はじめに
相続が発生した際、最も身近でありながら、トラブルの火種になりやすいのが「預貯金」の扱いです。
「父にはもっと貯金があったはずだ」「通帳が見当たらないが、どこの銀行に預けていたかわからない」といった悩みは、相続現場では日常茶飯事です。
遺産分割協議を円滑に進めるためには、客観的な証拠に基づく「正確な残高」と「資金の流れ」の把握が欠かせません。本稿では、預貯金調査の具体的なステップから、後々大きな問題となる「名義預金」の注意点、使途不明金への対処法まで、実務に即して解説します。
Q&A:預貯金調査に関するよくある質問
Q1:亡くなった父の通帳がどこにあるかわかりません。どうやって探せばよいですか?
まずは自宅内の保管場所(金庫、仏壇、引き出し)を探すとともに、遺品の中から「銀行からのカレンダー、タオル」「ティッシュなどの粗品」「郵便物(残高通知やスマート通帳の案内)」などを探します。手掛かりが見つかれば、その金融機関に対して「全店照会(亡くなった方の口座が全国の支店にないか確認する手続き)」を行うことが可能です。
Q2:他の相続人が通帳を隠していて見せてくれません。弁護士に頼めば金融機関に対して開示請求してもらえますか?
弁護士は受任した事件について、弁護士法23条の2に基づく「弁護士会照会」という制度を利用できます。これを用いることで、金融機関に対して口座の有無や残高、過去の取引履歴の開示を求めることができます。また、相続人一人からでも、金融機関に対して直接「残高証明書」や「取引履歴」を請求する権利(法定相続人としての権利)が認められています。
Q3:数年前に亡くなった母が、私の名義で貯金をしてくれていたようです。これは私の財産になりますか?
その預金が、いわゆる「名義預金」とみなされる場合、それは母(被相続人)の遺産として扱われます。通帳や印鑑を誰が管理していたか、原資(お金の出どころ)は誰のものかといった実態で判断されるため、単に口座名義があなたであるというだけでは、あなたの財産とは認められない可能性があります。
預貯金調査の具体的な流れ
預貯金の調査は、以下の3つのステップで進めていきます。
1. 金融機関の特定と全店照会
まずは被相続人が取引していた金融機関を特定します。特定できたら、その銀行の窓口で「全店照会」を依頼します。これにより、被相続人がその銀行の他の支店で持っていた定期預金や投資信託口座なども一括して把握できます。
2. 残高証明書の取得
「相続開始日(亡くなった日)」時点での残高証明書を取得します。
- 必要書類: 被相続人の死亡がわかる戸籍謄本、請求者が相続人であることがわかる戸籍謄本、実印、印鑑証明書など。
- 注意点: 定期預金がある場合は、既経過利息(亡くなった日までに発生している利息)の計算も併せて依頼してください。
3. 取引履歴(取引推移一覧表)の取得
残高証明書だけでは、「亡くなった瞬間の金額」しかわかりません。不自然な引き出しがないかを確認するためには、過去3年〜10年程度の「取引履歴」を取得することが重要です。
実務上の重要トピック:名義預金と使途不明金
預貯金の調査において、特に注意すべき2つのポイントを解説します。
① 名義預金問題
名義預金とは、口座名義は子供や孫になっているものの、実際には被相続人が資金を出し、管理も被相続人が行っていた預金を指します。
- なぜ問題になるのか: 相続税の税務調査で最も指摘されやすい項目であり、遺産分割協議においても「これは遺産に含めるべきだ」という争いの原因になります。
- 判断基準: * 届出印が被相続人のものと同じか?
- 通帳の保管場所はどこか?
- 贈与契約書が存在するか?
- 贈与税の申告をしていたか?
② 使途不明金(不当利得返還請求)
取引履歴を確認した際、死亡直前や入院中に、多額の現金が引き出されていることがあります。
調査のポイント
誰が、何の目的で引き出したのかを追及します。介護費用や葬儀費用の支払いに充てられたのであれば問題ありませんが、特定の相続人が自身の利益のために使い込んでいた場合、それは「不当利得」として返還を求める、あるいは遺産分割の際に精算を求める対象となります。
弁護士に相談するメリット
預貯金の調査を弁護士に依頼することで、以下のようなメリットがあります。
1. 精神的な負担の軽減とスピード解決
金融機関の手続きは煩雑で、平日の日中に何度も足を運ぶ必要があります。弁護士が代理人として動くことで、相続人の方の負担を大幅に減らし、漏れのない調査を行います。
2. 隠された財産のあぶり出し
「弁護士会照会」などを活用し、相続人が個人で行うよりも強力な調査権限を行使できます。特定の支店だけでなく、周辺の金融機関へ網羅的に照会をかけることで、隠れた遺産を発見できる可能性が高まります。
3. 法的な分析と交渉力
名義預金や使途不明金の問題が発覚した際、それを「遺産」として認めさせるには、通帳の管理状況や当時の被相続人の判断能力など、多角的な証拠集めと法的な主張が必要です。弁護士は、裁判所での調停や審判を見据えた論理的な交渉を行うことができます。
まとめ
預貯金の調査は、単に金額を確認する作業ではありません。
- 残高証明書で「現在」を把握し、
- 取引履歴で「過去の流れ」を分析し、
- 名義預金や使途不明金の有無を確認する
この一連のプロセスがあって初めて、公平な遺産分割が可能になります。
もし、他の相続人の対応に不信感がある場合や、預金の使い込みが疑われる場合は、感情的な対立が深まる前に専門家へ相談することをお勧めします。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、預貯金調査から金融機関との交渉、そして複雑な名義預金問題の解決まで、相続に関する課題解決に取り組んでおります。正確な財産把握こそが、円満な相続への近道です。お悩みの方は、ぜひ当事務所までお問い合わせください。
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