生前贈与を利用する際の注意点|贈与契約書・名義預金・定期贈与・持ち戻しルールを弁護士が解説

はじめに

「相続税の負担を少しでも軽くしたい」「子や孫に早めに財産を渡しておきたい」といった理由から、生前贈与を検討される方は少なくありません。生前贈与は、相続税対策として有効な手段の一つですが、正しい方法で行わなければ、税務上のリスクを招いたり、思わぬ課税を受けるおそれがあります。

本稿では、生前贈与を利用する際に特に注意すべきポイントとして、贈与契約書の作成の重要性、名義預金のリスク、定期贈与とみなされるリスク、相続開始前7年以内の贈与の持ち戻しルール(2024年改正)、不動産贈与にかかる登録免許税・不動産取得税、そして贈与税の申告義務について、法的観点から詳しく解説します。

Q&A

Q1. 生前贈与をする際、贈与契約書は必ず作成しなければなりませんか?

A. 法律上、贈与契約は口頭でも成立します(民法549条)。しかし、口頭のみの贈与は書面によらない贈与として各当事者が解除できるうえ(民法550条)、税務調査において贈与の事実を立証することが困難になります。贈与の成立日、贈与者・受贈者、贈与財産の内容、引渡方法などを明記した贈与契約書を作成し、双方が署名・押印しておくことが極めて重要です。

Q2. 毎年110万円ずつ贈与すれば、贈与税はかかりませんか?

A. 暦年課税制度では、受贈者1人あたり年間110万円の基礎控除があるため、年間110万円以下の贈与であれば贈与税は課されません(相続税法21条の5)。ただし、毎年同額を同じ時期に贈与し続けると、税務署から「定期贈与」(定期金に関する権利の贈与)とみなされ、贈与開始時に一括で贈与税が課される可能性があります。また、2024年1月1日以降の贈与については、相続開始前7年以内の贈与が相続財産に加算される点にも注意が必要です。

Q3. 名義預金とはどのようなもので、なぜ問題になるのですか?

A. 名義預金とは、口座名義は子や孫であっても、実質的な管理・支配を被相続人(贈与者)が行っている預貯金のことをいいます。名義預金は、税務署の相続税調査において重点的に確認される項目の一つであり、贈与が成立していないと判断された場合には、当該預貯金は被相続人の相続財産として相続税の課税対象となります。

解説

1. 贈与契約書の作成の重要性

贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることで成立する契約です(民法549条)。法律上は口頭でも成立しますが、書面によらない贈与は各当事者が解除することができます(民法550条本文)。そのため、贈与の確実性を担保するためには、贈与契約書を作成することが不可欠です。

贈与契約書には、以下の事項を明記することが推奨されます。

  • 贈与契約の成立日
  • 贈与者および受贈者の氏名・住所
  • 贈与財産の特定(金額、不動産の場合は所在・地番など)
  • 財産の引渡方法および時期
  • 双方の署名・押印(可能であれば実印を使用し、印鑑証明書を添付)

特に相続税対策として毎年贈与を行う場合には、贈与の都度、新たな贈与契約書を作成することが重要です。年ごとに贈与金額や時期を変えることで、後述する定期贈与とみなされるリスクを軽減することもできます。また、公正証書で作成しておけば、贈与の成立について より強い証明力を確保することが可能です。

2. 名義預金のリスク(税務署の否認リスク)

名義預金とは、預貯金口座の名義は子や孫であるにもかかわらず、実質的な資金の出捐者は被相続人であり、口座の管理・運用も被相続人が行っていたとみられる預貯金をいいます。税務署は相続税の税務調査において、名義預金の有無を重点的に調査しており、贈与が実質的に成立していないと判断された場合には、当該預貯金は被相続人の相続財産に含まれ、相続税が課税されます。

名義預金と認定されないためには、以下のポイントに留意する必要があります。

  • 受贈者自身が口座を管理すること:通帳・印鑑・キャッシュカードは受贈者本人が保管し、受贈者自身が自由に使用・引出しできる状態にしておく必要があります。
  • 贈与者の口座から受贈者の口座へ振込みで送金すること:現金の手渡しではなく、銀行振込みにより資金の移動を記録に残すことが重要です。
  • 贈与契約書を作成すること:前述のとおり、贈与の事実を客観的に証明するために、贈与の都度、贈与契約書を作成しておくことが重要です。
  • 受贈者が贈与の事実を認識していること:特に未成年者への贈与の場合、親権者が法定代理人として受諾することになりますが、受贈者が成人した後は本人が口座を管理している実態が必要です。

3. 定期贈与とみなされるリスク

暦年課税における基礎控除(年間110万円)を活用して毎年贈与を行う方法は、長期的な相続税対策として広く用いられています。しかし、毎年同じ金額を同じ時期に同じ相手に贈与し続けると、税務署から「定期贈与」とみなされる可能性があります。

定期贈与とは、一定期間にわたって定期的に給付を行うことを内容とする贈与契約(定期金に関する権利の贈与)であり、この場合、個々の年の贈与ではなく、贈与契約が成立した時点での定期金に関する権利の評価額に対して、一括で贈与税が課税されます(相続税法24条)。

定期贈与とみなされるリスクを回避するためには、以下の対策が有効です。

  • 毎年の贈与金額を変動させる(例:100万円、80万円、120万円など)
  • 贈与の時期を毎年変える
  • 贈与の都度、個別の贈与契約書を作成する
  • あえて110万円をわずかに超える金額を贈与し、贈与税の申告・納付を行うことで、個別の贈与であることを明確にする

4. 相続開始前7年以内の贈与の持ち戻し(2024年改正)

令和5年度税制改正(2023年改正)により、2024年1月1日以降に行われた暦年課税による贈与については、相続開始前7年以内に被相続人から相続人に対して行われた贈与が相続財産に加算される(持ち戻される)こととなりました(相続税法19条)。従来は相続開始前3年以内の贈与が加算対象でしたが、この期間が段階的に7年に延長されています。

具体的な経過措置として、2024年1月1日から2026年12月31日までの間に開始した相続については、従来どおり相続開始前3年以内の贈与が加算対象となります。2027年1月1日以降に開始する相続から段階的に加算期間が延長され、2031年1月1日以降に開始する相続について、完全に7年間の加算が適用されます。

なお、延長された4年間(相続開始前4年目から7年目まで)に行われた贈与については、当該期間の贈与額の合計額から100万円を控除した残額が加算対象となるという緩和措置が設けられています。この改正により、相続税対策としての生前贈与は、より早期から計画的に開始することの重要性が高まっています。

5. 不動産贈与の場合の登録免許税・不動産取得税

生前贈与により不動産を移転する場合には、贈与税のほかに、登録免許税と不動産取得税が課されます。これらの税負担は、相続により不動産を取得する場合と比較して高額になる点に注意が必要です。

(1)登録免許税

不動産の所有権移転登記に際して課される登録免許税は、贈与による場合は固定資産税評価額の2.0%です(登録免許税法別表第一)。これに対し、相続による場合は固定資産税評価額の0.4%であるため、贈与の場合の登録免許税は相続の場合の5倍の税率となります。例えば、固定資産税評価額が2,000万円の不動産を贈与により移転する場合、登録免許税は40万円となりますが、相続であれば8万円で済みます。

(2)不動産取得税

贈与により不動産を取得した場合には、不動産取得税が課されます(地方税法73条の2)。税率は、土地および住宅用建物については固定資産税評価額の3%(2027年3月31日まで)、住宅用以外の建物については4%です。土地については、固定資産税評価額の2分の1を課税標準とする特例措置があります。一方、相続による不動産取得については、不動産取得税は非課税です(地方税法73条の7第1号)。

このように、不動産の生前贈与には相続と比較して高いコストがかかるため、贈与税の特例制度(住宅取得等資金の贈与税の非課税特例、相続時精算課税制度など)の活用を検討するとともに、相続による取得との比較検討を十分に行うことが重要です。

6. 贈与税の申告義務

暦年課税制度において、その年の1月1日から12月31日までの間に受けた贈与の合計額が基礎控除額(110万円)を超える場合、受贈者は翌年の2月1日から3月15日までの間に贈与税の申告・納付を行う義務があります(相続税法28条)。

申告義務があるにもかかわらず申告を怠った場合には、本来の贈与税に加えて、無申告加算税(原則として納付すべき税額の15%〜20%)や延滞税が課される可能性があります(国税通則法66条、60条)。さらに、仮装・隠蔽があった場合には重加算税(35%〜40%)が課されるおそれもあります(国税通則法68条)。

また、相続時精算課税制度を選択した場合には、贈与額が基礎控除(年間110万円、2024年改正後)以下であっても、相続時精算課税選択届出書を最初に提出する必要があり、一度選択すると暦年課税に戻ることはできない点にも注意が必要です(相続税法21条の9)。贈与税の申告は受贈者の義務であるため、贈与を受けた側が責任を持って行う必要があります。

7. 生前贈与と相続の比較における実務上のポイント

生前贈与を行うかどうかの判断にあたっては、相続による財産承継との比較を総合的に行う必要があります。以下のポイントを踏まえた検討が重要です。

  • 税負担の総合比較:贈与税と相続税の税率構造は異なり、一般的に贈与税の方が税率は高く設定されています。しかし、長期間にわたる計画的な少額贈与を行うことで、相続財産の総額を減少させ、結果として相続税の課税を軽減できる場合があります。
  • 特例制度の活用:住宅取得等資金の贈与税の非課税特例(措置法70条の2)、教育資金の一括贈与の非課税特例(措置法70条の2の2)、結婚・子育て資金の一括贈与の非課税特例(措置法70条の2の3)など、各種非課税特例の適用要件を確認し、活用の可否を検討することが重要です。
  • 贈与のタイミング:7年間の持ち戻しルールを踏まえ、できるだけ早い時期から計画的に贈与を開始することが有効です。被相続人の年齢や健康状態も考慮に入れる必要があります。
  • 遺留分との関係:生前贈与は、相続人に対する贈与については原則として相続開始前10年以内のものが遺留分の算定基礎に含まれます(民法1044条3項)。遺留分を侵害するような大規模な生前贈与は、将来の遺留分侵害額請求の原因となる可能性があるため、慎重な検討が必要です。

弁護士に相談するメリット

生前贈与は、正しく実行すれば効果的な相続税対策となりますが、法律・税務の両面で複雑な検討が必要です。弁護士に相談することには以下のようなメリットがあります。

  • 贈与契約書の作成支援:法的に有効な贈与契約書を、税務調査にも耐えうる内容で作成するサポートを行います。個別の事情に応じた条項の検討も可能です。
  • 名義預金リスクの回避策の提案:名義預金と認定されないための具体的な管理方法について、ご家族の状況に応じたアドバイスを行います。
  • 相続税対策の総合的な設計:生前贈与のみならず、遺言書の作成、信託の活用、生命保険の活用など、多角的な相続税対策を総合的に設計・提案します。
  • 税理士との連携によるワンストップ対応:贈与税・相続税の申告や税額シミュレーションについて、税理士と連携したワンストップでのサポートが可能です。
  • 遺留分トラブルの予防:生前贈与が将来の遺留分侵害額請求の原因とならないよう、贈与額や対象者の選定について法的なアドバイスを行います。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、茨城県内4拠点(牛久本部・日立支所・水戸支所・守谷支所)及び東京支所で相続に関するご相談を承っております。生前贈与による相続税対策をご検討の方は、初回のご相談から解決まで一貫したサポートが可能ですので、お気軽にご相談ください。

まとめ

本稿では、生前贈与を利用する際の注意点について解説しました。要点を整理すると以下のとおりです。

  • 贈与契約書は贈与の都度作成し、贈与者・受贈者の署名押印を得ることで、贈与の成立を客観的に証明できる
  • 名義預金は税務署の相続税調査で否認されるリスクが高く、受贈者自身による口座管理と振込みによる送金記録が重要である
  • 毎年同額・同時期の贈与は定期贈与とみなされるリスクがあり、金額や時期の変動、個別の契約書作成が有効な対策となる
  • 2024年改正により、相続開始前7年以内の贈与が持ち戻しの対象となり、早期からの計画的な贈与の重要性が増している
  • 不動産の生前贈与は、相続と比較して登録免許税(5倍)や不動産取得税の負担が大きいため、費用対効果を慎重に検討する必要がある
  • 贈与税の申告は受贈者の義務であり、申告漏れには無申告加算税・延滞税・重加算税のリスクがある

生前贈与は、計画的かつ適切に実行すれば、相続税の負担軽減に大きな効果を発揮しますが、贈与契約書の不備、名義預金の認定、定期贈与とのみなし課税、持ち戻しルールの適用など、さまざまなリスクが存在します。「生前贈与を始めたいがどのように進めればよいかわからない」「贈与契約書の作成を依頼したい」「名義預金について不安がある」など、生前贈与に関するお悩みがございましたら、弁護士法人長瀬総合法律事務所までお気軽にご相談ください。

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