内縁の妻(事実婚)に相続権はない?財産を確実に渡すための法的手段と注意点を弁護士が解説

はじめに

近年、婚姻届を提出せずに夫婦としての共同生活を送る「事実婚(内縁関係)」を選択するカップルが増加しています。価値観の多様化や夫婦別姓を維持したいなどの理由から、形式にとらわれないパートナーシップを築くことは、現代において尊重されるべき選択の一つです。

しかし、法的な「相続」の場面において、事実婚のカップルは極めて厳しい現実に直面することになります。どれほど長年連れ添い、実質的な夫婦として支え合っていたとしても、法律上の婚姻関係がない限り、内縁の妻や夫には「相続権」が一切認められていないのです。

「何もしなくても、長年一緒にいたのだから多少は考慮されるだろう」という考えは禁物です。何の対策も講じていない場合、パートナーが亡くなった途端に、住む家を追われたり、生活の基盤を失ったりするリスクさえあります。

しかし、諦める必要はありません。法的な対策を事前に、あるいは事後に適切に行うことで、大切なパートナーに財産を残す道は開かれています。本稿では、事実婚(内縁関係)における相続権の真実と、パートナーに財産を渡すための具体的な法的手段(遺言、生前贈与、特別縁故者制度など)について解説します。

Q&A

Q1. 20年以上連れ添った内縁の夫が亡くなりました。私には相続権はないのでしょうか?

大変残念ですが、原則として相続権はありません。日本の民法において、配偶者として相続権が認められるのは「法律上の婚姻届を提出している配偶者」に限られます。同居期間の長さや、周囲が夫婦として認めていたかどうかは、相続権の発生要件には影響しません。したがって、法定相続分を主張して遺産を受け取ることはできません。

Q2. 内縁の妻に全財産を譲りたいと考えています。最も確実な方法は何ですか?

「遺言書」を作成することが最も確実で有効な方法です。遺言書の中で「内縁の妻〇〇に全財産を遺贈する」と明記しておけば、法的な相続権がなくても財産を渡すことができます。ただし、ご自身に子供や親などの法定相続人がいる場合、彼らの「遺留分(最低限の取り分)」を侵害しないよう配慮する必要があります。トラブルを防ぐためにも、公正証書遺言での作成をお勧めします。

Q3. 相手が急死し、遺言書もありません。相続人もいないようですが、財産をもらうことはできませんか?

相続人が誰もいない(不存在)場合に限り、「特別縁故者(とくべつえんこしゃ)」として家庭裁判所に申し立てを行うことで、遺産の一部または全部を受け取れる可能性があります。ただし、これは自動的にもらえるものではなく、裁判所の手続きを経て認められる必要があります。また、相続人が一人でもいる場合は、この制度は利用できません。

解説

1. 事実婚(内縁関係)と法律婚の決定的な違い

まず、現状の法制度における事実婚の立ち位置を正確に理解する必要があります。

事実婚であっても、社会保険(健康保険の扶養など)や公的な遺族年金においては、一定の要件を満たせば法律婚と同様に扱われるケースがあります。しかし、民法上の「相続」に関しては、法律婚と事実婚の間に越えられない大きな壁が存在します。

相続権の不在

民法第890条は「被相続人の配偶者は、常に相続人となる」と定めていますが、判例上、ここでいう配偶者は「届出をした法律上の配偶者」に限られます。したがって、内縁のパートナーは法定相続人になれません。

具体的なリスク

もし内縁の夫が亡くなり、彼に前妻との間の子供や、兄弟姉妹がいた場合、遺産はその法定相続人たちが全て相続します。内縁の妻は、夫名義の家に住んでいても、相続人から「退去してほしい」と言われれば、法的に対抗することが難しくなる可能性があります。また、二人の生活費として夫の口座に入れていた預金も、名義が夫であれば相続財産とみなされ、引き出せなくなるリスクがあります。

2. 生前に行うべき対策:パートナーに財産を残す方法

内縁関係にある場合、「何もしないこと」が最大のリスクです。パートナーに財産を残すためには、生前の能動的なアクションが不可欠です。

(1) 遺言書の作成(遺贈)

最も効果的かつ一般的な方法は、遺言書を残すことです。

遺言によって、法定相続人以外の人(内縁のパートナー)に財産を譲ることを「遺贈(いぞう)」といいます。

  • 公正証書遺言の推奨: 自筆証書遺言は形式不備で無効になるリスクや、死後の検認手続きの手間、紛失・改ざんの恐れがあります。公証人が作成する「公正証書遺言」であれば、これらのリスクを回避し、確実に遺志を実現できます。
  • 遺言執行者の指定: 遺言の内容を実現する「遺言執行者」を指定しておきましょう。パートナー自身や、信頼できる弁護士を指定しておくことで、他の相続人との接触を避けつつ、スムーズに名義変更などの手続きを進められます。

(2) 死因贈与契約

「私が死んだら、この財産をあなたにあげる」という合意を、生前にパートナーとの間で交わしておく契約です。

遺言が単独行為(一人で行うもの)であるのに対し、死因贈与は契約(合意)であるため、撤回が難しいという特徴があります。ただし、不動産の場合は仮登記ができるなどのメリットがある反面、税金面では遺贈と同様に相続税の対象となります。

(3) 生前贈与

元気なうちに財産の名義をパートナーに移しておく方法です。

確実に財産を移転できますが、年間110万円を超える贈与には「贈与税」がかかります。贈与税の税率は相続税よりも高く設定されているため、多額の財産を一度に移すと重い税負担が生じます。長期間にわたって少しずつ贈与する(暦年贈与)などの計画性が必要です。

※「夫婦間で居住用不動産を贈与したときの配偶者控除(おしどり贈与)」は、法律婚の夫婦にしか適用されないため注意が必要です。

(4) 生命保険の受取人指定

生命保険の死亡保険金受取人をパートナーに指定することも有効です。

ただし、多くの保険会社では、受取人を「戸籍上の配偶者および2親等以内の血族」に限定しており、内縁のパートナーを指定するには、「同居期間〇年以上」「生計を同一にしている」などの一定の要件や証明書類を求められることが一般的です。事前に保険会社へ確認が必要です。

3. 死後の救済措置:特別縁故者制度

生前に対策ができず、パートナーが亡くなってしまった場合、事後的に財産を取得できる唯一の可能性が「特別縁故者制度」です。

特別縁故者とは

被相続人(亡くなった方)と特別に親しい関係にあった人のことです。具体的には以下のような人が該当します。

  • 被相続人と生計を同じくしていた者(内縁の妻・夫など)
  • 被相続人の療養看護に努めた者
  • その他、被相続人と特別の縁故があった者

制度を利用するための条件

この制度を利用するには、以下の条件をすべて満たす必要があります。

  1. 相続人が一人もいないこと(相続人不存在)
    子供、親、兄弟姉妹、甥姪など、法定相続人が一人でもいる場合は、特別縁故者の申し立てはできません。相続人が全員相続放棄をした結果、誰もいなくなった場合も含みます。
  2. 相続財産管理人の選任申立て
    まず家庭裁判所に「相続財産清算人(旧:相続財産管理人)」を選任してもらう必要があります。
  3. 債務の精算
    選任された清算人が、借金などの債務を支払います。
  4. 特別縁故者への財産分与申立て
    債務を支払ってもなお財産が残っている場合、家庭裁判所に「特別縁故者に対する相続財産分与」を申し立てます。

注意点

  • 時間がかかる: 手続き完了まで1年以上かかることが一般的です。
  • 全額もらえるとは限らない: 裁判所が、縁故の程度や財産状況を考慮して分与額を決定します。

4. その他の権利と注意点

居住権の問題

法律婚の配偶者には「配偶者居住権」という、自宅に住み続けられる権利が認められていますが、これは内縁のパートナーには適用されません。

しかし、借家(賃貸物件)に住んでいた場合は、借地借家法により、内縁のパートナーが賃借人の権利義務を承継できる可能性があります(相続人がいない場合)。

持ち家の場合は、遺言がないと退去を求められるリスクが高いため、生前の対策(遺贈や配偶者居住権に準ずる権利の設定検討など)が重要です。

遺留分侵害額請求への対策

遺言書で「内縁の妻に全財産を譲る」とした場合でも、亡くなったパートナーに子供や親がいる場合、彼らには「遺留分」があります。遺留分を侵害する内容の遺言だと、後から「遺留分侵害額請求」を起こされ、金銭トラブルになる可能性があります。

遺言書を作成する際は、遺留分相当額の現金を別途用意しておくか、遺留分を考慮した配分にするなどの対策が必要です。

弁護士に相談するメリット

事実婚における相続問題は、法律の保護が薄い分、より慎重で専門的な対策が求められます。弁護士に相談することで、以下のようなメリットがあります。

1. 無効にならない遺言書の作成

事実婚パートナーへの遺贈は、法定相続人からの反発を招きやすいものです。「認知症で判断能力がなかった」「偽造された」などと主張され、遺言無効確認訴訟に発展するケースも少なくありません。弁護士は、法的有効性を担保した公正証書遺言の文案を作成し、将来の紛争リスクを最小限に抑えます。

2. 複雑な「特別縁故者」手続きの代理

パートナーが亡くなった後、相続人がいない場合に特別縁故者の申立てを行うには、膨大な資料収集と裁判所への説得力のある主張が必要です。弁護士は、二人の関係性を証明する証拠を整理し、申立書の作成から裁判所とのやり取りまでをサポートします。

3. 遺留分を考慮した高度な設計

単に「全財産をあげる」という遺言では、かえってパートナーをトラブルに巻き込む可能性があります。弁護士は、推定相続人の遺留分を計算し、生命保険を活用した資金準備や、付言事項(遺言に添えるメッセージ)の工夫など、円満な解決に向けた戦略的なアドバイスを提供します。

4. パートナー亡き後のトータルサポート

死後事務委任契約などを組み合わせることで、葬儀の手配や行政手続き、遺品整理など、親族ではないパートナーがつまずきやすい死後の手続きもサポートできます。

まとめ

事実婚(内縁関係)は、お互いの絆がいかに深くても、法律上の相続権という点では守られていません。愛するパートナーに「住む場所」と「生活の糧」を残すためには、法律婚の夫婦以上に、生前の意思表示と具体的な行動が重要になります。

「いつかやろう」と先送りにしている間に万が一のことが起きれば、残されたパートナーは悲しみの中で、経済的な不安や住居を追われる恐怖と戦わなければなりません。そうならないために、有効な「遺言書」の作成や、状況に応じた法的手段の検討を今すぐ始めることをお勧めします。

お二人の関係性や財産状況に合わせ、将来の不安を解消するための最適なプランをご提案します。まずは一度、当事務所の弁護士にご相談ください。

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