はじめに
相続財産の中で、最も金額が大きく、かつ分割が難しいのが「不動産」です。
預貯金のように金額が通帳に明記されているわけではないため、「そもそも何を所有しているのか」という調査から、「いくらと評価すべきか」という算定まで、専門的な知識が必要となります。
特に不動産評価には、相続税申告のための評価と、遺産分割協議のための評価という、性質の異なる2つの基準が存在します。この違いを理解していないと、相続人間で不公平が生じ、深刻なトラブルに発展しかねません。
本稿では、不動産調査のステップと、混乱しやすい評価基準の使い分けについて解説します。
Q&A:不動産の調査と評価に関するよくある質問
Q1:父がどこに不動産を持っていたか、正確に把握できていません。どうすればよいですか?
まずは、市町村役場で「名寄帳(なよせちょう)」を取得してください。名寄帳は、特定の人物がその自治体内に所有する不動産を一覧にまとめたものです。毎年送られてくる「固定資産税の納税通知書」も重要ですが、通知書には非課税の私道などが載っていないこともあるため、名寄帳で網羅的に確認するのが確実です。
Q2:遺産分割の話し合いで、弟が「路線価」で評価すべきだと言っています。それでいいのでしょうか?
相続税を計算する上では「路線価」を使いますが、遺産分割協議(誰がどの財産をもらうかの話し合い)では、原則として「実勢価格(時価)」を基準にします。路線価は実勢価格の8割程度を目安に設定されていることが多いため、路線価で評価すると、不動産を相続する人が得をし、他の相続人が損をするという不公平が生じる可能性があります。
Q3:古い「権利証」しかありません。今の価値を調べるには登記簿を取り直すべきですか?
はい、最新の「登記事項証明書(登記簿謄本)」を取得することをお勧めします。権利証(登記済証)は所有権を証明する書類ですが、最新の権利関係(抵当権の設定状況や差し押さえの有無など)は反映されていません。法務局で最新の情報を確認することが調査の基本です。
不動産調査の3つのステップ
不動産を漏れなく、正しく把握するためには、以下の手順で資料を揃えます。
1. 所有物件の網羅的な特定(名寄帳・納税通知書)
前述の通り、まずは「名寄帳」を取得します。自宅以外の遠方に山林や原野を持っているケースもあるため、心当たりのある自治体すべてから取り寄せる必要があります。
2. 権利関係と現況の確認(登記事項証明書・公図)
法務局で「登記事項証明書」を取得し、現在の所有者や、借金の担保(抵当権)が入っていないかを確認します。また、「公図(こうず)」や「地積測量図」を取得することで、土地の形状や隣地との境界、接道状況などを把握します。
3. 評価資料の収集(固定資産評価証明書)
各市町村で発行される「固定資産評価証明書」を取得します。ここには固定資産税評価額が記載されており、あらゆる評価の出発点となります。
混乱しやすい「4つの価格」と使い分け
不動産には「一物四価(いちぶつよんか)」と言われるほど、複数の価格が存在します。実務で使う主なものは以下の4つです。
| 価格の種類 | 決めている機関 | 主な利用目的 | 特徴 |
| 実勢価格(時価) | 市場(取引当事者) | 遺産分割協議 | 実際に売買される価格。最も公平な基準。 |
| 公示地価 | 国土交通省 | 公的な取引の指標 | 一般的な土地取引の目安となる価格。 |
| 路線価 | 国税庁 | 相続税・贈与税の算定 | 公示地価の約8割が目安。道路ごとに設定。 |
| 固定資産税評価額 | 市町村(東京23区は都) | 固定資産税の計算 | 公示地価の約7割が目安。3年に1度評価替え。 |
【重要】遺産分割時と相続税申告時の違い
遺産分割協議時(話し合い)
「今、その不動産を売ったらいくらになるか」という実勢価格(時価)を基準にすることが一般的です。不動産をそのまま所有し続ける場合でも、時価で換算しないと、他の財産(現金など)とのバランスが取れなくなるためです。ただし、相続人全員が同意するのであれば、固定資産税評価額や路線価を基準としたりすることもあります。
相続税申告時(税務署への報告)
国税庁が定めたルールである「財産評価基本通達」に基づき、主に路線価(路線価がない地域は倍率方式)を用いて計算します。
不動産の適正な評価を行うためのポイント
実勢価格(時価)を算出するのは容易ではありません。実務では以下の方法を組み合わせて検討します。
- 近隣の取引事例の確認: 不動産流通標準情報システム(REINS)や、国土交通省の「土地総合情報システム」で周辺の成約価格を調べます。
- 査定の取得: 複数の不動産会社に査定を依頼します。ただし、売却を目的とした査定は高めに出る傾向があるため注意が必要です。
- 不動産鑑定士による鑑定: 相続人間で評価額に大きな開きがあり、合意できない場合は、費用はかかりますが不動産鑑定士に正式な鑑定を依頼し、客観的な証拠を確保します。
弁護士に相談するメリット
不動産の相続は、金額が大きいため一度こじれると解決に時間がかかります。弁護士が介入することで以下のようなメリットがあります。
1. 複雑な権利関係の整理
共有持分になっている土地や、借地権、底地権などの複雑な権利関係がある場合、弁護士が法的な整理を行い、後のトラブルを防ぐ分割案を提示します。
2. 公平な分割案の提示(代償分割など)
不動産を一人が相続し、他の相続人に現金を支払う「代償分割」を行う際、根拠となる時価の算定から、支払能力に応じた合意書の作成までをサポートします。
3. 紛争の未然防止と早期解決
評価額を巡って意見が対立した際、裁判所の考え方(判例)に基づいたアドバイスを行うことで、感情的な対立を抑え、調停や審判に発展するのを防ぎます。
まとめ
不動産の相続を成功させる鍵は、「正確な現状把握」と「目的に応じた適切な評価」にあります。
- 名寄帳で漏れなく調査する。
- 遺産分割では「実勢価格(時価)」を、相続税では「路線価」を使う。
- 評価で揉めたら、客観的なデータや専門家の意見を取り入れる。
不動産は一つとして同じものはなく、個別性が非常に強い財産です。評価額一つで相続分が数百万円、数千万円変わることも珍しくありません。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、ケースに応じて税理士や不動産鑑定士と連携し、法務・税務・実務等の面から、お客様にとって最適な解決策をご提案いたします。不動産の相続でお悩みの方は、ぜひお早めにご相談ください。
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