はじめに
Q: 認知症の疑いがある親が遺言書を作成したいと考えています。この場合、何に気をつければよいのでしょうか?
A: 認知症の疑いがある場合でも、遺言書を作成することは可能です。ただし、遺言書が法的に有効であるためには、「遺言能力」を有している必要があります。この能力は、遺言者が遺言内容を理解し、自らの意思で作成できる判断力を指します。親が認知症の疑いがある場合、後の相続争いを防ぐためにも、慎重に準備を進め、専門家の助言を受けることが大切です。
認知症とは
1. 認知症の基本的な理解
認知症は、脳の神経細胞が変性や脱落することによって、記憶力や判断力が低下し、日常生活に支障をきたす病気です。代表的な種類には以下があります。
- アルツハイマー型認知症: 記憶障害が特徴。
- 血管性認知症: 脳血管障害が原因。
- レビー小体型認知症: 幻視や動作の遅れがみられる。
2. 初期症状と進行
認知症の初期段階では、日常生活に支障が出にくい場合もあります。この段階で適切な支援や法的手続きを行うことが重要です。
認知症と遺言書の有効性の関係
1. 遺言能力の必要性
遺言書は、遺言者が遺言能力を持つ時点で作成される必要があります(民法961条、963条)。遺言能力とは、遺言内容を理解し、自らの意思を反映できる判断力を指します。
2. 認知症と遺言能力
認知症の診断を受けたからといって、必ずしも遺言能力が否定されるわけではありません。例えば、軽度の認知症で意思疎通が可能な場合は、遺言能力が認められることがあります。
3. 特別なケース(民法973条)
被成年後見人であっても、一時的に判断能力が回復した場合には、医師2人の立会いの下で遺言書を作成することが認められています。この規定は、認知症の進行度に応じた柔軟な対応を可能にしています。
遺言能力の判断基準
遺言能力の有無を判断する際、以下のポイントが重視されます。
1. 遺言内容の難易度
裁判例では、遺言内容が簡単であれば遺言能力が認められる可能性が高いとされています。
2. 遺言書作成時の状況
遺言者が遺言書を作成する時点での健康状態や判断力が問われます。
- 医師の診断書を取得しておく。
- 作成過程を録画しておく。
3. 診断と遺言能力の別問題
認知症の医学的診断と遺言能力の法律的判断は異なるため、医師と弁護士の協力が必要です。
認知症の疑いがある場合に遺言書を作成する場合の留意点
1. 証拠の確保
後日の争いを防ぐため、遺言能力を証明できる証拠を残すことが重要です。
- 医師の診断書: 作成時点での健康状態を証明。
- 作成過程の記録: 動画や書類を残す。
2. 内容の工夫
相続人全体の納得を得られるよう配慮した内容を検討します。公平性を重視した分配や、遺言者の意向を明確にすることが重要です。
3. 公正証書遺言の活用
公証役場で作成する公正証書遺言を活用することで、遺言書の法的効力を高めることができます。公証人が関与するため、内容がしっかりと確認されます。
弁護士に相談するメリット
1. 法律的視点からのアドバイス
弁護士は、遺言能力の有無を確認し、遺言書が法的に有効であることを保証します。認知症に関する法的問題を解決するための最適な方法を提案します。
2. 証拠の整備
医師の診断書取得や録画方法についての具体的な助言を受けられます。また、遺言内容の妥当性についても専門的な視点からアドバイスを受けられます。
3. 相続トラブルの防止
遺言書が無効とされた場合、相続人間で争いが生じる可能性があります。弁護士が関与することで、これらのリスクを軽減し、遺言者の意思を尊重した相続を実現できます。
まとめ
認知症の疑いがある親が遺言書を作成する場合でも、遺言能力が確認されれば、法的に有効な遺言書を準備できます。ただし、後日の相続争いを防ぐためには、証拠の確保や適切な遺言内容の工夫が必要です。また、遺言書作成時には弁護士の助言を受けることで、円滑な手続きを行えます。親の意思を尊重し、将来のトラブルを防ぐため、専門家の活用をぜひ検討してください。
相続問題について解説した動画を公開しています
相続問題にお悩みの方はこちらの動画もご参照ください。
初回無料|お問い合わせはお気軽に
その他のコラムはこちら