Q&A①
中小企業経営者からのご質問
先生、最近、親の相続問題で頭を悩ませている同業者仲間が多いんですが、遺言書が有効かどうか判断するポイントって何でしょうか?
うちの会社はまだ代替わり前ですけど、経営権や財産の承継なんかも含め、事前に知っておきたいんです。特に判断能力が少し衰えた高齢の親が残した遺言でも有効なのかどうか、知りたくて……。
回答
承知しました。遺言が有効かどうかは、法律で定められた方式を守っていることと、遺言を残す時点で遺言者がその内容を理解できる十分な『遺言能力』を有していたかが重要なポイントです。特に高齢者の遺言では、認知機能の程度が争点になりがちです。
また、遺言書の形式、日付、署名押印、そして内容のシンプルさや遺言作成の経緯が、遺言能力を推定する上で手掛かりとなります。中小企業オーナーの方々が将来の事業承継を円滑に進めるためにも、このような基礎知識はとても有益です。
本稿では、遺言の有効性判断の基本から、実際に問題となりがちな遺言能力の概念、そして万が一紛争が生じた場合に弁護士へ相談するメリットなどを総合的に解説します。
Q&A②
質問(一般相談者のケース)
母が亡くなりました。父は既に他界しており、相続人は私と兄の2人です。生前、私は父母と実家で暮らし、父が亡くなった後も母の介護や日常の世話をしていました。そのためか母は遺言書を残し、『私に全財産を相続させる』と記してくれたようです。しかし、その遺言を兄に示したところ、『母は晩年には判断能力が不十分だったはずだから、その遺言は無効だ』と言われてしまいました。確かに母は高齢で判断力が多少衰えていましたが、重度の認知症というほどではありません。こんな場合、母の残した遺言は無効になってしまうのでしょうか?
回答(弁護士法人長瀬総合法律事務所)
遺言が有効かどうかは大きく二つの観点で検討します。
1つ目は『遺言の方式』を守っているか。自筆証書遺言なら、全文自書・日付記載・署名押印が必要です。
2つ目は『遺言能力』(民法961条以下)があったかどうかです。つまり、遺言内容の意味や効果を理解・判断できるレベルの精神的能力を有していたかが問題となります。高齢で認知機能が低下していても、簡単な内容の理解や判断ができる程度であれば遺言能力が認められる場合は多く、遺言が必ずしも無効になるとは限りません。今回のように、相続財産を全て特定の相続人に与える遺言は比較的シンプルで、その意思決定が十分に合理的に説明できる背景(同居・介護への感謝など)があれば、遺言能力を肯定しやすいといえます。
解説
1.遺言の有効性を決める基本的視点
遺言の有効性は、主に以下の2点で判断されます。
- 方式面(民法第960条、968条)
遺言は法律で定められた方式に従わなければ無効になります。自筆証書遺言の場合、全文を遺言者本人が自書し、正確な日付を記し、署名し、押印する必要があります(民法第968条)。これらの条件を一つでも欠けば、その遺言は方式不備で無効となり得ます。 - 能力面(民法第961条以下)
遺言能力とは、遺言者が自分の行為の意味と結果を理解・判断できる精神的能力を指します。民法第961条に基づき、遺言を作成するには、意思能力(自らの意思で判断ができる状態)が求められます。ただし、これは高度な判断力を必要とするわけではなく、遺言書の内容をおおむね理解し、その結果を見通せる程度で足りると解されます。高齢者が多少判断力を失っていても、全く理解不能な状況でなければ遺言能力が認められるケースは少なくありません。
2.高齢者特有の事情と遺言能力評価のポイント
高齢者は加齢に伴い判断能力が低下することがあります。しかし、軽度の認知症や物忘れがあるとしても、遺言の内容が単純明快であり、その作成に合理的な理由があれば、遺言能力が肯定されやすくなります。例えば、
- 遺言内容が特定の者に全財産を譲るというシンプルなもの
- 日常的に世話を受け、そこに強い信頼関係が存在した状況
- 遺言を作成する際に、遺言者がその決定を理解していた証拠(会話記録、医師の診断、第三者の立会いなど)があること
これらの要素がある場合、遺言能力を肯定する根拠となりえます。
3.当事者間の見解対立が生じた場合の手続
相続人間で「遺言能力がなかったのでは?」と争いが起これば、家庭裁判所で遺言無効確認訴訟などの法的手続をとることもあります。その際は、医療記録、遺言作成当時の状況を知る第三者の証言、遺言書作成時の映像・音声記録などが証拠となります。
弁護士に相談するメリット
遺言の有効性や遺言能力をめぐる争いは、相続人間の感情的対立を深め、ビジネスにも悪影響を及ぼし得ます。また、経営者にとって、相続は単なる家族間の問題ではなく、自社株式や事業承継計画とも直結し得る重大事です。弁護士に相談することで得られる主なメリットは以下の通りです。
- 法的観点からの的確なアドバイス
弁護士は民法や判例、実務の知見をもとに、遺言書の有効性、遺言能力の有無、方式不備などについて客観的に検証します。 - 紛争予防策の提示
遺言作成の段階で弁護士に相談することで、後々の争いが生じにくいような形式・内容を整えることが可能になります。また、公正証書遺言の活用や医師の診断書取得など、予防策の提案が可能です。 - スムーズな手続進行
相続手続においては、家庭裁判所や公証役場などとの調整が必要な場合もあります。弁護士に依頼すれば、複雑な手続を円滑に進め、当事者の労力やストレスを軽減します。 - 経営者目線でのトータルサポート
事業承継問題が絡む場合、弁護士は税理士や公認会計士、司法書士など他の専門家と連携し、包括的な戦略を練り上げることが可能です。例えば、相続税対策、公正証書遺言の検討、信託契約の活用など、事業継続に資する多角的なサポートが期待できます。
まとめ
本稿では、遺言の有効性判断のための基礎知識と、遺言能力の考え方、そして紛争が生じた際の対応策や弁護士に相談するメリットについてご説明しました。遺言能力は必ずしも「完全な判断力」が求められるわけではなく、「遺言内容を理解し、効果を認識できるか」という最低限のラインをクリアしていれば、たとえ高齢で判断力が低下していても有効な遺言と認められる場合もあります。
企業経営者の方々にとって、相続は事業承継とも関わる重要なテーマです。早めに準備を行い、必要に応じて弁護士をはじめとした専門家を活用することで、スムーズな相続手続、ひいては事業継続を確保できるでしょう。
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