はじめに
相続が発生したとき、多くの方が「この手続きは、自分たちだけで進められるのだろうか?」という疑問に直面します。費用を抑えるために、できる限り自分たちで手続きをしたいと考えるのは自然なことです。
確かに、相続財産が預貯金のみで、相続人も一人だけといったごくシンプルなケースであれば、ご自身で手続きを完了させることも不可能ではありません。しかし、相続手続きは戸籍の収集から財産の評価、遺産分割協議、各種名義変更まで多岐にわたり、多くの時間と労力を要します。
そして、最も注意すべきなのは、法的な知識が不十分なまま手続きを進めた結果、相続人間で思わぬトラブルに発展したり、法的に不利益を被ってしまったりするリスクがあることです。
本記事では、どのようなケースであればご自身で手続きが可能で、どのようなケースでは専門家に依頼すべきなのか、その具体的な判断基準をチェックリスト形式で分かりやすく解説します。この記事が、皆様にとって最適な選択をするための一助となれば幸いです。
Q&A:相続手続きと専門家に関するよくあるご質問
Q1. 弁護士に遺産分割協議を依頼すると、費用はどのくらいかかりますか?
弁護士費用は、事案の難易度や相続財産の額によって変動しますが、一般的には「着手金」と「報酬金」の体系をとっている事務所が多いです。
- 着手金
弁護士が業務を開始する際に発生する費用です。結果にかかわらず返還されないのが原則で、相続財産の額に応じて数十万円程度からとなるのが一般的です。 - 報酬金
事件が解決した際に、得られた経済的利益(相続できた財産の額など)に応じて発生する成功報酬です。経済的利益の〇〇%といった形で算出されます。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、ご相談の際に事案の内容を詳しくお伺いした上で、明確な費用のお見積もりをご提示しております。初回相談は無料ですので、まずは費用についてもお気軽にお尋ねください。
Q2. 今は特に揉めていないのですが、それでも弁護士に相談する意味はありますか?
はい、大いに意味があります。むしろ、揉めていない段階でご相談いただくことこそが、円満な相続を実現する鍵となります。相続人間の関係が良好であっても、いざ遺産の分け方を具体的に話し始めると、些細な認識の違いから感情的な対立に発展することは少なくありません。
弁護士が早期に関与することで、法的に公平な分割案を提示したり、手続きの全体像を説明して皆様の足並みを揃えたりと、トラブルの火種を未然に摘み取ることができます。また、法的に有効な遺産分割協議書を作成することで、将来の紛争リスクをなくすことができます。これを「予防法務」といい、弁護士の重要な役割の一つです。
Q3. 弁護士、司法書士、税理士、行政書士、誰に相談すればいいのか分かりません。
それぞれの専門家には、法律で定められた業務範囲があります。以下の基準で判断するとよいでしょう。
- 弁護士
相続に関するあらゆる相談が可能。特に、相続人間の交渉代理や調停・審判といった紛争解決は弁護士にしかできません。誰に相談すべきか迷ったら、まずは全体をカバーできる弁護士に相談するのが最も確実です。 - 司法書士
不動産の相続登記の専門家です。登記手続きを主にお願いしたい場合に適しています。 - 税理士
相続税の申告が必要な場合の専門家です。財産評価や節税に関する相談に適しています。 - 行政書士
遺産分割協議書や自動車の名義変更など、書類作成が主な業務です。交渉の代理はできません。
相続トラブルが発生している、またはその可能性がある場合は、弁護士以外の専門家は対応できませんので、ご注意ください。
解説:専門家への依頼を判断するための具体的な基準
相続手続きを自分で行うか、専門家に依頼するか。その分かれ道はどこにあるのでしょうか。まずは「自分で進められる可能性が高いケース」の条件を見てみましょう。
ご自身で手続きを進められる可能性が高いケース
以下のすべての条件を満たしている場合は、ご自身で手続きを進めることを検討してもよいかもしれません。
- 相続財産が預貯金と少額の有価証券のみなど、種類が少なく評価も容易である。
- 相続人の数が少なく(配偶者と子1〜2人など)、全員の連絡先が分かり関係も極めて良好。
- 故人に借金や保証債務がないことが完全に明らかである。
- 相続人全員が手続きに協力的で、戸籍収集や銀行手続きなどのために平日に時間を割くことができる。
しかし、上記の条件を一つでも満たさない、あるいは少しでも不安な点がある場合は、専門家への依頼を検討することをお勧めします。
【チェックリスト】専門家への依頼を強く推奨する12の判断基準
ご自身の状況が以下の項目に一つでも当てはまる場合は、専門家に相談することを強く推奨します。トラブルが深刻化する前に、早期に正しい対応をとることが重要です。
《人間関係に関するチェック項目》
- 相続人の間で意見が対立している、または関係が疎遠・不仲である
→ 感情的な対立が激化し、当事者同士での冷静な話し合いが困難です。弁護士が間に入ることで、法的な論点に絞った交渉が可能になります。 - 相続人の中に行方不明者や連絡が取れない人がいる
→ 遺産分割協議は相続人全員の参加が必須です。不在者財産管理人の選任申立てなど、法的な手続きが必要になるため、専門家の知識が不可欠です。 - 前妻(夫)の子や、認知された子など、面識のない相続人がいる
→ 面識のない当事者間で直接やり取りをすると、不信感からトラブルになりやすい傾向があります。弁護士が第三者として連絡調整を行うことで、スムーズな進行が期待できます。
《財産に関するチェック項目》
- 遺産に不動産(土地・建物)が含まれている
→ 不動産の評価(路線価、固定資産税評価額など)や、分け方(現物分割、代償分割、換価分割)は専門的な知識を要します。相続登記も必要となるため、司法書士または弁護士への依頼が必須に近いです。 - 株式、投資信託、非上場株式などの財産がある
→ これらの財産は日々価値が変動したり、評価方法が複雑だったりします。特に非上場株式の評価は専門性が高く、税理士や弁護士の協力が必要です。 - 故人が会社を経営していた
→ 自社株の評価や事業承継の問題が絡み、個人の相続問題に留まらなくなります。会社の経営にも影響を及ぼすため、極めて専門的な対応が求められます。 - 故人に借金がある可能性が高い、または財産の全容が不明である
→ 3ヶ月以内の相続放棄の判断が必要です。財産調査を迅速かつ正確に行い、法的な選択肢を検討するために、弁護士への相談が急務です。
《手続き・その他に関するチェック項目》
- 遺言書の内容に納得できない相続人がいる(例:「全財産を長男に」など)
→ 遺留分侵害額請求という法的な権利を主張できる可能性があります。これには1年の時効があり、専門的な計算も必要となるため、弁護士への相談が有効です。 - 特定の相続人が財産を使い込んでいる疑いがある(使途不明金)
→ 過去の取引履歴を取り寄せ、不当な出金がないかを調査する必要があります。法的には不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求を検討することになり、専門家でなければ対応は困難です。 - 親の介護などで特別な貢献をしたと主張する相続人がいる(寄与分)
→ 寄与分が法的に認められるかは厳格な要件があり、その金額を算定するのも容易ではありません。感情論ではなく、法的な根拠に基づいた主張・交渉が必要です。 - 故人から多額の生前贈与を受けていた相続人がいる(特別受益)
→ 特定の相続人が受けた生前贈与を相続財産に持ち戻して計算することで、相続人間の公平を図る制度です。特別受益にあたるかどうかの判断や計算は、法的な専門知識を要します。 - 相続人自身が多忙で、手続きを行う時間的・精神的な余裕がない
→ 相続手続きは非常に煩雑で、精神的な負担も大きいものです。専門家に任せることで、ご自身の時間と心の平穏を確保できるという点は、大きなメリットです。
相続手続きを弁護士に依頼するメリット
上記のチェックリストに当てはまるような複雑な事案を弁護士に依頼すると、以下のようなメリットがあります。
- 煩雑な手続きを一任できる
戸籍収集、財産調査、遺産分割協議書の作成など、時間と手間のかかる作業をすべて任せることができます。 - 交渉の代理による精神的負担の軽減
他の相続人との直接のやり取りを弁護士が代行します。感情的な対立から距離を置くことができ、精神的なストレスが大幅に軽減されます。 - 法的根拠に基づく対等な交渉
相手が無理な主張をしてきても、弁護士が法律に基づいた的確な反論を行い、依頼者の正当な権利を守ります。 - 紛争の拡大・長期化の防止
専門家が客観的な視点で介入し、法的な落としどころを示すことで、争いが泥沼化するのを防ぎ、早期解決を目指せます。 - ワンストップでの対応
相続登記が必要な場合は司法書士、相続税申告が必要な場合は税理士と連携し、一つの窓口であらゆる手続きを完結させることが可能です。
まとめ
相続手続きを「自分でできるか、専門家に依頼すべきか」の判断は、単に費用だけの問題ではありません。相続財産の種類や額、相続人間の関係性、そしてご自身が手続きに割ける時間的・精神的なコストを総合的に考慮して決めるべきです.
本記事のチェックリストで一つでも当てはまる項目があった方は、それはトラブルの「芽」が潜んでいるサインかもしれません。
「まだ揉めていないから大丈夫」と考えるのではなく、「揉める前に専門家に相談して、トラブルの芽を摘んでおく」という発想が、円満かつ円滑な相続を実現するための賢明な選択です。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、相続に関するご相談を幅広くお受けしております。ご自身のケースが専門家に依頼すべきかどうかの判断も含め、まずはお気軽に無料相談をご利用ください。経験豊富な弁護士が、皆様の状況に最適な道筋をご提案いたします。
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