はじめに
相続人全員の合意をもとに、誰がどの財産を取得するかを決める「遺産分割協議」。ここでまとめた内容を「遺産分割協議書」という形に残しておかないと、後から「言った・言わない」のトラブルが起きる可能性が高くなります。正式な協議書を作成し、署名・実印押印をすることで法的効力を持たせ、銀行や法務局などで各種手続きを行えるようになります。
しかし、協議書の書き方や押印のルールに不備があると、手続きが進まなかったり、後日無効とされるリスクもあるため、細心の注意が必要です。本記事では、遺産分割協議書を作成する際の注意点と、よくある失敗例を解説します。
Q&A
Q1. 遺産分割協議書は必ず作らなければならないの?
法律上、必ずというわけではありませんが、銀行や法務局などで遺産分割の結果を証明する書類として「遺産分割協議書」の提出を求められることが多いです。口頭での合意だけでは不十分で、後日の紛争回避や公的手続きのためにも、協議書は実質必須と言えます。
Q2. 協議書には何を書けばいいですか?
相続人の全員が誰であるかを記載し、それぞれの取得する財産(不動産の地番・家屋番号、預金口座の口座番号など)を詳細に記します。協議内容を明確にして、相続人全員が署名・実印押印するのが基本です。押印する際には印鑑証明書も添付することが一般的です。
Q3. 未成年者や行方不明者が相続人の場合はどうしたらいい?
その場合、特別代理人の選任や不在者財産管理人の選任など、家庭裁判所の手続きが必要になります。これらの代理人が協議に参加し、協議書に署名押印する形となります。
Q4. 合意後に新たな財産が見つかったら、協議書はどうなる?
いったん合意が成立しても、その後で隠し財産や負債が見つかることは珍しくありません。その場合は追加の遺産分割協議が必要となり、改めて協議書を作成して全員が署名押印する必要があります。
解説
遺産分割協議書作成の流れ
- 財産調査・相続人確定
戸籍謄本で全相続人を把握し、財産目録を作成 - 遺産分割協議
各人がどの財産を取得するか、または現金化して分割するかなどを全員で話し合い、合意 - 協議書の作成
- 不動産や預金口座、動産など、分割対象の財産をすべて記載
- 日付と協議内容、相続人全員の署名(自筆)と実印押印を行う
- 印鑑証明書の用意
銀行や法務局で手続きする際、実印と印鑑証明書の一致を確認 - 各種手続き
銀行口座の払い戻し、不動産登記の名義変更などで協議書を提出
注意すべきポイント
- 財産の特定方法
- 不動産は登記簿にある地番・家屋番号を正確に記載
- 預貯金は金融機関名・支店名・口座種別・口座番号
- 株式は証券会社名・銘柄名・株数など具体的に
- 相続人全員の記名・実印
- 法定相続人のうち1人でも欠けていれば無効となる恐れがある
- 実印を用いるため、印鑑証明書も添付し、有効期限(通常3カ月)に注意
- 日付の記入
- 実際に協議が成立した日を記載
- 後日の争いを防ぐためにも正確に
- 相続放棄や欠格者の扱い
- 相続放棄をした人は協議に参加しない
- 欠格や廃除が認められた場合、その人は最初から相続人でない扱いとなる
よくある失敗例
- 相続人のうち未成年がいるのに、特別代理人を立てず母親が代理して署名してしまった
利害相反の疑いがあり、協議書が無効となる可能性大 - 印鑑証明書が古すぎる(3カ月以上)
使えない場合があるため再度取得が必要 - 後から隠し財産が見つかったのに、改めて協議書を作らない
後日紛争化し、家庭裁判所の調停に発展
併記すべき特記事項
- 代償金の額や支払い方法
ある相続人が不動産を取得し、他の相続人には金銭を支払う場合、その額や期限を明記 - 祭祀主宰者の指定
お墓や仏壇の管理者を誰にするか - 遺言書との整合性
遺言がある場合、その記載内容を踏まえて協議を行うこと
弁護士に相談するメリット
- 書類の不備を防ぐ
専門家がチェックすることで、記載ミスや相続人の漏れが起こりにくい - 財産調査と公平な分割案の提案
弁護士が財産目録を精査し、客観的評価を踏まえて納得感の高い協議を実現 - 紛争リスクの回避
感情的対立がある場合、弁護士が間に立って交渉し、法的根拠を示しながら合意形成を図る - 家庭裁判所での調停・審判対応
話し合いがまとまらなければ調停に移行するが、弁護士が代理人としてスムーズな進行を支援
まとめ
遺産分割協議書は、相続人全員の合意を明文化し、公的手続きでも認められるための重要な書類です。以下のポイントを守って作成しましょう。
- 相続人全員の署名・実印押印が必要
- 不動産や預金口座の内容を具体的に記載
- 印鑑証明書を添付(通常3カ月以内)
- 未成年や不在者がいる場合、家庭裁判所の手続きを先に行う
これらを意識することで、後日の無効主張やトラブルを防ぎ、スムーズに相続手続を進められます。もし書類の書き方や内容に不安があれば、ぜひ弁護士法人長瀬総合法律事務所へご相談ください。
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