生前贈与の失敗例とその回避方法|定期贈与・名義預金・税務リスクを弁護士が解説

はじめに

「子や孫に財産を少しずつ渡しておきたい」「相続税の負担を軽くするために生前贈与を活用したい」というご相談は、相続対策の場面で非常に多く寄せられます。生前贈与は、適切に行えば相続税の節税効果が期待できる有力な手法ですが、やり方を誤ると、税務署から贈与と認められなかったり、想定外の税負担が生じたりするリスクがあります。

本稿では、生前贈与でよくある5つの失敗例を取り上げ、それぞれの失敗がなぜ起きるのか、どのような税務上のリスクがあるのか、そしてどうすれば回避できるのかを詳しく解説します。No.98では生前贈与をめぐるトラブル事例を取り上げましたが、本稿では特に税務面・手続き面での失敗に焦点を当て、実務的な回避方法を具体的にお伝えします。

Q&A

Q1. 毎年110万円ずつ贈与すれば必ず非課税になりますか?

A. 必ずしもそうとは限りません。毎年同じ時期に同じ金額を同じ相手に贈与し続けると、税務署から「定期贈与(定期金に関する権利の贈与)」と認定されるリスクがあります。定期贈与と認定された場合、贈与を開始した年に贈与総額に対して贈与税が課される可能性があります。これを回避するためには、贈与の時期・金額・方法に変化を持たせ、毎回独立した贈与であることを明確にすることが重要です。

Q2. 子ども名義の口座に入金しておけば贈与は成立しますか?

A. 口座の名義が子どもであっても、通帳や印鑑を親が管理し、子どもが自由に引き出せない状態であれば、税務上は贈与が成立しているとは認められません。このような預金は「名義預金」と判断され、相続発生時に被相続人の相続財産に含まれることになります。贈与を有効に成立させるためには、受贈者が口座を実質的に管理・支配していることが不可欠です。

Q3. 相続時精算課税制度を一度選択したら、やり直しはできますか?

A. できません。相続時精算課税制度は、一度選択すると、その贈与者からの贈与については暦年課税に戻すことができません(相続税法21条の9第6項)。選択後は、同じ贈与者からの贈与はすべて相続時精算課税の対象となり、相続発生時に贈与財産が相続財産に加算されて相続税が計算されます。選択にあたっては、将来の相続税負担を含めた慎重なシミュレーションが必要です。

解説

1. 生前贈与の基本的な仕組みと注意点

生前贈与とは、個人が生存中に他の個人に対して無償で財産を移転する行為をいいます。贈与税は、暦年(1月1日から12月31日まで)ごとに、受贈者が受けた贈与の合計額に対して課税されます。贈与税には年間110万円の基礎控除があり、1年間に受けた贈与の合計額が110万円以下であれば、贈与税は課されず、申告も不要です(相続税法21条の5)。

この基礎控除を活用して計画的に財産を移転することで、将来の相続財産を減少させ、相続税の節税を図ることが可能です。しかし、贈与の方法や手続きに不備があると、税務署から贈与の成立自体を否認されたり、予想外の税負担が発生したりすることがあります。以下では、実務で特に多い5つの失敗例とその回避方法を解説します。

2. 失敗例1:毎年同額を同日に贈与し「定期贈与」と認定される

暦年贈与の非課税枠を利用して、毎年1月1日に110万円を子の口座に振り込み続けるケースは少なくありません。しかし、このように毎年同じ日に同じ金額を同じ相手に贈与し続けると、税務署から「定期贈与」(定期金に関する権利の贈与)と認定されるリスクがあります。

定期贈与とは、最初から一定期間にわたって一定額を贈与する約束(たとえば「10年間にわたり毎年110万円を贈与する」という合意)があったとみなされるものです。この場合、贈与を開始した年に、贈与総額(例:110万円×10年=1,100万円)に対する贈与税が一括で課されることになります。

【回避方法】

  • 贈与の時期を毎年変える(1月のこともあれば、6月や10月にするなど)
  • 贈与金額を毎年変える(ある年は100万円、別の年は80万円など)
  • 毎年、その都度「贈与契約書」を作成し、各回の贈与が独立した意思決定であることを書面で明確にする
  • あえて110万円をわずかに超える金額(例:111万円)を贈与し、少額の贈与税を申告・納付することで、贈与の事実を税務記録に残す方法も有効とされる

3. 失敗例2:口座名義を子にしたが実質管理は親のまま(名義預金)

子や孫の名義で銀行口座を開設し、毎年一定額を入金しておくという方法は、生前贈与の手法としてよく行われます。しかし、口座の名義が子や孫であっても、通帳・届出印・キャッシュカードを親(贈与者)が保管・管理し、受贈者である子や孫がその存在すら知らないという状態であれば、税務上は贈与が成立しているとは認められません。

このような預金は「名義預金」と呼ばれ、相続税の税務調査において最も頻繁に指摘される項目の一つです。名義預金と認定された場合、その預金は被相続人の相続財産に含まれ、相続税の課税対象となります。贈与税の時効(原則6年、悪質な場合は7年)を主張しても、そもそも贈与が成立していなければ時効の問題にはなりません。

【回避方法】

  • 受贈者本人が口座を開設し、通帳・届出印・キャッシュカードを受贈者自身が管理する
  • 贈与契約書を作成し、贈与者・受贈者双方が署名・押印する
  • 受贈者が贈与された資金を自由に引き出し・使用できる状態にしておく
  • 受贈者が未成年の場合は、親権者が法定代理人として贈与契約を締結し、受贈者の成人後は本人に管理を移転する

4. 失敗例3:不動産の生前贈与で登録免許税・不動産取得税を考慮しなかった

不動産を生前贈与する場合、贈与税だけでなく、登録免許税と不動産取得税という2つのコストが発生します。これらのコストを事前に把握していないと、「相続税の節税のために生前贈与をしたのに、結局トータルの負担が増えてしまった」という事態に陥ることがあります。

登録免許税は、不動産の所有権移転登記に際して課される国税です。贈与による移転の場合の税率は固定資産税評価額の2.0%であり、相続による移転の場合の0.4%と比べて5倍の負担となります。たとえば、固定資産税評価額が2,000万円の不動産であれば、贈与の場合は40万円、相続の場合は8万円です。

不動産取得税は、不動産を取得した者に対して課される地方税です。贈与による取得の場合、原則として固定資産税評価額の3%(土地)または4%(家屋、住宅以外)が課されます。一方、相続による取得の場合、不動産取得税は課されません。この差は非常に大きく、固定資産税評価額が2,000万円の土地であれば、贈与の場合は60万円の不動産取得税が発生しますが、相続では0円です。

【回避方法】

  • 不動産の生前贈与を検討する際は、贈与税だけでなく、登録免許税・不動産取得税を含めたトータルコストを必ず事前に試算する
  • 相続税の節税額と生前贈与に伴うコスト増を比較し、生前贈与が本当に有利かどうかを検証する
  • 不動産については、生前贈与ではなく遺言による相続で移転した方がコスト面で有利な場合も多いため、弁護士・税理士に相談のうえ最適な方法を選択する

5. 失敗例4:相続時精算課税制度を安易に選択し撤回できない

相続時精算課税制度(相続税法21条の9)は、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子または孫への贈与について、累計2,500万円まで贈与税を非課税とする制度です。ただし、この制度で贈与された財産は、贈与者の相続発生時に相続財産に加算されて相続税が計算されます。

最大の注意点は、相続時精算課税制度は一度選択すると撤回できないということです。選択届出書を提出した後は、その贈与者からの贈与については暦年課税(年間110万円の基礎控除)に戻すことはできません。このため、「2,500万円まで非課税」という点だけに着目して安易に選択してしまうと、その後の暦年贈与による節税機会を永久に失うことになります。

なお、令和6年1月1日以降の贈与については、相続時精算課税制度にも年間110万円の基礎控除が新設されました(令和5年度税制改正)。これにより、相続時精算課税を選択した場合でも、年間110万円以下の贈与については贈与税の申告が不要となり、相続財産への加算も不要となりました。ただし、制度選択自体が撤回不可であることに変わりはありません。

【回避方法】

  • 相続時精算課税制度の選択は、将来の相続税負担を含めた長期的なシミュレーションを行った上で判断する
  • 贈与者の推定相続財産の総額、相続人の数、各相続人の取得見込額を踏まえ、暦年課税との比較検討を必ず行う
  • 値上がりが見込まれる財産(収益不動産や成長企業の株式等)の贈与には有利に働く場合があるが、値下がりした場合は贈与時の価額で相続財産に加算されるため不利になる点を理解する

6. 失敗例5:贈与税の申告を怠り加算税・延滞税が発生

年間110万円を超える贈与を受けた場合、受贈者は翌年の2月1日から3月15日までに贈与税の申告を行い、納税しなければなりません(相続税法28条)。この申告を怠った場合、本来の贈与税に加えて、以下のペナルティが課されます。

  • 無申告加算税:期限後に自主的に申告した場合は納付税額の5%、税務調査の通知後に申告した場合は10%(50万円超の部分は15%)、税務調査後に申告した場合は15%(50万円超の部分は20%)が加算されます
  • 延滞税:法定納期限の翌日から納付日までの日数に応じて課される利息相当の税金です。令和6年分については、納期限の翌日から2か月以内は年2.4%、2か月を超えた部分は年8.7%の割合で課されます
  • 重加算税:贈与の事実を意図的に隠蔽・仮装した場合は、無申告加算税に代えて40%の重加算税が課される可能性があります

【回避方法】

  • 年間110万円を超える贈与を受けた場合は、翌年3月15日までに必ず贈与税の申告・納税を行う
  • 贈与契約書に基づき、いつ・誰から・いくらの贈与を受けたかを正確に記録しておく
  • 住宅取得等資金の贈与税非課税制度や教育資金一括贈与の非課税制度など、特例を適用する場合は、非課税であっても申告が必要な場合があるため注意する

7. 生前贈与の失敗を防ぐための総合的なポイント

以上の5つの失敗例を踏まえ、生前贈与を成功させるための総合的なポイントを整理します。

  • 贈与契約書の作成を徹底する:贈与のたびに贈与契約書を作成し、贈与者・受贈者双方の署名・押印、日付、贈与の対象財産・金額を明記します。公証役場で確定日付を取得すればさらに証拠力が高まります。
  • 銀行振込で証拠を残す:現金手渡しでは贈与の事実を証明しにくいため、贈与者の口座から受贈者の口座へ銀行振込で資金を移転し、客観的な記録を残すことが重要です。
  • 受贈者の認識と管理を確保する:受贈者が贈与の事実を認識し、贈与された財産を自ら管理・処分できる状態にしておくことが、名義預金認定を防ぐ最大のポイントです。
  • トータルコストの事前シミュレーション:贈与税、登録免許税、不動産取得税、将来の相続税を含めたトータルの税負担を事前にシミュレーションし、最も有利な方法を選択します。
  • 専門家への相談:生前贈与は法律・税務の両面から検討が必要であり、弁護士・税理士等の専門家に相談のうえ、計画的に実行することが失敗を防ぐ最善の方法です。

弁護士に相談するメリット

生前贈与は、方法を誤ると贈与の否認や予想外の税負担につながるリスクがあります。弁護士に相談することには以下のようなメリットがあります。

  • 贈与契約書の適切な作成:定期贈与認定や名義預金認定を防ぐために、法的に有効な贈与契約書を各回の贈与ごとに作成するサポートを行います。
  • 最適な贈与方法の選択:暦年課税と相続時精算課税のどちらが有利か、不動産は贈与と相続のどちらで移転すべきかなど、具体的な数字に基づいた比較検討を行います。
  • 税務リスクの事前チェック:生前贈与に潜む税務リスクを事前に洗い出し、税務調査で否認されないための対策を講じます。
  • 相続対策との一体的な設計:生前贈与を単独で考えるのではなく、遺言作成・遺産分割対策・納税資金対策と組み合わせた包括的な相続対策を設計します。
  • 税理士との連携によるワンストップ対応:法律面は弁護士が、税務面は税理士が対応する連携体制により、法律・税務の両面からの最適なアドバイスが可能です。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、茨城県内4拠点(牛久本部・日立支所・水戸支所・守谷支所)及び東京支所で相続に関するご相談を承っております。生前贈与の方法にお悩みの方や、過去の贈与が適切に行われているかご不安な方は、初回のご相談から解決まで一貫したサポートが可能ですので、お気軽にご相談ください。

まとめ

本稿では、生前贈与の税務面・手続き面での失敗例とその回避方法について解説しました。要点を整理すると以下のとおりです。

  • 毎年同額・同日の贈与は「定期贈与」と認定されるリスクがあるため、贈与の時期・金額に変化を持たせ、毎回贈与契約書を作成すべきである
  • 通帳・印鑑を贈与者が管理する口座は「名義預金」と認定され、相続財産に含まれるため、受贈者本人が口座を実質管理することが不可欠である
  • 不動産の生前贈与では、登録免許税(2.0%)と不動産取得税が発生し、相続による移転と比べてコストが大幅に増加する点を事前に試算すべきである
  • 相続時精算課税制度は一度選択すると撤回できないため、暦年課税との比較を含む長期的なシミュレーションに基づいて判断すべきである
  • 贈与税の申告を怠ると無申告加算税・延滞税が課されるため、110万円を超える贈与については期限内の申告・納税を徹底すべきである
  • 生前贈与は法律・税務の専門家に相談し、贈与契約書の作成やトータルコストのシミュレーションを行った上で計画的に実行することが重要である

生前贈与は、正しく行えば相続税の節税に大きな効果を発揮しますが、手続きや税務処理に不備があると、かえって不利益を被ることになります。「生前贈与を始めたいが正しいやり方がわからない」「過去の贈与が名義預金に該当しないか心配」「相続時精算課税と暦年課税のどちらを選ぶべきかわからない」など、生前贈与に関するお悩みがございましたら、弁護士法人長瀬総合法律事務所までお気軽にご相談ください。

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