はじめに
「子や孫に財産を渡したいが、贈与税がかかるのが心配」「生前贈与で相続税を減らしたいが、どの制度を使えばよいかわからない」といったご相談は、相続対策を検討される方から多く寄せられます。
贈与税は、個人から財産を無償で受け取った場合に課される税金ですが、法律上認められた各種の非課税制度や控除を正しく活用すれば、合法的に贈与税の負担を大幅に軽減することが可能です。特に2024年1月の税制改正により相続時精算課税制度に年間110万円の基礎控除が新設されるなど、制度の選択肢が広がっています。本稿では、暦年贈与の基礎控除、相続時精算課税制度、教育資金・結婚子育て資金の一括贈与、住宅取得等資金の贈与、配偶者控除(おしどり贈与)など、贈与税を抑えるための主要な制度について、適用要件や注意点を含めて解説します。
Q&A
Q1. 贈与税がかからないようにするにはどうすればよいですか?
A. 贈与税には年間110万円の基礎控除があり、1年間に受けた贈与の合計額が110万円以下であれば贈与税は課されず、申告も不要です(相続税法21条の5)。これを「暦年贈与」と呼び、毎年計画的に活用することで、長期的に大きな金額を非課税で移転することが可能です。また、教育資金や住宅取得資金の一括贈与など、目的別の非課税制度を併用することで、さらに多額の贈与を非課税で行うことができます。
Q2. 相続時精算課税制度を選ぶと何が変わりますか?
A. 相続時精算課税制度を選択すると、累計2,500万円までの贈与について贈与税が非課税となります(相続税法21条の12)。さらに2024年1月以降の贈与からは、年間110万円の基礎控除が新設され、この基礎控除の範囲内の贈与は相続財産への加算も不要となりました。ただし、一度選択すると暦年課税に戻すことはできず、基礎控除を超える部分の贈与財産は相続時に相続財産に加算されて相続税が課されるため、慎重な判断が必要です。
Q3. 生前贈与の非課税制度にはどのようなものがありますか?
A. 主な非課税制度としては、暦年贈与の基礎控除(年110万円)、相続時精算課税制度(累計2,500万円+年110万円の基礎控除)、教育資金の一括贈与非課税(1,500万円まで)、結婚・子育て資金の一括贈与非課税(1,000万円まで)、住宅取得等資金の贈与非課税、配偶者控除・おしどり贈与(居住用不動産2,000万円まで)などがあります。それぞれ適用要件や期限が異なるため、ご自身の状況に合った制度を選択することが重要です。
解説
1. 暦年贈与の基礎控除(年間110万円)の活用
暦年課税における贈与税の基礎控除は、受贈者1人あたり年間110万円です(相続税法21条の5)。毎年1月1日から12月31日までの間に受けた贈与の合計額が110万円以下であれば、贈与税は課されず、贈与税の申告も不要です。
この基礎控除を計画的に活用することで、長期にわたって大きな金額を非課税で移転することが可能です。例えば、子ども2人と孫2人の計4人に対して毎年110万円ずつ贈与を行えば、年間440万円、10年間で4,400万円を非課税で移転できます。
ただし、暦年贈与を活用する際には注意点があります。2024年1月以降に行われた暦年贈与については、贈与者が死亡した場合、相続開始前7年以内の贈与が相続財産に加算されることとなりました(改正前は3年以内)。加算期間の延長は段階的に適用され、2027年1月1日以降の相続から順次拡大されます。また、毎年同じ金額を同じ時期に贈与し続ける場合、税務上「定期贈与」(連年贈与契約)と認定され、贈与の総額に対して課税されるリスクがあります。これを避けるためには、贈与の時期・金額を毎年変える、贈与契約書を毎年作成する、振込記録を残すなどの対策が重要です。
2. 相続時精算課税制度の活用(2024年改正後)
相続時精算課税制度は、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子または孫への贈与について選択できる制度です(相続税法21条の9)。この制度を選択すると、累計2,500万円までの贈与について贈与税が非課税となり、2,500万円を超えた部分に対して一律20%の贈与税が課されます。
2024年1月1日以降の贈与から、相続時精算課税制度にも年間110万円の基礎控除が新設されました(相続税法21条の11の2)。この基礎控除の範囲内の贈与については、贈与税がかからないだけでなく、相続時に相続財産に加算する必要もありません。これにより、相続時精算課税制度を選択した場合でも、毎年110万円までの贈与は完全に非課税で移転できることになりました。
ただし、相続時精算課税制度には重要な注意点があります。一度選択すると、その贈与者からの贈与については暦年課税に戻すことはできません(相続税法21条の9第6項)。また、基礎控除を超える部分の贈与財産は、贈与時の時価で相続財産に加算されて相続税の対象となります。したがって、値上がりが見込まれる不動産や有価証券の贈与には有利に働きますが、値下がりした場合には不利になる可能性があります。
3. 教育資金の一括贈与非課税制度(1,500万円まで)
直系尊属(父母・祖父母など)から30歳未満の子や孫に対して、教育資金として一括贈与する場合、受贈者1人あたり1,500万円まで贈与税が非課税となる制度です(租税特別措置法70条の2の2)。このうち、学習塾や習い事などの学校等以外への支払いは500万円までが非課税の対象となります。
この制度を利用するためには、金融機関に「教育資金管理契約」に基づく専用口座を開設し、教育資金に充てたことを証明する領収書等を金融機関に提出する必要があります。対象となる教育資金は、入学金、授業料、学用品の購入費、修学旅行費、学校給食費などの学校関連費用のほか、学習塾、スポーツ教室、ピアノ教室などの費用も含まれます。
注意点として、受贈者が30歳に達した時点で口座に残額がある場合、その残額に対して贈与税が課されます。また、贈与者が死亡した場合、受贈者が23歳未満であるか在学中である場合等を除き、管理残額は相続財産に加算されます(2019年4月改正)。この制度の適用期限は2026年3月31日までとなっています。
4. 結婚・子育て資金の一括贈与非課税制度(1,000万円まで)
直系尊属から18歳以上50歳未満の子や孫に対して、結婚・子育て資金として一括贈与する場合、受贈者1人あたり1,000万円まで贈与税が非課税となる制度です(租税特別措置法70条の2の3)。このうち、結婚に際して支出する費用は300万円までが非課税の上限となります。
対象となる費用は、結婚関連では婚礼費用、住居費用(賃料・敷金等)、引越費用などが該当し、子育て関連では妊婦健診費用、出産費用、子どもの医療費、保育料などが対象です。教育資金の一括贈与と同様に、金融機関に専用口座を開設し、領収書等を提出する必要があります。
この制度の重要な注意点として、贈与者が死亡した場合、管理残額は相続財産に加算される点が挙げられます。教育資金の一括贈与とは異なり、受贈者の年齢等にかかわらず相続財産への加算が行われるため、相続税対策としての効果は限定的です。受贈者が50歳に達した場合にも、残額に対して贈与税が課されます。この制度の適用期限は2025年3月31日までとなっています。
5. 住宅取得等資金の贈与非課税制度
直系尊属から18歳以上の子や孫に対して、住宅の新築・取得・増改築のための資金を贈与する場合、一定額まで贈与税が非課税となる制度です(租税特別措置法70条の2)。非課税限度額は、省エネ等住宅(断熱等性能等級4以上など)の場合は1,000万円、それ以外の住宅の場合は500万円です。
この制度の適用要件として、受贈者は贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上であり、贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下(床面積40平方メートル以上50平方メートル未満の場合は1,000万円以下)であること、取得する住宅の床面積が40平方メートル以上240平方メートル以下であること、贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅の取得等を行い居住すること(または同日後遅滞なく居住の用に供する見込みであること)などが求められます。
住宅取得等資金の贈与非課税は、暦年贈与の基礎控除110万円や相続時精算課税制度の特別控除2,500万円と併用することが可能です。例えば、省エネ等住宅を取得する場合、非課税制度1,000万円と暦年贈与の基礎控除110万円を合わせて、1,110万円まで非課税で贈与を受けることができます。この制度の適用期限は2026年12月31日までとなっています。
6. 配偶者控除(おしどり贈与)の活用
婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産またはその取得資金を贈与する場合、基礎控除110万円に加えて最高2,000万円まで贈与税が控除される制度です(相続税法21条の6)。これにより、合計2,110万円まで非課税で居住用不動産等を贈与することが可能です。
適用要件としては、婚姻期間が20年以上であること(内縁関係は不可)、居住用不動産またはその取得資金の贈与であること、贈与を受けた翌年3月15日までに実際に居住し引き続き居住する見込みであること、同じ配偶者からの贈与について過去にこの控除を受けていないこと(同一配偶者間で一生に一度のみ)が必要です。
おしどり贈与のメリットとして、贈与された居住用不動産は、贈与者が死亡した場合でも、相続開始前7年以内の贈与であっても相続財産への加算の対象外となります(相続税法19条1項括弧書)。したがって、贈与時点で確実に相続財産を減少させる効果があります。一方、不動産取得税や登録免許税が相続よりも高額になる点、小規模宅地等の特例(措置法69条の4)が適用できなくなる可能性がある点には注意が必要です。
7. 各制度の比較と最適な対策の選択
贈与税を抑えるための各制度にはそれぞれ特徴があり、贈与者・受贈者の状況に応じて最適な制度は異なります。制度選択にあたっての主なポイントは以下のとおりです。
- 長期的・段階的な財産移転:暦年贈与の基礎控除を毎年活用し、複数の受贈者に対して計画的に贈与を行う方法が有効です。ただし、相続開始前7年以内の加算に注意が必要です。
- まとまった金額の一括贈与:相続時精算課税制度(2,500万円+年110万円の基礎控除)が有効です。特に値上がりが見込まれる資産については、贈与時の時価で固定できるメリットがあります。
- 子・孫の教育費・結婚子育て費用:教育資金(1,500万円)や結婚・子育て資金(1,000万円)の一括贈与非課税制度を活用することで、まとまった資金を非課税で一度に贈与できます。
- 住宅購入の支援:住宅取得等資金の非課税制度(最大1,000万円)を暦年贈与や相続時精算課税と組み合わせることで、大きな金額を非課税で支援できます。
- 配偶者への自宅の移転:おしどり贈与(2,000万円控除)を活用し、相続財産の圧縮を図ることが可能です。相続財産への加算対象外となる点が大きなメリットです。
なお、複数の制度を併用することも可能ですが、制度ごとに適用要件や期限が異なるため、個別の状況に応じた慎重な検討が必要です。特に、2024年の税制改正により暦年贈与の加算期間が7年に延長され、相続時精算課税制度に基礎控除が新設されたことで、従来の「暦年贈与が有利」という判断が必ずしも当てはまらなくなっています。ご自身の年齢、財産の種類・金額、家族構成、将来の資産承継プランなどを総合的に勘案して、最適な対策を選択することが重要です。
8. 生前贈与と相続の比較における留意事項
生前贈与と相続のどちらが有利かは、個別の状況によって異なります。比較検討にあたっては、以下の点に留意する必要があります。
- 税率構造の違い:贈与税は相続税と比較して税率が高く設定されています。基礎控除を超える贈与に対しては累進課税が適用され、税負担が大きくなる可能性があります。したがって、非課税枠を超える大きな金額の一括贈与には注意が必要です。
- 不動産の移転コスト:不動産を贈与する場合、相続に比べて不動産取得税(相続の場合は非課税)および登録免許税(贈与は2%、相続は0.4%)が高額になります。これらのコストも含めた総合的な判断が必要です。
- 小規模宅地等の特例との関係:相続により居住用宅地を取得する場合、一定の要件を満たせば小規模宅地等の特例により330平方メートルまで80%の評価減が受けられます(措置法69条の4)。生前贈与の場合はこの特例が使えないため、不動産については相続で取得した方が有利なケースがあります。
- 遺留分への影響:生前贈与は、相続開始前10年以内の特別受益に該当する贈与が遺留分の算定基礎に含まれます(民法1044条3項)。多額の生前贈与を行った場合、他の相続人から遺留分侵害額請求を受けるリスクがあるため、遺留分への配慮も重要です。
弁護士に相談するメリット
贈与税対策は、法律・税務の両面から総合的に検討する必要があります。弁護士に相談することには以下のようなメリットがあります。
- 最適な制度選択のアドバイス:ご家族の状況、財産の種類・金額、将来の承継プランなどを踏まえ、暦年贈与・相続時精算課税制度・各種非課税制度のうち最も効果的な組み合わせをご提案します。
- 贈与契約書の作成支援:税務上のリスクを回避するために適切な贈与契約書を作成し、定期贈与と認定されるリスクを防ぎます。
- 遺留分対策との総合的な検討:生前贈与を行う際に、他の相続人の遺留分を侵害しないかを事前にチェックし、将来の紛争を予防します。
- 遺言書との連携:生前贈与と遺言による財産承継を組み合わせた総合的な相続対策プランを作成し、ご意向に沿った財産の承継を実現します。
- 税理士との連携によるワンストップ対応:相続税・贈与税の具体的な税額シミュレーションについて、税理士と連携したワンストップのサポートが可能です。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、茨城県内4拠点(牛久本部・日立支所・水戸支所・守谷支所)及び東京支所で相続に関するご相談を承っております。贈与税対策をご検討の方は、初回のご相談から解決まで一貫したサポートが可能ですので、お気軽にご相談ください。
まとめ
本稿では、贈与税を避けるための主要な非課税制度と最適な対策について解説しました。要点を整理すると以下のとおりです。
- 暦年贈与の基礎控除(年110万円)を計画的に活用することで、長期的に多額の財産を非課税で移転できる。ただし、相続開始前7年以内の加算に注意が必要
- 相続時精算課税制度は2024年改正で年110万円の基礎控除が新設され、この範囲の贈与は相続財産への加算も不要となった
- 教育資金の一括贈与(1,500万円まで)、結婚・子育て資金の一括贈与(1,000万円まで)など、目的別の非課税制度を活用できる
- 住宅取得等資金の贈与非課税(省エネ等住宅で最大1,000万円)は暦年贈与や相続時精算課税との併用が可能
- おしどり贈与(配偶者控除2,000万円)は相続財産への加算対象外となるため、確実な相続財産の圧縮効果がある
- 各制度には適用要件と期限があり、不動産移転コストや遺留分への影響も考慮した総合的な判断が必要
贈与税対策は、各制度の適用要件を正しく理解し、ご自身の状況に合った制度を選択することが重要です。「暦年贈与と相続時精算課税のどちらを選ぶべきか」「教育資金の一括贈与を利用したい」「生前贈与で相続税を減らしたい」など、贈与税対策に関するお悩みがございましたら、弁護士法人長瀬総合法律事務所までお気軽にご相談ください。
相続問題のその他のコラムはこちら
リーガルメディアTV|長瀬総合YouTubeチャンネル
相続問題について解説した動画を公開しています。遺言書の基本的な種類や作成方法をはじめ、相続手続全般にわたって、専門家の視点から分かりやすくまとめています。相続問題にお悩みの方や、より深い知識を得たい方は、ぜひこちらの動画もご参照ください。
長瀬総合のメールマガジン
当事務所では、セミナーのご案内や事務所からのお知らせなどを配信するメールマガジンを運営しています。登録は無料で、配信停止もいつでも可能です。
初回無料|お問い合わせはお気軽に
