遺留分侵害額の計算方法
遺留分侵害額請求をする前提として、「遺留分侵害額」を計算しておく必要があります。遺留分侵害額の計算式は、以下のとおりです。
遺留分侵害額(民法1046条2項柱書) =遺留分を算定するための財産の額(民法1043条)×個別的遺留分の割合(民法1042条)−遺留分権利者が受けた遺贈又は特別受益の額(民法1046条2項1号)−遺留分権利者が相続によって取得すべき財産の額(民法1046条2項2号)+遺留分権利が承継する相続債務の額(民法1046条2項3号) |
上記計算式について、具体的な算定手順は以下のとおりです。
① 遺留分権利者個々の「個別的遺留分」を計算する(民法1042条) ② 遺留分算定の基礎財産を計算する(民法1043条) ③ 遺留分権利者の具体的な「遺留分額」を計算する(民法1042条) 基礎財産 × 個別的遺留分 ④ 遺留分額から、「遺留分権利者が受けた遺贈・特別受益に該当する生前贈与の額」および「遺留分権利者が相続によって取得すべき遺産の額」を控除し、「遺留分権利者が負担する相続債務の額」を加算して、「遺留分侵害額」を計算する(民法1046条) |
遺留分侵害額の計算は、以下のとおりとなります。
遺留分侵害額の算定は、複雑な計算方法となりますので、個別に以下のとおり説明します。
個別的遺留分の算定
遺留分侵害額を計算するには、遺留分権利者個々の個別的遺留分を算定する必要があります。個別的遺留分は、以下の計算式で算定します。
個別的遺留分 = 総体的遺留分 × 法定相続分
「総体的遺留分」とは、相続財産全体に占める遺留分権利者に留保される割合です(民法1042条)。
- 直系尊属だけが相続人の場合:相続財産の3分の1
- それ以外の場合:相続財産の2分の1
総体的遺留分に、各遺留分権利者の法定相続分を乗じて、「個別的遺留分」を算定します。
遺留分権利者が複数人いる場合も同様です(民法1042条2項)。
遺留分算定の基礎財産
(遺留分を算定するための財産の価額) 第千四十三条 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。 2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。 |
遺留分額は、基礎財産に個別的遺留分の割合を乗じて算定します。
遺留分算定の基礎財産は、以下のように算出します(民法1043条1項)。
遺留分算定の基礎財産= ①相続開始時の被相続人の積極財産+②贈与財産の価額-③被相続人の相続債務 |
①相続開始時の被相続人の積極財産
基礎財産には、①被相続人が相続開始時に有していた積極財産が加算されます(民法1043条1項)。
なお、積極財産が条件付権利や存続期間の不確定な権利である場合は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って価格を定めます(民法1043条2項)。
②贈与財産の価額
第千四十四条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。 2 第九百四条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。 3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。 |
遺留分算定の基礎財産には、②贈与財産の価額を加算します(民法1043条1項)。
基礎財産に加算される②贈与財産の範囲は、民法1044条に規定されています。
① 相続開始前の1年間にされた贈与(民法1044条1項前段) ② 遺留分権利者に損害を加えることを知ってされた贈与(民法1044条1項後段) ③ 相続開始前の10年間にされた相続人に対する特別受益に該当する(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた)贈与(民法1044条2項、3項) |
また、基礎財産に加算される贈与が負担付贈与であった場合、贈与価額から負担の価額を控除した額が、基礎財産に加算されます(民法1045条1項)。
③被相続人の相続債務
①積極財産と②贈与を加算した額から、③被相続人が相続開始時に負っていた債務(相続債務)の全額を控除して、基礎財産の額を算定します(民法1043条1項)。
この相続債務には、借金等、私法上の債務だけでなく、税金等の公法上の債務も含まれます。
遺留分額の算定
基礎財産に個別的遺留分の割合を乗じて、各遺留分権利者の具体的な遺留分額を算定します。(民法1042条)。
遺留分額の算定式は以下のとおりです。
遺留分額=遺留分算定の基礎財産×総体的遺留分×法定相続分
遺留分侵害額の算定
(遺留分侵害額の請求) 第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。 2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。 一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額 二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額 三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額 |
遺留分額を侵害された場合、遺留分権利者は、遺留分侵害額を請求することできます。
ただし、遺留分権利者が遺贈や特別受益を受けていたり、債務を小計したりしている場合、遺留分侵害額を増減修正する必要があります(民法1046条2項)。
以上を整理すれば、遺留分侵害額の計算式は、以下のように整理できます。