はじめに
ご身内を亡くされた皆様に、心よりお悔やみ申し上げます。
大切な方を失った悲しみの中で、葬儀の準備や関係者への連絡など、やらなければならないことが次々と押し寄せ、心身ともに大きな負担を感じていらっしゃることと存じます。
さらに、故人を偲ぶ間もなく、役所への届出や各種契約の解約など、法律に基づいた様々な手続きを開始しなければなりません。特に相続の発生直後は、期限が短い手続きが多く、混乱してしまう方も少なくありません。
しかし、この時期の手続きを正確に行うことが、後の遺産分割協議を円滑に進め、相続トラブルを未然に防ぐための第一歩となります。
本記事では、相続が発生した直後(おおむね2週間以内)に「いつまでに」「誰が」「何をすべきか」を分かりやすくチェックリスト形式で解説します。まずはこの記事で全体像を把握し、一つひとつの手続きを着実に進めていきましょう。
Q&A:相続発生直後によくあるご質問
Q1. 死亡届はいつまでに、誰が提出すればよいのですか?
死亡届は、死亡の事実を知った日から7日以内(国外で死亡した場合は3ヶ月以内)に提出する必要があります。
届出を行う義務があるのは、以下の「届出義務者」です。
- 同居の親族
- 同居していない親族
- その他の同居者
- 家主、地主または家屋もしくは土地の管理人
実務上は、故人の配偶者や子などのご親族が届出人となるケースがほとんどです。届出人の欄に署名・押印があれば、代理人(葬儀社のスタッフなど)が役所の窓口に提出することも可能です。
提出先は、故人の本籍地、死亡地、または届出人の所在地のいずれかの市区町村役場です。
Q2. 故人の預金口座はいつ凍結されるのですか?葬儀費用を引き出すことはできますか?
金融機関は、口座名義人の死亡の事実を知った時点で、その口座を凍結します。通常は、ご遺族からの申し出によって金融機関が死亡の事実を把握します。口座が凍結されると、預金の引き出しや振り込み、公共料金の引き落としなどが一切できなくなります。
葬儀費用など、当面の資金が必要な場合は「預貯金の仮払い制度(相続預金の払戻し制度)」を利用することができます。この制度を使えば、遺産分割協議が完了する前でも、一定額まで故人の預金を引き出すことが可能です。
ただし、手続きには戸籍謄本などの書類が必要となり、金融機関ごとに対応も異なります。安易にご自身で預金を引き出すと、後の遺産分割で「財産を使い込んだ」と疑われるなど、トラブルの原因になりかねませんので注意が必要です。手続きに不安がある場合は、事前に弁護士にご相談ください。
Q3. 年金の受給停止手続きを忘れると、どうなりますか?
年金を受給していた方が亡くなった場合、厚生年金は死亡後10日以内、国民年金は死亡後14日以内に「年金受給権者死亡届」を提出し、受給を停止する手続きが必要です。
この手続きを忘れてしまうと、故人の口座に年金が振り込まれ続けてしまいます。これを「過払い」といい、後日、日本年金機構から返還を求められることになります。これは不正受給にあたり、受け取った年金をそのままにしておくと、法的な問題に発展する可能性もあります。
また、故人が受け取るはずだった未支給分の年金がある場合は、ご遺族が請求できる可能性があります。年金の手続きは、遅滞なく行うことが重要です。
解説:相続発生直後の手続きチェックリスト
身近な方が亡くなられた直後は、精神的な余裕がない中で、多くの手続きを並行して進める必要があります。ここでは、手続きを時系列に沿ってチェックリスト形式でまとめました。一つずつ確認しながら進めていきましょう。
死亡後すみやかに行うこと
1. 死亡診断書(または死体検案書)の受け取り
- 内容
病院で亡くなられた場合は「死亡診断書」、ご自宅や事故などで亡くなられた場合は警察の検視後に「死体検案書」が医師によって発行されます。この書類は、後のすべての手続きの起点となる重要なものです。 - ポイント
- 通常、A3用紙の左半分が死亡診断書、右半分が死亡届になっています。
- 役所に提出すると原本は返却されません。後の手続き(生命保険の請求、預金の相続手続きなど)で必要になるため、複数枚コピーを取っておきましょう。
2. 葬儀社の選定と葬儀の手配
- 内容
故人の遺志やご遺族の意向に沿って、葬儀の形式(一般葬、家族葬など)や規模、予算を決め、葬儀社を手配します。 - ポイント
- 喪主を誰にするかを決定します。
- 複数の葬儀社から見積もりを取り、サービス内容や費用を比較検討することをお勧めします。
- 親族や関係者への訃報の連絡も並行して行います。
死亡後7日以内に行うこと
3. 死亡届の提出
- 期限
死亡の事実を知った日から7日以内 - 提出先
故人の本籍地、死亡地、または届出人の所在地の市区町村役場 - 必要書類
- 死亡届(死亡診断書または死体検案書と一体になっています)
- 届出人の印鑑(認印で可)
- ポイント
死亡届を提出しないと、火葬の許可が下りません。ほとんどの場合、葬儀社が提出を代行してくれます。
4. 火葬許可申請・火葬許可証の受け取り
- 内容
死亡届を提出する際に、同時に「火葬許可申請書」を提出します。これにより「火葬許可証」が交付されます。 - ポイント
- 火葬許可証がないと、火葬を行うことができません。
- 火葬後、火葬場で日付が記入され、これが「埋葬許可証」となります。納骨の際に必要となるため、骨壺と一緒に大切に保管してください。
死亡後10日~14日以内に行うこと
5. 年金受給停止手続き
- 期限
- 厚生年金:10日以内
- 国民年金:14日以内
- 提出先
年金事務所または街角の年金相談センター - 必要書類
- 年金受給権者死亡届
- 故人の年金証書
- 死亡の事実が確認できる書類(戸籍抄本、死亡診断書のコピーなど)
- ポイント
- 故人がまだ受け取っていない年金(未支給年金)がある場合、生計を同一にしていた遺族が請求できます。この手続きも同時に行いましょう。
- 共済年金の場合は、各共済組合への届出が必要です。
6. 介護保険資格喪失届
- 期限
死亡後14日以内 - 提出先
故人が居住していた市区町村役場 - 必要書類
- 介護保険資格喪失届
- 故人の介護保険被保険者証(原本)
- ポイント
- 介護保険料を多く納め過ぎている場合は、還付金が受け取れることがあります。
- 保険証は返却する必要があります。
7. 世帯主の変更届
- 期限
死亡後14日以内 - 提出先
故人が居住していた市区町村役場 - 対象
故人が世帯主であり、その世帯に2人以上の世帯員が残る場合 - ポイント
- 残された世帯員が1人だけの場合や、15歳未満の子と親権者のみの場合は、届出は不要です。
- 国民健康保険に加入していた場合は、この届出と併せて資格喪失手続きや加入手続きを行います。
速やかに行うべきその他の手続き
以下の手続きには明確な期限はありませんが、放置すると料金が発生し続けたり、権利関係が複雑になったりする可能性があるため、葬儀が落ち着いた段階で速やかに着手しましょう。
- 住民票の抹消届・戸籍の附票の抹消
これらは死亡届の提出により自動的に処理されますが、手続きが反映されているか確認しておくと安心です。 - 公共料金(電気・ガス・水道)の名義変更・解約
- 通信サービス(電話・携帯電話・インターネット)の解約
- 金融機関への連絡(預金口座の凍結依頼)
- クレジットカードの解約
- 各種会員サービスの解約(月額課金サービスなど)
- パスポート、運転免許証の返納
- 生命保険金の請求手続き
- 遺言書の有無の確認
- 公正証書遺言
公証役場で保管されているか確認します。 - 自筆証書遺言
自宅や貸金庫などで保管されている可能性があります。発見した場合、絶対にその場で開封してはいけません。家庭裁判所で「検認」という手続きを経る必要があります。封印された遺言書を開封すると、過料に処せられる可能性があります。
- 公正証書遺言
相続発生直後に弁護士に相談するメリット
「まだ遺産分割で揉めているわけではないのに、弁護士に相談するのは早すぎるのでは?」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、相続手続きは、最初の段階から法的な視点を持って進めることが、将来のトラブルを回避する上でとても重要です。
相続発生直後の段階で弁護士にご相談いただくことには、以下のようなメリットがあります。
手続きの全体像を把握し、的確なスケジュールを立てられる
相続手続きには、3ヶ月以内に行うべき「相続放棄・限定承認の申述」、10ヶ月以内に行うべき「相続税の申告・納付」など、様々な期限が存在します。弁護士にご相談いただければ、目の前の手続きだけでなく、相続完了までの全体像と法的な注意点を踏まえたロードマップをご提示できます。これにより、手続きの漏れや遅延を防ぎ、安心して次のステップに進むことができます。
相続人および相続財産の調査を早期に開始できる
遺産分割協議を行うためには、まず「誰が相続人なのか」「どのような遺産があるのか」を確定させる必要があります。弁護士は、職権による戸籍謄本の収集や、金融機関・証券会社への残高照会などを通じて、相続人と財産の調査を正確かつ迅速に行うことができます。これを早期に開始することで、後の遺産分割協議をスムーズに進めることが可能になります。
相続放棄の検討など、重要な判断を的確にサポートできる
故人に多額の借金がある場合、相続放棄を検討する必要があります。相続放棄ができる期間は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」と短期間です。弁護士は、財産調査を通じてプラスの財産とマイナスの財産を把握し、相続放棄をすべきか否か、専門的な視点から助言することができます。
法的に適切な初期対応で、将来の紛争を予防できる
例えば、発見された自筆証書遺言の検認手続きの申立てや、預貯金の仮払い制度の利用など、初期段階には法的な手続きが伴う場面が少なくありません。これらの手続きを弁護士が代理することで、手続き上のミスを防ぎ、他の相続人から「勝手に手続きを進めた」といった疑念を抱かれるリスクを低減できます。初期対応を適切に行うことが、相続人間の信頼関係を維持し、「争族」を防ぐための鍵となります。
精神的な負担を大幅に軽減できる
何より、ご親族を亡くされた直後の大変な時期に、煩雑な手続きや法律問題について信頼できる専門家がいるという安心感は、ご遺族の精神的な負担を大きく軽減します。一人で抱え込まず、専門家に任せることで、故人を偲ぶ時間に少しでも心の余裕を持つことができます。
まとめ
今回は、相続が発生した直後に行うべき手続きについて、チェックリスト形式で解説しました。
身近な方が亡くなられた直後は、悲しむ時間もないほど多くの手続きに追われることになります。特に死亡届の提出や年金の停止手続きなど、期限が厳格に定められているものも多く、一つひとつを冷静に進めていくことが求められます。
本記事でご紹介したチェックリストをご活用いただき、手続きの漏れがないようにご注意ください。
そして、相続手続きはここからが本番です。遺言書の有無の確認、相続人と財産の調査、遺産分割協議、相続税の申告と、専門的な知識を要する手続きが続きます。少しでも不安を感じたり、ご自身で進めることに困難を感じたりした場合は、決して一人で悩まず、できるだけ早い段階で相続問題に精通した弁護士にご相談ください。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、相続に関する初回相談を無料で承っております。初期段階の小さな疑問から、将来の遺産分割に関するご不安まで、経験豊富な弁護士が親身にサポートいたします。どうぞお気軽にお問い合わせください。
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