はじめに
「遺言書に『全財産を○○に譲る』と書かれていた」――そんな一方的な遺言内容によって、一部の相続人がまったく財産を受け取れなくなる状況が発生することがあります。しかし、民法は一定の相続人に最低限の取り分(遺留分)を保障しており、侵害された場合は遺留分侵害額請求を行うことが可能です。
本記事では、遺留分侵害額請求が必要になる典型事例をいくつかご紹介し、どういったケースで法的手段を取るのか解説します。身近な親族間トラブルや生前贈与の影響など、実態を知ることで、いざというときの対策を講じやすくなるでしょう。
Q&A
Q1. なぜ遺留分が保障されているのですか?
遺留分は、被相続人の遺言の自由をある程度尊重しつつも、特定の相続人に対して最低限の生活保障を与えるために設けられた制度です。完全な財産処分の自由を認めると、残された家族が生活に困る状況が生まれかねないため、法律上「遺留分」を認めています。
Q2. 遺留分が認められる相続人とそうでない相続人は誰ですか?
配偶者、子(直系卑属)、直系尊属(親など)には遺留分がありますが、兄弟姉妹には認められていません。また、養子や非嫡出子であっても子としての遺留分が認められます。
Q3. どんな事例で遺留分侵害額請求が問題になるのでしょう?
たとえば、
- 遺言書で「財産のすべてを特定の一人に譲る」と書かれている
- 生前に大きな贈与(特別受益)があり、結果的に遺留分が削られた
- 配偶者や子どもの取り分がゼロに近い形で遺言が作られている
などの状況です。
Q4. 請求ができる期限はありますか?
遺留分侵害額請求には時効があり、「侵害を知った時から1年」または「被相続人の死亡から10年」が請求期限です。いずれか早いほうが成立時点となるため、早めに行動する必要があります。
解説
典型事例1:遺言書で「すべてを第三者に譲る」
背景
父が亡くなり、遺言書を開けてみると「全財産を長男の妻(事実上の嫁)に譲る」と書かれていた。長女と次男には何も言及なし。
問題点
- 長女や次男が「自分たちの取り分がないのはおかしい」と主張
- 遺言自体は形式的に有効だが、遺留分は侵害されている可能性大
解決策
- 遺留分の計算
みなし相続財産を出し、1/2(配偶者・子が相続人の場合)を全体の遺留分として算定 - 遺留分侵害額請求
嫁に対して内容証明郵便などで請求し、支払いを求める - 話し合い(任意交渉・調停)で合意→ダメなら訴訟
ポイント
完全にゼロにされた相続人は、遺留分侵害額請求によって金銭支払いを要求できる
典型事例2:生前贈与で実質的に財産がほぼ移転
背景
母が存命中に特定の子(長男)に大きな贈与(3,000万円相当の不動産)を行っていた。一方、他の子(次男、長女)には何も贈与なし。母の死亡時点では預金残高がほとんどない。
問題点
- 長男が贈与を受けて不動産を取得し、他の相続人はわずかな預金しかない
- 母の遺言書は「全財産を長男へ」となっているが、事実上、残りの財産が少額で他の子が不満
解決策
- みなし相続財産:不動産の評価額を合算して遺留分を算出
- 特別受益として加算:長男の生前贈与は「遺留分計算」に含まれる
- 侵害額請求:次男や長女が長男に対し金銭請求を行う
ポイント
生前贈与は特別受益とみなされ、遺留分の計算時に合算される
典型事例3:配偶者の取り分が極端に低い
背景
夫が「私の財産はすべて内縁のパートナーに譲る」という遺言書を作成。しかし、法律婚の配偶者がいた場合、配偶者は何も受け取れない?
問題点
- 内縁パートナーと法的配偶者の間で権利が衝突
- 遺言書通りだと配偶者が生活できなくなるほど取り分がゼロ
解決策
- 配偶者には遺留分が認められ、相続財産の1/2をベースに法定相続分をかけて算定
- 内縁のパートナーが事実上受遺者の場合は、配偶者から遺留分侵害額請求を受ける可能性が高い
ポイント
内縁関係では遺留分がないが、法律婚の配偶者は必ず遺留分あり
請求をスムーズに行うための注意点
- 期限厳守
遺留分を知った日から1年以内に請求しないと時効 - 不動産・預貯金の評価
遺留分を算定するには正確な財産評価が必要 - 交渉で感情対立を深めない
弁護士など第三者が間に入るとスムーズ
弁護士に相談するメリット
- 事前の財産調査と計算
弁護士が不動産や預金の評価額を整理し、正確な遺留分侵害額を算出 - スピーディな交渉・請求
- 内容証明郵便で請求事実を確保し、時効を防ぐ
- 任意交渉が難しければ即時に調停を申し立て
- 感情的衝突の緩和
弁護士が代理でやり取りするため、当事者同士の感情的摩擦を軽減 - 時効を意識したスケジュール管理
1年または10年の時効を見逃さず、最適なタイミングで請求手続きを進行
まとめ
遺留分侵害額請求が必要となる典型事例として、
- 遺言で特定の人に全財産が譲られる
- 生前贈与が偏っていて他の相続人の取り分が侵害される
- 配偶者や子の取り分が極端に低い
などが挙げられます。大切なのは、侵害を知ったら早めに動くことです。具体的には、
- 戸籍や財産目録の調査を早めに行う
- 金銭請求の意思を内容証明郵便で送付し、時効を中断(更新)
- 話し合いで不調なら調停へ
- 弁護士のサポートにより適切な評価と交渉を行う
遺留分を確保し、公平な相続を実現するためにも、早期に弁護士法人長瀬総合法律事務所へご相談いただくことをおすすめします。
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