現在の正当な相続人なのか、誰の実印が必要なのか、法定相続分はどう計算するのか——。これらを正確に把握できなければ、不動産の名義変更はもちろん、預貯金の解約ひとつ進めることができません。

本稿では、数次相続と代襲相続の基本的な違いから、両者が重なった場合の具体的な権利関係の整理方法、実務上の手続きの注意点について解説します。複雑に入り組んだ相続の糸を解きほぐすためのガイドとしてお役立てください。

Q&A

Q1. 父が亡くなり遺産分割協議をしようとしていた矢先、母も急死しました。父の遺産と母の遺産、どのように分ければよいですか?

このようなケースを「数次相続(すうじそうぞく)」といいます。この場合、父の遺産分割協議には、母の相続人(あなたやご兄弟など)が「母の地位を引き継いで」参加することになります。

実務上は、父の遺産分割と母の遺産分割を同時に行うことが一般的です。遺産分割協議書には「被相続人父の妻(被相続人母)の相続人」といった肩書きで署名するなど、特殊な記載方法が必要となります。

Q2. 「代襲相続」と「数次相続」の違いがよく分かりません。

最大の違いは「亡くなった順番」です。

  • 代襲相続:被相続人が亡くなる「前」に、相続人となるはずだった子などが亡くなっている場合。孫などが代わりに相続します。
  • 数次相続:被相続人が亡くなった「後」、遺産分割が終わる前に相続人が亡くなった場合。亡くなった相続人の相続人が権利を引き継ぎます。

この違いにより、誰が相続人になるか(配偶者が含まれるか等)が大きく異なります。

Q3. 祖父の名義のままの土地があります。相続人が30人以上いると言われましたが、全員のハンコが必要ですか?

はい、原則として現在の相続人「全員」の合意と署名・捺印が必要です。数次相続と代襲相続が繰り返されると、ネズミ算式に相続人が増えていくことがよくあります。一人でも反対したり、行方不明で連絡がつかなかったりすると手続きが進まないため、不在者財産管理人の選任や遺産分割調停など、裁判所の手続きが必要になるケースが多いです。

解説

1. そもそも「代襲相続」と「数次相続」とは?決定的な違い

複雑なケースを理解するために、まずは2つの制度の定義と違いを明確にしておきましょう。

(1) 代襲相続(だいしゅうそうぞく)

「死亡 → 相続発生」の順序です。

被相続人(財産を残す人)が亡くなった時点で、本来相続人になるはずだった人(子や兄弟姉妹)が、既に死亡等の理由で存在しない場合、その子供(被相続人から見て孫や甥姪)が代わりに相続する制度です。

特徴
本来の相続人の「直系卑属(子や孫)」だけが代襲者になります。配偶者は代襲しません
例:長男が先に死亡し、その後父が死亡。長男の妻は相続人にならず、長男の子(孫)だけが相続人になります。

(2) 数次相続(すうじそうぞく)

「相続発生 → 死亡」の順序です。

被相続人が亡くなり(一次相続)、その遺産分割協議が完了する前に、相続人の一人が亡くなってしまった(二次相続)状態を指します。

特徴
亡くなった相続人が持っていた「遺産分割協議に参加する権利」そのものが、その人の相続人に引き継がれます。そのため、配偶者も相続人に含まれます
例:父が死亡し、遺産分割前に長男が死亡。長男の妻と子が、長男の権利を引き継いで父の遺産分割に参加します。

2. 数次相続と代襲相続が重なるケースの複雑性

実務で混乱を招くのが、これらが同時に発生しているケースです。典型的な例を見てみましょう。

【事例設定】

  • 被相続人A(祖父)が死亡。名義の不動産がある。
  • Aには、長男Bと次男Cという子供がいた。
  • 次男Cは、Aより以前に亡くなっていた(代襲相続の原因)。Cには子D(Aの孫)がいる。
  • 長男Bは、Aの死後、遺産分割協議をしないまま亡くなった(数次相続の原因)。Bには妻Eと子Fがいる。

この場合、祖父Aの遺産についての権利関係はどうなるでしょうか。

権利関係の整理

  1. 次男Cの系統(代襲相続)
    CはAより先に亡くなっているため、Cの子であるDが代襲相続人として権利を持ちます。
    • 相続人:孫D
  2. 長男Bの系統(数次相続)
    BはAの死後に亡くなっているため、Aの相続権を持った状態で死亡しました。その権利はBの相続人である妻Eと子Fに引き継がれます。
    • 相続人:長男の妻E孫F

結論として、祖父Aの遺産分割協議を行う当事者は、D、E、Fの3名となります。

【ここがポイント】
もしこれが「長男BもAより先に死んでいた(両方とも代襲相続)」場合、長男の妻Eには相続権がありません。しかし、数次相続であるがゆえに、本来Aの血族ではない「長男の妻E」がAの遺産分割において重要な決定権を持つことになります。ここが感情的な対立を生みやすいポイントです。

3. 実務上の3つの大きな壁

このような複雑な相続手続きを進める上では、以下の3つの難所を乗り越える必要があります。

(1) 相続人の特定と戸籍収集の難易度

通常の相続であれば、被相続人の「出生から死亡まで」の戸籍と、相続人の現在の戸籍があれば足ります。

しかし、数次相続・代襲相続が重なると、必要となる戸籍の量が倍増します。

  • 被相続人Aの出生から死亡までの戸籍
  • 先に亡くなった次男Cの出生から死亡までの戸籍(代襲原因の証明)
  • 後で亡くなった長男Bの出生から死亡までの戸籍(数次相続の証明)
  • 現在の相続人D, E, Fの現在の戸籍

転籍や離婚が多い場合、取得すべき戸籍謄本等は数十通に及ぶことも珍しくありません。一通でも不足していれば、法務局や銀行は手続きを受け付けてくれません。

(2) 遺産分割協議書の作成テクニック

当事者が確定した後、遺産分割協議書を作成しますが、その「署名」の書き方に特殊な作法が求められます。

単に名前を書くのではなく、「誰の相続人として参加しているか」を明確にする必要があります。

【署名の記載例】
Dの場合: 相続人 住所 氏名 ㊞
EとFの場合:
 ・被相続人Aの相続人Bの相続人 住所 氏名E ㊞
 ・被相続人Aの相続人Bの相続人 住所 氏名F ㊞

このように、肩書き(地位)を正確に記載しないと、登記手続きで跳ねられる可能性があります。また、1枚の協議書でAの遺産とBの遺産をまとめて分割することも可能ですが、混乱を避けるために書き分けるべきかどうかの判断も専門的知識を要します。

(3) 相続登記(不動産の名義変更)の複雑さ

不動産登記には「権利変動の過程を忠実に反映させる」という原則があります。

通常は、「祖父A → 長男Bへの相続登記」と「長男B → 孫Fへの相続登記」の2件の申請が必要です(登録免許税も2回分かかります)。

しかし、数次相続の場合、中間の相続人が1人だけである場合や、遺産分割協議の結果によって、中間の登記を省略し、「祖父A → 孫F」へ直接登記(中間省略登記)ができる特例があります。

この特例が使えるかどうかの判断は非常にシビアで、遺産分割協議書の文言一つで可否が変わることもあります。無駄な税金を払わないためにも、司法書士や弁護士との連携が不可欠です。

4. 手続きを進めるための具体的なステップ

複雑な相続を解決するためには、以下の手順で着実に進める必要があります。

  1. 全戸籍の収集と「相続関係説明図」の作成
    まずは、正確な家系図(相続関係説明図)を作成し、誰が権利者かを可視化します。これにより、誰に連絡を取るべきかが明確になります。
  2. 遺産の範囲の確定
    祖父A名義の財産だけでなく、数次相続によって混在している父Bの固有財産も整理する必要があります。
  3. 相続人全員への連絡と意向確認
    面識のない親族(例:代襲相続した従兄弟や、前妻の子など)が含まれる場合、手紙等で慎重にファーストコンタクトを取ります。いきなり「印鑑証明書を送ってください」と言うと警戒されるため、事情を丁寧に説明する必要があります。
  4. 遺産分割協議の実施と合意
    全員で遺産の分け方を話し合います。数次相続の場合、法定相続分の計算も「Aの遺産の1/2をBが相続し、そのBの分をEとFが1/2ずつ…」といった具合に分数計算が複雑になります。
  5. 協議書作成・署名捺印・手続き実行
    全員の実印を集め、法務局や金融機関で手続きを行います。

弁護士に相談するメリット

数次相続や代襲相続が重なるケースは、一般の方が自力で解決するにはハードルが高すぎます。弁護士に依頼することで、以下のようなメリットがあります。

1. 膨大な戸籍収集と相続人調査の代行

職権により、全国の役所から必要な戸籍を漏れなく収集します。複雑に入り組んだ相続関係を正確に読み解き、「相続関係説明図」を作成して、法的に正しい相続人を特定します。

2. 面識のない相続人との交渉窓口

疎遠な親戚や、会ったこともない腹違いの兄弟などが相続人になる場合、当事者同士での話し合いは精神的ストレスが大きく、トラブルになりがちです。弁護士が代理人として間に入り、法的根拠に基づいて冷静に交渉を進めることで、感情的な対立を防ぎます。

3. 「中間省略登記」等を視野に入れた協議書作成

登記手続きや税務申告を見据え、コストと手間がかからないような遺産分割協議書の文案を作成します。

4. 不在者財産管理人等の手続き対応

相続人の中に行方不明者がいる場合、家庭裁判所への「不在者財産管理人選任申立て」が必要です。また、認知症の相続人がいる場合は「成年後見人」が必要です。こうした付随する裁判所手続きも対応可能です。

まとめ

数次相続と代襲相続が重なるケースは、時間が経てば経つほど相続人が増え、権利関係が複雑化し、解決が困難になっていきます。「面倒だから」と放置することは、将来の世代にさらに大きな負担と争いの種を残すことになります。

このような複雑な事案では、初期段階での「相続人の特定」と「分割方針の策定」が極めて重要です。誤った判断で手続きを進めると、協議のやり直しや無効などの重大なリスクを招きかねません。

「何代も前の名義が残っている」「誰が相続人なのか見当もつかない」という状況でお困りの方は、ぜひ一度、弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。複雑に絡み合った相続の糸を一つひとつ丁寧に解きほぐし、不動産の名義変更や預金の解約が無事に完了するまで、責任を持ってサポートいたします。

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