令和3年改正「民法のルールの見直し③ 相続制度(遺産分割)の見直し」(令和5年4月1日施行)

【執筆】弁護士 母壁 明日香(茨城県弁護士会所属)

民法のルールの見直し

所有者不明土地については、調査を尽くしても土地の所有者が特定できず、又は所在が不明な場合には、土地の円滑な利用や管理が困難です。

また、所有者不明土地問題を契機に、現行民法の規律が現代の社会経済情勢にそぐわないことが顕在化してきました。

そこで、民法のルールについて、以下のような見直しがなされました。

相続制度(遺産分割)の見直し

遺産分割に関する見直し(遺産共有関係の解消の必要性)

相続が開始して、相続人が複数いると、遺産(相続財産)に属する土地や建物、動産、預金などの財産は、原則として相続人による共有(遺産共有)となります(現民法898条)。

もっとも、遺産共有関係にあると、各相続人の持分権が互いに制約し合う関係に立ち、遺産の管理に支障を来す事態が生じます。また、遺産分割がされないまま相続が繰り返されて多数の相続人による遺産共有関係となると、遺産の管理・処分が困難になります。このような状態の下で相続人の一部が所在不明になり、所有者不明土地が生ずることも少なくありません。

遺産共有関係は、本来、遺産分割により速やかに解消されるべき暫定的なものです。遺産分割による遺産共有関係の解消は、所有者不明土地の発生予防の観点からも重要です。

そこで、改正法では、

  • 具体的相続分による遺産分割に時的限界を設けることによる遺産共有関係の解消の促進・円滑化(新民法904条の3)
  • 相続開始後長期間が経過し、通常共有持分と遺産共有持分が併存する場合の分割方法の合理化(新民法258条の2)
  • 相続開始後長期間が経過し、相続人の所在等が不明な場合の不動産の遺産共有持分の取得方法等の合理化(新民法262条の2、262条の3)

がなされました。以下では、各制度を詳しく説明します。

【用語の説明等】

遺産分割
遺産共有の解消方法(民法906以下)
・遺産分割協議(合意)又は家庭裁判所の遺産分割審判・調停による。
・遺産分割の基準は、法定相続分又は指定相続分ではなく、具体的相続分の割合による。

法定相続分
民法であらかじめ定められている画一的な割合

指定相続分
遺言により被相続人等が指定した割合

具体的相続分
法定相続分・指定相続分を事案ごとに下記の方法で修正して算出する割合

(個々の相続人の具体的相続分)
=(①みなし相続財産の価額(相続財産の価額+特別受益の総額-寄与分の総額)×②法定相続分又は指定相続分)-③個々の相続人の特別受益(生前贈与等)の価額+④個々の相続人の寄与分の価額

(具体的相続分の割合(具体的相続分率))
= 各相続人の具体的相続分の価額の総額を分母とし、各相続人の具体的相続分の価額を分子とする割合

具体的相続分による遺産分割の時的限界

現行法の問題点

現行法では、具体的相続分の割合による遺産分割を求めることについての時的制限がなく、長期間放置をしていても具体的相続分の割合による遺産分割を希望する相続人に不利益が生じません。そのため、相続人が早期に遺産分割の請求をすることについてインセンティブが働きにくくなっていました。

また、相続開始後遺産分割がないまま長期間が経過すると、生前贈与や寄与分に関する書証等が散逸し、関係者の記憶も薄れてしまいます。そうすると、具体的相続分の算定が困難になり、遺産分割の支障となるおそれがあります。

改正法

制度の概要

【原則】

相続開始(被相続人の死亡)時から10年を経過した後にする遺産分割は、具体的相続分ではなく、法定相続分(又は指定相続分)によることとなります(新民法904条の3)。

<10年経過後の法律関係>

○ 分割方法は遺産分割
10年経過により分割基準は法定相続分等となるが、分割方法は基本的に遺産分割であって、共有物分割ではない。
【分割基準以外の遺産分割の特徴】
・裁判手続は家庭裁判所の管轄
・遺産全体の一括分割が可能
・遺産の種類・性質、各相続人の状況等の一切の事情を考慮して分配(民法906条)
配偶者居住権の設定も可能

○ 具体的相続分による遺産分割の合意は可能
10年が経過し、法定相続分等による分割を求めることができるにもかかわらず、相続人全員が具体的相続分による遺産分割をすることに合意したケースでは、具体的相続分による遺産分割が可能

【例外】(引き続き具体的相続分により分割)

① 10年経過前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき
② 10年の期間満了前6か月以内に、遺産分割請求をすることができないやむを得ない事由(※)が相続人にあった場合において、当該事由消滅時から6か月経過前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき

※ 被相続人が遭難して死亡していたが、その事実が確認できず、遺産分割請求をすることができなかったなど。

このように、具体的相続分による遺産分割の時的制限を設けることにより、具体的相続分による分割を求める相続人に早期の遺産分割請求を促す効果を期待できます。

また、具体的相続分による分割の利益を消滅させ、画一的な割合である法定相続分を基準として円滑に分割を行うことが可能になりました。

経過措置

改正法の施行日(令和5年4月1日)前に被相続人が死亡した場合の遺産分割についても、新法のルールが適用されます(附則3条)。ただし、経過措置により、少なくとも施行時から5年の猶予期間が設けられます。

このように、改正法の施行日前に開始した相続についても適用されるので、早めの遺産分割が肝心です。

【相続開始時から10年を経過していても具体的相続分により分割する場合】

相続開始時から10年経過時又は改正法施行時から5年経過時のいずれか遅い時までに、相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき

② 相続開始時からの10年の期間(相続開始時からの10年の期間の満了後に改正法施行時からの5年の期間が満了する場合には、改正法施行時からの5年の期間)満了前6か月以内に、遺産分割請求をすることができないやむを得ない事由が相続人にあった場合に、当該事由消滅時から6か月経過前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき

遺産共有と通常共有が併存している場合の特則

現行法の問題点

(設例)土地共有者A・BのうちBが死亡し、CとDが相続をしたケース

→ 通常共有持分(A)と遺産共有持分(C・D)が併存

A 通常共有C 遺産共有D 遺産共有

現行法では、遺産共有と通常共有が併存する共有関係を裁判で解消するには、通常共有持分と遺産共有持分との間の解消は共有物分割手続で、遺産共有持分間の解消は遺産分割手続で、別個に実施しなければならず、一元的処理を可能とする必要がありました。他方で、遺産分割には固有の利点(具体的相続分の割合による分割の利益、遺産全体の一括分割が可能など)があるため、相続人に遺産分割をする機会を保障する必要があります。

そこで、遺産分割の機会が確保され、かつ、具体的相続分を考慮する必要がない状態であれば、共有物分割手続による一元的処理も可能と考えられます。

改正法

遺産共有と通常共有が併存する場合において、相続開始時から10年を経過したときは、遺産共有関係の解消も地方裁判所等の共有物分割訴訟において実施することが可能となりました(不動産に限らず、共有物一般が対象です) (新民法258条の2第2項、3項)。

上記設例で、Cが土地の全部を取得するための手続は、共有物分割の判決により、Cが単独所有権を取得し、A・Dが代償金を取得することとなります。

※ 共有物分割をする際の遺産共有持分の解消は、具体的相続分ではなく法定相続分又は指定相続分が基準です(新民法898条2項)。ただし、被告である相続人が遺産共有の解消を共有物分割において実施することに異議申出をしたときは、することができません。

※ 異議申出は、①遺産分割請求がされていることを前提に、②相続人が共有物分割訴訟の請求があったとの通知(=訴状の送達)を受けた日から2か月以内にする必要があります。

※ 10年経過前や異議申出があったケースでは、現行法と同じく、別個に手続をとる必要があります。

不明相続人の不動産の持分取得・譲渡

現行法の問題点

相続により不動産が遺産共有状態となったものの、相続人の中に所在等が不明な者がいるケースでも、所在等不明相続人との不動産の共有関係を解消するため、その持分の取得・譲渡を可能とする必要があります。他方で、遺産分割には固有の利点(具体的相続分の割合による分割の利益、不動産に限らない遺産全体の一括分割が可能など)があり、相続人に遺産分割をする機会を保障する必要があります。ただ、持分取得・譲渡制度の利用の前提となる供託金の額について具体的相続分を基に算定することは困難です。

そこで、相続開始時から10年の期間があれば、遺産分割の機会は保障されているものと考え、また、相続開始時から10年が経過すれば、遺産分割の基準は原則として法定相続分等となることから、供託金の額も法定相続分等を基に算定することが可能になります(遺産分割請求ができないやむを得ない事由がある場合については、異議の届出の仕組み等で対応できます)。

改正法

共有者(相続人を含む。)は、相続開始時から10年を経過したときに限り、持分取得・譲渡制度により、所在等不明相続人との共有関係を解消することができるようになりました。

  • ① 共有者は、裁判所の決定を得て、所在等不明相続人(氏名等不特定を含む)の不動産の持分を、その価額に相当する額の金銭の供託をした上で、取得することができます(新民法262条の2第3項)。
  • ② 共有者は、裁判所の決定を得て、所在等不明相続人以外の共有者全員により、所在等不明相続人の不動産の持分を含む不動産の全体を、所在等不明相続人の持分の価額に相当する額の金銭の供託をした上で、譲渡することができます(新民法262条の3第2項)。

※ 異議届出期間満了前に家庭裁判所に遺産分割の請求がされ、異議の届出があれば、遺産分割手続が優先され、持分取得の裁判の申立ては却下されます。
(例)相続人が、やむを得ない事由があることを理由に、具体的相続分による遺産の分割を求めて遺産分割の請求を行い、異議の届出をしたケースなど

※ 共有者が取得する所在等不明相続人の不動産の持分の割合、所在等不明相続人に対して支払うべき対価(供託金の額)は、具体的相続分ではなく、法定相続分又は指定相続分を基準とします(新民法898条2項)。

※ 相続開始時から10年が経過する前でも、所在等不明相続人の土地・建物の持分につき、所有者不明土地・建物管理人を選任することは可能です。

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