死後事務委任契約とは
死後事務委任契約とは、委任者が受任者に自己の死後の事務を生前に依頼する契約をいいます。
一例を挙げれば、葬祭関係、行政機関(市役所等)への届出、病院代等の精算、ご自宅の片付けなどを第三者に依頼することです。
これらの事務は、一般的には相続人や祭祀承継者によって行われますが、必ずしも故人の意思に沿った形で葬祭等が行われないこともあり得ます。
死後事務委任契約は、生前のご本人の意向を尊重し、懸念を払拭するための方策として締結される契約になります。
死後事務委任契約を利用する場合
個別の事案によって様々なご事情はありますが、死後事務委任契約を利用する場面として主に以下の3つのケースが考えられます。
① 自分の死後に死後事務を行ってくれる家族等がいない場合
② 死後に自分の遺志を反映したい場合(葬祭方法等)
③ 死後に家族等に負担をかけたくない場合
死後事務委任契約の法的根拠
死後事務委任契約は、委任者と受任者との間の合意に基づく委任契約です。
通常の委任契約の場合には、委任者又は受任者の死亡によって委任契約が終了します(民法653条1号)。
(委任の終了事由)
第六百五十三条 委任は、次に掲げる事由によって終了する。
一 委任者又は受任者の死亡
二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。
三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。
しかしながら、この点について、最高裁は、委任者の死亡によって委任契約が終了しない場合があると判示しており、死後事務委任契約は法的には問題ないと考えられます(最判平成4年9月22日(最高裁判所第3小法廷判決/平成4年(オ)第67号))。
したがいまして、委任者の死亡によっても委任が終了しない死後事務委任契約も認められると解されます。
死後事務委任契約のメリット
死後事務委任契約を締結することのメリットとして、次のような点が挙げられます。
① 生前にご自身の逝去後の事項を決定できる
死後事務委任契約は、ご本人が生前にお元気なうちに逝去後の事項(葬儀等)を決定することが可能です。
② ご家族の負担を軽減できる
死後事務委任契約で逝去後の事務手続の対応を決定することで、残されたご家族のご負担を軽減することが可能となります。
③ 遺言書で決定できない事務手続に対応できる
遺言書に記載して法的な拘束力が発生する事項は、法律で定められた事項に限られます。
相続発生後には法定遺言事項以外にも葬儀の主宰や市役所等での行政手続、病院代等の精算、公共サービスの解約等の様々な手続が必要となります。
遺言書では対応できない事項については、死後事務委任契約で対応することが可能となります。
死後事務委任契約の流れ
死後事務委任契約の流れは次のとおりです。
① 死後事務委任契約でご依頼したい事項の確認
ご本人から死後事務委任契約でご依頼したい事項についてヒアリングを行い、内容を確定いたします。
死後事務委任契約の方針やご依頼内容の検討にあたり、ご本人のご家族構成や親族関係、財産状況等をおうかがいすることもあります。
ヒアリングの結果、死後事務委任契約以外の方法が望ましい場合には他の柄選択をご提案させていただくこともあります。
② 死後事務委任契約書の作成・締結
ご本人のヒアリングを踏まえ、死後事務委任契約書を作成、ご締結いたします(公正証書として作成することをご提案させていただく場合もございます。公正証書として作成する場合には別途実費をご負担いただくことをご了承ください。)。
③ 死後事務委任費用の預託
死後事務委任契約をご依頼される場合には、あらかじめ死後事務の対応に要する報酬金及び実費見込額を預託していただきます。
④ ご本人の逝去
委任者であるご本人が逝去した後、死後事務委任契約の執行を開始します。
⑤ ご依頼された死後事務の執行
事前に締結した死後事務委任契約書に基づき、死後事務の執行を順次進めてまいります。
⑥ 相続人等、指定先へのご報告
死後事務委任契約書において、死後事務完了後に相続人等、特定の報告者が定められている場合には、その方に報告を行ないます。
⑦ 報酬等の精算
預り金から報酬等の精算を行います。
死後事務委任契約における委任事項の内容
死後事務委任契約において委任する死後事務は、主に以下の事項が想定されます。なお、個別のご依頼によって委任事項は異なりうるため、参考としてお考えください。
1)葬祭等に関する事項
① ご遺体のお引取り
② 葬儀に関する手続
③ 埋葬・散骨等に関する手続
④ ご供養に関する手続
2)行政機関への届出等
① 健康保険証の返還
② 運転免許証、パスポート等公的証明書の返納
③ 年金の受給資格抹消申請
④ 住民税・固定資産税等の税金の納付
3)生活に関する届出等
① 関係者への死亡のご連絡
② 病院や介護施設の未払料金のご精算
③ 賃貸不動産の契約解除・明渡し
④ 公共料金の精算・解約手続
⑤ インターネットの解約手続
⑥ SNS等のアカウント削除
⑦ パソコン・携帯電話等の個人情報の抹消処理
⑧ 飼っているペットの引渡しや施設への入所手続
死後事務委任契約と遺言の違い
死後事務委任契約と類似した死後の対応方法として、遺言書が挙げられます。
遺言は書面で作成する必要がありますが、遺言書に記載しておけばすべて法的な拘束力が発生するわけではありません。
遺言書に記載して法的な拘束力が発生する事項は、法律で定められた事項に限られます。
相続発生後には法定遺言事項以外にも葬儀の主宰や市役所等での行政手続、病院代等の精算、公共サービスの解約等の様々な手続が必要となります。
遺言書では対応できない事項については、死後事務委任契約で対応することが可能となります。
遺言事項として法的拘束力が発生する事項は以下のとおりです。
1)相続に関する事項 推定相続人の廃除、廃除の取消し相続分の指定・指定の委託特別受益の持戻しの免除遺産分割方法の指定・指定の委託遺産分割の禁止共同相続人の担保責任の減免・加重配偶者居住権の設定遺留分侵害額の負担の割合の指定
2)相続以外による遺産の処分に関する事項 遺贈相続財産に属しない権利の遺贈について別段の意思表示信託の設定財団法人設立のための寄附行為
3)身分関係に関する事項 認知未成年後見人の指定未成年後見監督人の指定
4)遺言執行に関する事項 言執行者の指定・指定の委託
5)その他の事項 祭祀承継者の指定遺言の撤回保険金受取人の変更
死後事務委任契約の場合の弁護士費用
死後事務委任契約をご依頼される場合には、各委任事項に要する実費のほか、各手続に応じた弁護士費用が発生します。
実費としては、書面等の取り寄せ等による費用や、公正証書を作成する場合の費用のほか、当事務所の担当者が出張を要する場合等の交通費、日当等になります。
具体的な弁護士費用は、死後事務委任契約においてご依頼される委任事務の内容によって異なりますので、詳細につきましてはご相談時にご説明させていただきます。