はじめに
相続財産の中に「株式」が含まれている場合、その取り扱いは預貯金よりもはるかに複雑です。上場株式であれば証券会社を通じた手続きが必要であり、非上場株式(同族会社の株式など)であれば、その価値を算出すること自体が困難な作業となります。
特に、亡くなった方(被相続人)が会社を経営していた場合や、親族の会社の株を持っていた場合、その評価額が予想以上に高額になり、相続税の負担や遺産分割の公平性を巡って大きな争いに発展することが少なくありません。
本稿では、上場株式と非上場株式それぞれの相続手続きと、トラブルを防ぐための評価方法について解説します。
Q&A:株式の相続に関するよくある質問
Q1:亡くなった父がどこの株を持っていたか分かりません。調べる方法はありますか?
まずは自宅に届いている「配当金支払通知書」や「議決権行使書面」を確認してください。また、証券会社からの「取引残高報告書」も重要な手掛かりになります。もし全く見当がつかない場合は、「証券保管振替機構(ほふり)」に対して、被相続人がどこの証券会社に口座を開設していたかを一括照会する「登録済加入者情報の開示請求」を行うことが可能です。
Q2:上場株式の評価額は、いつの時点の株価を採用すればよいですか?
相続税の申告においては、原則として「亡くなった日の終値」を採用します。ただし、株価の急な変動を考慮し、①亡くなった月の平均値、②前月の平均値、③前々月の平均値のうち、最も低い価格を選択できるという特例があります。一方、遺産分割協議においては、原則として「協議成立時(現在)」の時価で評価します。
Q3:親が経営していた会社の株(非上場株)があります。額面通りで分けても問題ないですか?
額面で分けることはお勧めしません。非上場株式の実際の価値は、会社の資産や利益状況によって、額面の数十倍、数百倍になっているケースが多いからです。適正な評価を行わずに遺産分割を行うと、後で他の相続人から不公平だと訴えられたり、税務署から「贈与」とみなされて余計な税金がかかったりするリスクがあります。
上場株式の相続手続きと評価
上場株式は市場価格が存在するため、客観的な価値の把握は比較的容易ですが、手続きには手間がかかります。
1. 調査と特定
前述の「ほふり」への照会や、証券会社からの残高証明書取得により、銘柄と数量を確定させます。
2. 評価方法
税務上の評価では、以下の4つの中で最も低い金額を採用します。
- 継承開始日(亡くなった日)の終値
- 亡くなった月の終値の平均額
- 亡くなった前月の終値の平均額
- 亡くなった前々月の終値の平均額
3. 名義書換(移管手続き)
株式はそのまま現金化して分ける(換価分割)こともできますが、相続人の証券口座へ移管するのが一般的です。相続人が証券口座を持っていない場合は、新たに開設する必要があります。
非上場株式の複雑な評価実務
非上場株式には「市場価格」がありません。そのため、国税庁の定めた「財産評価基本通達」に基づき、擬似的な時価を算出します。この評価方法は、株主の立場によって大きく2つに分かれます。
① 原則的評価方式(経営を支配する株主の場合)
会社の規模(大・中・小)に応じて、以下の方法を組み合わせて評価します。
- 類似業種比準方式: 似た業種の上場企業の株価や配当、利益を基準にする方法。
- 純資産価額方式: 会社の資産から負債を差し引いた「正味の財産」を基準にする方法。
- 併用方式: 上記2つを一定の割合で組み合わせる方法。
② 特例的評価方式(配当還元方式)
経営に関与しない少数の株主(親戚や従業員など)が相続する場合は、例外的に「配当金」のみに着目した簡易的な計算方法が認められます。原則的評価方式に比べて、評価額は低くなるのが通例です。
株式相続におけるトラブルの要因
1. 同族間での「評価」の対立
会社を引き継ぐ後継者は「税負担を減らすために低く評価したい」と考え、株を引き継がない他の相続人は「もらえる額を増やすために高く評価したい」と考えます。この利害対立が、遺産分割協議を停滞させる最大の原因です。
2. 「分散」による経営権の不安定化
法定相続分に従って株式を細かく分けてしまうと、将来的に会社の意思決定(決裁)ができなくなる恐れがあります。事業承継を控えている場合は、特定の相続人に集中させる工夫が必要です。
弁護士に相談するメリット
株式の相続、特に事業承継が絡むケースでは、法務と税務の高度な連携が求められます。弁護士に依頼することで、以下のようなメリットがあります。
1. 適切な評価基準の選定と交渉
類似業種比準方式や純資産価額方式の計算は、専門家でなければ困難です。弁護士は税理士と連携し、最も合理的で、かつ依頼者に有利な評価の根拠を構築し、他の相続人との交渉にあたります。
2. 事業承継を見据えた遺産分割案の作成
「経営権の確保」と「他の相続人への配慮(代償金など)」のバランスを取った遺産分割協議書を作成します。単なる財産分けではなく、会社の将来を守るための法的スキームを提案します。
3. 証券会社や会社側との専門的なやり取り
煩雑な名義書換の手続きや、非上場会社に対する決算資料の開示請求など、心理的・時間的負担のかかる作業をすべて代行します。
まとめ
株式の相続は、単なる「財産の調査」に留まりません。
- 上場株式は、評価の特例を利用して税負担を最小限に抑えつつ、迅速に名義変更を行う。
- 非上場株式は、適切な評価方式を選択し、経営権と公平性のバランスを慎重に図る。
特に非上場株式の評価は、計算一つで相続税額や分割案が数千万円単位で変わることもある、デリケートな問題です。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、相続の法務的な解決はもちろん、税理士等の他士業とも連携し、多角的な視点から株式相続をサポートいたします。親が会社を経営していた、あるいは親戚の会社の株を持っていることが分かったら、トラブルになる前に、まずは当事務所へご相談ください。
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