はじめに
相続において、特定の相続人が遺留分を主張する権利を持っていますが、ときには家庭の事情や被相続人の強い意向から、あえて遺留分を放棄するという選択肢も考えられます。遺留分放棄を行えば、本来なら確保できる最低限の取り分を自ら手放すことになるため、家族関係等にも大きく影響します。
本記事では、遺留分放棄の方法やその法的効力、メリット・デメリット、そして注意点をわかりやすく整理します。相続人全員が納得したうえでの放棄であれば、争いを回避できる手段となる場合もありますが、軽率な放棄は後悔を生む可能性もあるため、理解を深めておきましょう。
Q&A
Q1. 遺留分放棄はいつできるの?
遺留分放棄は、「生前放棄」と「相続開始後の放棄」の2種類があります。生前放棄の場合は、被相続人の生存中に家庭裁判所の許可を得る必要があり、相続開始後の放棄は許可不要ですが、最終的な確定を文書で残すなど慎重に進める必要があります。
Q2. なぜ生前放棄には家庭裁判所の許可が要るの?
遺留分放棄は遺留分権利者に不利な行為になり得るため、家庭裁判所が放棄者の意思や状況を確認し、自由意思に基づいているか、脅迫や誤解がないかをチェックする仕組みが設けられています。
Q3. 遺留分放棄をするとどんな効果があるの?
遺留分放棄をすると、放棄した人は遺留分を主張できなくなるため、被相続人が遺産をどのように処分しても、放棄者は異議を言えません。結果的に遺言自由度が高まり、放棄者以外の相続人が多くの財産を取得しても放棄者は侵害額請求できません。
Q4. 放棄を取り消すことはできる?
原則として、一度適法に行われた遺留分放棄は取り消し不可です。ただし、脅迫や詐欺など重大な意思決定に欠陥がある場合は争う余地はありますが、実務上は困難なケースが多いといえます。
解説
生前放棄と相続開始後の放棄の違い
- 生前放棄
- 被相続人が存命中に、遺留分権利者が家庭裁判所の許可を得て行う
- 厳格な許可基準があり、相続人の意思の自由や対価の有無などが考慮される
- 一度許可されれば、その後に相続が開始しても放棄者は遺留分を請求できない
- 相続開始後の放棄
- 被相続人の死亡後に、遺留分を持つ相続人が任意で放棄する形
- 家庭裁判所の許可は不要
- 書面化しておかないと、後日「放棄していない」と争いになるリスク
遺留分放棄のメリット・デメリット
- メリット
- 被相続人の意思を尊重できる
- 他の相続人とのトラブルを回避(自らが争いを起こさない)
- 相続税対策で一定の家族や後継者に財産を集中できる
- デメリット
- 放棄者が最低限の取り分を失う
- 放棄後に被相続人の財産が大幅に増えた場合でも、放棄者は請求不可
- 生前放棄の場合は家庭裁判所の許可基準をクリアする必要がある
生前放棄の手続き
- 同意文書・合意書の作成
被相続人と放棄予定者の合意内容を明文化 - 家庭裁判所に許可申立
申立書に経緯や理由を記載し、合意書や家族関係を示す戸籍書類を添付 - 家庭裁判所の審理
放棄が放棄者の自由意思に基づいており、対価など条件が適切か確認 - 許可決定
許可されれば、相続開始後も遺留分主張不可
相続開始後の放棄手続き
- 口頭での放棄は避ける
しっかり書面化しておく。合意書(認印でなく実印が望ましい) - 放棄の意思表示を証拠に残す
内容証明郵便や弁護士の立ち合いで書面を交わすなど - 他の相続人に周知
自分が放棄したことが後で争いにならないよう周知徹底
弁護士に相談するメリット
- 手続きの正確性
生前放棄の家庭裁判所許可申立書類や、相続開始後の放棄書などを弁護士が作成し、誤記や無効リスクを防ぐ - 意思決定のサポート
放棄する利点とリスクを法律の観点から分析し、後悔しないよう助言 - 調停・紛争対応
遺留分侵害額請求が起きないよう放棄を促したい側と、放棄する側との間の交渉を弁護士が円滑に進める - 書面化の信頼性の向上
弁護士がチェックした合意書は、後日の争いを防ぎやすい
まとめ
遺留分放棄は、被相続人が自由に遺産を処分できる余地を広げる一方、放棄者は最低限の取り分を自ら手放す行為です。以下のポイントに留意しましょう。
- 生前放棄は家庭裁判所の許可が必要
- 相続開始後の放棄には許可不要だが、書面化しておくことが重要
- メリット:トラブル回避、被相続人の意思尊重
- デメリット:放棄者の権利喪失、後の財産増加に対応不可
- 弁護士と相談:後悔しない意思決定と手続きの適正化のため
遺留分放棄を検討している場合は、一度弁護士法人長瀬総合法律事務所などの専門家にご相談いただき、リスクを正しく把握してから意思決定するのがおすすめです。
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