平成30年7月相続法改正について
民法には、人が死亡した場合に、その人(被相続人)の財産がどのように承継されるかなどに関する基本的なルールが定められており、この部分は「相続法」などと呼ばれています。
この相続法については、昭和55年に改正されて以来、大きな見直しがされてきませんでした。
一方、この間、我が国における平均寿命は延び、社会の高齢化が進展するなどの社会経済の変化が生じてきました。
そこで、このような変化に対応するために、相続法に関するルールを大きく見直し、平成 30 年 7 月に、相続法制の見直しを内容とする「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」と、法務局において遺言書を保管するサービスを行うこと等を内容とする「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立しました。
具体的には、
(1)被相続人の死亡により残された配偶者の生活への配慮等の観点から、
- ① 配偶者居住権の創設
- ② 婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置
(2)遺言の利用を促進し、相続をめぐる紛争を防止する観点から、
- ① 自筆証書遺言の方式緩和
- ② 法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設 (遺言書保管法)
(3)その他、預貯金の払戻し制度の創設、遺留分制度の見直し、特別の寄与の制度の創設などの改正が行われました。
check! 経過措置について
改正法は、いつの時点から適用されるのでしょうか。
原則:相続開始時を基準とする旧法主義を採用
改正法は施行日後に開始した相続について適用され、施行日前に開始した相続については、旧法が適用されます。なお、改正法はそれぞれ施行日が異なりますので注意してください。
例外:以下の規律については原則と異なる経過措置が置かれています
① 権利の承継の対抗要件(法附則第3条)
受益相続人による通知を認める特例(第899条の2)については、施行日前に開始した相続について遺産分割により承継が行われる場合について、適用されます。
② 夫婦間における居住用不動産の贈与等(法附則第4条)
新法の規定(第903条第4項)については、施行日後に行われた贈与等について適用されます(相続開始が施行日以後であっても、施行日前にされた贈与等については適用されません)。
③ 遺産分割前の預貯金の払戻し制度(法附則第5条)
新法主義を採用(相続開始が施行日前であっても適用されます)。
④ 自筆証書遺言の方式緩和(法附則第6条)
新法の規定(第968条)については、施行日後に作成された遺言について適用されます(相続開始が施行日以後であっても、施行日前に作成された遺言については適用されません)。
⑤ 配偶者の居住の権利(法附則第10条)
施行日前にされた配偶者居住権の遺贈は無効となります。
配偶者居住権の創設
【令和2年4月1日(水)施行】
配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合に、配偶者は、 遺産分割において配偶者居住権を取得することにより、終身又は一定期間、その建物に無償で居住することができるようになりました。被相続人が遺贈等によって配偶者に配偶者居住権を取得させることもできます。
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平成30年改正「配偶者居住権の創設」(令和2年4月1日施行)
婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置
【令和元年7月1日(月)施行】
婚姻期間が20年以上である夫婦間で居住用不動産(居住用建物又はその敷地)の遺贈又は贈与がされた場合については、原則として、遺産分割における配偶者の取り分が増えることになりました。
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平成30年改正「婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置」(令和元年7月1日施行)
預貯金の払戻し制度の創設
【令和元年7月1日(月)施行】
預貯金が遺産分割の対象となる場合に、各相続人は、遺産分割が終わる前でも、一定の範囲で預貯金の払戻しを受けることができるようになりました。
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平成30年改正「預貯金の払戻し制度の創設」(令和元年7月1日施行)
一部の遺産分割の明文化
【令和元年7月1日(月)施行】
遺産の一部分割について、協議で遺産分割が行えることを明確にしたとともに、家庭裁判所に遺産分割の調停又は審判を求める場合にも、遺産の一部の分割を請求できるようになりました。
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平成30年改正「一部の遺産分割の明文化」(令和元年7月1日施行)
遺産分割前に遺産が処分された場合の遺産の範囲
【令和元年7月1日(月)施行】
遺産分割前に遺産を処分された場合でも、一定の要件のもと、処分された遺産を遺産分割の対象とすることができるようになりました。
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平成30年改正「遺産分割前に遺産が処分された場合の遺産の範囲」(令和元年7月1日施行)
自筆証書遺言の方式緩和
【平成31年1月13日(日)施行】
自筆証書遺言に関し、財産目録については手書きで作成する必要がなくなりました。※もっとも、財産目録の各頁に署名押印をする必要があります。
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平成30年改正「自筆証書遺言の方式緩和」(平成31年1月13日施行)
法務局における自筆証書遺言書保管制度の創設
【令和2年7月10日(金)施行】
全国 300か所以上の法務局(本局・支局)で、自筆証書遺言を保管できるようになりました。遺言書保管所で保管された遺言書については、家庭裁判所での検認が不要となります。
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平成30年改正「法務局における自筆証書遺言書保管制度の創設」(令和2年7月10日施行)
遺言による相続の対抗要件
【令和元年7月1日(月)施行】
遺言により、法定相続分より多い額を相続した場合、登記などの対抗要件を備えないと、所有権について第三者に対抗できなくなりました。
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平成30年改正「遺言による相続の対抗要件」(令和元年7月1日施行)
遺留分制度の見直し
【令和元年7月1日(月)施行】
- (1)遺留分を侵害された者は、遺贈や贈与を受けた者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の請求をすることができるようになりました。
- (2)遺贈や贈与を受けた者が金銭を直ちに準備することができない場合には、裁判所に対し、支払期限の猶予を求めることができます。
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平成30年改正「遺留分制度の見直し」(令和元年7月1日施行)
特別の寄与の制度の創設
【令和元年7月1日(月)施行】
相続人以外の被相続人の親族が無償で被相続人の療養看護等を行った場合には、相続人に対して金銭の請求をすることができるようになりました。
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平成30年改正「特別の寄与の制度の創設」(令和元年7月1日施行)