相談前の状況
本事例のご相談者は、長年連れ添った配偶者を病気で亡くされた方(以下、「Aさん」といいます)でした。Aさんご夫妻にはお子様がいらっしゃらなかったため、配偶者の相続人はAさんご自身に加えて、配偶者のご両親(母・父)が法定相続人となる可能性がありました。ところが、配偶者の父親(以下、「Xさん」といいます)は数十年前に配偶者の母親と離婚しており、それ以降、音信不通の状態が続いていました。配偶者にとっては実父ですが、長らく交流がなかったため、連絡先がわからないうえ、そもそもXさんがどこで暮らしているのか、生存しているのかも確信が持てない状況でした。
Aさんとしては、悲しみの中で配偶者を失ったばかりという精神的な辛さに加え、相続手続きの進め方がわからないという不安を抱えていました。配偶者の母親(以下、「Yさん」といいます)はAさんと面識があり、関係も良好なため「配偶者の財産はAさんが相続すればいい」と了解してくださっていましたが、それだけでは手続きが完結しません。法定相続人となり得るXさんの存在は無視できず、相続手続きにはXさんの同意や署名捺印が必要になります。
とはいえ、数十年も連絡を取っていないXさんにどうアプローチすればよいのか、Aさんとしては見当もつきません。仮に連絡が取れたとしても、Xさんが財産を取得したいという意思を表明してくれば、遺産分割協議がもつれる可能性がありました。さらには、相続財産の内容によっては面倒な手続きが伴うことも考えられるため、Aさんだけで問題を抱え込むには荷が重い状況でした。
実務的には、戸籍を取り寄せて相続人を確認し、さらに住民票や戸籍の附票などをたどって住所を探すことも考えられますが、それらの作業をAさん一人で進めるのは非常に困難です。また、見ず知らずの相手ではなくとも、長らく会っていない相手に対して、突然に法的な話を持ち掛けることに抵抗感を覚える方は少なくありません。
こうした中でAさんは、当事務所にご相談にいらっしゃいました。最終的には「代理人として、Xさんとの連絡や交渉を代わりに行ってもらえないか」というご要望をいただくことになったのです。
相談後の対応
当事務所では、まずAさんから詳しいお話を伺い、配偶者の戸籍関係書類を取り寄せて法定相続人が誰であるかを正式に確認しました。すでにAさんから聞き取りをしていたとおり、相続人はAさん(夫)とYさん(配偶者の母)、そしてXさん(配偶者の父)の3名であることが判明しました。
Yさんは、娘の遺産はAさんに継承してもらいたいというお気持ちを固めており、実際に「自分に相続分があったとしても、それはAさんにお譲りしたい」という意向を確認できました。書面上の手続きとしては、遺産分割協議書を作成し、Yさんの署名捺印をいただけば問題ありません。しかし、その協議書にはXさんの同意と署名捺印も必要となります。
そこで私たちは、まずXさんの所在を特定するため、戸籍の附票などの公的書類を取得し、情報を洗い出す作業に着手しました。Xさんが長期間にわたって転居を繰り返していなければ、ある程度の住所の履歴がわかる可能性があるためです。調査の結果、Xさんの住所が判明しました。
次のステップは、Xさんに直接アプローチをすることでした。しかし、ただ手紙を送るだけでは「怪しい」「詐欺かもしれない」と敬遠されるリスクがあります。とくに長らく会っていない子の配偶者の代理人を名乗る弁護士が突然連絡をとってくるとなると、Xさんも警戒心を抱きやすい状況です。そこで私たちは、まず挨拶状として弁護士名義で丁寧に手紙を送付し、要件を簡潔にお伝えすることで、可能なら直接お話しする機会を設けたい旨をお伝えしました。
幸いにもXさんにもご理解いただき、Aさんが遺産を取得することにご了承いただきました。
当事務所では、Yさんの意向やAさんの希望を踏まえ、Xさんにも納得いただけるように、遺産分割協議書を作成しました。最終的には、Xさんが「全財産をAさんが取得することに同意する」という形で署名捺印していただけることになり、相続人全員の合意がまとまりました。財産自体は、主に配偶者の名義であった預貯金と動産でしたが、それらについてもXさんを含めた法定相続人全員の署名捺印が入った書類をそろえることで、名義変更や払い戻しの手続きがスムーズに進みました。
通常であれば、長年疎遠であった父親が突如として登場し、「やはり自分も財産を一部取得したい」という主張をするケースも少なくありません。その場合は相続分についての折衝が必要になり、紛争が長引くことがあります。しかし、本事例では、Xさんがそもそも財産の取得を望まず、Aさんと円満に協議できたため、短期間で話がまとまりました。必要最低限のやり取りで書類の作成・回収・提出が完了し、相続手続きは早期に終了となりました。
このように、親族とはいえ長い間まったく連絡を取っていない相手と交渉しなければならない場面においては、専門家が代理人として間に入ることでスムーズな進行が期待できます。本事例でも、もしAさんが独力でXさんを探し出し、直接交渉していた場合、感情的な摩擦が起きたり、必要書類のやり取りに不備が生じたりして、手続きが長引く可能性が高かったと考えられます。今回、当事務所で代理人として丁寧にアプローチを行った結果、比較的早期の解決を実現することができました。
担当弁護士からのコメント
本事例では、相続人であるXさんが「自分には相続する意思がない」という姿勢を示してくださったため、交渉そのものは比較的円滑に進みました。
しかし、もしXさんが財産を受け取りたいと考えていた場合や、連絡自体に難航した場合、解決にはもっと時間と労力がかかった可能性があります。相続問題では、法定相続人が誰なのかを確定させ、全員の合意を得なければならないのが大原則です。たとえ長らく疎遠であっても、離婚して親子関係が希薄になっていても、法律上は相続人としての地位は保持されます。
したがって、「どうせ連絡も取れないし、無視して手続きを進めてしまいたい」という安易な行動はおすすめできません。後になって相続人の存在が判明し、遺産分割協議をやり直さなければならない事態や、追加でトラブルが発生してしまうケースが少なくないからです。現実問題としては、「自分の子ども時代に別れた親の居場所がわからない」「まったく音信不通である」という場面は珍しくありません。そのような場合でも、戸籍をたどることで相続人を確認し、きちんとした手続きに進むことが重要になります。
この点、弁護士が代理人として動くことで、依頼者のご負担は大きく軽減されます。とくに「相続人がどこに住んでいるかわからない」「連絡しても相手が話を聞いてくれるか不安」という場合は、代理人が冷静かつ専門的な立場から事情を説明し、相手の疑問や不安にも丁寧に対応できます。結果的に、直接当事者同士で向き合うよりも、スムーズに話がまとまるケースが少なくありません。
また、本事例のように「相手方が相続財産を望んでいない」「財産の行方には特に興味がない」という場合でも、書面手続きは必須です。相続放棄という制度が使われることもありますし、相続分を譲渡する形をとる場合もあります。手間を惜しんで非公式な話し合いで済ませてしまうと、後から「実は取り決めた内容が法的に無効だった」となるリスクがあるので注意が必要です。
当事務所では、状況に応じて水平思考による多角的なアプローチを心がけています。たとえば、本件では最初の連絡方法を工夫し、突然に「相続放棄をしてほしい」と伝えるのではなく、「まずはお話をうかがい、事実関係を整理したい」という姿勢を示すことで、相手方の不安や疑念を和らげることを重視しました。
水平思考というのは、問題解決の選択肢を広げ、当事者が抱える心理的な負担や葛藤にも目を向ける手法です。
相続問題においては、法律的な視点だけでなく、親族間の感情的なわだかまりや、長年の関係のあり方といった背景事情にも配慮する必要があります。単に「書類上、あなたは相続放棄してください」で終わるのではなく、「なぜそうなるか」「どういう思いがあるのか」を共有することで、合意形成までのハードルが大きく下がることがあります。
本事例のように、疎遠だった相手とやり取りをしなければならない相続問題は、決して特別なケースとはいえません。多くの方が似たような悩みを抱え、そのまま手続きを先延ばしにしていることもあります。しかし、問題を放置すればするほど、相続対象となる財産が複雑化し、さらなるトラブルを呼び寄せることにもつながりかねません。できるだけ早い段階で専門家に相談し、適切な手続きを踏むことが、大切な財産と権利を守るうえで重要だといえます。
当事務所では、戸籍調査や相続人調査、疎遠になった親族との交渉、遺産分割協議書作成のサポートなど、相続に関するさまざまなお悩みに対応しております。「誰に相談すればいいのかわからない」「法律の手続きが難しい」という方も、まずはご相談ください。本事例のように、ご依頼いただければ代理人として交渉を行い、相手方への連絡手段の検討から書類作成まで一貫してサポートいたします。依頼者の方が抱える精神的負担を大きく軽減し、できるだけ早期の問題解決を目指してまいります。
今回のケースは、離婚した実父が協力的だったことで円満に解決できましたが、必ずしもすべての案件が同じように進むわけではありません。
とはいえ、法律と事実関係をしっかりと整理し、当事者全員の意向を丁寧にすり合わせることで、思わぬ早期解決に至る場合もあるのです。相続問題にお悩みの際は、ぜひ専門家へのご相談をご検討いただければと思います。
以上が、本事例の概要と当事務所で行ったサポートの流れです。相続人との連絡が滞っている状況でも、手順を踏んで対処すれば解決への道は十分に開けます。「音信不通の相続人がいて困っている」「遠方に住んでいる親族との交渉に不安がある」という方は、お気軽にご相談ください。私たちは依頼者の皆さまのお気持ちに寄り添い、最善の解決策をともに考え、実行してまいります。
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