はじめに
多くの中小企業では、社長の子どもなど親族を後継者に据えて事業を継続する「親族内承継」が主流とされています。しかし、家族ならではの感情的対立や、兄弟姉妹間での遺留分問題、会社の経営理念の違いなどによって、承継がスムーズに進まないケースが後を絶ちません。本記事では、親族間で起こりがちな事業承継トラブル事例を紹介し、どのように解決・予防すべきかを解説します。
Q&A
Q1. 親族内承継でよくあるトラブルとは?
- 兄弟姉妹の間で株式の分割がもめる
- 後継者のリーダーシップ不足で従業員や取引先が不安
- 先代経営者と後継者が経営方針で対立し、権限移譲が進まない
- 他の相続人が遺留分を主張し、事業用資産の分配に反発
Q2. 兄弟のうち特定の一人だけが後継者になるのはアリですか?
もちろん可能ですが、他の兄弟が遺留分や公平性を理由に不満を表すケースが多いです。分配をめぐるトラブルを回避するため、代償金を用意したり、遺言書で事前調整を行うなどの配慮が必要です。
Q3. 親族経営だと感情的な衝突が多い印象です。どうやって緩和できますか?
事業承継契約や株主間契約などで、意思決定プロセスや株式譲渡条件を明確に定めるのが有効です。また、弁護士などの第三者が入ると、客観的視点で中立に調整でき、感情的対立を抑えやすいです。
Q4. 親族間トラブルを未然に防ぐ具体的な方法は?
- 早期からの情報共有(後継者候補や株式分配案を家族で話し合う)
- 遺言書の作成(遺留分に配慮して公平感を出す)
- 株主間契約(後継者の経営権を確立しつつ、他の親族の取り分も明記)
- 弁護士など専門家の関与(法的根拠と客観的データで説得力をもたせる)
解説
事例1:後継者への株式集中が兄弟間で対立
【状況】
家族経営のA社。社長が長男を後継者に指名し、株式を集中しようと計画。しかし、次男と長女が「父の財産を独占するのか」と反発。
【問題点】
- 兄弟姉妹が同じく相続人であり、株式をどう分割するかで意見相違
- 従業員や取引先は長男就任を受け入れているが、親族の不満が解消されない
【解決策】
- 遺言書で長男に主要株式を譲る一方、次男・長女に代償金を支払う
- 株主間契約で「経営は長男が行う」と決めつつ、他の兄弟の権利を一部保障
- 弁護士が仲介し、遺留分対策や配当方針をまとめた事業承継契約を締結
事例2:先代と後継者の衝突による権限移譲が進まない
【状況】
創業社長が高齢だが、経営実権を強く握り、新社長(長女)に権限を委譲しない。結果、従業員が「どっちに指示を仰げばいいのか」と混乱。
【問題点】
- 先代の経営理念と後継者の新方針が食い違い、社内で権力が二重化
- 取引先も「方針が安定しない」と不安を抱く
【解決策】
- 事業承継契約で先代の顧問的立場や退任時期を明確化
- 経営上の決定権限を後継者に一元化し、先代はアドバイザリー役に徹する
- 従業員への周知を徹底し、新社長が正式な決裁者であることを明示
事例3:遺留分侵害額請求で事業資産が分割されそうになる
【状況】
長男を後継者にして会社株式を集中する遺言書があったが、二男・三女が遺留分侵害額請求を主張。会社の主要株式を金銭換価しなければならない恐れが出た。
【問題点】
- 会社株式が分割されて経営権が揺らぐリスク
- 現金が少なく、代償金を支払えないと会社が不安定化
【解決策】
- 生前贈与で長男に株を一部移転、同時に二男・三女にも相応の資産を渡す
- 遺留分を見越して代償金の準備をしておき、相続時に速やかに支払う
- 弁護士が遺言書を作成し、遺留分対策として不公平感を減らす工夫
トラブル未然防止策
- 事業承継計画書の作成
5年・10年先を見据えた株式移転、役職移行、相続対策などをまとめる - 早期からの親族会議
親族が顔を合わせ、将来的な事業方針や株式分配を議論 - 専門家チームの編成
弁護士、税理士などを交えた総合的なサポート
弁護士に相談するメリット
- 親族間の感情対立を法的アプローチで整理
感情論になりがちな家族問題を法律的根拠と客観的データで説得 - 株式や資産分配の契約書作成
事業承継契約や株主間契約でルールを明確化 - 遺言書や遺留分対策
生前贈与や遺留分対策を踏まえ、将来の紛争を最小化 - 税理士など他士業との連携
相続税や贈与税、会社の財務分析などもワンストップで対応
まとめ
親族間の事業承継トラブルは、感情面と財産面の両軸で衝突するケースが多く、長期化すると会社運営に悪影響を及ぼします。以下の対策が重要です:
- 早期に後継者を決定し、適性や意欲を確認
- 株式分割や遺留分対策を契約書や遺言書で明文化
- 先代経営者と後継者の役割分担を明確化し、従業員や取引先に周知
- 弁護士を含む専門家との連携で法務・税務リスクを未然に防ぐ
もし事業承継で親族同士が対立しそうな気配がある場合は、お早めに弁護士法人長瀬総合法律事務所へ相談し、適切な解決策を検討しましょう。
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