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配偶者居住権(長期・短期)とは?設定要件、メリット・デメリット、税務上の評価

2026-07-12

はじめに

「夫が亡くなった後もこの自宅に住み続けたいが、他の相続人との遺産分割でどうなるのか不安」「自宅の評価額が高いため、自宅を相続すると預貯金がほとんど取得できなくなってしまう」といったご相談は、不動産相続の場面で非常に多く寄せられます。

このような問題に対応するため、2020年4月1日に施行された改正民法により、「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」という2つの新しい制度が創設されました。これらの制度を活用することで、残された配偶者が自宅に住み続けながら、他の財産も適切に取得できる可能性が広がりました。本稿では、配偶者居住権(長期)と配偶者短期居住権の設定要件、メリット・デメリット、税務上の評価方法、消滅事由、そして実務上の活用場面について、詳しく解説します。

Q&A

Q1. 配偶者居住権とはどのような権利ですか?

A. 配偶者居住権とは、被相続人の配偶者が、相続開始時に居住していた被相続人所有の建物について、終身または一定期間、無償で使用・収益できる権利です(民法1028条)。2020年4月1日以降に開始した相続について適用されます。所有権とは別の権利として設定されるため、自宅の所有権は他の相続人が取得しつつ、配偶者は住み続けることが可能になります。

Q2. 配偶者短期居住権とは何が違うのですか?

A. 配偶者短期居住権は、配偶者が相続開始時に被相続人の建物に無償で居住していた場合に、遺産分割が確定するまでの間(最低6か月間)、無償でその建物を使用できる権利です(民法1037条)。配偶者居住権(長期)と異なり、登記は不要であり、遺産分割や遺贈によらず法律上当然に発生する短期的な保護制度です。

Q3. 配偶者居住権を設定すると相続税の評価はどうなりますか?

A. 配偶者居住権の相続税評価は、相続税法23条の2に基づき、建物の時価から配偶者居住権付きの建物所有権の価額を控除して算定します。配偶者の年齢や存続期間に応じた法定利率による複利現価率等を用いて計算されるため、高齢であるほど居住権の評価額は低くなり、所有権の負担付き評価額も低くなるという特徴があります。

解説

1. 配偶者居住権(長期)の制度概要と設定要件

配偶者居住権は、民法1028条に規定された権利であり、2020年4月1日以降に開始した相続に適用されます。被相続人の配偶者が、相続開始時に被相続人が所有していた建物に居住していた場合に、以下のいずれかの方法により設定することができます。

  • 遺産分割による設定:遺産分割協議、遺産分割調停または遺産分割審判により、配偶者居住権を取得するものとされた場合(民法1028条1項1号)
  • 遺贈による設定:被相続人が遺言により配偶者に対して配偶者居住権を遺贈した場合(民法1028条1項2号)

なお、被相続人が相続開始時にその建物を配偶者以外の者と共有していた場合には、配偶者居住権を設定することはできません(民法1028条1項ただし書)。例えば、被相続人と第三者が建物を共有していたケースでは、この制度は利用できませんが、被相続人と配偶者の共有であった場合は設定が可能です。存続期間は、別段の定めがない限り配偶者の終身の間とされますが(民法1030条)、遺産分割協議や遺言で期間を定めることも可能です。

2. 配偶者短期居住権の制度概要

配偶者短期居住権は、民法1037条に規定された権利であり、配偶者居住権(長期)とは別に、配偶者を短期的に保護するための制度です。配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合、次のいずれか遅い日まで、無償でその建物を使用する権利が認められます。

  • 遺産分割により建物の帰属が確定した日
  • 相続開始の時から6か月を経過する日

配偶者短期居住権は、遺産分割や遺贈によらず法律上当然に発生するものであり、登記をすることもできません。また、配偶者居住権(長期)と異なり、「使用」のみが認められ、「収益」(第三者に賃貸するなど)は認められていません。被相続人が建物を第三者と共有していた場合にも、配偶者短期居住権は成立し得る点で、配偶者居住権(長期)とは異なります。

3. 配偶者居住権のメリット

配偶者居住権の最大のメリットは、配偶者が自宅に住み続けながら、他の遺産(預貯金等)も取得しやすくなる点にあります。

  • 居住の安定確保:配偶者は所有権を取得しなくても、終身にわたり自宅に住み続けることができます。高齢の配偶者にとって、長年住み慣れた自宅での生活を維持できることは、生活の質を大きく左右する重要な利点です。
  • 他の遺産の取得が容易に:配偶者居住権の評価額は建物所有権の評価額よりも低くなるため、配偶者の法定相続分の枠内でより多くの預貯金等を取得することが可能になります。例えば、自宅の評価額が3,000万円の場合、配偶者居住権の評価額が1,200万円であれば、差額の1,800万円分を預貯金の取得に充てることができます。
  • 二次相続における節税効果:配偶者居住権は、配偶者の死亡により消滅します(民法1036条、597条3項)。消滅した配偶者居住権は相続税の課税対象とならないため、二次相続(配偶者自身の相続)における相続財産が減少し、結果的に相続税の節税につながる可能性があります。

4. 配偶者居住権のデメリットと注意点

配偶者居住権には多くのメリットがある一方で、以下のようなデメリットや注意点も存在します。

  • 譲渡不可:配偶者居住権は譲渡することができません(民法1032条2項)。配偶者が将来的に老人ホームへの入所等により自宅を離れる場合でも、居住権を第三者に売却して資金化することはできません。この場合、建物所有者との合意により居住権を放棄し、対価を受領するという方法が実務上検討されますが、税務上の取扱いに注意が必要です。
  • 登記の必要性:配偶者居住権は、登記をしなければ第三者に対抗することができません(民法1031条2項)。建物所有者には配偶者居住権の登記に協力する義務がありますが(民法1031条1項)、登記を怠った場合、建物が第三者に売却されると、配偶者は居住権を主張できなくなるリスクがあります。
  • 建物の修繕・増改築の制限:配偶者は建物の通常の必要費を負担しますが(民法1034条1項)、建物所有者の許可なく増改築を行うことはできません(民法1032条3項)。大規模なリフォーム等を希望する場合には、建物所有者との協議が必要となります。
  • 建物の売却が困難に:配偶者居住権が設定された建物は、居住権の負担付きの状態となるため、建物所有者が第三者に売却することが事実上困難になります。所有者にとっては、配偶者居住権が消滅するまで自由な処分ができないという制約を受けることになります。

5. 税務上の評価方法

配偶者居住権の相続税評価は、相続税法23条の2に基づき計算されます。評価の基本的な考え方は、建物および敷地のそれぞれについて、配偶者居住権の価額と所有権の価額を算出するというものです。

(1)建物の配偶者居住権の評価

建物の配偶者居住権の価額は、「建物の相続税評価額」から「配偶者居住権が設定された建物所有権の価額」を控除して算定します。建物所有権の価額は、建物の相続税評価額に、残存耐用年数から存続年数を控除した年数に応じた複利現価率を乗じて計算します。残存耐用年数は、法定耐用年数に1.5を乗じた年数から築年数を控除して求めます。

(2)敷地利用権の評価

配偶者居住権に基づく敷地利用権の価額は、「土地の相続税評価額」から「敷地所有権の価額」を控除して算定します。敷地所有権の価額は、土地の相続税評価額に存続年数に応じた複利現価率を乗じて計算します。存続期間が終身の場合は、配偶者の平均余命年数が存続年数となり、法定利率(現行年3%)に基づく複利現価率を用います。

具体的な計算例として、建物の相続税評価額が1,000万円、土地の相続税評価額が3,000万円、配偶者(75歳女性)の平均余命が約16年の場合を考えます。存続年数16年に対応する法定利率3%の複利現価率は0.623です。建物の残存耐用年数が10年と仮定すると、残存耐用年数を超える部分の複利現価率は0となるため、建物所有権の価額は0円、配偶者居住権の評価額は1,000万円となります。敷地については、敷地所有権の価額が3,000万円×0.623=1,869万円、敷地利用権の評価額が3,000万円−1,869万円=1,131万円となります。

6. 配偶者居住権の消滅事由

配偶者居住権は、以下の事由により消滅します。

  • 存続期間の満了:遺産分割協議や遺言で定めた存続期間が経過した場合(民法1036条、597条1項)
  • 配偶者の死亡:配偶者居住権は一身専属権であり、配偶者の死亡により当然に消滅します(民法1036条、597条3項)。相続の対象とはなりません。
  • 建物の滅失:居住建物の全部が滅失した場合、配偶者居住権は消滅します(民法1036条、616条の2)。
  • 配偶者居住権の放棄:配偶者と建物所有者の合意により、配偶者居住権を放棄することが可能です。
  • 用法違反等による消滅請求:配偶者が用法遵守義務や善管注意義務に違反し、建物所有者が相当期間を定めて是正の催告をしたにもかかわらず是正されない場合、建物所有者は配偶者居住権の消滅を請求できます(民法1032条4項)。

7. 実務上の活用場面と留意事項

配偶者居住権は、以下のような場面で特に有効に活用できます。

  • 遺産の大部分が自宅不動産の場合:遺産のうち不動産の割合が高く、配偶者が自宅所有権を取得すると預貯金等をほとんど取得できないケースでは、配偶者居住権の設定が有効です。居住の安定と生活資金の確保を両立させることができます。
  • 前婚の子がいる場合:被相続人に前婚の子がいる場合、後婚の配偶者と前婚の子との間で遺産分割が難航するケースがあります。配偶者居住権を遺言で遺贈しておくことで、配偶者の居住を確保しつつ、建物の所有権を前婚の子に承継させることが可能です。
  • 二次相続の税負担軽減:配偶者居住権は配偶者の死亡により消滅し、相続税の課税対象とならないため、一次相続と二次相続を通じた相続税の総額を抑える効果が期待できます。ただし、小規模宅地等の特例(措置法69条の4)との併用関係や具体的な税額シミュレーションを踏まえた慎重な検討が必要です。

一方で、配偶者が将来的に施設入所の可能性がある場合や、建物の老朽化により将来売却を検討する可能性がある場合には、配偶者居住権の設定が必ずしも最適とは限りません。配偶者居住権は譲渡ができず、建物売却を困難にする側面があるため、設定にあたっては配偶者の将来の生活設計を十分に踏まえた判断が求められます。

弁護士に相談するメリット

配偶者居住権の設定は、法律・税務の両面から慎重な検討が必要な制度です。弁護士に相談することには以下のようなメリットがあります。

  • 最適な遺産分割方法の提案:配偶者居住権の設定が適切かどうかを含め、ご家族の状況に応じた最適な遺産分割の方法をアドバイスします。
  • 遺言書の作成支援:配偶者居住権の遺贈を内容とする遺言書を、法的に有効な形で作成するサポートを行います。
  • 登記手続きの確保:配偶者居住権の設定登記を確実に行い、第三者対抗要件を備えるための手続きを支援します。
  • 税務面との連携:相続税の評価額のシミュレーションや、小規模宅地等の特例との関係について、税理士と連携したワンストップのサポートが可能です。
  • 紛争予防と解決:配偶者居住権の設定をめぐる他の相続人とのトラブルについて、遺産分割調停・審判の代理を含む紛争解決を支援します。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、茨城県内4拠点(牛久本部・日立支所・水戸支所・守谷支所)で相続に関するご相談を承っております。配偶者居住権の活用をご検討の方は、初回のご相談から解決までサポートが可能ですので、お気軽にご相談ください。

まとめ

本稿では、配偶者居住権(長期・短期)の制度概要と実務上のポイントについて解説しました。要点を整理すると以下のとおりです。

  • 配偶者居住権(民法1028条)は、遺産分割または遺贈により設定でき、配偶者が終身または一定期間、自宅に無償で居住できる権利である
  • 配偶者短期居住権(民法1037条)は、遺産分割確定まで(最低6か月)の短期的な居住保護であり、法律上当然に発生する
  • メリットとして、自宅居住の安定確保、他の遺産の取得容易化、二次相続の節税効果がある
  • デメリットとして、譲渡不可、登記の必要性、建物売却の困難化がある
  • 相続税評価は相続税法23条の2に基づき、配偶者の年齢・存続期間・法定利率に応じた複利現価率を用いて算定される
  • 配偶者居住権は配偶者の死亡により消滅し、二次相続の課税対象とならない

配偶者居住権は、残された配偶者の居住と生活を守るための有力な制度ですが、譲渡不可や建物処分の制約といったデメリットもあるため、設定にあたっては将来の生活設計を含めた慎重な判断が必要です。「配偶者居住権の設定を検討している」「遺言で配偶者居住権を遺贈したい」「配偶者居住権の相続税評価について知りたい」など、配偶者居住権に関するお悩みがございましたら、弁護士法人長瀬総合法律事務所までお気軽にご相談ください。

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収益物件(アパート・マンション)の相続実務と注意点(賃貸借契約の承継)

2026-07-11

はじめに

「父がアパートを所有していたが、相続後の賃貸借契約はどうなるのか」「相続発生後、入居者から預かっている敷金や保証金は誰が引き継ぐのか」「遺産分割が完了するまでの間に発生する賃料は誰のものになるのか」といったご相談は、収益物件を所有する方の相続では非常に多く寄せられます。

アパートやマンションなどの収益物件は、一般の不動産と異なり、入居者との賃貸借契約関係、管理会社との委託契約、賃料収入の帰属など、相続時に検討すべき論点が数多く存在します。また、相続税評価においても、貸家建付地・貸家としての特有の評価減が認められるなど、税務上の取り扱いも重要です。本稿では、収益物件の相続に関する実務上のポイントを、法律面・税務面の両方から包括的に解説します。

Q&A

Q1. 収益物件の所有者が亡くなった場合、入居者との賃貸借契約はどうなりますか?

A. 賃貸人の地位は、相続により当然に相続人に承継されます。入居者との賃貸借契約は、相続人が新たな賃貸人として引き継ぐことになり、入居者に対して改めて契約を締結し直す必要はありません。相続人が複数いる場合は、遺産分割協議が完了するまでの間、共同相続人全員が賃貸人の地位を共有することになります。

Q2. 遺産分割が完了するまでの間の賃料は、誰が受け取るのですか?

A. 遺産分割が完了する前に発生した賃料は、法定果実として各共同相続人がその法定相続分に応じて取得する権利を有します(最高裁平成17年9月8日判決)。遺産分割の結果、特定の相続人が収益物件を取得した場合でも、分割前に既に発生していた賃料には遡及効は及びません。

Q3. 敷金や保証金は相続人が引き継ぐのですか?

A. はい、賃貸人の地位の承継に伴い、敷金返還債務も相続人に承継されます。入居者が退去する際には、新たな賃貸人である相続人が敷金の返還義務を負います。遺産分割によって物件を取得した相続人が、最終的に敷金返還債務を引き受けることになります。

解説

1. 賃貸借契約の承継(賃貸人の地位の移転)

収益物件の所有者が死亡した場合、賃貸人の地位は相続により当然に相続人へ移転します。賃貸借契約は、賃貸人の一身に専属する性質のものではないため、相続の一般原則(民法896条)に基づき、相続人が包括的に承継します。入居者との関係では、賃貸借契約の内容(賃料額、契約期間、特約事項等)はそのまま維持されるため、入居者に不利益が生じることはありません。

相続人が複数いる場合、遺産分割協議が完了するまでの間は、共同相続人全員が賃貸人の地位を準共有する状態となります。この間、賃貸借契約の解除や賃料の増減額請求といった管理行為を行うためには、共同相続人の持分の過半数の同意が必要とされます(民法252条)。実務上は、遺産分割前であっても、共同相続人の中から代表者を定めて入居者への連絡や賃料の受領を行うことが望ましいです。

なお、2020年4月施行の改正民法では、不動産の譲渡に伴う賃貸人の地位の移転に関する規定が明文化されました(民法605条の2)。相続の場面では、所有権の移転登記が賃貸人たる地位の移転の対抗要件とされています。遺産分割後に物件を取得した相続人が入居者に対して賃料請求を行うためには、速やかに所有権移転登記を完了させることが重要です。

2. 敷金・保証金の承継

賃貸人の地位が移転する場合、敷金返還債務は新たな賃貸人に当然に承継されます(民法605条の2第4項)。これは、敷金が賃貸借契約に付随する担保としての性質を有しているためです。相続が発生した場合、被相続人が入居者から預かっていた敷金・保証金に関する返還義務は、相続人がそのまま引き継ぐことになります。

実務上の注意点として、被相続人が敷金・保証金をどのように管理していたかを早期に確認することが重要です。敷金が専用の口座で管理されている場合もあれば、被相続人の個人口座の中に混在している場合もあります。敷金の総額と各入居者の敷金額を正確に把握し、遺産分割協議において敷金返還債務を適切に考慮する必要があります。特に、複数の相続人が異なる収益物件をそれぞれ取得する場合には、各物件に紐づく敷金返還債務も含めて公平な分割を行うことが求められます。

3. 管理会社との契約

収益物件の管理を管理会社に委託している場合、管理委託契約の取り扱いも確認が必要です。管理委託契約は、一般的には委任契約(準委任契約)の性質を有しており、委任者の死亡は契約の終了事由とされています(民法653条1号)。したがって、被相続人の死亡により管理委託契約が終了し、改めて相続人と管理会社との間で新たな契約を締結する必要が生じる場合があります。

ただし、管理委託契約の中に「委託者が死亡した場合でも契約は終了しない」旨の特約が含まれている場合や、実務上の慣行として管理会社が引き続き管理業務を行い相続人がこれを黙認している場合には、契約が継続しているものとして取り扱われることもあります。相続発生後は、速やかに管理会社に連絡を取り、管理委託契約の継続の有無、管理費用の支払方法、入居者への通知手続き等について協議することが重要です。管理会社との良好な関係を維持することは、収益物件の安定的な運営を継続するうえで不可欠です。

4. 遺産分割前の賃料の取扱い(法定果実)

収益物件の相続において実務上最も問題になりやすいのが、遺産分割協議が完了するまでの間に発生する賃料の帰属です。最高裁平成17年9月8日判決は、遺産から生ずる法定果実(賃料等)は、遺産とは別個の財産であり、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として取得するものと判示しました。

この判例の帰結として、遺産分割によって収益物件を特定の相続人が取得したとしても、遺産分割前に発生した賃料は、法定相続分に応じて各相続人に帰属します。すなわち、遺産分割の遡及効(民法909条)は、分割前に生じた法定果実には及ばないのです。例えば、相続人が配偶者と子2名の計3名であり、遺産分割成立までの6か月間にアパートから毎月50万円の賃料が発生した場合、配偶者が150万円(6か月分の2分の1)、子がそれぞれ75万円(6か月分の各4分の1)を取得する権利を有します。

実務上は、遺産分割協議の中で、分割前の賃料の精算方法についても合わせて協議しておくことが望ましいです。特に、分割前の期間中に修繕費や固定資産税等の費用が発生している場合には、これらの費用負担についても法定相続分に応じて按分するのが原則です。

5. 相続税評価(貸家建付地・貸家)

収益物件の相続税評価は、自用の不動産と比較して有利な評価減が認められる点が大きな特徴です。入居者がいる状態の収益物件は、所有者の利用が制限されているため、その分だけ評価額が低くなります。

(1)貸家建付地の評価

収益物件の敷地は「貸家建付地」として評価されます。貸家建付地の評価額は、以下の算式により計算されます。

貸家建付地の評価額 = 自用地評価額 ×(1 – 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)

借地権割合は路線価図等で確認でき、地域により30%~90%と幅があります。借家権割合は全国一律30%です。賃貸割合は、相続開始時点における賃貸床面積の割合を指し、空室がある場合にはその分だけ評価減の効果が縮小します。例えば、自用地評価額が1億円、借地権割合が60%、賃貸割合が100%(満室)の場合、貸家建付地の評価額は1億円×(1-0.6×0.3×1.0)=8,200万円となり、自用地と比べて1,800万円の評価減となります。

(2)貸家の評価

収益物件の建物部分は「貸家」として評価されます。貸家の評価額は、固定資産税評価額に借家権割合と賃貸割合を考慮して算出されます。

貸家の評価額 = 固定資産税評価額 ×(1 – 借家権割合 × 賃貸割合)

例えば、固定資産税評価額が5,000万円、賃貸割合が100%の場合、貸家の評価額は5,000万円×(1-0.3×1.0)=3,500万円となります。このように、収益物件は土地・建物ともに自用の場合と比べて相続税評価額が低くなるため、相続税対策として有効な資産とされています。

6. 収益物件の遺産分割方法(代償分割等)

収益物件の遺産分割においては、物件の性質上、現物分割(物理的に分割すること)が困難であるため、以下のような分割方法が検討されます。

  • 代償分割:特定の相続人が収益物件を単独で取得し、他の相続人に対して相続分に相当する代償金を支払う方法です。収益物件の管理運営を継続しやすく、最も多く用いられる分割方法です。ただし、物件を取得する相続人に代償金の支払能力が必要となります。
  • 換価分割:収益物件を第三者に売却し、売却代金を相続人間で分配する方法です。公平な分割が可能ですが、入居者との賃貸借契約が存続した状態での売却(オーナーチェンジ)となるため、市場価格に影響が生じる場合があります。また、譲渡所得税の負担も考慮する必要があります。
  • 共有取得:相続人全員で収益物件を共有する方法です。当面の分割方法としては簡便ですが、管理方針の対立や将来の処分に際して共有者全員の同意が必要となるなど、長期的にはトラブルの原因となりやすいため、一般的には推奨されません。

いずれの分割方法を選択するかは、相続人の意向、物件の収益性、相続人の資金力、税務上の影響等を総合的に考慮して決定する必要があります。特に代償分割を選択する場合には、収益物件の時価評価が問題となることが多く、不動産鑑定士による鑑定評価を取得することも検討すべきです。

7. 空室リスクと修繕義務

収益物件を相続する際には、空室リスクと修繕義務についても十分な検討が必要です。相続開始時点で空室がある場合、前述のとおり相続税評価における賃貸割合が低下し、貸家建付地・貸家としての評価減の効果が縮小します。相続税の申告において、一時的な空室が賃貸割合に与える影響については、国税庁の通達等に基づき、相続開始前後の入居状況や募集活動の実態を総合的に勘案して判断されます。

修繕義務については、賃貸人は賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負っています(民法606条1項)。相続によって賃貸人の地位を承継した相続人は、この修繕義務もそのまま引き継ぐことになります。老朽化した収益物件では、大規模修繕に多額の費用がかかる場合があり、遺産分割の際には将来の修繕費用も考慮した上で、物件の取得者を決定することが重要です。

また、建物の耐震性能や設備の経年劣化の状況についても確認が必要です。特に築年数が古い物件では、耐震基準を満たしていない場合や、給排水設備・電気設備等の大規模な更新が必要となる場合があり、これらの費用を見込んだ上で収益性を評価し、遺産分割や相続税対策の方針を検討すべきです。

弁護士に相談するメリット

収益物件の相続は、賃貸借契約の承継、税務評価、遺産分割方法など多岐にわたる法的論点を含んでおり、専門家のサポートなしに適切に対応することは困難です。弁護士に相談することには以下のようなメリットがあります。

  • 賃貸借関係の整理:賃貸借契約の承継手続き、入居者への通知、敷金・保証金の管理状況の確認など、賃貸借関係の適切な整理をサポートします。
  • 遺産分割の最適化:代償分割・換価分割・共有取得のメリット・デメリットを踏まえ、ご家族の状況に最適な遺産分割方法をご提案します。
  • 分割前賃料の精算:遺産分割前に発生した賃料や費用負担の精算について、法的根拠に基づく適切な処理を行います。
  • 税理士等との連携:相続税申告における貸家建付地・貸家の評価や、小規模宅地等の特例の適用可否について、税理士と連携して最適な税務対策をご提案します。
  • 紛争の予防と解決:共同相続人間の意見対立や入居者とのトラブルなど、収益物件の相続に伴う紛争の予防・解決を弁護士が代理して行います。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、茨城県内4拠点(牛久本部・日立支所・水戸支所・守谷支所)及び東京支所で相続に関するご相談を承っております。収益物件の相続でお悩みの方は、初回のご相談から解決までサポートが可能ですので、お気軽にご連絡ください。

まとめ

本稿では、収益物件(アパート・マンション)の相続実務について解説しました。要点を整理すると以下のとおりです。

  • 賃貸人の地位は相続により当然に承継され、入居者との賃貸借契約はそのまま維持される
  • 敷金・保証金の返還債務は、賃貸人の地位の承継に伴い相続人に引き継がれる
  • 管理会社との委託契約は被相続人の死亡で終了する場合があり、速やかな確認・再契約が必要
  • 遺産分割前の賃料は法定果実として法定相続分に応じて各相続人に帰属する
  • 相続税評価では貸家建付地・貸家として評価減が認められ、相続税対策として有効
  • 遺産分割では代償分割が多く用いられるが、収益性・資金力・税務面を総合考慮して選択する
  • 空室リスクや修繕義務は相続税評価と物件の収益性の両面に影響する

収益物件の相続は、単なる不動産の相続とは異なり、入居者との関係や継続的な収益管理など、多角的な検討が求められます。相続開始後の賃料管理から遺産分割の方針決定まで、専門家の助言を得ながら進めることが、相続人にとって最善の結果につながります。収益物件の相続に関するお悩みがございましたら、弁護士法人長瀬総合法律事務所までお気軽にご相談ください。

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借地権・底地の相続:評価方法と地主との交渉ポイント

2026-07-10

はじめに

相続財産に借地権や底地が含まれている場合、通常の土地や建物の相続とは異なる特有の問題が生じます。借地権は目に見えない権利でありながら高額な財産的価値を有し、底地は地主としての権利義務を承継することを意味します。いずれの場合も、権利関係の整理、適正な評価、そして地主や借地人との交渉が重要な課題となります。

本稿では、借地権の種類と相続における取扱い、底地の相続、相続税評価の方法、地主との交渉において留意すべきポイント、さらには底地と借地権の同時売却や等価交換といった実務的な対応策について、体系的に解説します。複雑な権利関係の整理と評価方法、実務上の対応について、具体的にご説明いたします。

Q&A

Q1. 借地権を相続する場合、地主の承諾は必要ですか?

A. 借地権の相続には地主の承諾は不要です。相続は包括承継であり、借地権の譲渡や転貸とは異なるため、地主の承諾を得る必要はなく、承諾料の支払いも不要です。ただし、相続が発生した旨を地主に通知し、今後の賃料支払いなどについて確認しておくことが実務上重要です。

Q2. 借地権の相続税評価はどのように行いますか?

A. 借地権の相続税評価は、原則として路線価方式又は倍率方式により算定した自用地としての評価額に、借地権割合を乗じて計算します。借地権割合は国税庁が公表する路線価図に記号(A:90%からG:30%まで)で示されています。例えば、自用地評価額が5,000万円で借地権割合が60%(D地区)の場合、借地権の評価額は3,000万円となります。

Q3. 底地と借地権を同時に売却することは可能ですか?

A. 可能です。底地と借地権を同時に売却することで、完全な所有権として取引できるため、個別に売却するよりも高い価格での売却が期待できます。底地単独や借地権単独では市場性が限られますが、両者を合わせることで通常の更地に近い価格での取引が実現しやすくなります。地主と借地人の双方が協力することが前提となります。

解説

1. 借地権の種類と基本的な仕組み

借地権とは、建物の所有を目的として土地を借りる権利のことをいいます。借地借家法の下では、主に以下の2種類の借地権が存在します。

(1)普通借地権

普通借地権は、存続期間が満了しても正当事由がなければ地主が更新を拒絶できない、借地人に有利な権利です。当初の存続期間は30年以上、最初の更新後は20年以上、以後の更新は10年以上とされています。旧借地法の下で設定された借地権も、相続においてはほぼ同様の取扱いとなります。普通借地権は更新が認められやすく、半永久的に土地を使用できる実質的な利益があるため、財産的価値が高く評価されます。

(2)定期借地権

定期借地権は、契約で定めた期間が満了すると更新がなく、土地を更地にして返還する借地権です。一般定期借地権(存続期間50年以上)、事業用定期借地権(存続期間10年以上50年未満)、建物譲渡特約付借地権の3類型があります。定期借地権は残存期間によって評価額が大きく変動するのが特徴です。残存期間が短くなるほど評価額は低下し、期間満了時にはゼロとなります。

2. 借地権の相続

借地権は相続の対象となる財産であり、被相続人の死亡により当然に相続人に承継されます。この点について、以下の重要なポイントがあります。

  • 地主の承諾は不要:相続は民法上の包括承継であり、借地権の「譲渡」や「転貸」には該当しません。したがって、借地借家法が定める地主の承諾は不要であり、承諾料を支払う必要もありません。
  • 賃貸借契約の承継:相続人は被相続人の賃借人としての地位をそのまま承継します。地代の額、契約条件、特約事項なども原則としてそのまま引き継がれます。
  • 遺産分割の対象:借地権は遺産分割の対象財産であり、相続人間で誰が借地権を取得するかを協議により決定します。借地上の建物と借地権は一体として取り扱うのが通常です。
  • 地主への通知:法律上の義務ではありませんが、相続が発生した旨と新たな借地権者(相続人)を地主に通知することが実務上重要です。通知を怠ると、地代の支払いや今後の交渉において不要なトラブルが生じる可能性があります。

3. 底地の相続

底地とは、借地権が設定されている土地の所有権のことをいいます。地主が亡くなった場合、底地は相続財産として相続人に承継されます。底地を相続する場合の主な留意点は以下のとおりです。

  • 地主としての地位の承継:底地を相続した者は、賃貸人(地主)としての地位を承継し、借地人に対する権利義務(地代収受権、契約管理義務等)を引き継ぎます。
  • 収益性の低さ:底地から得られる地代収入は、一般的に土地の固定資産税・都市計画税の3倍から5倍程度にとどまることが多く、更地としての利回りに比べて収益性が低いのが実情です。
  • 処分の困難さ:底地は借地権が設定されているため自由に使用することができず、第三者への売却も困難です。底地の買主は限定的であり、売却価格は更地価格を大きく下回るのが通常です。

4. 借地権・底地の相続税評価

借地権及び底地の相続税評価は、路線価方式又は倍率方式を基礎として行います。具体的な計算方法は以下のとおりです。

(1)借地権の評価

借地権の評価額は、自用地としての評価額に借地権割合を乗じて算定します。借地権割合は、国税庁が毎年公表する路線価図において、路線価に付された記号(A:90%、B:80%、C:70%、D:60%、E:50%、F:40%、G:30%)により確認できます。例えば、路線価が1平方メートルあたり30万円の土地で面積が100平方メートル、借地権割合がD(60%)の場合、自用地評価額3,000万円に対し借地権評価額は1,800万円となります。

(2)底地の評価

底地の相続税評価額は、自用地としての評価額から借地権の評価額を控除して算定します。すなわち、自用地評価額×(1-借地権割合)が底地の評価額となります。上記の例では、3,000万円×(1-60%)=1,200万円が底地の評価額です。ただし、この相続税評価額と実際の市場取引価格には大きな乖離があることに注意が必要です。底地の市場価格は、相続税評価額をさらに大きく下回ることが一般的です。

(3)定期借地権の評価

定期借地権の評価は、原則として残存期間に応じた評価を行います。課税上弊害がない限り、定期借地権の目的となっている宅地の自用地評価額に、定期借地権の残存期間に応じた割合を乗じて評価します。残存期間が短い定期借地権は評価額が低くなりますが、その分底地の評価額は高くなります。

5. 地主との交渉ポイント

借地権を相続した場合、地主との間でさまざまな交渉が必要となる場面があります。主要な交渉ポイントは以下のとおりです。

(1)地代の改定

相続を機に地主から地代の値上げを求められることがあります。借地借家法では、地代が租税その他の公課の増減、土地の価格の上昇・低下、近隣の地代との比較等により不相当となった場合に、当事者は地代の増減を請求できるとされています。地代増額請求がなされた場合、借地人は増額を正当と認めるまでは、相当と認める額の地代を支払えば足ります(借地借家法11条2項)。地代改定の交渉にあたっては、固定資産税額、近隣の地代相場、継続賃料の鑑定評価等を踏まえて、適正な地代水準を検討することが重要です。

(2)建替え・増改築の承諾

借地上の建物の建替えや増改築を行う場合、借地契約に増改築禁止特約がある場合は地主の承諾が必要となります。地主が承諾しない場合には、借地借家法17条2項に基づき、裁判所に地主の承諾に代わる許可を求める申立てをすることができます。承諾料の相場は、一般的に更地価格の3%から5%程度とされていますが、建物の構造変更(木造から鉄筋コンクリート造への建替え等)を伴う場合には、借地条件の変更として更に高額の承諾料が必要となることもあります。

(3)借地権の譲渡

相続により取得した借地権を第三者に売却する場合には、地主の承諾が必要です。相続そのものには承諾は不要ですが、その後の譲渡は民法612条の「賃借権の譲渡」に該当するためです。地主が承諾しない場合には、借地借家法19条1項に基づき、裁判所に地主の承諾に代わる許可の申立てをすることが可能です。譲渡承諾料の相場は、一般的に借地権価格の10%程度とされています。

6. 底地と借地権の同時売却・等価交換

借地権・底地の問題を抜本的に解決する方法として、以下の手法が実務上活用されています。

(1)同時売却

地主と借地人が協力して、底地と借地権を同時に第三者に売却する方法です。底地単独の売却では更地価格の10%から15%程度、借地権単独でも更地価格の50%から60%程度しか実現できないことが多いのに対し、同時売却では完全な所有権として更地に近い価格での取引が可能となります。売却代金は、借地権割合等を基準に地主と借地人で配分します。双方にとって経済的なメリットが大きい方法です。

(2)等価交換

等価交換とは、借地人が借地権の一部を地主に返還し、その対価として底地の一部を取得することにより、それぞれが完全な所有権を持つ土地を取得する方法です。例えば、借地権割合が60%の土地であれば、借地人が土地の60%について完全な所有権を取得し、地主が残り40%について完全な所有権を回復するという形で整理します。等価交換が成立すれば、双方が自由に処分可能な土地を取得できるため、資産の有効活用や売却が容易になります。固定資産の交換の特例(所得税法58条)の適用により、譲渡所得税が繰り延べられる可能性もあります。

弁護士に相談するメリット

借地権・底地の相続は、権利関係が複雑であり、評価や地主との交渉においても専門的な知識が不可欠です。弁護士に相談することには以下のようなメリットがあります。

  • 権利関係の整理:借地権の種類、契約内容、登記の有無等を精査し、相続における権利関係を正確に整理します。
  • 適正な評価の把握:相続税評価と市場価値の違いを踏まえ、遺産分割における適正な評価額を検討します。
  • 地主との交渉支援:地代改定、建替え承諾、借地権譲渡などの交渉を、法的根拠に基づき有利に進めるサポートを行います。
  • 裁判所手続きの代理:地主が承諾しない場合の借地非訟手続き(借地借家法17条・19条)の申立てや、地代増減額請求に関する調停・訴訟の代理を行います。
  • 抜本的解決策の提案:同時売却、等価交換、底地の買取りなど、ケースに応じた最適な解決策を提案し、その実現をサポートします。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、茨城県内4拠点(牛久本部・日立支所・水戸支所・守谷支所)及び東京支所で相続に関するご相談を承っております。借地権・底地の相続に関する権利関係の整理から地主との交渉、裁判所手続きまでサポートが可能です。

まとめ

本稿では、借地権・底地の相続における評価方法と地主との交渉ポイントについて解説しました。要点を整理すると以下のとおりです。

  • 借地権には普通借地権と定期借地権があり、それぞれ相続における取扱いや評価方法が異なる
  • 借地権の相続には地主の承諾は不要だが、地主への通知は実務上重要である
  • 借地権の相続税評価は自用地評価額に借地権割合を乗じて算定し、底地は残余部分で評価する
  • 地代改定、建替え承諾、借地権譲渡は地主との交渉における主要なポイントである
  • 同時売却や等価交換は、借地権・底地の問題を抜本的に解決する有効な手法である

借地権・底地の相続は、通常の不動産相続以上に権利関係が複雑であり、地主との関係調整も必要となります。「借地権を相続したが地主から地代の値上げを求められている」「底地を相続したがどう活用すればよいかわからない」「借地権と底地を整理して売却したい」など、借地権・底地の相続に関するお悩みがございましたら、弁護士法人長瀬総合法律事務所までお気軽にご相談ください。

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農地(田・畑)の相続手続き:農業委員会への届出と転用制限

2026-07-09

はじめに

「亡くなった親が田んぼや畑を持っていたが、自分は農業をしていない。農地を相続する場合に何か特別な手続きが必要なのか」「相続した農地を宅地に転用して売却したいが、どのような許可が必要なのか」といったご相談をいただくことが少なくありません。

農地(田・畑)は、農地法による厳格な規制の対象となっており、一般の不動産とは異なる特殊な取り扱いがなされます。相続による農地の取得自体は農地法3条の許可を必要としませんが、農業委員会への届出が義務付けられており、届出を怠った場合には過料の制裁もあります。また、相続後に農地を宅地等に転用しようとする場合には、農地法4条・5条の許可が必要となるなど、処分にも大きな制約が伴います。本稿では、農地の相続に関する法的規制の全体像を整理した上で、届出手続き、転用制限、農地の評価方法、納税猶予制度、そして農地の処分方法について、実務的な観点から解説します。

Q&A

Q1. 農地を相続する場合、農地法3条の許可は必要ですか?

A. いいえ、相続による農地の取得には農地法3条の許可は不要です。農地法3条は、売買や贈与などの法律行為による農地の権利移転に許可を求めるものですが、相続は法律の規定に基づく包括承継であるため、許可の対象外とされています。ただし、農業委員会への届出が別途必要です。

Q2. 農業委員会への届出はいつまでに行えばよいですか?

A. 相続の開始があったことを知った日から10か月以内に届け出る必要があります(農地法3条の3第1項)。届出先は、農地の所在する市町村の農業委員会です。届出を怠った場合は10万円以下の過料に処せられることがありますので、期限内の届出が重要です。

Q3. 相続した農地を宅地に転用して売却することはできますか?

A. 農地を宅地に転用するには、農地法4条(自己転用)または5条(転用目的の権利移動)の許可が必要です。ただし、農地の区分や立地条件によっては許可が得られない場合があります。特に、農用地区域内農地(いわゆる青地)や甲種農地・第1種農地は原則として転用が許可されず、処分が困難となることがあります。

解説

1. 農地法の規制と相続の関係

農地法は、農地の権利移動や転用について厳格な許可制度を設けることで、優良農地の確保と農業生産力の維持を図っています。農地の権利移動に関する主な規制は以下のとおりです。

  • 農地法3条(権利移動の許可):農地について所有権を移転し、または賃借権その他の使用収益権を設定・移転する場合には、原則として農業委員会の許可が必要です。ただし、相続、遺産分割、包括遺贈(相続人に対するもの)等による取得は許可不要とされています。
  • 農地法4条(自己転用の許可):農地の所有者が自ら農地を農地以外のものに転用する場合に、都道府県知事等の許可が必要です。
  • 農地法5条(転用目的の権利移動の許可):農地を農地以外に転用する目的で権利の設定・移転を行う場合に、都道府県知事等の許可が必要です。相続した農地を転用目的で第三者に売却する場合がこれに該当します。

このように、相続による農地の取得自体には3条許可は不要ですが、相続後の農地の利用・処分については4条・5条の許可規制が及ぶことになります。農地を相続したからといって自由に処分できるわけではない点に注意が必要です。

2. 農業委員会への届出手続き

相続により農地の権利を取得した場合、農地法3条の3第1項に基づき、農業委員会への届出が義務付けられています。届出に関する主な事項は以下のとおりです。

  • 届出期限:相続の開始があったことを知った日から10か月以内
  • 届出先:農地の所在する市町村の農業委員会
  • 届出事項:届出者の氏名・住所、被相続人との関係、農地の所在・地番・面積、権利取得の原因(相続・遺産分割等)、農地の利用状況や今後の利用意向など
  • 届出懈怠の制裁:届出を怠った場合は10万円以下の過料に処せられます(農地法69条)。届出義務の存在自体を知らない相続人も多いため、農地を相続した場合には速やかに届出を行うことが重要です。
  • 添付書類:相続登記済みの登記事項証明書(または遺産分割協議書の写し等、権利取得を証する書面)が必要となることが一般的です。届出書の様式は各市町村の農業委員会に備え付けられています。

なお、届出は相続登記の完了とは別の手続きであるため、相続登記を済ませただけでは届出義務を果たしたことにはなりません。相続登記と農業委員会への届出の双方を期限内に行う必要があります。2024年4月からは相続登記も義務化されており(不動産登記法76条の2)、相続を知った日から3年以内の登記申請が求められていますので、農地を相続した場合には登記と届出の両方について期限管理を徹底してください。

3. 農地の転用制限

相続した農地を宅地や駐車場等に転用するためには、農地法4条(自己転用)または5条(転用目的の権利移動)の許可を得なければなりません。転用の許可基準は、農地の立地条件に基づく区分によって大きく異なります。

  • 農用地区域内農地(青地):市町村が定める農業振興地域整備計画において農用地区域に指定された農地です。原則として転用は許可されません。転用するためには、まず農用地区域からの除外(農振除外)の手続きが必要であり、除外が認められるための要件も厳格です。
  • 甲種農地・第1種農地:集団的に存在する優良農地であり、原則として転用は許可されません。例外的に、公共施設や農業用施設等の特定の用途に限って許可される場合があります。
  • 第2種農地:市街地化が見込まれる区域内の農地や、小集団の農地です。第3種農地等の周辺の他の土地に立地困難な場合に限り、転用が許可されます。
  • 第3種農地:市街地の区域内またはこれに近接する区域内の農地です。原則として転用が許可されます。

このように、農地の区分によって転用の難易度は大きく異なります。相続した農地がどの区分に該当するかは、農業委員会や市町村の農政担当部署に照会することで確認できます。農地を転用して売却する計画がある場合には、事前に区分を確認し、転用許可の見通しを把握しておくことが重要です。

4. 農地の評価方法

相続税の申告において農地を評価する場合、農地の区分に応じて異なる評価方法が用いられます。

  • 純農地・中間農地:倍率方式によって評価されます。固定資産税評価額に国税庁が定める倍率を乗じて算出します。一般的に評価額は低く、相続税の負担も小さくなります。
  • 市街地周辺農地:市街地農地としての評価額の80%で評価されます。
  • 市街地農地:宅地比準方式または倍率方式により評価されます。宅地比準方式では、その農地が宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額から造成費を控除して評価します。市街化区域内の農地は宅地並みの高い評価額となることが多く、相続税の負担が大きくなりがちです。

農地の評価額は、その農地が所在する地域の地価水準や都市計画上の位置づけによって大きく変わります。特に市街化区域内の農地は宅地並みの評価となる一方、実際には転用許可が得られなければ宅地としての利用ができないため、評価額と実勢価格の乖離が生じることもあります。適正な評価のためには、税理士等の専門家への相談が有用です。

5. 農地の納税猶予制度

農地を相続した場合に利用できる重要な税制上の特例として、相続税の納税猶予制度(租税特別措置法70条の6)があります。これは、農業を営んでいた被相続人から農地を相続した農業相続人が、引き続きその農地で農業を営む場合に、相続税の一定額の納税を猶予する制度です。

  • 対象となる農地:被相続人が農業の用に供していた農地で、相続税の申告期限までに遺産分割が行われたもの
  • 猶予される税額:農地の相続税評価額のうち、農業投資価格(農業用として利用し続ける場合の低い評価額)を超える部分に対応する相続税額が猶予されます。市街地農地の場合、宅地並み評価額と農業投資価格との差額は大きいため、猶予の効果も大きくなります。
  • 猶予の打切り:農地を転用したり、譲渡したり、農業を廃止した場合には、猶予されていた相続税額に利子税を加算して納付しなければなりません。
  • 免除:農業相続人が死亡した場合や、農地の全部を後継者に生前一括贈与した場合等には、猶予税額が免除されます。すなわち、終生農業を続ければ猶予税額の納付は不要となります。

納税猶予制度は農業の継続を条件とするため、農業を行う意思のない相続人にとっては利用が難しい面がありますが、農業を継続する予定がある場合には相続税の大幅な軽減が可能です。ただし、将来的に農地を転用・売却する可能性がある場合には、猶予税額の打切りリスクも考慮した上で制度の利用可否を慎重に判断する必要があります。

6. 農地の処分方法

相続した農地を自ら耕作する意思がない場合や、遠方に居住しており管理が困難な場合には、農地の処分を検討することになります。主な処分方法は以下のとおりです。

  • 農地として売却:農地のまま第三者に売却する方法です。買主は農業者(または農地所有適格法人)に限られ、農地法3条の許可が必要です。農地としての売却価格は一般的に低額となります。
  • 農地として賃貸:近隣の農業者や農業法人に農地を賃貸する方法です。農地法3条の許可が必要ですが、農地中間管理機構(農地バンク)を通じた貸借であれば許可が不要となるケースもあります。賃料収入を得ながら農地を維持できる方法です。
  • 転用して売却:農地法5条の許可を得た上で、宅地等に転用して売却する方法です。転用が可能な区分の農地であれば、農地としての売却よりも高額での売却が期待できます。ただし、転用許可の取得に時間がかかる場合があり、造成費用等のコストも発生します。
  • 相続放棄・相続土地国庫帰属制度の利用:農地の管理負担が大きく、他の処分方法も困難な場合には、相続放棄(他の財産も含めて全て放棄)や、2023年4月に開始された相続土地国庫帰属制度の利用を検討することもできます。同制度では、一定の要件を満たす土地について、負担金を納付することで国庫に帰属させることが可能です。ただし、農地については、農用地区域内農地や農業振興地域内の農地に限定されるなど、承認要件が設けられています。

どの処分方法が最適かは、農地の区分・所在地・面積・周辺の開発状況、相続人の事情等によって異なります。処分方法の選択を誤ると、長期間にわたって管理コストや固定資産税の負担を負い続けることになりかねませんので、早い段階から専門家に相談して計画的に対応することが重要です。

弁護士に相談するメリット

農地の相続は、農地法の規制、届出義務、転用制限、税務上の特例など、多岐にわたる法的問題が絡み合う複雑な分野です。弁護士に相談することには以下のようなメリットがあります。

  • 届出手続きの確実な履行:農業委員会への届出義務の存在自体を知らない方も多くいらっしゃいます。届出期限の管理を含め、必要な手続きを漏れなく行うためのサポートを提供します。
  • 転用許可の見通し判断:相続した農地がどの区分に該当し、転用許可の可能性があるかについて、行政書士や不動産の専門家と連携して調査・判断します。
  • 最適な処分方法の提案:農地として売却・賃貸する方法、転用して売却する方法、相続土地国庫帰属制度を利用する方法など、依頼者の事情に応じた最適な処分方法をアドバイスします。
  • 遺産分割における農地の取り扱い:遺産に農地が含まれる場合の遺産分割協議において、農地の評価方法や取得者の決定について法的なアドバイスを行います。
  • 税務面の連携サポート:納税猶予制度の利用可否や農地の相続税評価について、税理士と連携した総合的なアドバイスを提供します。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、茨城県内4拠点(牛久本部・日立支所・水戸支所・守谷支所)及び東京支所で相続に関するご相談を承っております。農地の相続に関するお悩みについて、初回のご相談から解決までサポートが可能です。

まとめ

本稿では、農地(田・畑)の相続手続きについて解説しました。要点を整理すると以下のとおりです。

  • 相続による農地の取得には農地法3条の許可は不要だが、農業委員会への届出が義務付けられている
  • 届出は相続開始を知った日から10か月以内に行い、届出懈怠には10万円以下の過料がある
  • 農地の転用には農地法4条・5条の許可が必要であり、農地の区分によって許可の可否が異なる
  • 農地の相続税評価は区分に応じて倍率方式・宅地比準方式等が用いられ、市街地農地は高額評価となりやすい
  • 農業を継続する場合は納税猶予制度により相続税の大幅な軽減が可能である
  • 農地の処分には、農地売却・賃貸、転用売却、相続土地国庫帰属制度の利用等の方法がある

農地の相続は、一般の不動産とは異なる特殊な手続きや制限が数多く存在します。届出を忘れて過料を科されたり、転用制限を知らずに売却計画が頓挫したりといったトラブルを防ぐためにも、農地を相続した際には早い段階で専門家に相談されることをお勧めします。農地の相続に関するお悩みがございましたら、弁護士法人長瀬総合法律事務所までお気軽にご相談ください。

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遺産分割における不動産評価の争点:評価時点と評価方法の選択

2026-07-08

はじめに

「遺産分割で不動産の評価額について兄弟間で意見が合わない」「相続税申告のときに使った評価額と、遺産分割で使う評価額は違うのか」といったご相談は、不動産を含む相続において非常に多く寄せられます。不動産は預貯金や有価証券と異なり、客観的な金額が一律に定まるものではないため、評価方法や評価時点によって金額が大きく変動し得ます。

特に、評価額に関するトラブルは遺産分割協議の長期化を招く主要な原因の一つです。本稿では、遺産分割における不動産評価の基本的な考え方として、評価時点の原則、相続税申告との違い、各評価方法の特徴と使い分け、評価が争点となるケースへの対処法について、実務的な観点から解説します。

Q&A

Q1. 遺産分割で不動産を評価する場合、いつの時点の価格を基準にするのですか?

A. 遺産分割における不動産の評価時点は、原則として「遺産分割時」(実務上は審判時・協議成立時)とされています。これは相続税申告における評価時点(相続開始時=被相続人の死亡時)とは異なります。相続開始から遺産分割までに時間が経過し、不動産の価格が変動した場合には、分割時の時価を基準として各相続人の取得分を決定することになります。

Q2. 不動産の評価方法にはどのようなものがありますか?

A. 実務上よく用いられる評価方法としては、固定資産税評価額、路線価(相続税評価額)、公示地価・基準地価、実勢価格(取引事例比較)、そして不動産鑑定士による鑑定評価があります。どの方法を採用するかは当事者間の合意または裁判所の判断によりますが、争いがある場合には不動産鑑定が最も客観的な方法として重視されます。

Q3. 相続税申告で用いた路線価をそのまま遺産分割でも使えますか?

A. 当事者全員が合意すれば路線価をそのまま遺産分割の基準として使用することも可能です。ただし、路線価は公示地価の約80%を目安に設定されているため、実際の市場価格よりも低い金額になる傾向があります。不動産を取得する側にとっては路線価が有利に、代償金を受け取る側にとっては実勢価格が有利になるため、利害が対立する場面では路線価のみでは合意に至らないケースが少なくありません。

解説

1. 不動産評価の時点:遺産分割時が原則

遺産分割における不動産の評価時点については、判例・実務上、遺産分割時(審判時または協議成立時)を基準とするのが原則です。これは、遺産分割の目的が相続開始時に存在した遺産を相続人間で公平に分配することにある以上、分割時点における現実の経済的価値に基づいて配分を行うのが合理的であるという考え方に基づいています。

一方、相続税の申告においては、評価時点は相続開始時(被相続人の死亡日)とされています(相続税法22条)。この違いは実務上重要であり、相続開始から遺産分割までの間に不動産価格が上昇した場合、相続税評価額よりも遺産分割時の評価額の方が高くなることがあります。反対に、価格が下落している場合には遺産分割時の評価額の方が低くなります。このような価格変動が、相続人間の意見の相違を生む原因の一つとなっています。

2. 主な不動産評価方法とその特徴

遺産分割の場面で用いられる代表的な不動産評価方法には、以下のものがあります。それぞれに特徴があり、目的や状況に応じて使い分けることが重要です。

(1)固定資産税評価額

市区町村が課税のために算定する評価額であり、固定資産税の納税通知書や評価証明書で確認できます。公示地価の約70%を目安に設定されており、3年ごとに評価替えが行われます。最も手軽に取得できる評価額ですが、時価との乖離が大きいことがあるため、遺産分割の最終的な基準としては必ずしも適切でない場合があります。

(2)路線価(相続税評価額)

国税庁が毎年公表する路線価は、相続税や贈与税の算定に用いられる評価基準です。公示地価の約80%を目安に設定されています。路線価に基づく評価は比較的簡便であり、相続税申告時の評価額をそのまま利用できる利点がありますが、市場価格を正確に反映しているとは限りません。相続人全員が合意すれば遺産分割の基準として用いることも可能です。

(3)公示地価・基準地価

公示地価は国土交通省が毎年1月1日時点で公表する標準地の価格、基準地価は都道府県が毎年7月1日時点で公表する基準地の価格です。いずれも一般の土地取引の指標となる価格であり、実勢価格に最も近い公的評価とされています。ただし、対象となる標準地・基準地が限られているため、評価対象の不動産との個別的な差異(形状、接道状況、用途地域等)を考慮した補正が必要になることがあります。

(4)実勢価格(取引事例比較)

近隣の類似不動産の取引事例や不動産業者の査定に基づいて推定する市場価格です。実際の市場動向を反映しやすい反面、比較対象の選び方や査定者によって金額にばらつきが生じやすいという特徴があります。複数の不動産業者から査定を取得し、客観性を高める工夫が必要です。

(5)不動産鑑定評価

不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準に基づいて行う鑑定評価は、最も客観的かつ信頼性の高い評価方法です。原価法、取引事例比較法、収益還元法の三手法を用いて総合的に評価を行うため、裁判所の調停・審判においても重視されます。ただし、鑑定費用として数十万円から100万円程度の費用がかかるため、費用対効果を考慮した上で依頼を検討することが必要です。

3. 評価が争点となる典型的なケース

不動産評価が遺産分割の争点となる場面には、いくつかの典型的なパターンがあります。

  • 代償分割のケース:不動産を取得する相続人が他の相続人に代償金を支払う場合、不動産の評価額が代償金の算定根拠となるため、取得する側は低い評価を、代償金を受け取る側は高い評価を主張しがちです。
  • 特別受益の評価:生前贈与された不動産を特別受益として持ち戻す場合、その評価額が争いになることがあります。特別受益の評価時点は相続開始時とするのが判例の立場です。
  • 収益物件の評価:賃貸アパートやマンションなどの収益物件では、収益還元法による評価が重要となり、賃料収入や空室率の見積もりをめぐって意見が対立することがあります。
  • 共有持分の評価:共有不動産の持分を評価する際には、共有減価(共有であることによる市場性の低下)を考慮するかどうかで評価額が変わります。

4. 不動産鑑定士の活用と調停・審判での扱い

当事者間で不動産の評価について合意に至らない場合、不動産鑑定士による鑑定評価を活用することが有効です。家庭裁判所の調停手続きにおいても、当事者の一方または双方が鑑定書を提出することで、客観的な議論の基礎を形成できます。

調停で合意に至らず審判に移行した場合、裁判所が職権で鑑定を命じることがあります。この場合の鑑定費用は、裁判所の判断により当事者に負担が命じられます。裁判所選任の鑑定人による鑑定結果は、審判における不動産評価の基礎として非常に重い意味を持ちます。もっとも、当事者が独自に提出した鑑定書と裁判所鑑定の結論が異なる場合には、鑑定手法の妥当性や前提条件の適切性をめぐって更に議論が行われることもあります。

実務上のポイントとして、鑑定を依頼する際には、評価の目的(遺産分割のための時価評価であること)、評価時点、対象不動産の権利関係や利用状況等を正確に鑑定士に伝えることが重要です。前提条件の設定次第で鑑定結果が大きく変わり得るため、弁護士と鑑定士が連携して対応することが望ましいといえます。

弁護士に相談するメリット

不動産評価が争点となる遺産分割では、法的知識と実務経験に基づいた適切な対応が不可欠です。弁護士に相談することには以下のようなメリットがあります。

  • 最適な評価方法の選択:不動産の種類や遺産分割の方法に応じて、依頼者にとって最も適切な評価方法を提案します。固定資産税評価額、路線価、鑑定評価のいずれを主張すべきかについて、戦略的なアドバイスが可能です。
  • 不動産鑑定士との連携:信頼できる不動産鑑定士と連携し、遺産分割に適した鑑定評価を取得するサポートを行います。鑑定の前提条件の設定や鑑定書の内容確認についてもアドバイスします。
  • 交渉・調停での主張立証:相手方が主張する評価額に対して、根拠に基づいた反論を行い、依頼者の正当な利益を守ります。調停・審判手続きにおいても的確な主張を展開します。
  • 総合的な遺産分割の解決:不動産評価の問題を、遺産分割全体の枠組みの中で捉え、代償分割・換価分割・現物分割のいずれが最適かも含めた総合的な解決策を提示します。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、茨城県内4拠点(牛久本部・日立支所・水戸支所・守谷支所)及び東京支所(千代田区)で相続に関するご相談を承っております。不動産評価をめぐる遺産分割のお悩みについて、初回のご相談から解決までサポートが可能です。

まとめ

本稿では、遺産分割における不動産評価の争点について解説しました。要点を整理すると以下のとおりです。

  • 遺産分割における不動産の評価時点は遺産分割時(審判時・協議成立時)が原則であり、相続税申告の評価時点(相続開始時)とは異なる
  • 固定資産税評価額、路線価、公示地価、実勢価格、不動産鑑定の各評価方法にはそれぞれ特徴があり、目的に応じた使い分けが重要である
  • 代償分割・特別受益・収益物件・共有持分の場面で評価が争点となりやすい
  • 当事者間で合意できない場合は不動産鑑定士による鑑定評価が最も客観的な方法として重視される
  • 調停・審判では裁判所鑑定が行われることがあり、鑑定の前提条件の設定が結果に大きく影響する

不動産評価は遺産分割の公平性を左右する極めて重要な要素です。「相手方の主張する評価額に納得できない」「どの評価方法を採用すべきか分からない」「不動産鑑定を依頼すべきか迷っている」など、不動産評価に関するお悩みがございましたら、弁護士法人長瀬総合法律事務所までお気軽にご相談ください。

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不動産の共有相続のリスクと解消方法:共有物分割請求訴訟

2026-07-07

はじめに

「親が亡くなり、兄弟姉妹で不動産を共有名義で相続したが、売却も活用もできずに困っている」――このようなお悩みは、不動産相続において非常に多く見られます。遺産分割協議がまとまらないまま法定相続分に従って共有登記を行った結果、不動産の管理・処分をめぐって共有者間でトラブルが生じるケースは後を絶ちません。

不動産の共有状態は、民法上さまざまな制約を伴い、時間の経過とともにリスクが拡大していきます。本稿では、共有の基本的な仕組み(民法249条以下)から、共有相続に伴う具体的なリスク、共有状態を解消するための方法(協議・持分売却・共有物分割請求訴訟)、裁判所が採用する分割方法(現物分割・競売・価格賠償)、さらには2023年施行の民法改正による共有制度の見直しまで、体系的に解説します。

Q&A

Q1. 不動産を共有で相続すると、どのようなリスクがありますか?

A. 共有状態の不動産は、管理や処分に共有者全員または過半数の同意が必要となるため、意思決定が極めて困難になります。売却・建替え・大規模修繕などには共有者全員の合意が必要であり(民法251条)、一人でも反対すれば実行できません。また、共有者の一人が亡くなれば、その持分がさらに相続され、共有者の数が増加して問題が複雑化する危険があります。

Q2. 共有状態を解消するにはどのような方法がありますか?

A. 主な解消方法としては、(1)共有者間の協議による分割、(2)持分の売却・買取り、(3)共有物分割請求訴訟の3つがあります。まずは当事者間の話し合いによる解決を試み、それが困難な場合は調停や訴訟を通じた法的手続きを検討することになります。

Q3. 共有物分割請求訴訟とは何ですか?

A. 共有物分割請求訴訟とは、共有者の一人が他の共有者を被告として、裁判所に共有物の分割を求める訴訟です(民法258条)。各共有者はいつでもこの訴訟を提起することができ、裁判所は現物分割、競売による換価分割、価格賠償(全面的価格賠償)のいずれかの方法で分割を命じます。

解説

1. 共有の意義と法的枠組み(民法249条以下)

共有とは、一つの物を複数の者が共同で所有する形態をいいます。民法249条以下に規定されており、各共有者はその持分に応じて共有物の全部を使用することができます(民法249条1項)。不動産の相続において、遺産分割協議がまとまらないまま法定相続分に従って登記を行うと、相続人全員の共有状態が生じます。

共有物に関する行為は、その性質に応じて必要な同意の範囲が異なります。保存行為(修繕など)は各共有者が単独で行えます(民法252条5項)。管理行為(賃貸借契約の締結など)は持分の価格の過半数で決定します(民法252条1項)。そして、変更行為(売却・建替えなど)は共有者全員の同意が必要です(民法251条1項)。このように、共有状態では不動産の活用に関する意思決定に大きな制約が生じます。

2. 共有相続の具体的なリスク

(1)管理の困難さ

共有不動産の管理は、共有者間の意見調整が不可欠です。例えば、共有建物の賃貸借契約の締結・更新は管理行為として持分の過半数の同意が必要ですが、共有者間で賃料設定や入居者の選定をめぐって対立が生じることが少なくありません。また、修繕費用の負担割合や管理の分担についても紛争の種となります。共有者が遠方に居住している場合や、連絡が取れない場合には、日常的な管理すら困難になります。

(2)処分の制限

共有不動産の売却や建替えなどの処分行為には、共有者全員の同意が必要です。たとえ持分の大半を有する共有者であっても、他の共有者が一人でも反対すれば売却することはできません。各共有者は自己の持分のみを売却することは可能ですが、持分のみの売買は買い手が見つかりにくく、市場価格を大幅に下回る価格でしか売却できないのが実情です。結果として、不動産全体の経済的価値が十分に活用できない状態が続きます。

(3)次世代への問題の先送り

共有状態を放置した場合の最大のリスクは、世代を超えた問題の拡大です。共有者の一人が死亡すると、その持分はさらにその相続人に承継され、共有者の数が増加します。例えば、当初兄弟3人の共有であった不動産が、世代を経るごとに10人、20人と共有者が増え、面識すらない遠縁の親族が共有者となるケースも珍しくありません。こうなると、全員の合意を得ることはほぼ不可能となり、不動産は事実上の「塩漬け」状態に陥ります。

(4)税務・費用負担のリスク

共有不動産の固定資産税は共有者全員が連帯して納付義務を負います(地方税法10条の2)。特定の共有者が滞納した場合、他の共有者がその分を負担せざるを得ないケースもあります。また、共有不動産に関する維持管理費用(修繕費、保険料等)の分担をめぐってトラブルが生じることもあります。

3. 共有状態の解消方法

(1)協議による分割

最も望ましいのは、共有者全員の話し合いにより共有状態を解消する方法です。具体的には、特定の共有者が他の共有者の持分を買い取る方法(持分の集約)、不動産を売却して代金を持分に応じて分配する方法(換価分割)、あるいは不動産を物理的に分割する方法(現物分割)があります。協議による解決は、時間的・費用的コストが小さく、当事者全員が納得できる柔軟な解決が可能です。

(2)持分の売却・買取り

協議がまとまらない場合、各共有者は自己の持分を第三者に売却することが可能です。ただし、前述のとおり持分のみの売買は市場価格を大幅に下回ることが多く、経済的に不利となる場合があります。近年は、共有持分を専門に買い取る不動産業者も増えていますが、買取価格は一般的に低く設定されます。他方、共有者間で持分の買取り交渉を行うことも一つの方法です。

(3)共有物分割請求訴訟

協議による解決が困難な場合、各共有者は共有物分割請求訴訟を提起することができます(民法258条1項)。この訴訟は、共有者であれば持分の大小にかかわらず提起でき、他の共有者全員を被告とします。なお、訴訟の前に調停を申し立てることも可能であり、実務上は調停を先行させることが推奨される場合もあります。

4. 裁判所による分割方法

共有物分割請求訴訟において、裁判所は以下の方法により分割を命じます。2023年施行の改正民法により、分割方法に関する規定が明確化されました(改正民法258条)。

(1)現物分割

不動産そのものを物理的に分割する方法です。例えば、広い土地を持分に応じて分筆し、各共有者にそれぞれの土地を帰属させます。裁判所は原則として現物分割を検討しますが、建物の場合や土地が狭小な場合など、現物分割が不可能または著しく価値を損なう場合には他の方法が採用されます。

(2)競売による換価分割

現物分割ができない場合や、現物分割によって著しく価値が減少するおそれがある場合には、裁判所は競売を命じ、その売却代金を共有者間で分配する方法を採ります(民法258条2項)。ただし、競売は市場価格よりも低い金額での売却となることが一般的であり、共有者全員にとって経済的に不利となる場合が多いです。

(3)全面的価格賠償(価格賠償)

特定の共有者に不動産全体を取得させ、他の共有者に対してその持分に相当する金銭を支払わせる方法です。最高裁平成8年10月31日判決により判例上認められ、2023年の改正民法により明文化されました(改正民法258条2項2号)。全面的価格賠償が認められるためには、取得者に支払い能力があることに加え、共有物の性質・形状・利用状況、共有者の事情等を総合的に考慮して相当と認められることが必要です。実務上は、居住用不動産において共有者の一人が現に居住している場合などに多く採用されています。

5. 2023年改正民法による共有制度の見直し

2023年4月1日に施行された改正民法では、所有者不明土地問題への対応を目的として、共有制度に関する重要な見直しが行われました。主な改正点は以下のとおりです。

  • 共有物の管理に関する規律の明確化:軽微な変更行為(形状・効用の著しい変更を伴わないもの)は、持分の過半数で決定できるようになりました(改正民法251条1項)。
  • 所在不明共有者への対応:共有者の所在が不明な場合、裁判所の決定を得て、その共有者の持分を他の共有者が取得したり、第三者に譲渡したりすることが可能になりました(改正民法262条の2、262条の3)。
  • 共有物分割の方法の明文化:前述のとおり、現物分割・競売・価格賠償の各方法が条文上明確に規定されました。
  • 管理者制度の創設:共有物の管理者を選任できる制度が新設され(改正民法252条の2)、共有物の管理を効率化する道が開かれました。

これらの改正は、共有状態にある不動産の活用や共有関係の解消を促進することを目的としています。特に、所在不明共有者がいるために不動産の処分ができなかったケースでは、新制度の活用により問題解決の道が大きく広がりました。

6. 共有相続を防ぐための予防策

共有相続のリスクを回避するためには、被相続人の生前から適切な対策を講じておくことが重要です。以下に主な予防策を紹介します。

  • 遺言書の作成:不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言を作成しておくことが、最も効果的な予防策です。公正証書遺言であれば、遺言の有効性をめぐる争いを防ぐことができます。
  • 生前贈与:被相続人が生前に不動産を特定の者に贈与しておく方法です。ただし、贈与税の負担や特別受益の問題を考慮する必要があります。
  • 家族信託の活用:不動産を信託財産として受託者に管理・処分を委ね、相続発生後の共有状態を回避する方法です。認知症対策としても有効であり、近年注目されています。
  • 早期の遺産分割協議:既に共有状態が生じている場合には、問題が複雑化する前に速やかに遺産分割協議を行い、共有状態を解消することが肝要です。

弁護士に相談するメリット

不動産の共有相続に関する問題は、法律・税務・不動産実務が複雑に絡み合うため、弁護士に相談することで以下のようなメリットがあります。

  • 共有リスクの的確な把握:現在の共有状態に潜むリスクを法的観点から分析し、将来起こり得る問題を事前に把握することができます。
  • 最適な解消方法の提案:協議・持分買取り・訴訟など、ケースに応じた最適な解消方法を提案し、実行をサポートします。
  • 共有物分割請求訴訟の代理:訴訟の提起から分割方法の主張立証まで、専門的な知識と経験に基づく代理活動を行います。
  • 改正法への対応:2023年改正民法の新制度(所在不明共有者の持分取得制度等)を活用した解決策を提案します。
  • 予防策の策定:遺言書の作成や家族信託の設計など、将来の共有相続を防ぐための予防的な法的対策を提案します。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、茨城県内4拠点(牛久本部・日立支所・水戸支所・守谷支所)及び東京支所(千代田区)において、不動産の共有相続に関するご相談を承っております。共有状態の解消から予防策の策定までサポートが可能です。

まとめ

本稿では、不動産の共有相続に伴うリスクと解消方法について解説しました。要点を整理すると以下のとおりです。

  • 共有とは一つの物を複数人で所有する形態であり、管理・処分に関する意思決定に大きな制約が伴う(民法249条以下)
  • 共有相続のリスクとして、管理の困難さ、処分の制限、次世代への問題の先送り、税務負担のリスクがある
  • 解消方法には協議による分割、持分売却・買取り、共有物分割請求訴訟がある
  • 裁判所の分割方法は現物分割・競売・全面的価格賠償の3つ
  • 2023年改正民法で共有制度が見直され、所在不明共有者への対応や管理者制度が創設された
  • 遺言書の作成・家族信託の活用など、生前の予防策が極めて重要

「共有名義の不動産の扱いに困っている」「共有者と話し合いがまとまらない」「共有物分割請求訴訟を検討したい」など、不動産の共有相続に関するお悩みがございましたら、弁護士法人長瀬総合法律事務所までお気軽にご相談ください。

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相続土地国庫帰属制度とは?要件、費用、利用すべきケースを解説

2026-07-06

はじめに

「相続した土地を手放したいが、買い手も見つからず、管理だけが負担になっている」「遠方にある山林や農地を相続したが、利用する予定がまったくない」といったご相談が近年急増しています。こうした問題に対応するために、2023年4月27日に施行されたのが「相続土地国庫帰属制度」です。

この制度は、相続や遺贈によって取得した不要な土地を、一定の要件を満たした場合に国に引き渡すことができるものです。従来、不要な土地を手放す方法は、売却や寄付といった限られた手段しかありませんでしたが、本制度の創設により新たな選択肢が加わりました。本稿では、相続土地国庫帰属制度の概要と趣旨、申請要件、費用、手続きの流れ、そして利用すべきケースについて、実務的な観点から詳しく解説します。

Q&A

Q1. 相続土地国庫帰属制度とはどのような制度ですか?

A. 相続や遺贈(相続人に対する遺贈に限る)によって取得した土地を、法務大臣の承認を受けた上で、一定の負担金を納付することにより国庫に帰属させることができる制度です。2023年4月27日に施行された「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」に基づいています。

Q2. どのような土地でも申請できるのですか?

A. いいえ、すべての土地が対象となるわけではありません。建物が存在する土地、担保権が設定されている土地、境界が明らかでない土地など、一定の却下要件や不承認要件に該当する場合は申請が認められません。制度が想定しているのは、管理が比較的容易で、国が引き受けても過大な負担が生じない土地です。

Q3. 費用はどの程度かかりますか?

A. 申請時の審査手数料として土地1筆あたり1万4,000円が必要です。さらに、承認後には負担金として原則20万円を納付する必要があります。ただし、一部の市街地の宅地や農地・森林については、面積に応じて負担金が異なる場合があります。

解説

1. 制度の概要と趣旨

相続土地国庫帰属制度は、「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和3年法律第25号)に基づき、2023年4月27日に施行されました。この制度が創設された背景には、所有者不明土地の増加という深刻な社会問題があります。

人口減少や高齢化の進展に伴い、相続を契機として取得した土地の中に、利用価値が乏しく管理の負担ばかりが重い土地が増加しています。このような土地を相続人が放置すれば、やがて所有者不明土地となり、公共事業や災害復興の妨げとなるほか、近隣への悪影響も懸念されます。本制度は、こうした負担の大きい土地を国が引き取ることで、所有者不明土地の発生を予防し、土地の適正な管理・利用を促進することを目的としています。

2. 申請できる人

本制度を利用して申請できるのは、相続または相続人に対する遺贈によって土地の所有権(共有持分を含む)を取得した人です。売買や贈与によって取得した土地は対象外となります。ただし、制度施行前(2023年4月27日より前)に相続によって取得した土地についても申請が可能です。

共有地の場合は、共有者全員が共同して申請する必要があります。この場合、共有者の中に相続以外の原因(売買等)で共有持分を取得した者がいても、相続等で取得した共有者と共同で申請することが認められています。なお、法人は申請することができません。

3. 却下要件(申請が認められない土地)

以下のいずれかに該当する土地は、申請の段階で却下されます。これらは申請書や添付書類の記載から形式的に判断できる事由であり、該当する場合は審査に進むことなく申請が却下されます。

  • 建物が存在する土地:建物がある場合は、あらかじめ建物を取り壊して更地にする必要があります。
  • 担保権または使用収益権が設定されている土地:抵当権、地上権、賃借権等が設定されている場合は、事前にこれらの権利を抹消する必要があります。
  • 他人の利用が予定されている土地:通路その他の他人による使用が予定されている土地は対象外です。
  • 土壌汚染がある土地:特定有害物質により汚染されている土地は申請できません。
  • 境界が明らかでない土地・所有権の帰属や範囲に争いがある土地:隣地との境界が確定していない場合は、事前に境界確定の手続きを行う必要があります。

4. 不承認要件(審査で承認されない土地)

却下要件に該当しなくても、法務局による実地調査等の審査の結果、以下のいずれかに該当すると判断された場合は、申請が不承認となります。

  • 崖地:一定の勾配・高さを超える崖がある土地で、管理に過分の費用・労力を要するもの。
  • 地上に管理・処分を妨げる有体物がある土地:放置車両、廃棄物、樹木の過度な繁茂など、通常の管理を困難にする物がある場合。
  • 地下に管理・処分を妨げる有体物がある土地:地下埋設物(古い建物の基礎、産業廃棄物等)が存在する場合。
  • 隣接地の所有者等との訴訟が必要な土地:隣地所有者等との間で争訟が必要な土地。
  • その他通常の管理・処分に過分の費用・労力を要する土地:上記に準ずる事情がある場合には、国が引き取ることが困難と判断されます。

5. 費用(審査手数料と負担金)

本制度の利用にあたっては、主に2種類の費用が発生します。

(1)審査手数料

申請時に、土地1筆あたり1万4,000円の審査手数料を納付する必要があります。この手数料は、申請が却下・不承認となった場合でも返還されません。複数の土地を申請する場合は、筆数に応じた手数料が必要となります。

(2)負担金

承認を受けた後、10年分の管理費相当額として負担金を納付します。負担金は原則として1筆あたり20万円ですが、以下の類型の土地については面積に応じた算定方法が適用されます。

  • 宅地(一部の市街地):面積に応じて算定(例:100平方メートルで約55万円程度)
  • 農地:面積に応じて算定(面積区分ごとに単価が異なる)
  • 森林:面積に応じて算定(面積区分ごとに単価が異なる)

負担金は、承認の通知が届いてから30日以内に納付しなければなりません。期限内に納付しない場合、承認の効力が失われます。なお、負担金を納付した時点で土地の所有権が国に移転します。

6. 手続きの流れ

相続土地国庫帰属制度を利用する場合の手続きは、概ね以下の流れで進みます。

  • 事前相談(任意):法務局(本局)の担当窓口で、申請を検討している土地が制度の対象となり得るかについて相談できます。事前相談は無料で、申請前に要件を確認するために利用することをお勧めします。
  • 申請書の作成・提出:申請書に必要事項を記載し、添付書類(登記事項証明書、土地の位置・範囲を示す図面、相続を証する書類等)とともに、土地の所在地を管轄する法務局(本局)に提出します。審査手数料も申請時に納付します。
  • 書面審査・実地調査:法務局が、申請書類の審査と現地の実地調査を行います。必要に応じて申請者に資料の追加提出や事実の確認が求められることがあります。審査期間は半年から1年程度が目安です。
  • 承認・不承認の通知:審査の結果、承認または不承認の通知が届きます。不承認の場合は、理由が付記されます。
  • 負担金の納付・所有権移転:承認通知を受けてから30日以内に負担金を納付すると、土地の所有権が国に移転します。登記手続きは国が行うため、申請者が別途登記を行う必要はありません。

7. 利用すべきケース

相続土地国庫帰属制度は、すべての土地に適した制度ではありませんが、以下のようなケースでは積極的に利用を検討すべきです。

  • 遠方にある利用予定のない土地:遠方の山林・農地・原野等を相続したが、自ら利用する予定がなく、売却も困難な場合。管理費用や固定資産税の負担を将来にわたって回避できます。
  • 買い手・もらい手が見つからない土地:不動産業者に依頼しても売却できず、自治体への寄付も受け入れられない土地について、国庫帰属という新たな選択肢を活用できます。
  • 次世代への負担を避けたい場合:自分の代で不要な土地を処理しておくことで、将来の相続人に管理の負担や相続手続きの煩雑さを引き継がせずに済みます。
  • 共有状態を解消したい場合:相続によって共有状態となった土地について、共有者全員が合意できれば、共同申請によって共有関係を解消できます。
  • 相続放棄では対応できない場合:相続放棄をすると土地だけでなくすべての相続財産を放棄することになるため、預貯金等のプラスの遺産は承継しつつ不要な土地のみを手放したい場合に有効です。

一方で、市街地の利用価値が高い土地や、将来的に開発が見込まれる土地については、売却による処分のほうが経済的に有利なケースが多いため、安易に国庫帰属を選択するのではなく、売却・寄付等の他の手段と比較検討することが重要です。

弁護士に相談するメリット

相続土地国庫帰属制度の利用を検討する場合、弁護士に相談することには以下のようなメリットがあります。

  • 要件充足の事前判断:申請対象の土地が却下要件・不承認要件に該当しないかを事前に調査し、申請の見通しについて法的な観点からアドバイスします。
  • 最適な処分方法の提案:国庫帰属だけでなく、売却、寄付、相続放棄など他の選択肢と比較した上で、最もコストパフォーマンスの高い方法を提案します。
  • 申請書類の作成支援:法務局への申請書類の作成や添付書類の準備を支援し、不備による却下リスクを低減します。
  • 境界確定等の前提手続き:境界が不明確な場合の境界確定手続きや、担保権の抹消手続きなど、申請の前提として必要な法的手続きについてもサポートします。
  • 相続全体の設計:不要な土地の処分だけでなく、遺産分割全体を見据えた相続計画の立案を総合的にサポートします。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、茨城県内4拠点(牛久本部・日立支所・水戸支所・守谷支所)で相続に関するご相談を承っております。相続土地国庫帰属制度の利用を含め、不要な土地の処分についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

まとめ

本稿では、相続土地国庫帰属制度の概要、要件、費用、手続きの流れ、利用すべきケースについて解説しました。要点を整理すると以下のとおりです。

  • 相続土地国庫帰属制度は2023年4月施行の新制度であり、相続等で取得した不要な土地を国に引き渡すことができる
  • 建物がある土地、担保権が設定された土地、境界不明の土地等は却下要件に該当し申請できない
  • 崖地、土壌汚染、管理を妨げる有体物がある土地等は不承認要件に該当する
  • 審査手数料は1筆あたり1万4,000円、負担金は原則20万円(土地の種類・面積により異なる場合あり)
  • 遠方の利用予定のない土地や、売却困難な土地、次世代への負担を避けたい場合に有効な選択肢となる

相続土地国庫帰属制度は、相続した不要な土地を手放すための有力な手段ですが、要件が厳格であり、すべての土地が対象となるわけではありません。申請前の十分な検討と準備が不可欠です。「相続した土地を手放したい」「国庫帰属の要件を満たすか確認したい」などのお悩みがございましたら、弁護士法人長瀬総合法律事務所までお気軽にご相談ください。

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空き家問題と相続:管理責任、売却、相続放棄、相続土地国庫帰属制度

2026-07-05

はじめに

「相続した実家が空き家になっているが、管理も売却もできずに困っている」「空き家を放置していたら行政から通知が届いた」「いっそ相続放棄をすれば空き家の責任から解放されるのか」といったご相談が年々増加しています。

総務省の住宅・土地統計調査によれば、全国の空き家数は約900万戸に達し、空き家率は過去最高を更新し続けています。少子高齢化や都市部への人口集中を背景に、相続をきっかけとして空き家が発生するケースが急増しており、空き家問題は深刻な社会問題となっています。本稿では、空き家の現状と法的課題を整理した上で、所有者の管理責任、行政措置のリスク、そして売却・賃貸活用・解体・相続放棄・相続土地国庫帰属制度といった多様な解決策について、実務的な観点から解説します。

Q&A

Q1. 相続した空き家を放置するとどのようなリスクがありますか?

A. 空き家を放置すると、建物の老朽化による倒壊・火災のリスク、不法侵入や犯罪の温床となるリスクに加え、法的にも大きな不利益を受ける可能性があります。空家等対策の推進に関する特別措置法(空家特措法)により、「特定空家等」や「管理不全空家等」として勧告の対象になると、行政上の措置が進むことがあります。最終的に行政代執行による除却等がされ、その費用が所有者等に請求される場合もあります。また、勧告を受けると住宅用地特例の適用対象から外れ、土地にかかる固定資産税等の負担が重くなることがあります。小規模住宅用地では、固定資産税の課税標準が従前の6倍程度となる場合があります。

Q2. 空き家を相続放棄すれば管理責任から完全に解放されますか?

A. 必ずしもそうとは限りません。相続放棄をすれば空き家の所有権を承継することはありませんが、現行民法940条では、放棄の時にその財産を現に占有している者に限り、相続人又は相続財産清算人に引き渡すまでの間、その財産を保存する義務があるとされています。したがって、相続放棄後も一律に管理責任が残るわけではなく、占有の有無や相続財産清算人の選任状況を踏まえた検討が必要です。

Q3. 相続土地国庫帰属制度とはどのような制度ですか?

A. 令和5年(2023年)4月に開始された制度で、相続または遺贈により取得した土地の所有権を、法務大臣の承認を受けて国庫に帰属させることができる制度です。ただし、建物が存在する土地は対象外であるため、空き家が建っている場合は建物を解体してから申請する必要があります。また、土壌汚染や境界紛争がないことなどの要件を満たし、10年分の管理費相当額の負担金を納付する必要があります。

解説

1. 空き家問題の現状と社会問題化

日本全国の空き家数は増加の一途をたどっており、総務省の統計によれば約900万戸に達しています。空き家が発生する主な原因は、高齢者の施設入所や死亡による相続であり、特に地方部においては相続人が遠方に居住しているために管理が行き届かないケースが多く見られます。

空き家の放置は、単に個人の財産管理の問題にとどまりません。老朽化した建物の倒壊による近隣住民への被害、不審者の侵入や放火による防犯上の問題、景観の悪化や害虫・害獣の発生による衛生環境の低下など、周辺地域に深刻な悪影響を及ぼします。こうした状況を受け、国は平成27年(2015年)に空家特措法を施行し、令和5年(2023年)には改正法を施行して、空き家対策を強化しています。

2. 所有者の管理責任(民法・空家特措法)

空き家の所有者は、民法上の一般的な管理責任と、空家特措法に基づく特別の責任の両面から義務を負います。

(1)民法上の管理責任

民法717条は、土地の工作物(建物を含む)の設置または保存に瑕疵があり、他人に損害を生じた場合には、工作物の占有者または所有者が損害賠償責任を負うと定めています(工作物責任)。空き家の老朽化により屋根瓦が飛散して通行人を負傷させた場合や、外壁が崩落して隣家を損壊させた場合など、所有者は無過失責任として賠償義務を負います。所有者の責任は無過失責任であるため、「管理する余裕がなかった」「遠方に住んでいるので把握していなかった」といった事情は免責事由になりません。

(2)空家特措法に基づく管理責任

空家特措法は、空き家の所有者に対し適切な管理の努力義務を課しています(同法5条)。市町村は、空き家の実態調査を行い、所有者に対して適切な管理を促すための助言・指導を行う権限を有しています。所有者としては、定期的な巡回・清掃、庭木の手入れ、破損箇所の修繕といった基本的な管理を怠らないことが求められます。

3. 特定空家・管理不全空家の指定と行政代執行

空家特措法では、放置することが特に不適切な状態にある空き家を「特定空家等」として指定し、段階的な行政措置を講じることができると定めています。特定空家等とは、倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態、著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態、その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にある空家等をいいます。

令和5年の法改正により、新たに「管理不全空家等」の概念が導入されました。管理不全空家等とは、特定空家等には至らないものの、適切な管理が行われていないために放置すれば特定空家等に該当するおそれのある空家等をいいます。管理不全空家等に対しても、市町村は指導・勧告を行うことができ、勧告を受けると固定資産税の住宅用地特例が解除されます。

特定空家等に対する行政措置は、助言・指導、勧告、命令、行政代執行という段階で進みます。命令に従わない場合には50万円以下の過料が科される可能性があり、最終的には行政代執行として市町村が建物の解体を行い、その費用(数百万円に及ぶこともあります)を所有者に請求します。行政代執行の費用は、所有者が支払わない場合、国税徴収法の滞納処分の例により強制的に徴収されることがあります。

4. 固定資産税の住宅用地特例解除

住宅が建っている土地には、固定資産税の住宅用地特例が適用されており、200平方メートル以下の部分(小規模住宅用地)は課税標準額が6分の1に、200平方メートルを超える部分(一般住宅用地)は3分の1に軽減されています。この特例があるため、老朽化した空き家であっても建物を残しておいた方が税負担が軽くなるという事情が、空き家の放置を助長する一因となっていました。

しかし、特定空家等または管理不全空家等として勧告を受けた場合には、この住宅用地特例の適用対象から外れます。その結果、小規模住宅用地では固定資産税の課税標準が従前の6倍程度となり得ます。「建物を残しておけば常に税負担が軽い」とはいえず、管理状況によっては税務上の不利益も生じます。空き家の管理状況を定期的に確認し、早期に対策を講じることが重要です。

5. 空き家問題の解決策

空き家問題の解決策は、物件の状態、立地条件、所有者の意向、費用負担の可否等により異なります。主要な選択肢を以下に整理します。

(1)売却

空き家を売却することは、管理負担と費用負担を完全に解消できる最も効果的な方法です。相続した空き家を売却する場合、一定の要件を満たせば「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除」として、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる税制上の特例があります。この特例の適用を受けるためには、相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却することなど、複数の要件を満たす必要があります。

(2)賃貸活用

建物の状態が比較的良好であれば、賃貸物件として活用することも選択肢の一つです。近年では、空き家をリノベーションしてシェアハウスやゲストハウス、地域のコミュニティスペースとして活用する事例も増えています。自治体の空き家バンクに登録することで、借り手とのマッチングを図ることもできます。ただし、賃貸活用には修繕費用やリフォーム費用の初期投資が必要であり、賃貸需要の有無を慎重に見極めることが重要です。

(3)解体

老朽化が進み、売却も賃貸活用も困難な場合には、建物を解体して更地にすることが現実的な選択肢となります。解体費用は建物の構造や規模により異なりますが、一般的な木造住宅で100万円から300万円程度が目安です。自治体によっては空き家の解体費用に対する補助金制度を設けている場合がありますので、事前に確認することをお勧めします。なお、更地にした場合には住宅用地特例が適用されなくなるため、固定資産税が増加する点に注意が必要ですが、特定空家等に指定されて特例が解除される場合と比較すれば、計画的に解体する方が結果的に負担が軽くなる場合もあります。

(4)相続放棄

空き家以外にめぼしい相続財産がなく、空き家の管理・処分が大きな負担となる場合には、相続放棄を検討することも一つの方法です。相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述する必要があります(民法915条1項)。ただし、前述のとおり、相続放棄をしても直ちに管理義務から解放されるわけではなく、次の管理者が確定するまでの間は管理義務が継続します(民法940条)。また、相続放棄はすべての相続財産を放棄するものであり、空き家だけを選択的に放棄することはできません。プラスの遺産がある場合には、全体のバランスを考慮した判断が必要です。

(5)相続土地国庫帰属制度

令和5年(2023年)4月から施行された相続土地国庫帰属制度は、相続または遺贈によって土地の所有権を取得した者が、法務大臣の承認を受けて土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度です。不要な土地を国に引き取ってもらうことで、管理負担から解放されるというメリットがあります。ただし、建物が存在する土地は申請の対象外であるため、空き家が建っている場合には事前に建物を解体する必要があります。また、土壌汚染がないこと、境界が明らかであること、担保権や使用収益権が設定されていないこと、通路として他人に使用されていないこと等の要件を満たす必要があり、審査手数料に加えて10年分の土地管理費相当額の負担金を納付しなければなりません。負担金は原則として20万円ですが、市街地の宅地等では面積に応じて算出されます。

6. 相続前の対策

空き家問題は、相続が発生してからでは選択肢が限られてしまうことが多く、生前からの対策が極めて重要です。以下のポイントを意識して準備を進めることをお勧めします。

  • 不動産の棚卸し:被相続人が所有するすべての不動産について、所在地、現在の利用状況、建物の状態、固定資産税額などを整理し、家族間で情報を共有しておくことが重要です。
  • 生前売却の検討:将来的に空き家になることが見込まれる不動産については、被相続人が元気なうちに売却を検討することが最善の対策です。居住用財産の3,000万円特別控除は、被相続人本人が売却する場合にも適用できます。
  • 遺言書の作成:不動産の相続について遺言書で明確に定めておくことで、相続発生後の遺産分割協議の紛争を防ぎ、空き家の管理者・処分権者を早期に確定させることができます。
  • 家族信託の活用:被相続人の判断能力が低下した場合に備え、家族信託を設定して信頼できる家族に不動産の管理・処分権限を委託しておくことも有効な方法です。
  • 相続登記の義務化への対応:令和6年(2024年)4月から相続登記が義務化されました。正当な理由なく相続登記を怠ると10万円以下の過料が科される可能性があります。相続登記を速やかに行うことで、不動産の管理者・処分権者が明確になり、空き家問題の早期解決につながります。

弁護士に相談するメリット

空き家問題は、不動産法、相続法、税法、行政法など多岐にわたる法分野が関係する複合的な問題です。弁護士に相談することには以下のようなメリットがあります。

  • 最適な解決策の提案:空き家の状態、立地条件、相続関係、費用負担の可否等を総合的に分析し、売却・賃貸活用・解体・相続放棄・国庫帰属制度の中から最適な方法をアドバイスします。
  • 行政対応の支援:特定空家等や管理不全空家等の指定を受けた場合の行政との交渉、意見陳述の支援、不服申立ての手続き等を代理します。
  • 相続手続きの代行:相続放棄の申述、相続財産清算人の選任申立て、遺産分割協議の交渉・調停等、相続に関する法的手続きを包括的にサポートします。
  • 税務上の特例活用:空き家の3,000万円特別控除や小規模宅地等の特例など、税務面での最適な対策を税理士と連携して提案します。
  • 近隣トラブルへの対応:空き家に起因する近隣住民とのトラブル(倒壊の危険、越境する樹木、害虫被害等)について、法的な観点から解決を図ります。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、茨城県内4拠点(牛久本部・日立支所・水戸支所・守谷支所)及び東京支所(千代田区)で相続に関するご相談を承っております。空き家問題と相続に関するお悩みについて、初回のご相談から解決までサポートが可能です。

まとめ

本稿では、空き家問題と相続に関する法的課題と解決策について解説しました。要点を整理すると以下のとおりです。

  • 空き家の所有者は、民法上の工作物責任(無過失責任)と空家特措法上の管理責任を負う
  • 特定空家等・管理不全空家等として勧告を受けると、住宅用地特例の適用対象から外れ、土地にかかる固定資産税等の負担が重くなる
  • 解決策として売却、賃貸活用、解体、相続放棄、相続土地国庫帰属制度など多様な選択肢がある
  • 相続放棄をしても、次の管理者が確定するまで管理義務が継続する点に注意が必要
  • 相続前の対策(生前売却、遺言書作成、家族信託、相続登記の義務化対応)が空き家問題の予防に効果的

空き家問題は放置すればするほど選択肢が狭まり、費用負担も増大します。「相続した空き家の処分に困っている」「行政から空き家について通知が届いた」「相続前に不動産の対策を検討したい」など、空き家と相続に関するお悩みがございましたら、弁護士法人長瀬総合法律事務所までお気軽にご相談ください。

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相続した不動産を売却する方法:タイミング、税金(譲渡所得税)、注意点

2026-07-04

はじめに

相続によって不動産を取得したものの、「自分では使う予定がない」「維持管理が負担になる」「相続税の納税資金を確保したい」といった理由から売却を検討される方は少なくありません。しかし、相続した不動産を売却するためには、通常の不動産売却とは異なる手順を踏む必要があり、また税金面でも特有の制度や特例を理解しておくことが不可欠です。

本稿では、相続不動産の売却の流れ(相続登記から売買契約まで)、譲渡所得税の計算方法、取得費加算の特例や空き家の3,000万円特別控除といった税制上の優遇措置、売却のタイミングの考え方、さらに換価分割との関係まで、体系的に解説します。相続した不動産の売却を検討されている方の参考としてお役立てください。

Q&A

Q1. 相続した不動産を売却するには、まず何をすればよいですか?

A. まず相続登記(所有権移転登記)を行い、不動産の名義を被相続人から相続人に変更する必要があります。登記が完了しなければ、不動産を第三者に売却することはできません。2024年4月1日から相続登記が義務化されており、相続の開始を知った日から3年以内に申請しなければなりません。

Q2. 相続した不動産を売却した場合、どのような税金がかかりますか?

A. 売却益(譲渡所得)に対して譲渡所得税(所得税・住民税・復興特別所得税)が課されます。譲渡所得は「売却価格-(取得費+譲渡費用)」で計算されます。被相続人が不動産を取得してからの保有期間に応じて、長期譲渡所得(5年超:税率約20.315%)と短期譲渡所得(5年以下:税率約39.63%)に区分されます。

Q3. 相続不動産の売却で利用できる税金の特例はありますか?

A. 主な特例として、(1)相続税の取得費加算の特例(相続税額の一部を取得費に上乗せできる制度)、(2)空き家の3,000万円特別控除(被相続人が一人暮らしをしていた自宅を売却する場合に譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度)があります。いずれも適用要件や申告期限がありますので、早めに確認することが重要です。

解説

1. 相続不動産の売却の流れ

相続した不動産を売却するためには、通常の不動産売却とは異なり、まず相続に関する手続きを完了させる必要があります。具体的な流れは以下のとおりです。

(1)遺産分割協議の成立

相続人が複数いる場合は、まず遺産分割協議を行い、対象不動産を誰が取得するかを確定させます。遺言書がある場合はその内容に従いますが、遺言書がない場合は相続人全員の合意が必要です。後述する換価分割の方法を採る場合は、売却代金の分配方法もこの段階で取り決めておきます。

(2)相続登記(所有権移転登記)

遺産分割協議が成立したら、法務局に相続登記を申請し、不動産の名義を被相続人から取得者(相続人)に変更します。必要書類としては、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、遺産分割協議書、相続人全員の印鑑証明書、不動産の固定資産評価証明書などが必要です。2024年4月1日からは相続登記が義務化されており、正当な理由なく3年以内に申請しない場合は10万円以下の過料が科される可能性があります。

(3)不動産の査定・価格調査

相続登記が完了したら、不動産会社に査定を依頼し、売却価格の目安を把握します。複数の不動産会社から査定を取ることで、適正な市場価格を見極めることができます。相続税の申告で使用した不動産評価額と実際の市場価格は異なることが多いため、改めて査定を受けることが重要です。

(4)媒介契約の締結と売却活動

不動産会社と媒介契約(一般媒介・専任媒介・専属専任媒介のいずれか)を締結し、買主の募集・売却活動を開始します。相続不動産の場合、建物が老朽化しているケースも多く、更地にして売却するか、現況のまま売却するかを検討する必要があります。

(5)売買契約の締結と引渡し

買主が見つかったら売買契約を締結し、決済・引渡しを行います。売却代金から仲介手数料、登記費用、測量費用などの諸費用を差し引いた金額が手取り額となります。換価分割の場合は、取り決めに従って相続人間で代金を分配します。

2. 譲渡所得税の計算方法

相続した不動産を売却して利益(譲渡所得)が生じた場合、譲渡所得税が課されます。譲渡所得の計算式と税率を正確に理解しておくことが重要です。

【譲渡所得の計算式】

  • 譲渡所得=売却価格-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
  • 取得費:被相続人がその不動産を購入した際の金額(建物は減価償却後の金額)を引き継ぎます。購入時の契約書等が見つからない場合は、売却価格の5%を概算取得費として用いることができますが、実際の取得費が判明している場合に比べて税負担が大幅に増える可能性があります。
  • 譲渡費用:売却に直接かかった費用で、仲介手数料、測量費、建物の解体費用、売買契約書の印紙税などが含まれます。

【税率】

  • 長期譲渡所得(所有期間5年超):所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%=合計約20.315%
  • 短期譲渡所得(所有期間5年以下):所得税30%+住民税9%+復興特別所得税0.63%=合計約39.63%

相続により取得した不動産の場合、所有期間は被相続人が取得した日から起算されます。したがって、被相続人が長期間保有していた不動産であれば、相続後すぐに売却しても長期譲渡所得の税率が適用される点は大きなメリットです。

3. 相続税の取得費加算の特例

相続により取得した不動産を、相続税の申告期限の翌日から3年以内(相続開始日から3年10か月以内)に売却した場合、支払った相続税額の一部を取得費に加算することができます(租税特別措置法39条)。この特例を「相続税の取得費加算の特例」といいます。

【取得費に加算できる相続税額の計算式】

  • 取得費加算額=その者の相続税額×(売却した資産の相続税評価額÷その者の相続税の課税価格の合計額)

例えば、相続税を1,000万円納付し、課税価格の合計が1億円、売却した不動産の相続税評価額が3,000万円の場合、取得費に加算できる金額は1,000万円×(3,000万円÷1億円)=300万円となります。この300万円が取得費に上乗せされることで、譲渡所得が圧縮され、結果として税負担が軽減されます。

【適用要件】

  • 相続または遺贈により財産を取得した者であること
  • その財産を取得した者に相続税が課されていること
  • 相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却すること

この特例は確定申告によって適用を受ける必要があります。期限を過ぎてしまうと適用を受けられなくなるため、売却のタイミングには十分注意してください。

4. 空き家の3,000万円特別控除

相続により取得した被相続人の居住用家屋(空き家)またはその敷地を売却した場合に、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があります(租税特別措置法35条3項)。空き家対策の推進を目的として創設された制度です。

【主な適用要件】

  • 被相続人が相続開始直前に一人暮らしをしていた家屋であること(老人ホーム等に入所していた場合も一定の要件を満たせば適用可能)
  • 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された家屋であること(旧耐震基準の建物)
  • 相続開始から売却時まで、居住・貸付け・事業の用に供されていないこと
  • 売却価格が1億円以下であること
  • 相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること

なお、2024年1月1日以降の売却については、相続人が3人以上の場合は控除額が1人あたり2,000万円に縮減されます。また、売却前に耐震リフォームを実施するか、家屋を解体して更地にして売却する必要がありましたが、2024年1月1日以降は売却後に買主が耐震リフォームまたは解体を行った場合でも適用が可能となりました。この特例は取得費加算の特例と併用することはできないため、どちらが有利かを事前に比較検討する必要があります。

5. 売却のタイミングの考え方

相続不動産の売却においては、タイミングが税額に大きく影響します。以下のポイントを考慮して売却時期を判断することが重要です。

  • 取得費加算の特例の期限(相続開始から3年10か月以内):この期限を過ぎると相続税額を取得費に加算できなくなるため、相続税を納付している場合は期限内の売却が有利です。
  • 空き家特例の期限(相続開始から3年後の年末まで):空き家特例の適用を受けるためには、この期限までに売却を完了する必要があります。
  • 相続税の納税資金の確保:相続税の申告・納付期限は相続開始から10か月以内です。納税資金が不足する場合は、申告期限までに売却を進める計画を立てる必要があります。
  • 不動産市況の動向:税制上の期限だけでなく、不動産市場の動向も売却タイミングを判断する重要な要素です。ただし、特例の期限を優先すべきケースが多い点に留意してください。

6. 換価分割との関係

換価分割とは、相続財産(不動産など)を売却し、その売却代金を相続人間で分配する遺産分割の方法です。相続人の誰も不動産を取得する意思がない場合や、不動産の現物分割が困難な場合に用いられます。

換価分割を行う場合の実務上のポイントは以下のとおりです。まず、遺産分割協議書に「不動産を売却し、売却代金から諸費用を控除した残額を各相続人が○○の割合で取得する」旨を明記します。形式的には、一人の相続人名義に相続登記をしたうえで売却し、代金を分配するのが一般的です。

換価分割の場合、譲渡所得税は各相続人が取得した売却代金の割合に応じてそれぞれ申告・納税する必要があります。遺産分割協議書に換価分割である旨が明記されていないと、名義人から他の相続人への贈与と認定されるリスクがあるため、協議書の記載内容には十分注意が必要です。また、各相続人がそれぞれ取得費加算の特例や空き家特例の適用要件を満たしているかを個別に確認することも重要です。

弁護士に相談するメリット

相続不動産の売却は、相続手続き・不動産取引・税務の各分野にまたがる複合的な問題です。弁護士に相談することで、以下のようなメリットがあります。

  • 遺産分割協議の円滑化:不動産の売却方針や代金の分配方法について、相続人間の合意形成をスムーズに進めるためのサポートを行います。
  • 換価分割の適切な実行:贈与認定リスクを回避するために、遺産分割協議書の記載内容を適切に作成し、手続き全体を管理します。
  • 税理士等との連携:取得費加算の特例や空き家特例の適用判断については、税理士と連携して最適な売却戦略を立案します。
  • 売却トラブルへの対応:境界紛争、瑕疵担保責任(契約不適合責任)、共有持分の問題など、売却に伴うトラブルに法的に対応します。
  • 売却期限の管理:各種特例の適用期限を意識したスケジュール管理を行い、期限徒過による不利益を防止します。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、茨城県内4拠点(牛久本部・日立支所・水戸支所・守谷支所)及び東京支所(千代田区)において、相続不動産の売却を含む相続問題に関するご相談を承っております。遺産分割協議の段階から売却完了まで、ワンストップでのサポートが可能です。

まとめ

本稿では、相続した不動産の売却について、手続きの流れから税金の特例まで解説しました。要点を整理すると以下のとおりです。

  • 売却には相続登記が必須であり、2024年4月から義務化(3年以内の申請が必要)
  • 譲渡所得税の計算では取得費・譲渡費用を正確に把握し、長期・短期の税率区分を確認する
  • 相続税の取得費加算の特例は相続開始から3年10か月以内の売却が条件
  • 空き家の3,000万円特別控除は旧耐震基準の家屋等が対象で、原則として相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、かつ現行制度上は令和9年12月31日までの譲渡が要件
  • 取得費加算の特例と空き家特例は併用不可のため、有利な方を選択する必要がある
  • 換価分割では遺産分割協議書の記載内容が重要であり、贈与認定リスクに注意

「相続した不動産を売却したいが手順がわからない」「税金の特例を活用して少しでも税負担を抑えたい」「換価分割を円滑に進めたい」など、相続不動産の売却に関するお悩みがございましたら、弁護士法人長瀬総合法律事務所までお気軽にご相談ください。

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【義務化】相続登記の申請方法:必要書類、費用(登録免許税)、期限と罰則

2026-07-03

はじめに

2024年4月1日、改正不動産登記法が施行され、相続登記の申請が義務化されました。これにより、不動産を相続した方は、相続の開始および所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。正当な理由なくこの義務を怠った場合には、10万円以下の過料が科される可能性があります。

この義務化は、所有者不明土地問題の解消を目的として導入されたものであり、施行日前に発生した相続にも遡及して適用される点が大きな特徴です。「まだ相続登記を済ませていない」「手続きの方法がよく分からない」という方は、早急に対応を検討する必要があります。本稿では、相続登記の義務化の全体像、申請に必要な書類、費用(登録免許税)、期限と罰則、そして新設された相続人申告登記制度について、実務的な観点から解説します。

Q&A

Q1. 相続登記の義務化とは何ですか?いつまでに手続きが必要ですか?

A. 2024年4月1日施行の改正不動産登記法により、不動産を相続で取得した方は、相続の開始および所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する義務が課されました。この義務は施行日前に発生した相続にも適用され、その場合は2027年3月31日が期限となります。正当な理由なく期限を過ぎると10万円以下の過料の対象となります。

Q2. 相続登記にはどのような書類が必要ですか?

A. 主な必要書類は、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式、被相続人の住民票の除票、相続人全員の戸籍謄本、不動産を取得する相続人の住民票、対象不動産の固定資産評価証明書、遺産分割協議書(協議による場合)と相続人全員の印鑑証明書などです。遺言書がある場合は、遺言書も必要となります。

Q3. 相続登記の費用はどのくらいかかりますか?

A. 相続登記の費用は、主に登録免許税と書類取得費用で構成されます。登録免許税は、不動産の固定資産税評価額の0.4%です。例えば、評価額2,000万円の不動産であれば8万円となります。このほか、戸籍謄本等の取得費用として数千円から1万円程度、司法書士に依頼する場合は報酬として5万円から15万円程度が目安です。

解説

1. 相続登記義務化の背景と概要

日本では長年にわたり、相続が発生しても不動産の名義変更(相続登記)が行われないケースが多数存在してきました。その結果、登記簿上の所有者が死亡したまま放置され、現在の真の所有者が誰なのか分からない「所有者不明土地」が全国で増加し、公共事業の用地取得や災害復旧、土地の有効活用に深刻な支障をきたしていました。

こうした問題を解消するため、2021年に不動産登記法が改正され、2024年4月1日から相続登記の申請が義務化されました。改正法の骨子は以下のとおりです。

  • 申請義務:不動産を相続により取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ当該不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請しなければなりません(不動産登記法第76条の2)。
  • 過料の制裁:正当な理由がないにもかかわらず申請を怠った場合、10万円以下の過料に処される可能性があります(不動産登記法第164条)。
  • 遡及適用:施行日(2024年4月1日)より前に発生した相続についても義務化の対象となります。この場合、施行日から3年間(2027年3月31日まで)が申請期限です。

2. 相続登記の申請に必要な書類

相続登記の申請にあたっては、相続の原因(法定相続・遺産分割・遺言)によって必要書類が若干異なりますが、共通して求められる主な書類は以下のとおりです。

  • 被相続人の戸籍謄本等:出生から死亡までの連続した戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本が必要です。これにより相続人の範囲を確定します。
  • 被相続人の住民票の除票:登記簿上の住所と最後の住所地を結びつけるために必要です。
  • 相続人全員の戸籍謄本:現在の戸籍謄本により、相続人が存命であることを証明します。
  • 不動産取得者の住民票:新たに登記名義人となる相続人の住所を証明するために必要です。
  • 固定資産評価証明書:登録免許税の計算の基礎となる不動産の評価額を証明する書類です。市区町村役場で取得できます。
  • 遺産分割協議書・印鑑証明書:遺産分割協議により特定の相続人が不動産を取得する場合に必要です。相続人全員の署名・押印(実印)と印鑑証明書を添付します。
  • 遺言書:遺言による相続の場合は遺言書を添付します。自筆証書遺言の場合は家庭裁判所の検認済証明書も必要です(法務局保管制度を利用した場合を除く)。

3. 登録免許税の計算と費用の目安

相続登記にかかる費用のうち、最も大きな割合を占めるのが登録免許税です。相続を原因とする所有権移転登記の登録免許税は、不動産の固定資産税評価額の1,000分の4(0.4%)と定められています(登録免許税法別表第1)。

【計算例】

  • 固定資産税評価額1,000万円の土地 → 登録免許税4万円
  • 固定資産税評価額2,000万円の建物 → 登録免許税8万円
  • 土地・建物合計3,000万円 → 登録免許税12万円

なお、一定の要件を満たす場合には免税措置が適用されることがあります。例えば、相続により土地を取得した方が相続登記をしないで死亡した場合の再転相続に係る登記や、不動産の価額が100万円以下の土地に係る相続登記については、登録免許税が免除される特例があります。このほか、戸籍謄本等の取得費用(1通450円〜750円程度)、登記事項証明書の取得費用(1通480円〜600円)なども必要となります。

4. 相続人申告登記制度

相続登記の義務化に伴い、新たに「相続人申告登記」制度が創設されました(不動産登記法第76条の3)。これは、遺産分割協議がまとまらないなどの事情により、3年以内に正式な相続登記を行うことが難しい場合に、簡易的に義務を履行するための制度です。

相続人申告登記では、相続人が法務局に対し、登記簿上の所有者について相続が開始したこと、および自らがその相続人であることを申し出ることにより、申請義務を履行したものとみなされます。この制度の主な特徴は以下のとおりです。

  • 簡易な手続き:相続人が単独で申出を行うことができ、他の相続人の協力は不要です。必要書類も、申出をする相続人自身が被相続人の相続人であることが分かる戸籍謄本等で足ります。
  • 持分の登記は不要:通常の相続登記と異なり、相続人の法定相続分を登記する必要はありません。「相続人である」という事実のみが登記されます。
  • 暫定的な措置:相続人申告登記はあくまで暫定的な措置であり、不動産の権利関係を確定させるものではありません。遺産分割協議が成立した場合には、その日から3年以内に正式な相続登記を行う必要があります。
  • 登録免許税が非課税:相続人申告登記の申出には登録免許税がかかりません。費用面の負担を抑えつつ、義務を履行できる点もメリットです。

5. 期限と罰則:正当な理由の判断基準

相続登記の申請義務に違反した場合の過料は10万円以下とされていますが、「正当な理由」がある場合には過料は科されません。法務省が公表した通達によれば、正当な理由として認められ得る事情には以下のようなものがあります。

  • 相続人が極めて多数に上り、戸籍謄本等の収集や他の相続人の把握に多くの時間を要する場合
  • 遺言の有効性や遺産の範囲等が争われている場合
  • 相続登記の義務を負う者自身に重病等の事情がある場合
  • 経済的な困窮により登記申請の費用を負担する能力がない場合

ただし、単に「手続きが面倒だった」「費用がもったいない」といった理由は正当な理由とは認められません。過料の適用にあたっては、登記官がまず相続人に対して催告を行い、それでも申請がなされない場合に裁判所に過料事件の通知を行うという手順が想定されています。いきなり過料が科されるわけではありませんが、催告を受けた段階で速やかに対応することが重要です。

弁護士に相談するメリット

相続登記の義務化により、これまで先送りにしていた手続きに早急に取り組む必要が生じています。弁護士に相談することには以下のようなメリットがあります。

  • 相続関係の調査・整理:戸籍謄本の収集や相続人の確定作業を代行し、複雑な相続関係を正確に整理します。数次相続や代襲相続が絡むケースでも的確に対応できます。
  • 遺産分割協議の支援:相続人間で意見が対立している場合にも、法的知識に基づいた助言と交渉により、円滑な遺産分割協議の成立をサポートします。
  • 期限管理とリスク回避:申請期限を適切に管理し、過料のリスクを回避するための最適な方法(正式な相続登記または相続人申告登記)を提案します。
  • 関連する法的問題への対応:相続登記に付随する相続税の問題、遺留分侵害額請求、相続放棄の検討など、関連する法的課題についてもワンストップで対応が可能です。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、茨城県内4拠点(牛久本部・日立支所・水戸支所・守谷支所)及び東京支所(千代田区)で相続登記に関するご相談を承っております。義務化への対応から遺産分割協議まで、一貫したサポートが可能です。

まとめ

本稿では、相続登記の義務化について、申請方法、必要書類、費用、期限と罰則を解説しました。要点を整理すると以下のとおりです。

  • 2024年4月1日から相続登記の申請が義務化され、3年以内の登記申請が求められる
  • 施行前に発生した相続にも遡及適用され、2027年3月31日が期限となる
  • 正当な理由なく申請を怠った場合は10万円以下の過料が科される可能性がある
  • 登録免許税は固定資産税評価額の0.4%で、一定の免税措置もある
  • 遺産分割が未了の場合は相続人申告登記制度を活用して義務を履行できる
  • 必要書類の収集や手続きが複雑な場合は、早期に専門家へ相談することが重要

相続登記の義務化は、すべての不動産所有者に関わる重要な法改正です。特に、過去に相続が発生したにもかかわらず登記を行っていない方は、2027年3月31日の期限に向けて速やかな対応が必要です。「何から手をつければよいか分からない」「相続人間で話し合いがまとまらない」など、相続登記に関するお悩みがございましたら、弁護士法人長瀬総合法律事務所までお気軽にご相談ください。

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