はじめに
相続放棄を行うと、プラスの財産も含めて一切相続しないという扱いになるため、当然ながら相続財産を勝手に処分したり使用したりしてはいけません。ところが、相続放棄を決めた後でも、故人が使っていた車をそのまま乗り続ける、家に住み続ける、といったケースがしばしば見受けられます。
しかし、こうした行為は法定単純承認とみなされ、相続放棄が無効になってしまうリスクがあるのです。本記事では、相続放棄後に財産を使用することのリスクと、具体的にどのような行為が問題となるのか、対策を含めて解説します。
Q&A
Q1. 相続放棄後に財産を使うと、なぜ放棄が無効になるの?
民法では、相続人が「相続財産を処分した場合」に相続放棄が認められなくなる規定(法定単純承認)が設けられています。放棄を選んだのに財産を利用・処分するのは矛盾する行為とみなされるため、法律上は最初から相続放棄しなかった扱いになるのです。
Q2. どの程度の使用が問題なの?
基本的に、積極的に財産を処分・消費・活用する行為が該当します。単なる「一時的な保存」や「債権者からの取り立てを防ぐためにやむを得ず預かる行為」などは問題にならない場合があります。具体的なケースごとに微妙なラインがあるので注意が必要です。
Q3. 相続放棄を知らずに一部の財産を使ってしまった場合は?
原則としては法定単純承認に該当するおそれが高いです。しかし、財産の消極的管理や保存に留まる行為なら問題ないとされる場合もあるため、具体的事情を弁護士に相談する必要があります。
Q4. 放棄したのに家に住み続けることはできない?
放棄後に住み続けるのは積極的な使用と判断され、法定単純承認にあたる可能性が高いといえます。賃借契約があれば別ですが、故人名義の家に無償で住んでいる場合はリスクが大きいです。
解説
どのような行為が「財産の処分」に該当するか
- 預金の引き出し・使用
相続放棄を決めた後で故人の口座からお金を勝手に引き出す行為 - 不動産の賃貸や売却
放棄したはずの土地・建物を他人に貸したり、売却して利益を得る - 自動車や貴金属の継続使用
自動車を放棄したはずなのに私用で乗り続ける、宝石を売却するなど - 故人名義の有価証券を売却
株式を売って代金を得る行為も処分とみなされる
「保存行為」として認められる範囲
- 一時的な保存や管理
たとえば家のドアを施錠したり、故人の預金口座を凍結するといった、財産価値を守るための行為は「保存行為」として許容されることがあります。 - 債権者からの差押を防ぐための最小限の対応
ただし、その行為が財産の積極的処分に当たると判断されれば、放棄は無効となるリスクがある
実務でよくある危険例
- 相続放棄申立後も故人の車を使い続ける
自家用車を日常的に乗り回していると、処分行為とみなされる可能性が高い - 故人名義の家で生活継続
不動産の無償使用は積極的利用と判断されやすい - 葬儀代の支払い
葬儀費用は相続人が立替えるケースが多いが、立替払い自体は必ずしも処分とはならない。ただし、故人の口座からの払い戻し行為は要注意 - 家財道具の売却
家にあった家電や家具を勝手にフリマアプリで売ってしまうと処分扱い
リスク回避の対策
- 早めに相続放棄するかどうか決断
借金や保証債務が判明したら、安易に財産を使わず短期間で方針を決める - 必要最小限の管理に留める
車や家財の利用は極力控え、保全措置(施錠・点検)だけに留める - 弁護士に相談
「これは処分行為か?」と微妙な場面では、専門家が判断とアドバイスを提供
弁護士に相談するメリット
- 行為の適法性判断
特定の使用が法定単純承認に当たるかどうかを事前に確認できる - 相続放棄申立書類の作成
戸籍や財産情報を整理し、正確に家庭裁判所へ申請 - 金融機関や債権者対応
弁護士が窓口となり、不用意な処分をしないようにアドバイス - 争いの防止
他の相続人から「お前は放棄したのに勝手に使ってる」と非難されるリスクを最小化
まとめ
相続放棄後に財産を積極的に利用・処分する行為は、法定単純承認とみなされて放棄が無効になる恐れがあります。対処策としては、次の点を意識しましょう。
- 放棄したなら財産に手を出さない
車、不動産、預金を使用するとリスク大 - やむを得ず管理する場合は「保存行為」の範囲に留める
借金取り立てを防ぐ最小限の措置など - 不明な場合は弁護士に相談
道具や車を使ってもいいか、微妙なラインはプロが判断 - 放棄申立前に財産を使わない
3カ月の熟慮期間で急ぎでも、無用なリスクは避ける
一度相続放棄が無効になると、借金も含めて相続することになるかもしれません。もし相続放棄を検討しているのに故人の財産を使わざるを得ない状況がある場合、お早めに弁護士法人長瀬総合法律事務所へご相談ください。
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