遺留分を請求された側の対処法:反論のポイントと交渉戦略

はじめに

遺留分侵害額請求を受けた場合、「突然、多額の金銭を支払えと言われた」「遺言どおりに相続したのに、なぜ請求されるのか」と困惑される方は少なくありません。遺留分は法律で保障された相続人の最低限の取り分であるため、請求自体を完全に拒否することは困難です。しかし、請求された金額がそのまま認められるとは限らず、適切な反論や交渉によって支払額を減額できる可能性があります。

本稿では、遺留分侵害額請求を受けた側の立場から、初動対応の留意点、遺留分侵害額の検証方法、具体的な反論のポイント、交渉戦略、そして民法1047条5項に基づく期限の許与について、実務的な観点から解説します。請求を受けた際に冷静かつ適切に対応するための知識を整理し、弁護士に相談するメリットについてもお伝えします。

Q&A

Q1. 遺留分侵害額請求を受けましたが、支払いを拒否できますか?

A. 遺留分は法律上保障された権利であるため、請求自体を拒否することは原則としてできません。ただし、請求額が適正かどうかを検証することは重要です。遺留分の算定基礎となる財産の範囲や評価額に争いがある場合、相手方の主張する金額が過大である可能性があります。また、消滅時効が完成している場合には、時効の援用により請求を退けることも考えられます。

Q2. 遺留分侵害額の支払いを一括で行う余裕がありません。分割払いは可能ですか?

A. 当事者間の合意により分割払いとすることは可能です。さらに、民法1047条5項は、裁判所が相当の期限を許与できる旨を定めています。遺留分侵害額に相当する金銭の支払いが直ちに困難な場合には、裁判所に対して期限の許与を求めることで、支払いの猶予を得られる可能性があります。

Q3. 請求者が生前に多額の贈与を受けていた場合、反論に使えますか?

A. はい、請求者自身が被相続人から特別受益(生前贈与)を受けていた場合、その贈与額は遺留分の算定において考慮されます。具体的には、請求者の特別受益は遺留分額から控除されるため、遺留分侵害額が減少する可能性があります。請求者側の特別受益を適切に主張・立証することは、有効な反論手段の一つです。

解説

1. 請求を受けた際の初動対応

遺留分侵害額請求の通知(内容証明郵便等)を受け取った場合、まず冷静に対応することが重要です。感情的に反応して直ちに拒否の回答をしたり、逆に慌てて全額の支払いに応じたりすることは避けるべきです。初動対応として以下の点を確認してください。

  • 請求の内容確認:通知書に記載された請求額、算定根拠、請求の法的根拠を正確に把握します。
  • 時効の確認:遺留分侵害額請求権は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年で消滅時効にかかります(民法1048条)。また、相続開始から10年の除斥期間もあります。請求が期間内になされているかを確認します。
  • 遺言書の確認:遺言の内容を改めて精査し、遺留分侵害の有無及び範囲を検討します。
  • 早期の専門家相談:請求内容の適否を判断するために、できるだけ早い段階で弁護士に相談することをお勧めします。回答期限が設定されている場合でも、弁護士を通じて回答期限の延長を求めることが可能です。

2. 遺留分侵害額の検証(算定基礎財産の確認)

請求を受けた側として最も重要な作業は、相手方が主張する遺留分侵害額が正当かどうかを検証することです。遺留分侵害額は、遺留分算定の基礎となる財産額を出発点として計算されます。具体的には、被相続人が相続開始時に有していた財産の価額に、一定の生前贈与の価額を加算し、債務を控除した額が算定基礎財産となります(民法1043条)。

この算定基礎財産の確認においては、個々の財産の評価額が争点となることが多く、不動産の時価評価、非上場株式の評価、動産の評価などについて、相手方の主張と異なる評価額を提示できる余地がないかを検討する必要があります。特に不動産については、固定資産税評価額、路線価、実勢価格のいずれを基準とするかで金額が大きく変わることがあり、適正な評価方法を選択することが重要です。

3. 反論のポイント

(1)財産評価の争い

遺留分侵害額の算定において、財産の評価額は結論に直結する重要な要素です。不動産について、相手方が実勢価格に基づく高額な評価を主張している場合でも、適切な不動産鑑定を実施することで、より適正な評価額を導くことができる場合があります。複数の評価方法を比較検討し、合理的な評価額を主張することが反論の第一歩です。

(2)特別受益の主張

遺留分を請求する側(遺留分権利者)が、被相続人から生前に特別受益(住宅購入資金の援助、事業資金の提供、高額な学費の負担等)を受けていた場合、その特別受益は遺留分額の算定において考慮されます。遺留分権利者の特別受益は、遺留分額から控除されるため、遺留分侵害額を減少させる効果があります。請求者の過去の贈与を調査し、特別受益として主張することは極めて有効な反論手段です。

(3)生前贈与の範囲

遺留分算定の基礎に含まれる生前贈与の範囲については、2019年の民法改正により、相続人に対する生前贈与は原則として相続開始前10年間のものに限定されました(民法1044条3項)。相手方が10年より前の贈与を算定基礎に含めている場合には、この期間制限を主張して排除を求めることができます。ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行った贈与については、この期間制限は適用されません。

(4)時効の援用

遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと、時効により消滅します(民法1048条前段)。また、相続開始の時から10年を経過した場合も同様です(同条後段)。相手方の請求がこれらの期間を経過した後になされている場合には、時効を援用することで請求を退けることが可能です。時効の起算点(いつ「知った」といえるか)が争点となることも多いため、慎重な検討が必要です。

4. 交渉戦略

(1)分割払いの提案

遺留分侵害額に相当する金銭を一括で支払うことが困難な場合、分割払いでの和解を提案することは現実的な交渉戦略です。特に、相続した財産が不動産中心で手元の現金が不足している場合には、不動産の売却に要する期間等を考慮した分割払いのスケジュールを提示することが合理的です。分割払いの合意に際しては、遅延損害金の利率や期限の利益喪失条項など、条件を明確に取り決めておくことが重要です。

(2)和解条件の検討

遺留分に関する紛争は、訴訟に発展すると長期化・高コスト化するリスクがあります。双方にとって合理的な解決を図るため、和解による早期解決を目指すことも重要な選択肢です。和解交渉においては、前述の反論ポイント(財産評価、特別受益、生前贈与の範囲等)を踏まえた減額交渉を行いつつ、相手方にとっても受け入れやすい条件(支払方法の柔軟性、代償金の支払時期等)を提示することで、円満な解決に至る可能性が高まります。

5. 期限の許与(民法1047条5項)

2019年の民法改正により、遺留分侵害額請求は金銭債権として構成されることになりましたが、直ちに金銭の支払いが困難な場合に対応するため、民法1047条5項は裁判所による期限の許与制度を設けています。これは、受遺者又は受贈者の請求により、裁判所が遺留分侵害額に相当する金銭の全部又は一部の支払いにつき、相当の期限を許与することができるというものです。

期限の許与が認められるためには、直ちに金銭の支払いをすることが困難であるという事情が必要です。例えば、相続した財産が不動産のみで換価に時間を要する場合や、事業用資産を処分すると事業の継続に支障が生じる場合などが想定されています。期限の許与の申立ては訴訟手続きの中で行う必要がありますが、この制度の存在を踏まえた交渉を行うことで、当事者間の協議段階でも合理的な支払猶予を得られる場合があります。

弁護士に相談するメリット

遺留分侵害額請求を受けた場合、適切な対応を行うためには法的知識と実務経験が不可欠です。弁護士に相談することで、以下のようなメリットが得られます。

  • 請求額の適正性の検証:相手方が主張する遺留分侵害額について、算定基礎財産の範囲や財産評価額の適正性を法的観点から精査し、不当に高額な請求に対して適切な反論を構築します。
  • 反論材料の整理と立証:特別受益の有無、生前贈与の範囲、時効の成否など、有効な反論ポイントを洗い出し、必要な証拠の収集・整理を行います。
  • 交渉の代理:感情的な対立が避けられない相続紛争において、弁護士が代理人として冷静かつ戦略的な交渉を行い、依頼者にとって最善の条件での解決を目指します。
  • 訴訟対応と期限の許与:交渉で解決に至らない場合の訴訟対応や、民法1047条5項に基づく期限の許与の申立てなど、裁判手続きにおける専門的な支援を提供します。
  • 総合的な解決策の提案:分割払い、代物弁済、不動産の共有解消など、依頼者の資産状況に応じた多角的な解決策を検討・提案します。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、茨城県内4拠点(牛久本部・日立支所・水戸支所・守谷支所)で遺留分に関するご相談を承っております。遺留分侵害額請求を受けた方の代理人として、適正な金額の検証から交渉・訴訟対応まで、一貫したサポートが可能です。

まとめ

本稿では、遺留分侵害額請求を受けた側の対処法について、初動対応から反論のポイント、交渉戦略まで解説しました。要点を整理すると以下のとおりです。

  • 請求を受けたら冷静に内容を確認し、時効の有無や遺言書の内容を精査した上で、早期に弁護士に相談する
  • 算定基礎財産の範囲と各財産の評価額を検証し、相手方の請求額の適正性を確認する
  • 財産評価の争い、特別受益の主張、生前贈与の範囲の限定、時効の援用など、複数の反論ポイントを検討する
  • 分割払いや和解条件の柔軟な提案により、双方にとって合理的な解決を目指す
  • 民法1047条5項の期限の許与制度を活用し、支払いの猶予を確保する

遺留分侵害額請求を受けた場合、適切な対応を怠ると不必要に高額な支払いを余儀なくされるおそれがあります。一方で、法的に有効な反論を行い、戦略的に交渉を進めることで、合理的な解決を実現できる可能性があります。遺留分侵害額請求への対応でお悩みの方は、弁護士法人長瀬総合法律事務所までお気軽にご相談ください。

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