【執筆】弁護士 母壁 明日香(茨城県弁護士会所属)
制度創設の背景
都市部への人口移動や人口の減少・高齢化の進展などを背景に、土地の利用ニーズが低下するなどし、土地を相続したものの、土地を手放したいと考える者が増加しています。また、相続を契機として、土地を望まず取得した所有者の負担感が増しており、管理の不全化を招き、相続された土地が所有者不明土地の予備軍となっていると言われています。
土地問題に関する国民の意識調査(平成30年度版土地白書)では、土地所有に対する負担感に関し、「負担を感じたことがある」又は「感じると思う」との回答が約42%でした。また、令和2年法務省調査では、土地を所有する世帯のうち、「土地を国庫に帰属させる制度の利用を希望する」世帯は、 約20%でした。
そこで、所有者不明土地の発生予防の観点から、相続等によって土地の所有権を取得した相続人が、法務大臣(窓口は法務局)の承認により、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする制度が新たに創設されました。
相続土地国庫帰属制度の概要
相続土地国庫帰属制度とは
相続土地国庫帰属制度は、所有者不明土地の発生を抑制するため、相続又は遺贈により土地の所有権を取得した相続人が、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする制度です。
申請者
相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により、土地の所有権又は共有持分を取得した者等です。
・単独所有の土地 → 相続等により土地の全部又は一部を取得した者
・共有に属する土地 → 相続等により土地の共有持分の全部又は一部を取得した共有者
ただし、土地の共有持分の全部を相続等以外の原因により取得した共有者であっても、相続等により共有持分の全部又は一部を取得した者と共同して行うときに限り、国庫帰属の承認申請可
制度の開始前に土地を相続した方でも申請することができますが、売買等によって任意に土地を取得した方や法人は対象になりません。
また、土地が共有地である場合には、相続や遺贈によって持分を取得した相続人を含む共有者全員で申請する必要があります。
申請要件
管理コストの国への転嫁や土地の管理をおろそかにするモラルハザードが発生するおそれを考慮して、「通常の管理又は処分をするに当たって過大な費用や労力が必要となる土地」に該当しないことが国庫帰属の要件として求められており、法令で具体的に類型化されています。
却下要件(その事由があれば直ちに通常の管理・処分をするに当たり過分の費用・労力を要すると扱われるもの)
承認申請は、その土地が次の各号のいずれかに該当するものであるときは、することができない。
- 建物の存する土地
- 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
- 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
- 土壌汚染対策法上の特定有害物質により汚染されている土地
- 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地
→ これらのいずれかに該当する場合には、法務大臣は、承認申請を却下しなければならない。
不承認要件(費用・労力の過分性について個別の判断を要するもの)
法務大臣は、承認申請に係る土地が次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、その土地の所有権の国庫への帰属についての承認をしなければならない。
- 崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
- 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
- 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
- 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
- 上記のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの
→ これらのいずれかに該当する場合には、法務大臣は、不承認処分をする。
※ 却下、不承認処分のいずれについても、行政不服審査・行政事件訴訟で不服申立てが可能。
費用
申請時に審査手数料を納付するほか、要件審査を経て法務大臣の承認を受けた者は、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費 相当額の負担金(地目、面積、周辺環境等の実情に応じて対応すべく、詳細は政令で規定されます。)を納付します。
(参考)
現状の国有地の標準的な管理費用(10年分)は、粗放的な管理で足りる原野が約20万円、市街地の宅地(200m²)が約80万円となります。
管理・処分
国庫に帰属した土地は、(赤字)普通財産として、国が管理・処分(赤字)する。
- 主に農用地として利用されている土地
- 主に森林として利用されている土地
→ 農林水産大臣が管理・処分
- それ以外の土地
→ 財務大臣が管理・処分
手続きの流れ
① 承認申請
・相続等によって土地を取得した相続人が申請
・共有地の場合は共有者全員で申請
・申請書及び添付書類の提出
・審査手数料の納付
② 法務大臣(法務局)による要件審査・承認
・書面審査や実地調査などの要件審査の実施
・要件を満たす場合は、法務大臣が承認
・承認の場合、負担金の額を通知
※申請者が希望する場合、申請受付後に、国や地方公共団体等に対して情報提供し、寄附受けなど土地の有効活用の機会を確保
③ 申請者が負担金を納付(通知を受け取ってから30日以内)
④ 国庫に帰属