相続放棄後も続く空き家の管理義務:リスクと対策を弁護士が解説
Q: 親が亡くなり、相続を放棄しようと考えていますが、空き家の管理義務は残るのでしょうか?相続放棄をすれば、全ての責任から解放されると考えて良いのでしょうか?
A: 相続を放棄した場合、通常は被相続人の財産や債務を引き継ぐことはありませんが、空き家に関しては管理義務が残る可能性があります。相続放棄が家庭裁判所で認められた時点で、その相続人は「初めから相続人ではなかった」ことになりますが、相続財産に属する空き家などを放置することはできません。すべての相続人が相続放棄をした場合、その空き家は無主の物とはならず、法律上、適切に管理する義務があると定められています。
相続放棄後も管理を怠った場合、近隣住民に被害を及ぼす可能性があり、その際には損害賠償責任を問われるリスクがあります。そのため、相続放棄を検討する際は、法律上のリスクを十分に理解した上で判断することが重要です。
はじめに
相続放棄は、親が遺した財産を相続しないという選択肢であり、特に借金などの負の財産を引き継ぎたくない場合に利用されます。しかし、相続放棄によっても完全にすべての義務から解放されるわけではなく、特に空き家の管理については注意が必要です。この記事では、相続放棄を行った後も残る空き家の管理義務について、具体的な事例や法律の観点から解説します。
1. 相続放棄の基礎知識|メリットとデメリット
(1)相続放棄とは?
相続放棄とは、相続人が被相続人の財産や負債を放棄し、法的に相続人の立場を退く手続きです。これにより、相続放棄者は遺産分割協議に参加する義務や、借金を引き継ぐ義務から解放されます。相続放棄は家庭裁判所で手続きを行う必要があり、「自己のために相続があったことを知った時」から3か月以内に申述しなければなりません。
(2)相続放棄のメリットとデメリット
メリット
- 借金を相続しない
被相続人が多額の借金を抱えていた場合、相続放棄をすることでその借金を引き継がずに済みます。 - 遺産分割争いに巻き込まれない
遺産分割協議に参加しないため、他の相続人との間での争いを避けることができます。 - 不動産の固定資産税の負担を回避
不動産を相続することで生じる固定資産税の支払い義務がなくなります。特に価値が低い、もしくは使い勝手が悪い不動産に対する税負担を回避できるのは大きなメリットです。
デメリット
- 財産を相続できない
実家や思い出の品なども相続できなくなるため、後から後悔することがあります。 - 後順位相続人へのトラブルのリスク
自分が相続放棄したことで、次の相続順位にある人が相続人となり、その人にとって不都合が生じる場合があります。 - 死亡保険金や退職金の非課税枠が適用されない
相続放棄をすると、これらの非課税枠が適用されなくなり、相続税が増える可能性があります。
2. 相続放棄後の空き家管理義務について
(1)管理義務は本当に無くなるのか?
相続放棄をすれば相続人としての義務は消失しますが、空き家の管理については例外的な取り扱いがあります。具体的には、相続財産が完全に他者に渡るまでは、元相続人であってもその管理義務が生じることがあります。相続人が全員相続放棄した場合、その財産は放置されがちですが、法律上は「相続財産精算人」または「相続財産清算人」に引き渡すまで、空き家の管理を続ける必要があります。
(2)管理義務の期間と責任
管理義務が生じるのは、相続人全員が相続放棄を行い、他に管理者がいない場合です。この場合、相続放棄者が相続財産を占有している間、空き家を含む財産の管理義務が生じます。この管理義務は、自己の財産を管理する際と同じレベルの注意を払う必要がありますが、それほど厳格ではありません。ただし、管理を怠ると近隣住民に迷惑がかかる可能性があり、その際には損害賠償請求を受けるリスクが発生します。
(3)管理義務を怠った場合のリスク
管理義務を怠ると、空き家が倒壊するなどして近隣住民に被害を与えた場合、損害賠償責任を問われる可能性があります。また、空き家が犯罪の温床となったり、景観を損ねるなどして近隣住民からの苦情が発生することも考えられます。これにより、思わぬトラブルに巻き込まれることもあるため、注意が必要です。
3. 空き家を国に引き取らせる方法
(1)相続土地国庫帰属制度とは?
2023年4月に施行された「相続土地国庫帰属制度」は、相続財産の土地を国に引き取ってもらうための新しい制度です。これにより、過疎地や利用価値の低い土地を国に帰属させることができ、相続放棄者にとって負担を減らすことができます。特に、空き家を取り壊し、更地にして国に引き取ってもらうことが可能です。
(2)制度の具体的な手続きと注意点
国に土地を帰属させるためには、一定の条件を満たし、法務局で申請を行う必要があります。申請が受理されると、審査が行われ、問題がなければ相続土地の国庫帰属が承認されます。申請者は、その後、負担金を納付することで、土地の国庫帰属が完了します。ただし、負担金の支払いが必要であり、また全ての土地が帰属対象となるわけではないため、事前に条件をよく確認しておく必要があります。
4. 相続放棄をする前に確認すべきこと
(1)相続放棄によるリスクと費用
相続放棄を行うと、固定資産税の支払い義務が無くなりますが、空き家を含む財産の管理費用が発生する可能性があります。さらに、相続財産精算人を選任する場合、その報酬として数十万円から百万円程度の費用が必要になるケースもあります。これらのリスクを十分に理解した上で、相続放棄を検討することが大切です。
(2)相続放棄しても問題が少ないケース
他に相続人がいる場合、相続放棄をしても問題が生じにくいケースがあります。例えば、自分以外の共同相続人が相続を引き継ぐ場合や、後順位相続人が存在し、彼らが相続を引き継ぐことが確実な場合です。ただし、全ての相続人が相続放棄を行った場合は、管理義務の問題が再び発生する可能性があります。
(3)弁護士に相談するメリット
相続放棄をする際には、法律上のリスクを理解した上で、専門家に相談することが推奨されます。弁護士は、相続放棄に関するリスクや法的な問題を把握し、最適なアドバイスを提供します。誤った判断を防ぐためにも、相続放棄の前に必ず専門家に相談するようにしましょう。
まとめ
相続放棄を行うことで、負の財産を避けることができますが、空き家の管理義務が残ることには注意が必要です。特に全ての相続人が相続放棄を行った場合、その空き家は法律上の管理義務が発生します。安易に相続放棄を行うのではなく、弁護士に相談し、国庫帰属制度の利用や売却などの対策を検討することが重要です。
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