遺産分割協議書の書式・見本等

遺産分割協議書の作成にあたって

遺産分割の意義

遺産分割とは、共同相続における遺産の共有関係を解消し、遺産を構成する個々の財産を各相続人に分配して、それらを各相続人の単独所有に還元する手続きをいいます。

相続が開始すると、被相続人の財産は相続人に移転し(民法896条本文)、相続人が複数ある場合には遺産は相続人の共有に属します(民法898条1項)。これを単独所有に戻す手続きが、遺産分割手続です。

遺産分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して行うものとされています(民法906条)。

遺産分割の手続

指定分割

被相続人は、遺言で遺産分割の方法を指定したり、相続開始の時から5年を超えない期間を定めて遺産分割を禁止したりすることができます(民法908条1項)。

分割方法の指定とは、現物分割、換価分割及び代償分割のいずれの方法によるかの指定をいいますが、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言(特定財産承継遺言)についても、特段の事情のない限り分割方法の指定であるとされています(最判平成3年4月19日・判時1384号24頁)。

協議分割

被相続人の遺言による分割方法の指定又は禁止等がなければ、共同相続人は、協議によっていつでも遺産の全部又は一部の分割をすることができます(民法907条1項)。協議分割で合意が成立した場合には、遺産分割協議書を作成することとなります。

遺産分割請求権は時効にかかりませんが、令和5年4月施行の民法改正により、相続開始(被相続人の死亡)時から10年を経過した後にする遺産分割は、原則として、具体的相続分ではなく、法定相続分(又は指定相続分)によることとなります(民法904条の3)。改正法の施行日前に開始した相続についても適用されますので、早めの遺産分割が肝心です。

調停分割

共同相続人間に遺産分割の協議が調わない場合、又は協議をすることができない場合には、各共同相続人は、家庭裁判所に全部又は一部の分割を請求することができます(民法907条2項本文)。ただし、審判に移行した場合、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合には、一部分割請求は不適法として却下されます(民法907条2項ただし書)。

遺産分割事件は、家事事件手続法別表第二12項に掲げる事件であり、審判の申立て(家事事件手続法39条)、調停の申立て(家事事件手続法244条)のいずれの手続を申し立てることも可能です(調停前置主義(家事事件手続法257条)は適用されません。)。もっとも、裁判所は、審判申立てのあった遺産分割事件を職権で調停に付すことができ(家事事件手続法274条1項)、実務上、まず調停の申立てがなされることが多くなっています。

調停分割は、中立的な調停官・調停委員の下、話合いで分割内容を合意する手続です。合意が成立した場合に作成される調停調書の記載には確定した審判と同一の効力が認められます(家事事件手続法268条1項)。

審判分割

調停が不成立となった場合には、審判手続に移行します(家事事件手続法272条4項)。

調停と異なり、審判は話合いではなく、家事審判官が職権で事実の調査及び証拠調べを行い、民法906条の分割基準に従って、各相続人の相続分に反しないように分割を実行します。

関連ページ
遺産分割協議・調停・審判

遺産分割協議書の作成

協議分割は、共同相続人全員の意思の合致により遺産を分割する手続であり、合意形成手段は共同相続人の自由に任されています。 実際の合意方法は、共同相続人が一堂に集まり話し合うのが望ましいといえますが、共同相続人の数が多い場合、また相互に遠隔の地であり全員が集まって話し合うことが困難な場合などには、電話や手紙、メールなどの通信手段を使って協議を進めることもあります。

共同相続人間で合意が成立した場合、協議の内容を証明するため、 遺産分割協議書を作成しておくのが通常ですし、協議の蒸し返しを防ぐためにも書面を作成しておくことが望ましいといえます。

遺産分割協議書を作成する場合には、特に次のような点に注意しましょう。

  1. 被相続人や相続人を、氏名・本籍・住所・生年月日・被相続人との続柄などで明確に特定する。
  2. 氏名・住所は、住民票や印鑑証明書に記載されているとおりに記載する。
  3. 遺産は、不動産の場合、登記事項証明書等の記載によって、その 他の財産についてもほかの財産との区別が可能な程度に明確に特定する。
  4. 各相続人は、実印で捺印する。氏名も自署し、また、各人の印鑑証明書を添付することが望ましい。
  5. 不動産がある場合には、登記手続に備えてあらかじめ協議書の記載内容を司法書士に確認する。
  6. 銀行や証券会社など、各社に専用の決められた様式の用紙への押印を要求される場合があるので、あらかじめ確認し、必要があれば、協議書への押印と同時に専用書類への押印を済ませられるようにする。
  7. 各相続人が協議書を1通ずつ所持できるよう、相続人の人数と同じ通数を作成し、全相続人の割印をする。
  8. 協議書が複数頁にわたる場合、各用紙の間に全相続人の契印をする。
  9. 現在判明していない遺産が今後発見された場合、誰にどう分配するかについても決めておくことが望ましい。
  10. 後の紛争等の可能性を減らしたい場合は、公正証書の利用も検討 する。

ケース別遺産分割協議書の書式・見本

ここでは遺産分割協議書について、よくあるケース別の書式・見本をご紹介します。

なお、書式・見本の使用は、相続問題に直面されている当事者個人の方及び弁護士のみとさせていただきます。

他士業その他の事業者の方に対しては、弁護士法違反(非弁活動)のおそれがあるため、無断使用を一切認めておりませんので、ご了承ください。

一般的な遺産分割協議書の場合

PDF 一般的な遺産分割協議書の記入例[サイズ:111KB]

被相続人Aの妻甲、長男乙、次男丙、長女丁の4名で遺産分割協議を行い、遺産分割の対象とする財産を別紙遺産目録記載のとおりであることを確認し、負債を現金及び預貯金から精算した上で、概ね法定相続分通りに分割し、祭祀承継者を指定するとともに、各相続人の遺産の取得の実行行為及びその手続を弁護士甲野太郎に委任する内容です。

共同相続人が相続分を共同相続人以外の者に譲渡する場合

PDF 共同相続人が相続分を共同相続人以外の者に譲渡する場合の記入例[サイズ:59KB]

被相続人Aには、実子B・Cと内縁の妻Dがいたところ、B・Cがそれぞれの相続分2分の1をDに譲渡した上で、Dが自宅の土地・建物を住宅ローン債務を含めて取得し、B・Cが預貯金をそれぞれ取得する内容です。

被相続人名義の建物について、長男が生前贈与を受けていた場合

PDF 被相続人名義の建物について長男が生前贈与を受けていた場合の記入例[サイズ:59KB]

被相続人Aには、妻B、長男C及び次男Dがいたところ、別棟の建物はAの生前にCがAから贈与を受けたものであるため、これを特別受益として相続分を算定した結果、Cの取得をなしとする一方で、別棟の建物をC名義に所有椎移転登記手続をする内容です。

長男名義の預金が被相続人の財産である場合

PDF 長男名義の預金が被相続人の財産である場合の記入例[サイズ:62KB]

被相続人Aには、長男B及び次男Cがいたところ、A名義の遺産は自宅の土地・建物のみであるが、B名義の預金の通帳及び届出印はAが所持し、その入出金もAが行っていたことから、実質的にAの遺産であることを確認した上で遺産分割する内容です。

相続開始前後の使途不明金の取り決めをする場合

PDF 相続開始前後の使途不明金の取り決めをする場合の記入例[サイズ:46KB]

被相続人Aには、長男B及び次男Cがいたところ、Aの生前はBが預貯金の管理を任され、Aの死亡後、その管理をCに引き継いだ。Aの生前の使途不明金が合計300万円あり、相続開始後の使途不明金が合計500万円あった場合に、B及びCがそれぞれの使途不明金を認めた上で、それぞれの受取物返還請求権を遺産として自ら取得して清算する内容です。

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