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内縁・事実婚・同性カップルの相続対策ガイド

2024-08-22
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はじめに

近年、日本において内縁配偶者や事実婚パートナー、同性カップルが社会的に認知されるようになり、家族の形も多様化してきました。しかし、これらの関係は法律婚と異なり、法定相続人としての権利が認められていないため、特別な相続対策を講じる必要があります。本記事では、内縁関係や事実婚、同性カップルの方々が安心して相続を迎えられるように、具体的な方法や注意点について解説します。

Q&A

Q1: 私たちは事実婚の関係にありますが、パートナーに私の財産を確実に引き継がせる方法はありますか?

A1: 事実婚や内縁関係にあるカップルの場合、法律上の婚姻関係がないため、法定相続人としての地位はありません。つまり、パートナーに自動的に財産が渡る仕組みがないのです。そのため、パートナーに確実に財産を引き継がせるためには、遺言書を作成することが不可欠です。遺言書にパートナーへ財産を遺贈する旨を明記すれば、法的にその意志が実現されます。また、生命保険契約や信託契約を活用することで、より確実で安心な相続対策を講じることができます。

Q2: 遺言書を作成する際、どのような点に注意すべきでしょうか?

A2: 遺言書を作成する際には、他の法定相続人がいる場合や、遺留分権利者が存在する場合に注意が必要です。これらの権利を無視して遺言書を作成すると、相続時にトラブルが生じる可能性があります。例えば、遺留分を侵害する内容の遺言書を残した場合、相続人から遺留分侵害額請求がなされることも考えられます。トラブルを避けるためにも、遺言書の内容については、弁護士などの専門家に相談しながら慎重に検討することをお勧めします。

Q3: 保険や信託契約を利用した相続対策について教えてください。

A3: 生命保険契約は、パートナーを保険金受取人として指定することで、確実に財産を渡すことができます。ただし、法律上の親族でない場合、保険会社によっては審査が必要となる場合もあります。事前に保険会社としっかりと確認を取り、スムーズな手続きができるように準備をしておくことが重要です。また、信託契約を利用することで、死亡後にパートナーに財産を受け渡すことも可能です。この方法では、財産の管理や運用を信託機関に委ねることで、遺言書と組み合わせて柔軟な相続対策を実現できます。

内縁配偶者や事実婚パートナー、同性カップルの相続権について

日本において、内縁配偶者や事実婚パートナー、同性カップルが増加している中、これらの関係にある人々が直面する相続問題が注目されています。現行法では、法律婚をしていないカップルには相続権が認められておらず、内縁関係や事実婚を選択した場合でも、法定相続人としての地位を持つことができません。また、同性カップルに至っては、婚姻そのものが法律で認められていないため、当然ながら相続権はない状態です。

これにより、内縁配偶者や事実婚パートナー、同性カップルが安心して相続を迎えるためには、生前からの計画的な相続対策が不可欠となります。具体的には、遺言書の作成や生命保険の活用、信託契約などが考えられますが、これらの方法を適切に組み合わせることで、法的な障害を乗り越え、パートナーに確実に財産を引き継がせることが可能となります。

内縁配偶者や事実婚パートナー、同性カップルのための相続対策

相続権が認められていない内縁配偶者や事実婚パートナー、同性カップルにとって、相続対策は重要な課題です。生前にしっかりとした対策を講じることで、残されたパートナーに対する財産の移転をスムーズに行うことができます。ここでは、主な対策方法について詳しく説明します。

1. 遺言書の作成

遺言書は、法的に有効な形で自分の意思を表明するための最も基本的な手段です。遺言書には、財産を誰にどのように分配するかを明記することができます。特に内縁配偶者や事実婚パートナー、同性カップルの場合、遺言書がなければパートナーに財産が渡らない可能性が高いため、遺言書の作成は不可欠です。

2. 生命保険契約の活用

生命保険は、相続税対策にも有効な手段です。生命保険契約では、パートナーを保険金受取人として指定することが可能です。これにより、遺産とは別にパートナーが受け取る財産を確保することができ、相続税の負担を軽減する効果も期待できます。

3. 信託契約の活用

信託契約を利用することで、自分の死後にパートナーが財産を受け取ることができます。信託は、財産を管理・運用し、指定された条件に従って受益者に財産を分配する仕組みです。信託契約は、遺言書と組み合わせることで、より柔軟かつ確実な相続対策を実現できます。

内縁配偶者や事実婚パートナー、同性カップルの相続対策での注意点

相続対策を進める際には、いくつかの注意点があります。以下に、特に留意すべきポイントをまとめました。

1. 遺留分への配慮

法定相続人が存在する場合、その相続人には遺留分が認められています。遺留分を侵害する形で遺言を残すと、後に相続人から遺留分侵害額請求がなされる可能性があります。そのため、遺言書を作成する際には、他の法定相続人の権利に十分配慮し、トラブルを未然に防ぐことが重要です。

2. 生命保険契約の審査

生命保険契約を結ぶ際、法律上の親族でないパートナーを受取人に指定する場合、保険会社の審査が必要となることがあります。契約が成立するまでの手続きが複雑になる可能性があるため、事前に保険会社との確認を怠らないようにしましょう。

3. 信託契約の設計

信託契約は、内容が複雑になる場合があります。信託財産の管理方法や分配条件を慎重に設計しないと、思わぬトラブルや財産の減少につながる恐れがあります。信託契約を結ぶ際は、専門家のアドバイスを受けながら契約内容を慎重に検討することが求められます。

弁護士に相談するメリット

内縁配偶者や事実婚パートナー、同性カップルにとって、相続対策は非常に重要な課題です。相続対策をしっかりと行うためには、法律の専門家である弁護士のサポートが不可欠です。弁護士は、相続に関する法律知識だけでなく、個々の家庭の事情に合わせた最適なアドバイスを提供します。また、遺言書の作成や信託契約の設計、生命保険契約の審査など、複雑な手続きも代行してくれるため、安心して相続対策を進めることができます。

弁護士に相談することで、トラブルのリスクを最小限に抑え、パートナーに対する最善の相続対策を実現することができます。

まとめ

内縁配偶者や事実婚パートナー、同性カップルにとって、相続対策は不可欠な課題です。法的な制約がある中で、遺言書の作成や生命保険契約、信託契約などの手段を活用し、確実な相続を実現するためには、専門家の助言が欠かせません。相続に関する疑問や不安がある場合は、早めに弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。


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相続対策の落とし穴とその回避策

2024-08-21
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はじめに

相続対策は、家族の将来を考え、遺産を円滑に引き継ぐために欠かせない重要なプロセスです。しかし、十分な知識や計画がないまま進めてしまうと、逆に家族にとって大きな負担となることがあります。本稿では、よくある相続対策の失敗例を通じて、その背景にある問題点や回避策を考察します。相続に関するお悩みをお持ちの方は、専門家にご相談されることをお勧めします。

Q&A形式の紹介

Q: 相続対策を考えていますが、どのような失敗を避けるべきでしょうか?

A: 相続対策は一見簡単そうに見えますが、実際にはさまざまな落とし穴が存在します。例えば、遺言書が正しく執行されなかったり、節税を目的に行った対策が逆効果になったりすることがあります。このような失敗を避けるためには、専門家の助言が不可欠です。以下で、よくある失敗例とその回避策についてご紹介します。

よくある相続対策の失敗例とその回避策

1.相続対策は正しく行わなければ逆効果になります

相続対策は、遺族にとって非常に重要な行為です。しかし、法的な知識や税制に関する理解が不十分なまま行うと、逆に相続人が長期間苦しむ結果になることがあります。ここでは、具体的な失敗例を通じて、どのような点に注意すべきかを説明します。

2. 失敗例① 内容どおりに執行できない遺言書

相続人間の争いを避けるために遺言書を作成することは一般的です。しかし、その内容が不明瞭であったり、金融機関が遺言に基づいて適切に払戻しを行えない場合があります。このようなケースでは、遺言書が相続人間の対立を深める原因となり得ます。

回避策
遺言書を作成する際は、法律の専門家に相談し、明確で実行可能な内容にすることが重要です。また、金融機関と事前に相談し、遺言の執行に問題がないか確認しておくことも必要です。

3. 失敗例② 節税目的のアパート建築

節税を目的としてアパートを建築することはよくあります。しかし、空室が多い場合や賃料収入が期待を下回った場合、管理費用や税金の支払いがかえって相続人にとって負担になることがあります。さらに、所得税の納付が必要になるため、慎重な計画が求められます。

回避策
アパート建築を検討する際は、収支計画を慎重に立て、リスクを十分に考慮することが必要です。また、賃貸市場の動向や修繕費用など、長期的な視点での計画が求められます。税理士や不動産の専門家に相談し、節税効果とリスクを正確に把握することが重要です。

4. 失敗例③ 二次相続まで含めるとトータルで課税額が多くなる

一次相続で配偶者に多くの財産を残すと、配偶者の税額軽減制度を利用して相続税を減らすことができます。しかし、二次相続での相続人が少ない場合、結果としてトータルの納税額が増加し、家族にとって大きな負担となることがあります。

回避策
一次相続と二次相続を見越した相続計画を立てることが必要です。特に、配偶者が多くの財産を相続する場合には、将来の税負担を考慮した上で分割方法を検討することが重要です。税理士と相談し、長期的な視点での最適な相続対策を行いましょう。

5. 失敗例④ 贈与税対策が逆効果に

生前贈与は相続税の軽減に有効ですが、贈与税の計算方法や贈与のタイミングを誤ると、相続税と贈与税の合計額が予想以上に高額になることがあります。また、特定の相続人に多額の贈与を行うと、他の相続人との関係が悪化するリスクもあります。

回避策
生前贈与を行う際は、贈与税と相続税の両方を考慮し、最適なタイミングと金額を決定することが重要です。また、家族全体のバランスを考えた贈与計画を立てることで、トラブルを未然に防ぐことができます。弁護士や税理士に相談し、具体的なシミュレーションを行うことが有効です。

6. 事前に相続に詳しい専門家に相談

相続対策における失敗例はまだまだありますが、これらの多くは専門家に相談せずに進めてしまった結果です。専門家に相談することで、法的な問題や税務上のリスクを未然に防ぐことができます。

弁護士に相談するメリット

相続対策を行う際、専門家に相談することで多くのメリットがあります。弁護士や税理士に相談することで、法的な知識や最新の税制に基づいたアドバイスを受けることができ、安心して相続対策を進めることができます。また、家族間のトラブルを未然に防ぐための助言や、複雑な手続きのサポートも受けられます。

まとめ

相続対策は、家族の将来を考える上で非常に重要です。しかし、正しい知識と計画がなければ、かえって家族にとって大きな負担となる可能性があります。弁護士法人長瀬総合法律事務所では、相続に関する専門的なアドバイスを提供しておりますので、お悩みの際はぜひご相談ください。


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【コラム】不動産の相続

2023-07-31

不動産の相続においては、相続の流れやその方法、登記手続き等、不動産の相続手続きについて理解しておく必要があります。

なお、登記は登記名義人について行わなければなりませんので、例えば、亡くなられた方(被相続人)の親が登記名義人になっている場合には、まずその親からの相続登記を行う必要があります。何世代も相続登記をしていない場合(数次相続の場合)は、相続人も増え、多くの書類が必要となります。

不動産の相続については、まずは弁護士にご相談いただくことをお勧めします。

遺言執行の書式・見本等

2023-07-24

遺言執行者とは

遺言執行者とは、遺言の内容の実現に必要な行為を行うため、遺言により指定され、又は家庭裁判所により選任された者をいいます。

遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生じます(民法985条1項)。もっとも、遺言に記載された事項には、遺言の効力が発生することによって、特段の行為・手続を要することなく当然にその内容が実現される性質のものと、遺言の内容を実現するために必要な行為あるいは手続をなすことによって初めて遺言の内容が実現される性質のものとがあります。この遺言の内容を実現するために必要な行為をなすことを、「遺言の執行」といいます。

遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し(民法1012条1項)、遺言執行者がその権限内において 遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生じます(民法1015条)。そして、遺言執行者には、善管注意義務(民法644条)など、民法の委任に関する規定の一部が準用されます(民法1012条3項)。

遺言執行の書式・見本

ここでは遺言執行についての書式・見本をご紹介します。

なお、書式・見本の使用は、遺言執行問題に直面されている当事者個人の方及び弁護士のみとさせていただきます。

他士業その他の事業者の方に対しては、弁護士法違反(非弁活動)のおそれがあるため、無断使用を一切認めておりませんので、ご了承ください。

遺言執行者任務開始のご通知(相続人に対するもの)

遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければなりません(民法1007条2項) 。この規定は、平成30年の相続法改正によって新たに追加されたもので、改正法施行日である令和元年7月1日以降に開始された相続についてはもとより、施行日前に開始された相続に関し、施行日以後に遺言執行者となる者にも適用されます(改正法附則8条1項)。

通知すべき事項として法定されているのは、「遺言の内容」であり、遺言書の写し等の交付は要件とされていませんが、相続人に対して適切に情報を提供し、円滑に遺言執行業務を進めるためには、公正証書遺言であれば正本又は謄本の写し、法務局に保管されている自筆証書遺言であれば遺言書情報証明書の写し、それ以外の遺言であれば検認済の証明書が編綴された遺言書原本の写しを通知に添付して「遺言の内容」を示すべきでしょう。

また、遺言執行者による通知は、通常、遺言執行者から相続人等関係者に対して行われる最初の連絡であり、遺言書の検認が先行しない場合などでは、通知を受領する者は、被相続人死亡の事実すら知らない場合もあります。相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができなくなりますので(民法1013条)、遺言執行者の権限とその職務の概要を説明し、相続人の理解と協力を求めることも必要です。

PDF 遺言執行者任務開始のご通知(相続人に対するもの)の記載例 [ サイズ:82KB ]

任務終了の通知書兼報告書

遺言執行者の任務が終了した場合、民法655条の規定が準用され(民法1020条)、遺言執行者は、その任務の終了事由を通知することが必要であり、通知するまでは遺言執行者はその任務の終了を対抗できません。

遺言執行者の任務終了は当然に相続人らの知るところとならないため、相続人や受遣者らの不測の損害を生じさせないためにも、速やかに通知が必要となります。通知の方式についての定めはありませんが、後日の紛争を防ぐため書面によることが適切といえます。

また、遺言執行者は、任務が終了した後、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければなりません(民法1012条3項・645条)。この顛末報告の方式・内容についても特段の定めはありませんが、後日の紛争を防ぐため書面によることが適切といえます。

PDF 任務終了の通知書兼報告書の記載例 [ サイズ:109KB ]

成年後見・任意後見等の書式・見本等

2023-07-17

成年後見制度とは

成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が十分ではない方を保護するための制度です。成年後見制度には、次のようなタイプがあります。

区分対象となる方援助者
補助判断能力が不十分な方補助人監督人を選任することがあります。
補佐判断能力が著しく不十分な方補佐人
後見判断能力が欠けているのが通常の状態の方後見人
任意後見本人の判断能力が不十分になったときに、本人があらかじめ結んでおいた任意後見契約にしたがって任意後見人が本人を援助する制度です。家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときから、その契約の効力が生じます。

関連ページ
成年後見制度

成年後見・任意後見等の書式・見本

ここでは成年後見等について、診断書・契約書等の書式・見本をご紹介します。

なお、書式・見本の使用は、後見問題に直面されている当事者個人の方及び弁護士のみとさせていただきます。

他士業その他の事業者の方に対しては、弁護士法違反(非弁活動)のおそれがあるため、無断使用を一切認めておりませんので、ご了承ください。

診断書書式(成年後見制度用)

家庭裁判所は、補助及び任意後見の利用開始にあたっては医師の意見を聴かなければならないとされており、申立てにあたっては医師の診断書を提出する必要があります。

後見及び補佐については、原則として医師等の鑑定を必要とするとされていますが、診断書の記載等から明らかに必要がないと認められる場合には鑑定は不要とされており、鑑定の要否を検討するため、まずは補助及び任意後見と同様、申立てにあたって医師の診断書を提出する必要があります。

医師に診断書の作成を依頼する際には、こちらの作成依頼説明もあわせて医師に提出すると良いでしょう。

PDF 診断書書式(成年後見制度用) [ サイズ:114KB ]

PDF 成年後見制度用診断書の作成を依頼された医師の方へ(お願い) [ サイズ:77KB ]

診断書付表

診断書とともに家庭裁判所への申立ての際に提出する資料です。

PDF 診断書付表 [ サイズ:68KB ]

本人情報シート(成年後見制度用)

医師に診断書を作成してもらう際には、本人に対する問診や家族等からの聞き取り結果、各種の医学的検査の結果等を総合的に検討し、判断がされますが、医師に的確に判断してもらうため、本人を支える福祉関係者から、医師に対し、本人の日常及び社会生活に関する客観的な情報を提供した上で本人の生活上の課題を伝えることが有益です。そこで、医師が診断する際の補助資料として、本人を支える福祉関係者に「本人情報シート」の作成してもらうことが望ましいとされています。

福祉関係者に本人情報シートの作成を依頼する際には、こちらの作成依頼説明もあわせて福祉関係者に提出すると良いでしょう。

PDF 本人情報シート(成年後見制度用) [ サイズ:86KB ]

PDF 「本人情報シート」の作成を依頼された福祉関係者の方へ [ サイズ:56KB ]

委任契約及び任意後見契約公正証書

任意後見契約とは、委任契約の一種で、委任者(本人)が、受任者に対し、将来認知症などで自分の判断能力が低下した場合に、自分の後見人になってもらうことを委任する契約です。

任意後見契約を締結するには、任意後見契約に関する法律により、公正証書でしなければならないことになっています。

任意後見契約は判断能力が低下した場合に備えた契約ですが、通常は、現時点で判断能力はあるものの、年を取ったり病気になったりして体が不自由になった場合に備えて、あらかじめ財産管理等の通常の委任契約を任意後見契約と組み合わせて締結する場合が多いといえます。

こちらは、通常の委任契約と任意後見契約を組み合わせた場合の書式・見本です。

PDF 委任契約及び任意後見契約公正証書の記入例 [ サイズ:135KB ]

任意後見契約公正証書

こちらは、任意後見契約のみの場合の書式・見本です。本人の判断能力がずっと十分であれば、契約の効力が発生することはありません。

なお、認知症等によりすでに判断能力が不十分である方は、任意後見契約を締結することはできませんので、家庭裁判所での法定後見制度(補助・保佐・後見)を利用することになります。

PDF 任意後見契約公正証書の記載例 [ サイズ:122KB ]

死後事務委任契約公正証書

死後事務委任契約とは、委任者(本人)が第三者(個人、法人を含む。)に対し、亡くなった後の諸手続、葬儀、納骨、埋葬に関する事務等に関する代理権を付与して、死後事務を委任する契約をいいます。

死後事務委任契約は、任意後見契約とは異なり、必ずしも公正証書にしなければならないものではありませんが、実際に自分が亡くなった後の手続きを行う際に、相続人や役所などとの無用なトラブルリスクを下げるために、死後事務委任契約書は公正証書で作成する方が良いといえます。

PDF 死後事務委任契約公正証書の記載例 [ サイズ:67KB ]

参考ページ
死後事務委任契約とは

遺産分割協議書の書式・見本等

2023-05-01

遺産分割協議書の作成にあたって

遺産分割の意義

遺産分割とは、共同相続における遺産の共有関係を解消し、遺産を構成する個々の財産を各相続人に分配して、それらを各相続人の単独所有に還元する手続きをいいます。

相続が開始すると、被相続人の財産は相続人に移転し(民法896条本文)、相続人が複数ある場合には遺産は相続人の共有に属します(民法898条1項)。これを単独所有に戻す手続きが、遺産分割手続です。

遺産分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して行うものとされています(民法906条)。

遺産分割の手続

指定分割

被相続人は、遺言で遺産分割の方法を指定したり、相続開始の時から5年を超えない期間を定めて遺産分割を禁止したりすることができます(民法908条1項)。

分割方法の指定とは、現物分割、換価分割及び代償分割のいずれの方法によるかの指定をいいますが、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言(特定財産承継遺言)についても、特段の事情のない限り分割方法の指定であるとされています(最判平成3年4月19日・判時1384号24頁)。

協議分割

被相続人の遺言による分割方法の指定又は禁止等がなければ、共同相続人は、協議によっていつでも遺産の全部又は一部の分割をすることができます(民法907条1項)。協議分割で合意が成立した場合には、遺産分割協議書を作成することとなります。

遺産分割請求権は時効にかかりませんが、令和5年4月施行の民法改正により、相続開始(被相続人の死亡)時から10年を経過した後にする遺産分割は、原則として、具体的相続分ではなく、法定相続分(又は指定相続分)によることとなります(民法904条の3)。改正法の施行日前に開始した相続についても適用されますので、早めの遺産分割が肝心です。

調停分割

共同相続人間に遺産分割の協議が調わない場合、又は協議をすることができない場合には、各共同相続人は、家庭裁判所に全部又は一部の分割を請求することができます(民法907条2項本文)。ただし、審判に移行した場合、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合には、一部分割請求は不適法として却下されます(民法907条2項ただし書)。

遺産分割事件は、家事事件手続法別表第二12項に掲げる事件であり、審判の申立て(家事事件手続法39条)、調停の申立て(家事事件手続法244条)のいずれの手続を申し立てることも可能です(調停前置主義(家事事件手続法257条)は適用されません。)。もっとも、裁判所は、審判申立てのあった遺産分割事件を職権で調停に付すことができ(家事事件手続法274条1項)、実務上、まず調停の申立てがなされることが多くなっています。

調停分割は、中立的な調停官・調停委員の下、話合いで分割内容を合意する手続です。合意が成立した場合に作成される調停調書の記載には確定した審判と同一の効力が認められます(家事事件手続法268条1項)。

審判分割

調停が不成立となった場合には、審判手続に移行します(家事事件手続法272条4項)。

調停と異なり、審判は話合いではなく、家事審判官が職権で事実の調査及び証拠調べを行い、民法906条の分割基準に従って、各相続人の相続分に反しないように分割を実行します。

関連ページ
遺産分割協議・調停・審判

遺産分割協議書の作成

協議分割は、共同相続人全員の意思の合致により遺産を分割する手続であり、合意形成手段は共同相続人の自由に任されています。 実際の合意方法は、共同相続人が一堂に集まり話し合うのが望ましいといえますが、共同相続人の数が多い場合、また相互に遠隔の地であり全員が集まって話し合うことが困難な場合などには、電話や手紙、メールなどの通信手段を使って協議を進めることもあります。

共同相続人間で合意が成立した場合、協議の内容を証明するため、 遺産分割協議書を作成しておくのが通常ですし、協議の蒸し返しを防ぐためにも書面を作成しておくことが望ましいといえます。

遺産分割協議書を作成する場合には、特に次のような点に注意しましょう。

  1. 被相続人や相続人を、氏名・本籍・住所・生年月日・被相続人との続柄などで明確に特定する。
  2. 氏名・住所は、住民票や印鑑証明書に記載されているとおりに記載する。
  3. 遺産は、不動産の場合、登記事項証明書等の記載によって、その 他の財産についてもほかの財産との区別が可能な程度に明確に特定する。
  4. 各相続人は、実印で捺印する。氏名も自署し、また、各人の印鑑証明書を添付することが望ましい。
  5. 不動産がある場合には、登記手続に備えてあらかじめ協議書の記載内容を司法書士に確認する。
  6. 銀行や証券会社など、各社に専用の決められた様式の用紙への押印を要求される場合があるので、あらかじめ確認し、必要があれば、協議書への押印と同時に専用書類への押印を済ませられるようにする。
  7. 各相続人が協議書を1通ずつ所持できるよう、相続人の人数と同じ通数を作成し、全相続人の割印をする。
  8. 協議書が複数頁にわたる場合、各用紙の間に全相続人の契印をする。
  9. 現在判明していない遺産が今後発見された場合、誰にどう分配するかについても決めておくことが望ましい。
  10. 後の紛争等の可能性を減らしたい場合は、公正証書の利用も検討 する。

ケース別遺産分割協議書の書式・見本

ここでは遺産分割協議書について、よくあるケース別の書式・見本をご紹介します。

なお、書式・見本の使用は、相続問題に直面されている当事者個人の方及び弁護士のみとさせていただきます。

他士業その他の事業者の方に対しては、弁護士法違反(非弁活動)のおそれがあるため、無断使用を一切認めておりませんので、ご了承ください。

一般的な遺産分割協議書の場合

PDF 一般的な遺産分割協議書の記入例[サイズ:111KB]

被相続人Aの妻甲、長男乙、次男丙、長女丁の4名で遺産分割協議を行い、遺産分割の対象とする財産を別紙遺産目録記載のとおりであることを確認し、負債を現金及び預貯金から精算した上で、概ね法定相続分通りに分割し、祭祀承継者を指定するとともに、各相続人の遺産の取得の実行行為及びその手続を弁護士甲野太郎に委任する内容です。

共同相続人が相続分を共同相続人以外の者に譲渡する場合

PDF 共同相続人が相続分を共同相続人以外の者に譲渡する場合の記入例[サイズ:59KB]

被相続人Aには、実子B・Cと内縁の妻Dがいたところ、B・Cがそれぞれの相続分2分の1をDに譲渡した上で、Dが自宅の土地・建物を住宅ローン債務を含めて取得し、B・Cが預貯金をそれぞれ取得する内容です。

被相続人名義の建物について、長男が生前贈与を受けていた場合

PDF 被相続人名義の建物について長男が生前贈与を受けていた場合の記入例[サイズ:59KB]

被相続人Aには、妻B、長男C及び次男Dがいたところ、別棟の建物はAの生前にCがAから贈与を受けたものであるため、これを特別受益として相続分を算定した結果、Cの取得をなしとする一方で、別棟の建物をC名義に所有椎移転登記手続をする内容です。

長男名義の預金が被相続人の財産である場合

PDF 長男名義の預金が被相続人の財産である場合の記入例[サイズ:62KB]

被相続人Aには、長男B及び次男Cがいたところ、A名義の遺産は自宅の土地・建物のみであるが、B名義の預金の通帳及び届出印はAが所持し、その入出金もAが行っていたことから、実質的にAの遺産であることを確認した上で遺産分割する内容です。

相続開始前後の使途不明金の取り決めをする場合

PDF 相続開始前後の使途不明金の取り決めをする場合の記入例[サイズ:46KB]

被相続人Aには、長男B及び次男Cがいたところ、Aの生前はBが預貯金の管理を任され、Aの死亡後、その管理をCに引き継いだ。Aの生前の使途不明金が合計300万円あり、相続開始後の使途不明金が合計500万円あった場合に、B及びCがそれぞれの使途不明金を認めた上で、それぞれの受取物返還請求権を遺産として自ら取得して清算する内容です。

相続放棄のための書式・見本等

2023-04-17

相続放棄申述書

この書式は、相続放棄を行う際に家庭裁判所に提出する申述書のサンプルです。

相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時(被相続人の死亡の事実を知った時+具体的自分が相続人となったことを知った時)から3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をし、受理される必要があります(民法915条1項)。

要件を備えられていることが家庭裁判所において確認されると、相続放棄の申述が受理され、相続放棄の効力が生じます。

被相続人の遺産(相続財産)にプラスの財産に比べて明らかに大きな借金がある場合や、相続に伴うトラブルに巻き込まれたくない場合に、相続放棄をすることで、相続人が不利益を被ることを回避することが可能となります。

もっとも、相続放棄にはデメリットもありますので、注意が必要です。サンプルは参考程度にとどめて、まずは弁護士に相談することをお勧めします。

Word 相続放棄申述書書式[サイズ:35KB]
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PDF 記載例(成人用)[サイズ:100KB]
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PDF 記載例(未成年用)[サイズ:103KB]
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関連ページ
相続放棄・限定承認
親の借金を相続したくない

相続の限定承認の申述書

この書式は、限定承認を行う場合に家庭裁判所に提出する申述書のサンプルです。

限定承認は、自己のために相続の開始があったことを知った時(被相続人の死亡の事実を知った時+具体的自分が相続人となったことを知った時)から3ヶ月以内に家庭裁判所に限定承認の申述をし、受理される必要があります(民法915条1項)。

要件を備えられていることが家庭裁判所において確認されると、限定承認の申述が受理され、相続放棄の効力が生じます。

限定承認は、被相続人の債務がどの程度あるか不明であり、財産が残る可能性もある場合等に、相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ制度です。例えば、借金がプラスの財産よりも多いかどうか不明な場合、借金を考慮しても自宅などどうしても相続したい遺産がある場合、家業を継いでいくような場合に、遺産の範囲内であれば借金を引き継いで良いという場合に限定承認を利用することが考えられます。

もっとも、限定承認にはデメリットもありますので、注意が必要です。サンプルは参考程度にとどめて、まずは弁護士に相談することをお勧めします。

Word 限定承認申述書書式[サイズ:33KB]
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令和3年改正「民法のルールの見直し④ 相隣関係の見直し」(令和5年4月1日施行)

2023-03-08

【執筆】弁護士 母壁 明日香(茨城県弁護士会所属)

民法のルールの見直し

所有者不明土地については、調査を尽くしても土地の所有者が特定できず、又は所在が不明な場合には、土地の円滑な利用や管理が困難です。

また、所有者不明土地問題を契機に、現行民法の規律が現代の社会経済情勢にそぐわないことが顕在化してきました。

そこで、民法のルールについて、以下のような見直しがなされました。

4 相隣関係の見直し

隣地の所有者やその所在を調査しても分からない場合には、隣地の所有者から隣地の利用や枝の切取り等に必要となる同意を得ることができないため、土地の円滑な利活用が困難となります。

そこで、隣地を円滑・適正に使用することができるようにする観点から、相 隣関係に関するルールの様々な見直しが行われました。

(1)隣地使用権

境界調査や越境してきている竹木の枝の切取り等のために隣地を一時的に使用することができることが明らかにされるとともに、隣地の所有者やその所在を調査しても分からない場合にも隣地を使用することができる仕組みが設けられました。

現行法での問題点

現行法では、「土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。」(現民法209条1項本文)と規定されています。

もっとも、「隣地の使用を請求することができる」の具体的意味が判然としないため、隣地所有者が所在不明である場合等には対応が困難となっていました。

また、障壁・建物の築造・修繕以外の目的で隣地を使用することができるかどうかが不明確であるため、土地の利用・処分を阻害していました。

改正法

隣地使用権の内容に関する規律の整備

● 土地の所有者は、所定の目的のために必要な範囲内で、隣地を使用する権利を有する旨を明確化(新民法209条1項)

  • 隣地を使用できる権利がある場合も、一般的に、自力執行は禁止されているので、例えば、使用を拒まれた場合には、妨害禁止の判決を求めることになります。
  • 他方で、事案ごとの判断にはなりますが、例えば、隣地が空き地となっていて実際に使用している者がおらず、隣地の使用を妨害しようとする者もいないケースでは、土地の所有者は裁判を経なくとも適法に隣地を使用できると考えられます。

隣地所有者・隣地使用者(賃借人等)の利益への配慮

  • 隣地使用の日時・場所・方法は、隣地所有者及び隣地使用者のために損害が最も少ないものを選ばなければなりません(新民法209条2項)。
  • 隣地使用に際しての通知に関するルールが以下のとおり整備されました(新民法209条3項)。

<隣地所有者及び隣地使用者への通知>

【原則】
隣地使用に際しては、あらかじめ(※)、その目的、日時、場所及び方法を隣地所有者に(隣地所有者とは別に隣地使用者がいるときは隣地使用者にも通知しなければならない。
※ 隣地使用の目的・日時・場所・方法に鑑み、通知の相手方が準備をするに足りる合理的な期間を置く必要がある(事案によるが、緊急性がない場合は通常は2週間程度)。

【例外】
あらかじめ通知することが困難なときは、隣地の使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。
(例)
急迫の事情がある場合(建物の外壁が剥落する危険があるときなど)
隣地所有者が不特定又は所在不明である場合(現地や不動産登記簿・住民票等の公的記録を調査しても所在が判明しないとき)
⇒ 隣地所有者が不特定又は所在不明である場合は、隣地所有者が特定され、その所在が判明した後に遅滞なく通知することで足り、公示による意思表示(民法98条)により通知する必要はない。

隣地使用が認められる目的を拡充・明確化

  • ① 障壁、建物その他の工作物の築造、収去、修繕
  • ② 境界標の調査・境界に関する測量
  • ③ 新民法233条3項による越境した枝の切取り(新民法209条1項)

(2)ライフラインの設備の設置・使用権

ライフラインを自己の土地に引き込むために、導管等の設備を他人の土地に設置する権利や、他人の所有する設備を使用する権利があることが明らかにされるとともに、設置・使用のためのルール(事前の通知や費用負担などに関するルール)も整備されました。

現行法での問題点

他人の土地や設備(導管等)を使用しなければ各種ライフラインを引き込むことができない土地の所有者は、解釈上、現行法の相隣関係規定等の類推適用により、他人の土地への設備の設置や他人の設備の使用をすることができると解されてきました。

もっとも、明文の規定がないため、設備の設置・使用に応じてもらえないときや、所有者が所在不明であるときなどには、対応が困難でした。

また、権利を行使する際の事前の通知の要否などのルールや土地・設備の使用に伴う償金の支払義務の有無などのルールが不明確で、不当な承諾料を求められるケースもありました。

改正法

ライフラインの設備の設置・使用権に関する規律の整備

設備設置権(他の土地にライフラインの設備を設置する権利)の明確化

他の土地に設備を設置しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付を受けることができない土地の所有者は、必要な範囲内で、他の土地に設備を設置する権利を有することが明文化されました(新民法213条の2第1項)。

※ 「その他これらに類する継続的給付」には、電話・インターネット等の電気通信が含まれます。

※ 隣接していない土地についても、必要な範囲内で設備を設置することが可能です(例:上図の「Z土地」での給水管の設置)。

※ 土地の分割・一部譲渡によって継続的給付を受けることができなくなった場合は、分割者又は譲渡者の所有地のみに設備を設置することが可能です(新民法213条の3)。

設備使用権(他人が所有するライフラインの設備を使用する権利)の明確化

他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付を引き込むことができない土地の所有者は、必要な範囲内で、他人の所有する設備を使用する権利を有することが明文化されました(新民法213条の2第1項)。

場所・方法の限定

設備の設置・使用の場所・方法は、他の土地及び他人の設備のために損害が最も少ないものに限定されます(新民法213条の2第2項)。

※ 設備設置等の方法が複数ある場合(例:上図の「Y・Z土地」にも接続可能な給水管が既に設置されている場合)も、最も損害が少ない方法を選択することとなります。

※ 設備を設置する場合には、公道に通ずる私道や公道に至るための通行権(民法210条)の対象部分があれば、通常はその部分を選択します。

○ 設備設置・使用権がある場合も、一般的に、自力執行は禁止されているため、例えば、設備設置・使用を拒まれた場合には、妨害禁止の判決を求めることになります。

○ 他方で、事案ごとの判断にはなりますが、例えば、他の土地が空き地になっており、実際に使用している者がおらず、かつ、設備の設置等が妨害されるおそれもない場合には、裁判を経なくても適法に設備の設置等を行うことができると考えられます。

○ 設備の設置工事等のために一時的に他の土地を使用する場合には、隣地使用権の規律が準用されます(新民法213条の2第4項・5項)。

事前通知の規律の整備

他の土地に設備を設置し又は他人の設備を使用する土地の所有者は、あらかじめ(A)、その目的、場所及び方法を他の土地・設備の所有者(B)に通知(C)しなければなりません(新民法213条の2第3項)。

A)通知の相手方が、その目的・場所・方法に鑑みて設備設置使用権の行使に対する準備をするに足りる合理的な期間を置く必要があります(事案によりますが、2週間〜1か月程度)。

B)他の土地に設備を設置する場合に、他の土地に所有者とは別の使用者(賃借人等)がいるときは使用者にも通知する必要があります(新民法213条の2第3項)。

他人の設備に所有者とは別の使用者がいたとしても、法律上は通知を求められていませんが、使用者への影響も考慮し、事実上通知することが望ましいとされています。

C)通知の相手方が不特定又は所在不明である場合にも、例外なく通知が必要です(簡易裁判所の公示による意思表示(民法98条)を活用)。

※ 設備の設置工事等のために一時的に他の土地を使用する場合には、当該使用についても併せて通知します(新民法213条の2第4項、209条3項)。

償金・費用負担の規律の整備

他の土地への設備設置権

土地の所有者は、他の土地に設備を設置する際に次の損害が生じた場合には、償金を支払う必要があります。

① 設備設置工事のために一時的に他の土地を使用する際に、当該土地の所有者・使用者に生じた損害(新民法213条の2第4項、209条4項)

⇒ 償金は一括払い

(例)他の土地上の工作物や竹木を除去したために生じた損害

② 設備の設置により土地が継続的に使用することができなくなることによって他の土地に生じた損害(新民法213条の2第5項)

⇒ 償金は1年ごとの定期払が可能

(例)給水管等の設備が地上に設置され、その場所の使用が継続的に制限されることに伴う損害

 ※ 償金の支払を要する「損害」は、①については実損害であり、②については設備設置部分の使用料相当額です。事案ごとの判断にはなりますが、導管などの設備を地下に設置し、地上の利用自体は制限しないケースでは、損害が認められないことがあると考えられます。他の土地の所有者等から設備の設置を承諾することに対するいわゆる承諾料を求められても、応ずる義務はありません。

※ 土地の分割又は一部譲渡に伴い、分割者又は譲渡者の所有地のみに設備の設置をしなければならない場合には、②の償金を支払うことを要しません(新民法213条の3第1項後段・2項)。

他人が所有する設備の使用権

① 土地の所有者は、その設備の使用開始の際に損害が生じた場合に、償金を支払う必要があります。

⇒ 償金は一括払い(新民法213条の2第6項)

(例)設備の接続工事の際に一時的に設備を使用停止したことに伴って生じた損害

② 土地の所有者は、その利益を受ける割合に応じて、設備の修繕・維持等の費用を負担します(新民法213条の2第7項)。

(3)越境した竹木の枝の切取り

催促しても越境した枝が切除されない場合や、竹木の所有者やその所在を 調査しても分からない場合等には、越境された土地の所有者が自らその枝を切り取ることができる仕組みが整備されました。

現行法での問題点

現行法では、土地の所有者は、隣地の竹木の根が境界線を越えるときは自らその根を切り取ることができますが、枝が境界線を越えるときはその竹木の所有者に枝を切除させる必要があります(現民法233条)。

竹木の所有者が枝を切除しない場合には、訴えを提起し、切除を命ずる判決を得て、強制執行の手続をとるほかありませんが、竹木の枝が越境する都度、常に訴えを提起しなければならないとするのでは、救済を受けるための手続が過重になります。

また、竹木が共有されている場合に、竹木の共有者が越境した枝を切除しようとしても、基本的には、変更行為として共有者全員の同意が必要と考えられており、竹木の円滑な管理を阻害します。

改正法

土地所有者による枝の切取り

越境された土地の所有者は、竹木の所有者に枝を切除させる必要があるという原則を維持しつつ、 次のいずれかの場合には、枝を自ら切り取ることができます(新民法233条3項)。

竹木の所有者に越境した枝を切除するよう催告したが、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき

竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき

急迫の事情があるとき

※ 道路を所有する国や地方公共団体も、隣接地の竹木が道路に越境してきたときは、新たな規律によって枝を切り取ることが可能です。

※ ①の場合に共有物である竹木の枝を切り取るに当たっては、基本的に、竹木の共有者全員に枝を切除するよう催告する必要があります。もっとも、一部の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときには、その者との関係では②の場合に該当しますので、催告は不要となります。

※ ①の「相当の期間」とは、枝を切除するために必要な時間的猶予を与える趣旨であり、事案によりますが、基本的には2週間程度と考えられます。

※ 越境された土地所有者が自ら枝を切り取る場合の費用については、枝が越境して土地所有権を侵害していることや、土地所有者が枝を切り取ることにより竹木の所有者が本来負っている枝の切除義務を免れることを踏まえ、基本的には、不当利得または不法行為として、竹木の所有者に請求できるものと考えられます(民法703条・709条)。

竹木の共有者各自による枝の切除

竹木が共有物である場合には、各共有者が越境している枝を切り取ることができます(新民法233条2項)。

したがって、竹木の共有者の一人から承諾を得れば、越境された土地の所有者などの他人がその共有者に代わって枝を切り取ることができます。

また、越境された土地の所有者は、竹木の共有者の一人に対しその枝の切除を求めることができ、その切除を命ずる判決を得れば、代替執行(民事執行法171条1項・4項)が可能となります。

令和3年改正「民法のルールの見直し③ 相続制度(遺産分割)の見直し」(令和5年4月1日施行)

2023-03-01

【執筆】弁護士 母壁 明日香(茨城県弁護士会所属)

民法のルールの見直し

所有者不明土地については、調査を尽くしても土地の所有者が特定できず、又は所在が不明な場合には、土地の円滑な利用や管理が困難です。

また、所有者不明土地問題を契機に、現行民法の規律が現代の社会経済情勢にそぐわないことが顕在化してきました。

そこで、民法のルールについて、以下のような見直しがなされました。

3 相続制度(遺産分割)の見直し

(1)遺産分割に関する見直し(遺産共有関係の解消の必要性)

相続が開始して、相続人が複数いると、遺産(相続財産)に属する土地や建物、動産、預金などの財産は、原則として相続人による共有(遺産共有)となります(現民法898条)。

もっとも、遺産共有関係にあると、各相続人の持分権が互いに制約し合う関係に立ち、遺産の管理に支障を来す事態が生じます。また、遺産分割がされないまま相続が繰り返されて多数の相続人による遺産共有関係となると、遺産の管理・処分が困難になります。このような状態の下で相続人の一部が所在不明になり、所有者不明土地が生ずることも少なくありません。

遺産共有関係は、本来、遺産分割により速やかに解消されるべき暫定的なものです。遺産分割による遺産共有関係の解消は、所有者不明土地の発生予防の観点からも重要です。

そこで、改正法では、

  • 具体的相続分による遺産分割に時的限界を設けることによる遺産共有関係の解消の促進・円滑化(新民法904条の3)
  • 相続開始後長期間が経過し、通常共有持分と遺産共有持分が併存する場合の分割方法の合理化(新民法258条の2)
  • 相続開始後長期間が経過し、相続人の所在等が不明な場合の不動産の遺産共有持分の取得方法等の合理化(新民法262条の2、262条の3)

がなされました。以下では、各制度を詳しく説明します。

【用語の説明等】

遺産分割
遺産共有の解消方法(民法906以下)
・遺産分割協議(合意)又は家庭裁判所の遺産分割審判・調停による。
・遺産分割の基準は、法定相続分又は指定相続分ではなく、具体的相続分の割合による。

法定相続分
民法であらかじめ定められている画一的な割合

指定相続分
遺言により被相続人等が指定した割合

具体的相続分
法定相続分・指定相続分を事案ごとに下記の方法で修正して算出する割合

(個々の相続人の具体的相続分)
=(①みなし相続財産の価額(相続財産の価額+特別受益の総額-寄与分の総額)×②法定相続分又は指定相続分)-③個々の相続人の特別受益(生前贈与等)の価額+④個々の相続人の寄与分の価額

(具体的相続分の割合(具体的相続分率))
= 各相続人の具体的相続分の価額の総額を分母とし、各相続人の具体的相続分の価額を分子とする割合

(2)具体的相続分による遺産分割の時的限界

現行法の問題点

現行法では、具体的相続分の割合による遺産分割を求めることについての時的制限がなく、長期間放置をしていても具体的相続分の割合による遺産分割を希望する相続人に不利益が生じません。そのため、相続人が早期に遺産分割の請求をすることについてインセンティブが働きにくくなっていました。

また、相続開始後遺産分割がないまま長期間が経過すると、生前贈与や寄与分に関する書証等が散逸し、関係者の記憶も薄れてしまいます。そうすると、具体的相続分の算定が困難になり、遺産分割の支障となるおそれがあります。

改正法

制度の概要

【原則】

相続開始(被相続人の死亡)時から10年を経過した後にする遺産分割は、具体的相続分ではなく、法定相続分(又は指定相続分)によることとなります(新民法904条の3)。

<10年経過後の法律関係>

○ 分割方法は遺産分割
10年経過により分割基準は法定相続分等となるが、分割方法は基本的に遺産分割であって、共有物分割ではない。
【分割基準以外の遺産分割の特徴】
・裁判手続は家庭裁判所の管轄
・遺産全体の一括分割が可能
・遺産の種類・性質、各相続人の状況等の一切の事情を考慮して分配(民法906条)
配偶者居住権の設定も可能

○ 具体的相続分による遺産分割の合意は可能
10年が経過し、法定相続分等による分割を求めることができるにもかかわらず、相続人全員が具体的相続分による遺産分割をすることに合意したケースでは、具体的相続分による遺産分割が可能

【例外】(引き続き具体的相続分により分割)

① 10年経過前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき
② 10年の期間満了前6か月以内に、遺産分割請求をすることができないやむを得ない事由(※)が相続人にあった場合において、当該事由消滅時から6か月経過前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき

※ 被相続人が遭難して死亡していたが、その事実が確認できず、遺産分割請求をすることができなかったなど。

このように、具体的相続分による遺産分割の時的制限を設けることにより、具体的相続分による分割を求める相続人に早期の遺産分割請求を促す効果を期待できます。

また、具体的相続分による分割の利益を消滅させ、画一的な割合である法定相続分を基準として円滑に分割を行うことが可能になりました。

経過措置

改正法の施行日(令和5年4月1日)前に被相続人が死亡した場合の遺産分割についても、新法のルールが適用されます(附則3条)。ただし、経過措置により、少なくとも施行時から5年の猶予期間が設けられます。

このように、改正法の施行日前に開始した相続についても適用されるので、早めの遺産分割が肝心です。

【相続開始時から10年を経過していても具体的相続分により分割する場合】

相続開始時から10年経過時又は改正法施行時から5年経過時のいずれか遅い時までに、相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき

② 相続開始時からの10年の期間(相続開始時からの10年の期間の満了後に改正法施行時からの5年の期間が満了する場合には、改正法施行時からの5年の期間)満了前6か月以内に、遺産分割請求をすることができないやむを得ない事由が相続人にあった場合に、当該事由消滅時から6か月経過前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき

(3)遺産共有と通常共有が併存している場合の特則

現行法の問題点

(設例)土地共有者A・BのうちBが死亡し、CとDが相続をしたケース

→ 通常共有持分(A)と遺産共有持分(C・D)が併存

A 通常共有C 遺産共有D 遺産共有

現行法では、遺産共有と通常共有が併存する共有関係を裁判で解消するには、通常共有持分と遺産共有持分との間の解消は共有物分割手続で、遺産共有持分間の解消は遺産分割手続で、別個に実施しなければならず、一元的処理を可能とする必要がありました。他方で、遺産分割には固有の利点(具体的相続分の割合による分割の利益、遺産全体の一括分割が可能など)があるため、相続人に遺産分割をする機会を保障する必要があります。

そこで、遺産分割の機会が確保され、かつ、具体的相続分を考慮する必要がない状態であれば、共有物分割手続による一元的処理も可能と考えられます。

改正法

遺産共有と通常共有が併存する場合において、相続開始時から10年を経過したときは、遺産共有関係の解消も地方裁判所等の共有物分割訴訟において実施することが可能となりました(不動産に限らず、共有物一般が対象です) (新民法258条の2第2項、3項)。

上記設例で、Cが土地の全部を取得するための手続は、共有物分割の判決により、Cが単独所有権を取得し、A・Dが代償金を取得することとなります。

※ 共有物分割をする際の遺産共有持分の解消は、具体的相続分ではなく法定相続分又は指定相続分が基準です(新民法898条2項)。ただし、被告である相続人が遺産共有の解消を共有物分割において実施することに異議申出をしたときは、することができません。

※ 異議申出は、①遺産分割請求がされていることを前提に、②相続人が共有物分割訴訟の請求があったとの通知(=訴状の送達)を受けた日から2か月以内にする必要があります。

※ 10年経過前や異議申出があったケースでは、現行法と同じく、別個に手続をとる必要があります。

(4)不明相続人の不動産の持分取得・譲渡

現行法の問題点

相続により不動産が遺産共有状態となったものの、相続人の中に所在等が不明な者がいるケースでも、所在等不明相続人との不動産の共有関係を解消するため、その持分の取得・譲渡を可能とする必要があります。他方で、遺産分割には固有の利点(具体的相続分の割合による分割の利益、不動産に限らない遺産全体の一括分割が可能など)があり、相続人に遺産分割をする機会を保障する必要があります。ただ、持分取得・譲渡制度の利用の前提となる供託金の額について具体的相続分を基に算定することは困難です。

そこで、相続開始時から10年の期間があれば、遺産分割の機会は保障されているものと考え、また、相続開始時から10年が経過すれば、遺産分割の基準は原則として法定相続分等となることから、供託金の額も法定相続分等を基に算定することが可能になります(遺産分割請求ができないやむを得ない事由がある場合については、異議の届出の仕組み等で対応できます)。

改正法

共有者(相続人を含む。)は、相続開始時から10年を経過したときに限り、持分取得・譲渡制度により、所在等不明相続人との共有関係を解消することができるようになりました。

  • ① 共有者は、裁判所の決定を得て、所在等不明相続人(氏名等不特定を含む)の不動産の持分を、その価額に相当する額の金銭の供託をした上で、取得することができます(新民法262条の2第3項)。
  • ② 共有者は、裁判所の決定を得て、所在等不明相続人以外の共有者全員により、所在等不明相続人の不動産の持分を含む不動産の全体を、所在等不明相続人の持分の価額に相当する額の金銭の供託をした上で、譲渡することができます(新民法262条の3第2項)。

※ 異議届出期間満了前に家庭裁判所に遺産分割の請求がされ、異議の届出があれば、遺産分割手続が優先され、持分取得の裁判の申立ては却下されます。
(例)相続人が、やむを得ない事由があることを理由に、具体的相続分による遺産の分割を求めて遺産分割の請求を行い、異議の届出をしたケースなど

※ 共有者が取得する所在等不明相続人の不動産の持分の割合、所在等不明相続人に対して支払うべき対価(供託金の額)は、具体的相続分ではなく、法定相続分又は指定相続分を基準とします(新民法898条2項)。

※ 相続開始時から10年が経過する前でも、所在等不明相続人の土地・建物の持分につき、所有者不明土地・建物管理人を選任することは可能です。

令和3年改正「民法のルールの見直し② 共有制度の見直し」(令和5年4月1日施行)

2023-02-22

【執筆】弁護士 母壁 明日香(茨城県弁護士会所属)

民法ルールの見直し

所有者不明土地については、調査を尽くしても土地の所有者が特定できず、又は所在が不明な場合には、土地の円滑な利用や管理が困難です。

また、所有者不明土地問題を契機に、現行民法の規律が現代の社会経済情勢にそぐわないことが顕在化してきました。

そこで、民法のルールについて、以下のような見直しがなされました。

2 共有制度の見直し

(1)共有物の利用促進

ア 共有物の変更・管理に関する見直し

現行法では、各共有者は、持分に応じて共有物を使用することができます(現民法249条)が、共有者相互の関係を調整するため、次のルールが定められています。このルールは、相続によって遺産に属する財産が相続人に共有されている場合(遺産共有)にも適用されます。

  • ① 共有物に変更を加える(農地→宅地など)には、共有者全員の同意を要する(現民法251条)
  • ② 管理に関する事項(使用する共有者の決定など)は、各共有者の持分の過半数で決する(現民法252条本文)
  • ③ 保存行為(補修など)は、各共有者が単独ですることができる(現民法252条但書)

他方で、相続未登記状態にある土地について戸籍等を調査した結果、数次相続により相続人が多数に上ることや相続人の一部の所在等が不明となっていることが判明することがあります。そうすると、変更・管理に必要な同意を取り付けることが困難で、土地の利用に支障を来します。このような場合の対処方法として共有関係の解消(共有物分割訴訟など)がありますが、手続上の負担は軽くありませんでした。

また、現行法制定後120年以上の間の社会経済情勢の変化に伴い、共有者が土地の所在地から遠く離れていたり、共有者間の人的関係が希薄化したりして、共有者間で決定を得ることが困難になることもありました。

これらの問題は、相続された土地に限らず、共有物一般に発生し得るため、共有関係を解消しないままであっても、共有物の円滑な利用を可能にすることが重要です。すなわち、民法の共有物の変更・管理の規定を、社会経済情勢の変化に合わせて合理的なものに改正する必要がありました。

そこで、改正法では、

  • 共有物の「管理」の範囲の拡大・明確化(新民法251条、252条)
  • 共有物を使用する共有者がいる場合のルールの明確化・合理化(新民法249条、252条)
  • 賛否を明らかにしない共有者がいる場合の管理に関するルールの合理化(新民法252条2項)
  • 所在等不明共有者がいる場合の変更・管理に関するルールの合理化(新民法251条2項、252条2項)
  • 共有者が選任する共有物の管理者のルールの整備(新民法251条、252条の2)
  • 共有の規定と遺産共有持分に関するルールの整備(新民法898条2項)

がなされました。以下では、各制度を詳しく説明します。

イ 共有物の「管理」の範囲の拡大・明確化

現行法の問題点

現行法上は、共有物に軽微な変更を加える場合であっても、変更行為として共有者全員の同意が必要(現民法251条)と扱わざるを得ず、円滑な利用・管理を阻害していました。

また、賃借権等の使用収益権の設定は、基本的に持分の過半数で決定できますが、長期間の賃借権等については全員同意が必要と解されており、長期間かどうかの判断基準が明確でなく、実務上、慎重を期して全員同意を求めざるを得ないため、円滑な利用を阻害していました。

改正法

1 軽微変更についての規律の整備

共有物に変更を加える行為であっても、形状又は効用の著しい変更を伴わないもの(軽微変更)については、持分の過半数で決定することができます(新民法251条1項、252条1項)。

※「形状の変更」とは、その外観、構造等を変更することをいい、「効用の変更」とは、その機能や用途を変更することをいいます。具体的事案によりますが、例えば、砂利道のアスファルト舗装や、建物の外壁・屋上防水等の大規模修繕工事は、基本的に共有物の形状又は効用の著しい変更を伴わないものに当たると考えられます。

【改正法における共有物の変更・管理・保存概念の整理】

管理(最広義)の種類 根拠条文 同意要件
変更(軽微以外) 民法251条1項 共有者全員
管理(広義)

変更(軽微)

民法251条1項
民法252条1項
持分の過半数
管理(狭義) 民法252条1項  
保存 民法252条5項 共有者単独

2 短期賃借権等の設定についての規律の整備

以下の〔 〕内の期間を超えない短期の賃借権等の設定は、持分の過半数で決定することができます(新民法252条4項)。

(1)樹木の植栽又は伐採を目的とする山林の賃借権等 〔10年〕
(2)(1)に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 〔5年〕
(3)建物の賃借権等 〔3年〕
(4)動産の賃借権等 〔6か月〕

借地借家法の適用のある賃借権の設定は、約定された期間内での終了が確保されないため、基本的に共有者全員の同意がなければ無効となります。
ただし、一時使用目的(借地借家法25条、40条)や存続期間が3年以内の定期建物賃貸借(借地借家法38条1項)については、持分の過半数の決定により可能ですが、契約において、更新がないことなど所定の期間内に賃貸借が終了することを明確にする工夫が必要となります。

ウ 共有物を使用する共有者がいる場合のルール

現行法の問題点

現行法では、共有物を使用する共有者がいる場合に、その共有者の同意がなくても、持分の過半数で共有物の管理に関する事項を決定できるかは明確ではありません。そのため、無断で共有物を使用している共有者がいる場合に、他の共有者が共有物を使用することは事実上困難となっていました。

また、各共有者はその持分に応じて共有物を使用することができますが(現民法249条)、共有物を使用する共有者は、他の共有者との関係でどのような義務を負うのかが明確ではなく、共有者間における無用な紛争を惹起するおそれがありました。

改正法

1 管理に関する事項の決定方法

○ 共有物を使用する共有者がある場合でも、持分の過半数で管理に関する事項を決定することができます(新民法252条1項後段)。

共有者間の定めがないまま共有物を使用する共有者の同意なく、持分の過半数でそれ以外の共有者に使用させる旨を決定することも当然に可能となります。

※ 配偶者居住権が成立している場合には、他の共有者は、持分の過半数により使用者を決定しても、別途消滅の要件を満たさない限り配偶者居住権は存続し(民法1032条4項、1038条3項参照)、配偶者居住権を消滅させることはできません。また、共有者間の決定に基づき第三者に短期の賃借権等を設定している場合に、持分の過半数で当該賃貸借契約等の解約を決定したとしても、別途解除等の消滅の要件を満たさない限り賃借権等は存続します。

○ 管理に関する事項の決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響(※)を及ぼすべきときは、その共有者の承諾を得なければなりません(新民法252条3項)。

※ 「特別の影響」とは、対象となる共有物の性質に応じて、決定の変更等をする必要性と、その変更等によって共有物を使用する共有者に生ずる不利益とを比較して、共有物を使用する共有者に受任すべき程度を超えて不利益を生じさせることをいい、その有無は、具体的事案に応じて判断されます。

例)A、B及びCが各3分の1の持分で建物を共有している場合において、過半数の決定に基づいてAが当該建物を住居として使用しているが、Aが他に住居を探すのが容易ではなく、Bが他の建物を利用することも可能であるにもかかわらず、B及びCの賛成によって、Bに当該建物を事務所として使用させる旨を決定するケース

2 共有物を使用する共有者の義務

  • 共有物を使用する共有者は、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負います。ただし、共有者間で無償と するなどの別段の合意がある場合には、その合意に従うこととなります(新民法249条2項)。
  • 共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければなりません(新民法249条3項)。

エ 賛否を明らかにしない共有者がいる場合の管理

現行法の問題点

社会経済活動の広域化、国際化等の社会経済情勢の変化に伴い、共有者が共有物から遠く離れて居住・活動していることや共有者間の人的関係が希薄化することが増加しています。

そのため、共有物の管理に関心を持たず、連絡をとっても明確な返答をしない共有者がいる場合には、共有物の管理が困難になっていました。

改正法

賛否を明らかにしない共有者がいる場合には、裁判所の決定を得て、その共有者以外の共有者の持分の過半数により、管理に関する事項を決定することができます(新民法252条2項2号)。

変更行為や賛否を明らかにしない共有者が共有持分を失うことになる行為(抵当権の設定等)には、利用することができません
※ 賛否を明らかにしない共有者の持分が、他の共有者の持分を超えている場合や、複数の共有者が賛否を明らかにしない場合であっても、利用することができます。

手続きの流れ

① 事前の催告

共有者が、他の共有者(複数でも可)に対し、相当の期間(通常は2週間程度)を定め、決定しようとする管理事項を示した上で、賛否を明らかにすべき旨を催告

※ 催告の方法に法律上制限はないが、裁判で証明する観点から、書面等で行って証拠化しておくことも重要

② 申立て・証拠提出

  • 管轄裁判所:共有物の所在地の地方裁判所
  • 賛否不明の証明:事前催告に対して対象共有者が賛否を明らかにしないことの証明が必要
  • 対象行為の特定:決定しようとする管理事項を特定する必要

③ 1ヶ月以上の賛否明示期間・通知

  • 裁判所が対象共有者に対して賛否明示期間内に賛否を明らかにすべき旨を通知
  • 賛否を明らかにした共有者がいる場合には、裁判所は、その共有者については認容決定ができない(後の共有者間の決定においてその共有者を排除することができない)

④ 他の共有者の同意で管理をすることができる旨の決定

⑤ 共有者間での決定

例)A、B、C、D、E共有(持分各5分の1) の砂利道につき、A・Bがアスファルト舗装をすること(軽微変更=管理)について他の共有者に事前催告をしたが、D・Eは賛否を明らかにせず、Cは反対した場合には、裁判所の決定を得た上で、AとBは、アスファルト舗装をすることができる(A、B、Cの持分の過半数である3分の2の決定)。

※ 賛否を明らかにしない共有者に加えて所在等不明共有者がいるときは、この手続と併せて別の手続もとることで、それ以外の共有者の決定で管理をすることが可能

オ 所在等不明共有者がいる場合の変更・管理

現行法の問題点

所在等不明共有者(必要な調査を尽くしても氏名等や所在が不明な共有者)がいる場合には、その所在等不明共有者の同意を得ることができず、共有物に変更を加えることについて、共有者全員の同意を得ることができません。

また、管理に関する事項についても、所在等不明共有者以外の共有者の持分が過半数に及ばないケースなどでは、決定ができませんでした。

改正法

所在等不明共有者がいる場合には、裁判所の決定を得て、

  • 所在等不明共有者以外の共有者全員の同意により、共有物に変更を加えることができます(新民法251条2項)。
  • 所在等不明共有者以外の共有者の持分の過半数により、管理に関する事項を決定することができます(新民法252条2項1号)。

※ 所在等不明共有者が共有持分を失うことになる行為(抵当権の設定等)には、利用することができません

※ 所在等不明共有者の持分が、所在等不明共有者以外の共有者の持分を超えている場合や、複数の共有者が所在不明の場合であっても、利用可能です。

手続きの流れ

① 申立て・証拠提出

  • 管轄裁判所:共有物の所在地の地方裁判所
  • 所在等不明の証明:例えば、不動産の場合には、裁判所に対し、登記簿上共有者の氏名等や所在が不明であるだけではなく、住民票調査など必要な調査を尽くしても氏名等や所在が不明であることを証明することが必要
  • 対象行為の特定:加えようとしている変更や、決定しようとする管理事項を特定 して申立てをする必要

② 1ヶ月以上の異議届出期間・公告の実施

③ 他の共有者の同意で変更・管理をすることができる旨の決定

④ 共有者間での意思決定

例1)A、B、C、D、E共有の土地につき、必要な調査を尽くしてもC、D、Eの所在が不明である場合には、裁判所の決定を得た上で、AとBは、第三者に対し、建物所有目的で土地を賃貸すること(変更)ができる(A・Bの全員同意)。 例2 A、B、C、D、E共有(持分各5分の1)の建物につき、必要な調査を尽くしてもD、Eの所在が不明である場合には、裁判所の決定を得た上で、AとBは、第三者に対し、賃借期間3年以下の定期建物賃貸借をすること(管理)ができる(A、B、Cの持分の過半数である3分の2の決定)。

カ 共有物の管理者/共有の規定と遺産共有持分

共有物の管理者

共有物に管理者を選任し、管理を委ねることができれば、共有物の円滑な管理の観点から有用です。もっとも、現行法には管理者に関する明文規定がないため、選任の要件や権限の内容が判然としませんでした。

そこで、改正法では、

  • ① 管理者の選任・解任は、共有物の管理のルールに従い、共有者の持分の過半数で決定できることとなりました(新民法252条1項)。共有者以外を管理者とすることも可能です。
  • ② また、管理者は、管理に関する行為(軽微変更を含む)をすることができます。軽微でない変更を加えるには、共有者全員の同意を得なければなりません(新民法252条の2第1項)。

※ 所在等不明共有者がいる場合には、管理者の申立てにより裁判所の決定を得た上で、所在等不明共有者以外の共有者の同意を得て、変更を加えることが可能です。

  • ③ 管理者は、共有者が共有物の管理に関する事項を決定した場合には、これに従ってその職務を行わなければなりません(新民法252条の2第3項)。

※ 違反すると共有者に対して効力を生じませんが、善意(決定に反することを知らない)の第三者には無効を対抗することができません。

(活用例)
共有物の使用者が決定していないケースで、管理者が第三者に賃貸したりするなどして使用方法を決定 共有者が使用する共有者を決定していたのに、管理者が決定に反して第三者に賃貸した場合には、前記③※により善意者を保護

共有の規定と遺産共有持分

現行法では、共有に関する規定は、持分の割合に応じたルールを定めていますが、相続により発生した遺産共有では、法定相続分・指定相続分と、具体的相続分のいずれが基準となるのか不明確でした。

そこで、改正法では、遺産共有状態にある共有物に共有に関する規定を適用するときは、法定相続分(相続分の指定があるケースは、指定相続分)により算定した持分を基準とすることが明記されました(新民法898条2項)。

(例)遺産として土地があり、A、B、Cが相続人(法定相続分各3分の1)であるケースでは、土地の管理に関する事項は、具体的相続分の割合に関係なく、A・Bの同意により決定することが可能

(2)共有関係の解消促進

ア 裁判による共有物分割

現行法の問題点

現物分割
共有物を共有持分割合に応じて物理的に分ける方法 競売分割:共有物を競売により第三者に売却し、売却代金を共有持分割合に応じて共有者で分ける方法 賠償分割:共有物を共有者の一人(又は複数)の所有にし、共有物を取得した者が他の共有者に代償金を支払う方法

現行法上、裁判による共有物の分割方法として、現物分割と競売分割が挙げられており、裁判所はまず現物分割の可否について検討した上で、現物分割が困難な場合に競売分割を命ずることができるとされています(現民法258条2項)。

判例では、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を金銭で支払わせる、いわゆる賠償分割(全面的価格賠償)をすることも許容されています(最判平成8年10月31日民集50巻9号2563頁)。

もっとも、賠償分割についての明文の規定がないため、分割方法の検討順序に関する当事者の予測可能性が確保されていません。また、賠償分割を行う際には、実務上、現物取得者の支払を確保するために、裁判所が現物取得者に対して取得持分に相当する金銭の支払を命ずるなどの措置が講じられていますが、明文の根拠規定がなく運用の安定性を欠いていました。

改正法

① 賠償分割に関する規律の整備

裁判による共有物分割の方法として、賠償分割(「共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法」)が可能であることが明文化されました(新民法258条2項)。

また、①現物分割・賠償分割のいずれもできない場合、又は②分割によって共有物の価格を著しく減少させるおそれがある場合(現物分割によって共有物の価格を著しく減少させるおそれがあり、賠償分割もできない場合)に、競売分割を行うこととして、検討順序が明確化されました(新民法258条3項)

② 給付命令に関する規律の整備

裁判所が、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができることが明文化されました(新民法258条4項)。

※ 賠償金取得者が同時履行の抗弁を主張しない場合であっても、共有物分割訴訟の非訟事件的性格(形式的形成訴訟)から、裁判所の裁量で引換給付を命ずることも可能です。

※ この他に、共有物の分割について共有者間で協議をすることができない場合(例:共有者の一部が不特定・所在不明である場合)においても、裁判による共有物分割をすることができることが明確化されました(新民法258条1項)。

イ 所在等不明共有者の不動産の持分の取得

現行法の問題点

【現行法で共有者が他の共有者の持分を取得する方法】
① 裁判所の判決による共有物分割
② 共有者全員の協議(合意)による共有物分割
③ 他の共有者から任意で持分の譲渡を受ける

現行法上、共有者が所在不明のケースでは、①判決による共有物分割は可能ですが、全ての共有者を当事者として訴えを提起しなければならないなど、手続上の負担は小さくありませんでした。

また、②合意による共有物分割、③任意譲渡は、不在者財産管理人等の選任を経ない限り不可能で、管理人の報酬等に要する費用負担が問題となっていました。

さらに、共有者の氏名等が不特定のケースは、現行法では対応ができませんでした。

改正法

共有者は、裁判所の決定を得て、所在等不明共有者(氏名等不特定を含む) の不動産の持分を取得することができます(新民法262条の2)。

所在不明共有者は、持分を取得した共有者に対する時価相当額請求権を取得します(実際には、供託金から支払を受けることとなります。差額がある場合は、別途訴訟を提起するなどして請求することが可能です)。

なお、遺産共有のケースでは、相続開始から10年を経過しなければ、利用することができません(新民法262条の2第3項)。

手続きの流れ

① 申立て・証拠提出

  • 管轄裁判所:不動産の所在地の地方裁判所

② 異議届出期間等の公告・登記簿上の共有者への通知

  • 所在等不明共有者の異議:所在等不明共有者が異議の届出をして所在等が判明すれば、裁判の申立ては却下。異議届出期間経過後であっても裁判前であれば届出が可能
  • 申立人以外の共有者の異議:異議届出期間満了前に、共有物分割の訴えが提起され、かつ、異議の届出があれば、その訴訟が優先し、持分取得の裁判の申立ては却下

③ 3ヶ月以上の異議届出期間等の経過

  • 供託命令:具体的な金額は裁判所が決定
  • 供託金に関する消滅時効:申立人が持分を取得し、所在等不明共有者が現れないまま供託金還付請求権が消滅時効にかかった場合には、供託金は確定的に国庫に帰属

④ 時価相当額の金銭の供託

⑤ 取得の裁判

  • 持分の取得時期:申立人が持分を取得するのは、裁判の確定時

ウ 所在等不明共有者の不動産の持分の譲渡

現行法の問題点

不動産の共有持分を売却して得る代金よりも、不動産全体を売却し、持分に応じて受け取る代金の方が高額になりやすいのですが、所在等不明共有者(必要な調査を尽くしても氏名等や所在が不明な共有者)がいる場合、不動産全体を売却することは不可能でした。

共有物分割や持分取得制度により、所在等不明共有者の持分を他の共有者に移転し、共有物全体を売却することができますが、売却した上で代金を按分することを予定しているのに、共有者に持分を一旦移転するのは迂遠であり、手間や費用を要することとなっていました。

改正法

裁判所の決定によって、申立てをした共有者に、所在等不明共有者の不動産の持分を譲渡する権限を付与する制度が創設されました(新民法262条の3)。

譲渡権限は、所在等不明共有者以外の共有者全員が持分の全部を譲渡することを停止条件とするものであり、不動産全体を特定の第三者に譲渡するケースでのみ行使可能です(一部の共有者が持分の譲渡を拒む場合には、条件が成就せず、譲渡をすることができません)。

所在等不明共有者の持分は、直接、譲渡の相手方に移転します(申立てをした共有者がいったん取得するものではありません)。

所在不明共有者は、譲渡権限を行使した共有者に対する不動産の時価相当額のうち持分に応じた額の支払請求権を取得します(実際には供託金から支払を受けることとなります。実際の時価に応じた額が供託金より高額である場合には、別途訴訟を提起するなどして請求することが可能です)。

なお、遺産共有のケースでは、相続開始から10年を経過しなければ、利用することができません(新民法262条の3第2項)。

また、不動産の譲渡には、裁判を得た上で、別途、裁判外での売買契約等の譲渡行為が必要となります。譲渡行為は、裁判の効力発生時(即時抗告期間の経過などにより裁判が確定した時)から原則2か月以内(裁判所が伸長することは可能です)にしなければなりません。

手続きの流れ

(例)土地の共有者A、B、CのうちCが所在不明である場合に、Aの申立てにより土地全体を第三者に売却するケース

① Aによる申立て・証拠提出

  • 管轄裁判所:不動産の所在地の地方裁判所
  • 所在等不明の証明が必要

② 3ヶ月以上の異議届出期間・公告の実施

③ 時価相当額を持分に応じて按分した額の供託

  • 時価の算定にあたっては、第三者に売却する際に見込まれる売却額等を考慮

④ C持分の譲渡権限をAに付与する裁判

⑤ A・B→第三者 土地全体を売却

  • 誰に、いくらで譲渡するかは、所在等不明共有者以外の共有者の判断による
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