遺留分侵害額請求の手続きの流れ

はじめに

被相続人が「全財産を○○に譲る」といった遺言を残していたり、生前に特定の相続人に大きな贈与を行ったりすると、他の相続人の最低限の取り分である遺留分が侵害される場合があります。そこで、遺留分を侵害された相続人は「遺留分侵害額請求」という法的手段を用いて、自分の遺留分相当額を金銭で取り戻すことができます。

しかし、請求のタイミングや手順を誤ると、請求権が時効で消滅したり、請求額の計算を巡って紛争が長引くことも考えられます。本記事では、遺留分侵害額請求の手続きの流れをわかりやすく解説し、スムーズに権利を行使するためのポイントをまとめます。

Q&A

Q1. 遺留分侵害額請求はいつから行えますか?

原則として被相続人が亡くなった後(相続の開始後)、自分の遺留分が侵害されていると知った時点で請求可能です。ただし、時効があり、侵害を知った日から1年、または被相続人の死亡から10年で請求権は消滅します。

Q2. 金銭以外の財産で請求はできないの?

2019年の民法改正により、遺留分侵害額請求は金銭債権となりました。原則として金銭による支払いを受ける形で、特定の不動産を渡すなどの方法は当事者間の合意がないと難しいです。

Q3. 遺留分侵害額請求の調停や審判もあるの?

はい、話し合いでまとまらない場合は家庭裁判所で遺留分侵害額請求の調停を利用できます。調停でも合意できないなら審判や裁判へと進みます。

Q4. 特別受益や寄与分の問題があるとき、どう計算すればいい?

特別受益(生前贈与)や寄与分の存在は相続財産の評価に影響を与えます。具体的にはみなし相続財産を計算し、さらに寄与分をどう扱うかで最終的な遺留分侵害額が変わるため、専門家のアドバイスが不可欠です。

解説

遺留分侵害額請求の手続きフロー

  1. 遺留分の侵害を把握する
    被相続人の死亡後、遺言書や生前贈与の有無を調べ、自分の遺留分がどれだけ侵害されているか計算
  2. 請求先との交渉(任意交渉)
    • 侵害している受遺者・受贈者に対し、内容証明郵便などで遺留分侵害額請求を通知
    • 協議がまとまれば、合意書を作成し、支払い方法などを明記
  3. 家庭裁判所の調停・審判
    • 話し合いが難航すれば、家庭裁判所に遺留分侵害額請求調停を申し立てる
    • 調停で合意できなければ、審判や訴訟へ進み、裁判所の判断を仰ぐ
  4. 支払い・権利行使完了
    • 合意または裁判所決定に基づき、金銭が支払われる
    • 時効(1年or10年)内に権利行使が重要

準備段階:財産調査と計算

  • 相続財産の洗い出し
    • 不動産、預貯金、有価証券、動産、保険など総合的に
    • 生前贈与がある場合、その評価額を「みなし相続財産」に加算
  • 遺留分の割合を確認
    • 配偶者・子が相続人の場合 → 遺留分は1/2
    • 直系尊属のみ → 遺留分は1/3
    • 兄弟姉妹には遺留分なし
  • 各人の遺留分を算出
    • みなし相続財産 × 遺留分率 × 自分の法定相続割合

交渉・請求時の注意点

  1. 内容証明郵便の活用
    • 請求した事実を明確に残すため、内容証明郵便で相手方に通知
  2. 期限管理
    • 侵害を知った日から1年以内に請求しないと時効消滅
    • 被相続人の死亡から10年を経過しても請求不可
  3. 受遺者・受贈者との交渉
    • 金銭での支払いを求めるが、不動産を一部渡すことで解決する場合もある(当事者同士の合意が必要)
  4. 税金の問題
    • 遺留分侵害額を受け取った際、相続税なのか贈与税なのかなど税務上の取扱いにも留意(通常は相続税の範囲)

調停・審判における対応

  • 調停
    • 裁判所の調停委員が間に入り、斡旋を行う
    • 証拠として、不動産の評価証明や贈与の事実を示す書類を提出
  • 審判
    • 調停不成立なら、裁判官が判断
    • 金銭支払い額を具体的に定める審判が出される
  • 不服の場合
    • 2週間以内に即時抗告可能

弁護士に相談するメリット

  1. スムーズな財産調査と評価
    弁護士が不動産鑑定士や税理士と連携し、正確なみなし相続財産を算出
  2. 期限管理・書面作成の徹底
    時効を逃さず、内容証明郵便や調停申立書を適切に作成しトラブルを防ぐ
  3. 感情的対立を最小化
    弁護士が代理人として冷静な交渉を行い、親族間の溝を深めないようコントロール
  4. 調停・審判での代理
    主張や証拠の整理を弁護士が行い、家庭裁判所での手続きを円滑に進める

まとめ

遺留分侵害額請求の手続きは、被相続人が亡くなってから1年という短い時効が最大の特徴です。以下のポイントを押さえ、スムーズに権利行使を進めましょう。

  1. みなし相続財産を正確に算出し、遺留分を計算
  2. 内容証明郵便などで侵害している受遺者・受贈者に金銭支払いを請求
  3. 交渉が不調なら調停を申し立て、それでも不成立なら審判
  4. 時効(1年or死亡から10年)を逃さないよう早期に対応

難しい計算や交渉が絡む場合は、弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。複雑な生前贈与の問題や特別受益の有無など、法律や税務を踏まえた総合的なサポートを行います。

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