はじめに
「もしものとき、自分の大切な財産をどのように分配したいか」
これは誰しもが考えておくべき重要なテーマです。とくにご家族やご自身の想いが強ければ強いほど、遺言書を残すことの大切さは高まります。しかし、実際には「どの形式の遺言書がいいのか分からない」「費用や手続きが難しそう」といった疑問や不安をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
本記事では「遺言書の基本的な種類と選び方」について解説いたします。遺言書の作成を検討している方や、まだ先のことではあるものの将来に備えて知識を得たい方のお役に立てれば幸いです。最終的にはどの遺言書の形式を選ぶかは個々の事情によりますが、この記事をお読みいただくことで、ご自身に合った選択肢を見つけるご参考となれば幸いです。
本記事は弁護士法人長瀬総合法律事務所が作成いたしました。相続や遺言書に関する法律的なアドバイスが必要な場合は、お気軽にご相談ください。
Q&A
ここでは、遺言書に関するよくある質問とその回答をまとめました。
遺言書はどの年齢から作成したらいいですか?
遺言書は、法律上は15歳以上であれば作成できます。しかし、実際には「自分に万が一のことがあった場合に備えたい」「仕事上、大きな資産を持ち始めた」「ライフステージが変わった」などのタイミングで作成を検討される方が少なくありません。法的にみても、財産の内容や家族構成に変化があるときには、早めに作成しておくのが望ましいでしょう。
自筆証書遺言を作る場合、すべて手書きにしないと無効になるのでしょうか?
2020年の法改正により、一部の財産目録をパソコン等で作成し、添付することが認められるようになりました。ただし、遺言書本体(本文・日付・署名)はすべて自書が必要です。自筆証書遺言は書式不備で無効になるリスクがあるため、作成前にはルールをよく確認することをおすすめします。
公正証書遺言はどのような方におすすめですか?
公正証書遺言は、公証役場で公証人の関与のもと作成するため、形式の不備による無効リスクが低いという特徴があります。ご高齢の方や、後のトラブルを絶対に避けたい方、確実性を求める方には公正証書遺言がおすすめです。手数料や公証人の費用など多少のコストがかかりますが、安全性・信頼性が高い点で選ぶメリットがあります。
秘密証書遺言はあまり一般的ではないのでしょうか?
秘密証書遺言は、その名のとおり内容を秘密にしたまま作成できますが、実際には自筆証書遺言や公正証書遺言に比べて利用件数は多くありません。理由としては、手続きの複雑さや、証人が必要などの要件があるためです。また、内容が公証人に確認されないため、書式の不備があった場合に無効となるリスクも残ります。
解説
遺言書にはいくつかの種類がありますが、代表的なものとして次の三つが挙げられます。ここでは、それぞれの特徴を簡単にご説明します。
自筆証書遺言
特徴
- 遺言者本人が自筆で作成する。
- 手軽に作れるが、方式の不備で無効になりやすい。
- 2020年の法改正により財産目録のみパソコン作成が可能になったが、本文の自書・署名・日付は必須。
- 遺言書保管制度を利用すれば、法務局で保管してもらうこともできる。
選ぶポイント
- コストを抑えたい方、まずは気軽に書いてみたい方に向いています。
- しかし、記載内容や書式に厳格なルールがあるため、誤りがあると無効となるリスクが高い点には注意が必要です。
公正証書遺言
特徴
- 公証役場で公証人が作成するため、形式の不備による無効リスクが低い。
- 公証人手数料等を要するため、やや費用が高い。
- 原本が公証役場に保管されるので、紛失・改ざんのリスクが極めて低い。
- 遺言者が自分で書けなくても、口述で意思を示せば公証人に作成してもらえる。
選ぶポイント
- 確実性を重視したい方や、高齢で筆記が難しい方、遺言内容に争いが起こりそうな場合に特におすすめです。
- 後日、形式不備を理由に遺言自体が無効になる可能性が低いため、安心度が高いといえます。
秘密証書遺言
特徴
- 遺言の内容を秘密にしたまま公証役場で手続きをする。
- 公証人は遺言書の内容を確認しない。
- 遺言書の本文に不備があると、結局無効になる可能性がある。
選ぶポイント
- 「遺言書の内容を第三者に知られたくないけれど、公正証書のように公証役場で手続きをした証拠は残しておきたい」という場合に検討されます。
- しかし、あまり利用されるケースは多くなく、実務上は自筆証書遺言か公正証書遺言が選ばれることが一般的です。
特別方式遺言(緊急時に限られる形式)
通常の状況ではあまり用いられませんが、危急時遺言などの特別方式遺言が定められています。生命に関わるような緊迫した状況でやむを得ない場合や船舶内で作成する場合など、限定的なケースでのみ認められる遺言方式です。
弁護士に相談するメリット
遺言書の作成にあたり、ご自身で進めることも可能ですが、法律の専門家である弁護士に相談すると次のようなメリットがあります。
- 法的に無効となるリスクを大幅に減らせる
遺言書作成には厳格なルールがあり、形式をひとつ誤るだけでも無効となる可能性があります。弁護士に依頼することで、必要条項の漏れや書式の不備を避け、法的に有効な遺言書を作成することができます。 - 紛争防止のためのアドバイスを受けられる
遺言書の内容によっては、残された家族間でトラブルが起こることがあります。弁護士は、過去の判例や実務的な観点から「将来的にどのような対立が想定されるか」を見据えたアドバイスが可能です。家族間トラブルを未然に防ぐための条項の工夫など、専門的な視点が役立ちます。 - 遺言執行者の選定や就任もスムーズ
遺言執行者とは、遺言書に記載された内容を実現するために手続きを進める人のことです。弁護士を遺言執行者に指定すれば、専門的な手続きを正確かつ迅速に進めることが可能になります。相続人の間で、公平かつ中立的に業務を行うことが期待できます。 - 複雑な財産構成や債務がある場合のリスク管理
事業や不動産、株式など、多岐にわたる財産をお持ちの場合には、単なる「財産の分配方法」の記載だけでは足りないケースもあります。弁護士に相談すれば、節税対策や債務整理など、他の専門家(税理士・司法書士など)と連携しながらトータルにサポートしてくれるため、リスク管理を含めたより適切な遺言書作成が可能です。 - 安心と確実性が得られる
何より、専門家に任せることで「本当にこれで合っているのだろうか」という不安が解消されます。大切なご家族や親族の将来のためにも、遺言書は確実な形で残したいものです。弁護士のサポートを受けることは、精神的な負担を軽減する意味でも大きなメリットがあります。
まとめ
「遺言書の基本的な種類と選び方」を中心に解説してきましたが、要点を振り返ると次のとおりです。
- 自筆証書遺言
費用が抑えられる反面、方式不備による無効となるリスクがある。 - 公正証書遺言
確実性が高いが手数料がかかる。安全性を最重視する方におすすめ。 - 秘密証書遺言
内容を秘密にできるが、形式不備のチェックが入らないため無効になるリスクがある。 - 特別方式遺言:緊急時など特殊な状況でしか利用できない。
遺言書は書いて終わりではありません。後に状況が変わった場合、書き直し(再作成)や追加が必要になることもあります。また、保管方法によってはせっかく書いた遺言書が紛失してしまい、無効扱いになってしまうケースも少なくありません。
家族構成の変更や、相続対象となる財産状況が変化したタイミングで遺言書の内容を再確認し、必要に応じて作り直すなど、定期的な見直しをすることも重要です。最終的には、「書式の問題なく、かつ自分の希望をできるだけ正確に伝えられる形式」を選ぶことがポイントとなります。
本記事をお読みいただいて、さらに詳細なアドバイスや、具体的な書き方を個別に知りたい方は、どうぞ弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。ご事情を伺ったうえで、最適な遺言書の作成をサポートいたします。
リーガルメディアTV|長瀬総合YouTubeチャンネル
相続問題について解説した動画を公開しています。遺言書の基本的な種類や作成方法をはじめ、相続手続全般にわたって、専門家の視点から分かりやすくまとめています。相続問題にお悩みの方や、より深い知識を得たい方は、ぜひこちらの動画もご参照ください。
長瀬総合のメールマガジン
当事務所では、セミナーのご案内や事務所からのお知らせなどを配信するメールマガジンを運営しています。登録は無料で、配信停止もいつでも可能です。
初回無料|お問い合わせはお気軽に
相続問題のその他のコラムはこちら