はじめに
「プラスの財産の範囲内でしかマイナスを負わない」というメリットがある限定承認ですが、実際には相続人全員の同意が必要といったハードルや、手続きの煩雑さから「思ったように利用できない」ケースが多々あります。特に相続人が多数いる場合や、家族間の意見がまとまらない場合は、限定承認が難しいと判断されることもあります。
本記事では、限定承認が難しいケースでどのような対応策があるか、代替案や手続きの進め方を解説します。借金の存在が不確定で悩んでいる方や、相続人全員の合意が得られず困っている方は参考にしてください。
Q&A
Q1. どんな場合に限定承認が難しくなるの?
主に、
- 相続人の中に反対者がいる(全員の同意が得られない)
- 手続きが複雑で時間が足りない(3カ月の熟慮期間が過ぎそう)
- 財産調査が難航し、目録を正確に作れない
などの状況で限定承認が困難になることがあります。
Q2. 相続人が多数いる場合、どうすれば合意を取りやすい?
弁護士が間に入り、限定承認のメリット(負債がプラスを上回った場合のリスク回避)を説明したり、全員が得する可能性を説得材料にするなどが考えられます。また、早めに財産評価を行い、「これなら限定承認でメリットがある」と数値化することで合意を得やすくします。
Q3. 限定承認ができないとき、他にどんな選択肢がありますか?
主な代替手段として、
- 相続放棄:借金リスクを完全に排除。ただしプラス財産も受け取れない
- 単純承認:通常の相続。負債が上回ると自己資産で返済する羽目になる
- 相続人間での話し合い:一部遺産を売却するなどして借金を返し、残りを分配する
などがあります。
Q4. 仮に相続人がバラバラの選択肢を取ることはできる?
限定承認は相続人全員が同意しなければならないため、1人でも反対すればできません。その場合、個別に相続放棄や単純承認を選択する方法はあります。最終的には相続放棄組と承認組に分かれることも起こり得ます。
解説
ケース1:相続人の一部が反対
- 意見対立が理由で限定承認ができない
- 兄は限定承認を希望、妹は相続放棄を希望、母は単純承認の意向などバラバラ
- 対応策
- 弁護士が家族会議をサポートし、「限定承認で全体としてどのくらい財産が残るか」を試算
- それでも合意が得られない場合、各自で相続放棄や単純承認を選択する
- メリット・デメリット
- 妥協案として「一部が放棄、残りが単純承認」で遺産を整理する可能性も
ケース2:財産調査が難航、時間不足
- プラスとマイナスの把握に時間がかかる
- 海外資産や多数の金融機関口座がある、借金の証拠が散在
- 対応策
- 弁護士が迅速に金融機関や債権者へ照会
- 家庭裁判所に熟慮期間の延長を申し立てる
- 延長が許可されればさらに時間を確保し、財産目録を完成させたうえで限定承認を申述
ケース3:手続きコストが高い
- 公告、債権者対応などが面倒
- まとめて行う労力と費用が相続人の合意を得にくい要因
- 対応策
- 結果的にプラスが残らないなら相続放棄のほうが簡易
- プラス財産が確実に多いなら単純承認でいいとの意見も
- 弁護士の提案
- 「限定承認でどのくらい残るか」をシミュレーションし、事前に費用対効果を検討
代替案:相続放棄や部分売却
- 相続放棄
- 借金を回避するには確実だが、プラス財産もゼロ
- 個別選択できる(自分だけ放棄するなど)
- 単純承認しつつ、一部財産を売却し負債を清算
- 大きな借金を、不動産売却で返済可能なら問題は解決
- 限定承認ほどのメリットはないが、手続きは簡易
弁護士に相談するメリット
- 早期の財産把握と選択肢提示
借金・保証債務などを網羅的に調査し、限定承認の可否や相続放棄のメリットを比較 - 相続人間の合意形成支援
反対意見がある場合、弁護士が法的根拠と数値シミュレーションで説得力を高める - 期限内の段取り
延長申立や書類作成を弁護士が進め、3カ月ルールをクリア - 費用対効果の検討
限定承認にかかる手続きコストと、残る財産を比較し、最適解を提案
まとめ
限定承認は、有力な相続選択肢ですが、以下の理由で難しいケースも多いのが現状です:
- 相続人全員の合意が得られない
- 財産調査が大変で、期限(3カ月)に間に合わない
- 手続きや費用がかかりすぎる
そうした場合、相続放棄や単純承認、あるいは不動産の売却による負債返済などの代替策を考慮することになります。迷ったときは、弁護士法人長瀬総合法律事務所などの専門家へ相談し、財産や負債の詳細を踏まえた最適な戦略を立てることもご検討ください。
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